傘使いの過ごす日々

あたりめ

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酒の席、酒の魔力

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ふて寝が完了し時刻は夕方。
宿の窓から差し込む赤い夕陽の光が人の心を黄昏させる。
それでも外には人が右へ左へ行ったり来たりする。
ここ大通りは人が多く行き来するため売店や露店、屋台など客商売に力が入っていた。

忙しく動く人達を宿の中で眺めていると黄昏ている心とは関係なく何故か頑張ろうという気持ちが沸いてくる。
狩ができなくても、依頼をこなせるなら生きていける。
方法は色々ある、対策もたくさんあることに今さらになって気づいた。
気持ちが負けていた。
その事に気づいたときには、もう絶望を忘れていた。
(傘もとてつもなく強く、頑丈だから簡単に壊れない。防御に徹しれば死ぬことはなくなるだろう。)
安心したのか、あくびが出てしまった。
ついでに腹の虫が泣いたので晩飯に出掛けようと思った。

地図を貰って何処に何があるのかがわかる。
歩いて10分の所の酒場に行った。
酒に酔った者が笑ったり、叫んだりと楽しんでいるのが外からでもわかる。
肉を焼く良い香りが鼻腔をくすぐり、食欲が沸くのがわかる。
即座にここで飯を食おうと決断した。

看板娘だろう女が入って直ぐに駆け寄る。

「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
「一人です」
「わかりました、席にご案内させていただます。」

看板娘が歩く方についていく。
丸テーブルに一人でいる男、見たことがあった。
それは決闘で負けたあのアレンだった。
今はあの面影は薄れていて目の下に隈ができていた。

アレンはこちらに気づいた。
すると、恨めしそうに、しかし怯えた目をしてた。
静也ははっとして看板娘に一言言って、アレンの方へ歩み寄った。

「な、なんだよ…まだ何があるのか?」
「いや、決闘の時のあれ、大丈夫でしたか?大袈裟に気絶していので、気になりまして…本当に大丈夫でしたか?」

アレンは思った、気絶に大げさも何もないだろう…と。そして

「…お前は他のやつらとは違うんだな…」

あのときは『貴様』と言っていたのに今は『お前』になっていたことに気づいていたがあえて聞かなかった。しかし、他のやつらというのが気にかかった。

「他のやつらとは?」
「他のやつらは他のやつらだ、俺がお前に負けたのを良いことに好き勝手言い出したり、やったり、罵倒したり…な。お前は変わっているな。敗者を心配するなんてな…」
「人間ですから、人を心配するのは当然ですよ。」
「……」

アレンは席に座るように勧めた。

「あのときの俺はどうかしていた…エリナさんに惚れて、エリナさんに見てもらいたかった。そして必要以上にアプローチしすぎたんだ…俺だけを見てほしくてな。子供っぽいのはわかってる。」
「エリナさんには謝ったんですか?」
「謝る…?何故?」
(失敗をそのままにするのは簡単、やり直すのは難しいけど…)
「やり直したくないんですか?エリナさんに嫌われたままで終わるんですよ?」
「だが、俺はもう敗者だ…強くないやつなんかに女は見向きも無いだろう…」
「強いがどうの弱いがどうの…そんなのだからいつまでたっても見向きもされないんですよ。自分のしたことに真摯に向き合って反省したことをちゃんと認めてもらえれば、振り向いてもらえるはずですよ。」
「そうなのか?」

アレンが食い気味で聞く。

「だいじょうぶです。時間はかかるでしょうが絶対に振り向いてもらえますよ。」

そういうとアレンは何かに気づいたのか顔を明るくする。

「そうか…そうだな!ははっ!お前良いやつだな!気に入った!名前はなんと言ったかな?シズヤ?だったか?お前に負けた俺だが経験は俺の方が上だ、困ったことがあれば相談に乗る。さぁ!今日は俺が奢ってやるなんでも頼め!」

急に人が変わったように背中をたたく。痛い。

「は、はぁ…ではありがたく奢らされます。いや、待って、このコップのコレ結構臭いぞ!え?エール?!酒?!飲めないことは無いと思うけど…いや、イッキじゃないって…これ臭い!」

アレンが本当は悪いやつではないことに気づけ、さらに奢ってもらえたのはいいがエールが臭くてたまらなかった。
飲めばのど越しがよく腹に来る。臭いは臭いが確かにウマイエール。臭くなければ最高なのだが。

その後二人は、周りの人間も巻き込む宴をし、酔い潰れるのであった。
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