傘使いの過ごす日々

あたりめ

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システム<自己開示>

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静也は昨日の約束を果たすためにサラを探していた。
教会へ行き、自己開示とやらを可能にし、所持スキルを話す為だった。
勿論静也にはそれがとても危険だと言うことは知るよしもない。
静也はこちらの世界の常識には疎い故に、無知である。
困ったときはカウンターへ行きエリナに聞く。
これが手っ取り早い。

「どうかしましたかシズヤさん?」
「受付のサラさんを探してまして、昨日一緒に教会へ行く約束をしてるんですよ。忙しそうでしたら構わないんですが…」
「わかりました。受付のサラですね?少々お待ちください。」

するとエリナはカウンターの奥の扉に入っていった。
一分足らずでサラがやってきた。なんだか息も切れ切れでいる。

「講習が終わったようですね。」
「はい。仕事は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。休憩時間に入ったところですし。では行きましょうか。」

可愛い女の子と歩いているシズヤに周りの男共はどろどろの嫉妬の目を向けている。
教会に向かうまでサラと話していたところによると、組合の受付嬢は基本的に交代制であることがわかった。

カウンターで対応する仕事、交代すると書類を管理、計算をし、冒険者個人個人の情報をまとめる作業をし、また交代すると休憩に入る。
また交代するとカウンターで…というローテーションだ。
いろいろ大変そうだ…と思っていた。

変な男に言い寄られたりするようだが、元銀級冒険者のエリナさんもいるので大丈夫みたいだけど…それでもしつこく言い寄る男は絶えないようでエリナさんの仕事が増えている一方だという。
その男は今、村の外に出て稼ぎに行っているが、帰ってきたらまた言い寄ってくるだろうとサラが言っていた。

(何とかしてやりたいけど、俺じゃ、その男にかなわないだろうな…)

と思っていた。
無論、敵わないわけがない。
むしろ今の静也ならワンサイドゲームにするのは目に見えている。
何故気付かないのか不思議なくらいだ。
決して静也が鈍感なわけではないのだが。(静也談)

自己開示の儀式を受けるのは10歳になったら教会で受ける。
自己開示の儀式を受けることで魔力のコントロールが多少できるようになるり、魔法の才能が有れば魔法が発現する。
一部の人間だが。

いろんなことを話していたら教会に到着した。

(教会に来たのはいいものの、なんて事情を説明したものか…転生しまして…なんて通用する気がしない…ここは黙秘権を行使したいと思うけど…)

教会の中に入った瞬間に目に入るのは大きなステンドグラスだ。
何やら神々しい人物を表わしている。

「ようこそいらしてくださいました。わたくしはここの教会の神父『グランツ』と申します。今回はどのようなご用件で?」
「こんにちは、この方の自己開示の儀式をいていただきたいのです。」
「ん?この方はどうにも10歳は過ぎている気がするのですが…」

グランツの変なやつを見る目が静也に刺さる。

「できれば聞いてほしくないです。」

何かを察したのか神父はうなずきついてくるように促した。

祭壇の前に行く。

「儀式を始めます、あなたの名前を」
「水鏡 静也です」
「わかりました。ではいきますよ。」

すると神父は分厚い本を片手に何かをつぶやきだした。

職業<神父>とは信心深い者にしか与えられない天職である。
通常、職業とは誰かが認めているうえに自分で宣言することでなれるのだが、神父とは特殊な条件がいくつもあり、そのうちの一つに信心深いかというものが含まれている。
職業<神父>は全職業の中でトップレベルの取得難易度だ。

徐々に神父から後光が差し掛かると体が浮くような浮遊感に襲われる。

《システム<自己開示>を取得》

そのアナウンスを聞くと気を失った。

『いい加減気づくのが遅いんだよねぇ…まだ気づかないのかよ…』

夢のようなモノを見ていた。
でも何を見ていたのかを俺は覚えていない。
むしろ見ていたのかと疑いたくなる程覚えていない。

「シズヤさん。大丈夫ですか?」
「起きたかい?自己開示の儀式で気絶したのは君が初めてだよ。」

その声を聞き意識が覚醒した。

「すいません、お手を煩わせてしまって…サラさんも…」
「大丈夫ですよ。気絶していたのは2、3分のことですので。」

それを聞いて少し安心する。

「これで自己開示の儀式は終わりです。」
「ありがとうございました。」

神父は教会の奥へと歩いていった。

「ではシズヤさん。お見せいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。で、どうやるんですか?」

サラが一枚の金属プレートを渡す。

「自己開示と心のなかで呟いたら、他人にも見えるようにしたいと思うだけで見せられます。隠したいところは指でなぞると相手には見えなくなります。」

と教えてもらったので実際に試すことにした。
自己開示したいと強く思うとアナウンスが聞こえた。

《システム<自己開示>を実行いたします。》

金属プレートに光るモヤが文字をかたどり始めた。
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