傘使いの過ごす日々

あたりめ

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救出

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魔牛『アングリーブル』を討伐したので組合に戻り報告しに村へ帰る道中のことだ。
村へ向かう一台の馬車を見かけた。
馬車少し茂った森林の中で止まっていた。何かあったのだと思い走って向かった。

―――???side―――


「くそ!!なんでこんな目にあわねばならない!!」

一人の身なりの良い男を守っているであろう男は毒されていた。
それもそのはずだ。比較的安全な地域のはずの場所に討伐推奨銀級の魔獣がいるのだから。
三人組の冒険者を雇ったのだが、誰も彼も銀級にも届かない石級冒険者だと蜥蜴に会ったとたんにメンバーがげろったのである。
この身なりの良い男が聞いた時には銀級であると彼らは自ら名乗っていた。

「がぁあぁあああ!いてぇよ!助けてく、れぇ…!」 

雇った一人の冒険者がたった一体の人間サイズの蜥蜴にいたぶられていた。
もう、彼は助からないが。
何故ならば『猛毒蜥蜴』の全身は名前の通り猛毒が含まれているので、少しでも掠れば最悪死に至るからだ。
猛毒蜥蜴はその毒によって死んだ獲物を自らの毒液で筋肉を溶かし、それを飲み、余った骨と皮を麺を啜るかの如く喰らう。

「もうやってられねぇ!俺はこの依頼を放棄させてもらう!」
「な!?なに言っている!?依頼を受けたのであろう?!ならちゃんと…」
「あんたのために死ねってか?!ふざけるなよ!少し地位が高いだけの奴のために死ねるかってんだ!」

残りの二人は村の有るであろう方向へととんずらする。残っているのは猛毒で死んでしまった冒険者と身なりの良い男と蜥蜴だけだった。

「もう、おしまいか…済まない…マリア…」

死を覚悟したそのとき、一筋のなにかが猛毒蜥蜴を屠った。
屠ったであろう得物は見たときには既に無く気づいたら蜥蜴は消えた。
後ろから一人の男の声が聞こえ、振り返るとそこには木々の葉の間から差す光で、なんとも言えない神々しさを醸し出していた。

「大丈夫ですか?助けに来ました。」

傘を握っている男がそこにいたのだ。

―――???side end―――

どうやら魔獣に襲われていたようだ。
身なりの良い男の人を護衛していた人達みたいだったけど、依頼を放棄して逃げていったのか。
と静也は状況を判断した。
逃げていった男達を静也は追おうとはしなかった。

「大丈夫ですか?助けに来ました。」

男は唖然としていた。まさか助けが来るとは思いもしなかったから。

「お、お主…いや、貴方は?」
「失礼しました。自分は木級冒険者の水鏡静也と申します。」

すると男は驚いた。 

「木級冒険者?!嘘だ!木級冒険者が『猛毒蜥蜴』を倒せるわけがない!」
「何故木級冒険者じゃ蜥蜴が倒せないと?」
「そ、それは…討伐推奨級位より下だから…」
「その討伐推奨級位じゃなくても対策を練れば倒せると思いますけど…まぁ、そこは置いておきましょう。今大事なことは、貴方はどうするかです。」
「私がどうするか…?どうするとは一体?」
「依頼ですよ。このまま終わりって訳じゃないですよね。どちらまで?」
「『マルナ村』に」
「『マルナ村』?近くですか?」

静也は知らないが、というよりは、気づいていないが今の今まで寝泊まりしていた村こそ『マルナ村』である。

「あぁ、そこのそこそこの貴族だぞ、私は。」
「場所はわかりますか?」
「あぁ、私少しだがこの辺りの地形は把握しているよ。」
「では、向かいましょう。あ、お名前をうかがっても宜しいですか?」
「おぉ、済まない。まだ名乗って無かったな。私は『ホライン・ザーク』だ。」

馬車はザークに任せ、護衛に勤しむ。
と、言うのも馬の動かしかたを知らないからだ。


「おぉ、シズヤじゃねぇか、どうしたんだ?馬車なんか牽いてき…」

デカルトが固まった。

「門番の、どうした、身分証がいるのか?」
「いえ、滅相もございません。貴方のお顔を知らない人間などこの村には居ない程ですから、そのお顔こそが身分証でございます。」
「うむ、善きに計らえ。して、この者なのだが、私を助けてくれたものなのだが、この者、私を知らないようだ。」
 「あぁ、シズヤですね、そいつは最近この村にやって来たんです。」
「なるほどの、シズヤ、後で私の家に来るとよい。褒美をやりたい。」
「いえ、私はたまたま通りかかったまでですので、褒美なんて滅相もないです。」
「なぬっ?無欲なやつよ…しかし、それでは私の立場がない。是非私の家に来て貰いたいのだ。」

デカルトの視線が滅茶苦茶突き刺さる。
次は間違えるなよとでも言いたそうな目だ。

「わ、わかりました、後でお伺いさせてもらいます。」

デカルトの視線が柔らかくなったのを感じて、安心した。


とはいったものの…先に依頼の達成報告をしないとと思い、報告が終わった後に行こうと考えていた。

2つの依頼を一気に片づけるのは、そう難しいことではないが、その依頼の内容によっては一日中かかる可能性もあったりする。
普通の冒険者が静也の受けた依頼をこなそうとすると、まず『農家の収穫の手伝い』で朝から夕方にかけての長丁場になる。
そのあと、夕飯を食べて『魔牛の討伐』に出たとしたなら、一日では片付かなかっただろう。
むしろその依頼で死んでいる者もいただろう。
それを簡単にこなせたのは、静也の傘の能力とスキルに他ならない。

組合に到着し、カウンターまで歩み順番を待っていた。
この時間帯(昼過ぎ)は冒険者が本腰を入れて働く時間帯なので行列ができていた。

約10分後、静也の順番になった。

「こんにちは、ご用件は?」

今の時間帯はエリナを含めた受付が3人態勢だ。これでも落ち着いてきたとのことだ。

「依頼の達成報告をしに来ました。『農家の収穫の手伝い』の報酬はもうもらっています。そのことで後で相談があります。それと『魔牛の討伐』の成功と報告です。」
「…わかりました。ですが今の時間帯は依頼を受ける人のほうが多いのでもっと落ち着いた時間になりますが…よろしいでしょうか?」

静也は悩んだ。ホライン・ザークという男の家に行く約束をしていたので、時間がかかりそうだと、ザークを待たせてしまい、申し訳ない気分になるからだ。
悩んだ末、静也は

「わかりました。でしたら、かなり後になるとおもいますが、ザークさんのところによらなければならないので、そちらを終わらせてからでも構いませんか?」

そういうとエリナが硬直する。

「ざ、ザークさんって…まさか『ホライン・ザーク』のことですか?!」
「は、はい。そうですg」
「早く行ってきなさい!達成報告なんかよりそっちのほうが大事です!」
「は、はいぃぃぃぃ!」

恐ろしい形相でエリナは静也に怒鳴った。
静也は組合を飛ぶ勢いで飛び出た。
周りの冒険者は呆気に取られただ静也の走り去った後を暫く無言で眺めていた。

ホライン・ザーク、このマルナ村で生活している人間なら知らない人間はいないほど名は知れていた。
静也は知らないが、彼がこの村の村長に当たる人間である。
『村』という『街』にも及ばない規模のところであるのにも、所有している権力は『国』にまで聞き及ぶほどとても強力なものであった。
彼の所有スキルは…


「ここでいいのか?でかい屋敷だな…」

静也は目的地であるホライン宅に着いた。場所は関所でザークが教えたのでわかったのだ。
ザークは「家」と言っていたが見るからに場違いな「豪邸」がそこにはあった。
挙句の果てに門番までいる始末。

「こちらに何か用か?」

門番が静也に質問をする。

「あ、はい。ザークさんにあとで来てくれと言われまして…あ、自分水鏡静也と申します。」
「あなたが…話は聞いております。しばしお待ちを。」

そういわれ、門番は使用人のような人を呼び、話をしたら使用人は豪邸のほうへ入っていった。


「よく来てくれた、お主が来てくれるのを心待ちにしておった。」
「いえ、こちらもすぐに伺えなくて申し訳ありません。」
「いや、良い。来てくれただけで嬉しい。おっと話が逸れたな。紹介しよう。私の妻の『マリア』と娘の『フィーナ』だ。」
「この度はわたくしの夫がお世話になりました。本当にありがとうございます。先ほど紹介にあったようにわたくしは『ホライン・マリア』と申しますわ。以後お見知りおきを。」
「同じく娘の『ホライン・フィーナ』と申します。本当にありがとうございました。」

美人な二人の女性からお礼を言われて照れ臭くなって後ろ髪を掻いてしまう。
その様子を見ていたホライン一家、三人は微笑んでいた。

「さぁ、入ってくれ。君が来るまでいろいろ用意させてもらったよ。」
「わざわざどうもありがとうございます。」

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