傘使いの過ごす日々

あたりめ

文字の大きさ
41 / 106

道具 その4

しおりを挟む
窓から見える土砂降りの雨はいつ止むのかわからない。静也はさっさと止んでほしいと願っている。
静也は村中を探索したいと思っているのもあるし、雨の降っているときのジメジメが嫌だっていうのもある。それに、彼が死んだ原因は雷。
土砂降りの中、外から聞こえる轟きが彼を不安にさせるのに十分だった。
彼が死ぬ間際まで感じた、言葉に表せない痛み、臓器は焼き焦げ、眼球は蒸発し体内が熱湯にでも変わったような異常なまでの熱さ。視界が一気に暗黒に変わる恐怖。死んだと分かった時の無情感。
二度と味わいたくない、本能が訴える恐怖。
静也は片腕を掴んでいた。

「ねぁ、シズヤの兄ちゃん、兄ちゃんは魔法って使える?」

唐突にそんなことを聞いてきたので、静也はどう答えたものかと、戸惑ってしまった。

「あ、別に深い意味はないんだよ?私は使えないけど、お姉ちゃんは使えるから、他の人はどうなのかなって気になってて、聞いただけなんだけどね…」

つまり、姉は魔法が使えている。他の人は?という好奇心で聞いたようだ。別に教えても問題は無いのだろうと思い答える。

「ああ、使えるぞ。俺も魔法が。」

するとティアは自分のことでも無いのに凄く嬉しそうにはしゃいでいた。

「凄い凄い!シズヤの兄ちゃんも使えるんだ!いいなぁ」
「わ、私の方が強い魔法よ?!ティア?」

その様子を見ていたアンは必死に自分の魔法が強いことをアピールする。静也は苦笑いをしていた。


道具屋でいる内に外に降っていた雨は気が付いたときには止み、空には雲の隙間から光が差し掛かっていた。
依頼に赴く前にはここに来るとティアと約束し、道具屋を出る。
ドアのベルがなると少し寂しい気持ちになった。

雨が上がり、村の人たちは活気づきはじめた。
その証拠に村のいたるところで人を見かける。
村の地図を見ながら、静也はまだ足を踏み入れたことのないところであろう場所を目指す。
見たことのない風景に土地勘が狂いそうになりつつも。
地図を頼りに村中を歩き回る。ゆっくりと吟味するように。
ひとつひとつの建物が違うので、じっくり眺めるのも楽しいのだとか。

歩いていて気がついたことは、中央にいくにつれ活気づいていること。見るからに人の集まりが異常なほど多いのが特徴だ。
何をするでもないのにただそこでいる者、誰かを待つ者、色々だ。

この村では防具、武器を取り扱っている店は少なく、外側に行くほど人気が少ないので、すぐに無くなる店が多いのだとか。
やることがなくなれば、唱館に行くものもいるため、娯楽には困っているようにも思えた。
静也も一人の男として好奇心があるも、やはり周りの目を気にするビビりなので行こうとはしなかった。チキン野郎なのだ。


村を歩いて回って、色々している間に時間はすでに夜へと変わっていた。
暗闇を照らす魔導ランタンの明かりは前世の夜の街のネオンライトを思わせるような妖艶な光に思える。
明かりの下には人が集まり、露店や屋台が大賑わい。
客寄せなんかも動き出す時間帯なのでなお、活気付く。

ここが村だが、街や国になるとどうなるのか気になった静也だが、ここよりかなり離れた街や国に向かおうとは思わなかった。
それは、この場所は比較的安全らしく、たまに出没する魔物は弱いらしい。近くにある魔樹海から魔物はそうそう出ることがないし、万が一出てきたとしても組合の長であるロドムもいるので安全らしい。
だが、今まで一度もそのような事態になってない(なっていたが事前に阻止した)ので、ロドムを見たことのある人物はかなり限られる。

今日もいつもの酒場で飯を食べた後、宿に戻り身の回りの世話を終えると眠り次の朝を待つのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...