傘使いの過ごす日々

あたりめ

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男として その2

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静也は厄介に首を突っ込んでいく。
静也は少しビビっていた。視線は自然と下に向いていた。
建物と建物の間の世界は薄暗く、投棄されたごみにハエが集っているところからこの村にも不良がいることが伺える。

3人組の一人が静也の存在に気づき睨みながら確認する。
それに気付いた二人も同じくして静也を見る。

「おいおい、にいちゃん、こんなところ通ってたら危ないぜ?」

一人の男が肩で風を切りながら歩み寄ってくる。
威圧的な態度に静也は動けなかった。

「シズヤさん、こんなところに来ては駄目です!」

アイナの忠告にうるせえ、と傍らにいた一人の男がアイナを押し飛ばす。建物の壁にぶつかるアイナを巨体の男は下卑た笑みを浮かべ眺めている。
その瞬間、静也は思わず激昂する。

「おい!大の大人が寄って集って一人の女性を襲ってんじゃねぇよ!」

知り合いアイナが押し飛ばされたのを見て黙ってはいられなかった。
一人の女性を男が寄って集って乱暴にしている。目の前の悪を静也は許せなかった。
そのせいか口調が喧嘩腰になっていた。

「あぁ?調子に乗ってんじゃねぇぞコラ!」

男のこめかみには血管が浮き出ていた。
男の豪腕が静也に襲いかかる。
丸太を思わせるその野太いその腕には無数の古傷がある。大小様々な傷から歴戦の拳闘士であるかのような。
迫り来る腕に恐れることなく静也は男の懐に入る。それが一番合理的だと、効率的だとわかったから。
男の腕は何も捉えることなく、空振りした。
懐に入り込まれたことに気付き距離を取ろうとバックステップしようとするがすでに遅い。
静也の傘の手元が鳩尾へ入ろうとしていた。

《スキル<手加減・傘>を行使します》

男の鳩尾に傘の手元が入ろうとする刹那、静也のスキルか発動した。
勢いはそのまま、男の鳩尾に入る。
鳩尾に入った時点で男は意識が飛んでいた。それほどまでの威力があったからだ。
男の巨体はくの字に曲がり飛んでいきゴミに突っ込んでいく。

少しの間呆気にとられた他の男二人、軽鎧を纏った剣士であろう男は状況を確認すると腰に差していた剣を抜いた。それに遅れローブで体を隠している魔術師は小型杖を握り呪文を唱える。
静也も傘を軽く握り投擲の態勢になりもう一本傘を召喚し左手に持つ。
剣士は静也に向かって不規則な軌道で向かってくる。
静也は右手に持っていた傘を投擲するが剣士の頬をかすった。
剣士は少し勝ち誇った顔をする。
しかし静也が投げた傘は魔術師に向かい魔術師の顔面に手元が入っていた。魔術師の鼻は折れ鼻血が噴き出る。それと同時に魔術師は意識を手放す。

静也は左手に持っていた傘を右手に持ちかえる。
剣士は近づき様に逆袈裟切りを放つ。
一歩前に進み剣を握っている右手を静也の左手で押さえつけるように止める。
そしてその手で剣士の右指を握る。静也の指先は剣士の右手の第一間接に接している。静也は一気に力を込めて握り混むと剣士の親指以外の指はあられもない方向に曲がってしまう。
痛みのあまり剣士は右手を抱えながら屈んで悶える。
ぐぅ、と呻き声をあげる剣士はゆっくりと静也のほうを見る。
その眼には恐怖、畏怖、降参の色が見える。

「ま、参った…。許してくれ…」

顔面蒼白になりながら剣士は許しを懇願する。
静也の表情はいまだに晴れないままだった。

「謝るべき人を間違えているんじゃないか?俺に謝っても仕方ないだろ。」
「私はいいですから!この人の指とあの人の鼻を治しますよ!」
「「え?」」

アイナの発言に静也を剣士は素っ頓狂な声を出す。


「「「「すいませんでした!」」」」

男たち(静也も含む)はアイナの前に正座していた。
無論ペンダントはきちんと返している。
暴漢男3人組はなぜ静也も正座しているのか不思議で仕方なかった。勿論静也も不思議で仕方ない。
しかしアイナが「そこに正座」と睨んでくるものだから反射的に正座したというわけらしい。


アイナの説教は昼過ぎまで続いた。


「すいません…ついカッとなっちゃって…」
「いえいえ。自分もついカッとなったもんですから。おあいこってことで」
「…そうですね。」

ふたりは薬草採取へと向かうために関所へ向かっていった。
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