傘使いの過ごす日々

あたりめ

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温泉

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日が暮れそうな時間、静也とアイナの二人は無事に関所にたどり着いた。
門番はトマスと、もうひとり動かざること山のごとしと言わんばかりの堅物な人だった。彼の防具であるプレートアーマーは彼の筋肉で造形が変わっていた。 
彼の名前は『ガタン』、口数も少ない寡黙な男だ。

片言で会話を済ませているところもあり、少し変わった雰囲気を漂わせている。

「身分証…」
「あ、はい。どうぞ…」

表情も硬く、感情がくみ取れない。

「ほらまた、ガタンっち、緊張しないでいいのに」
「う、うす」

とトマスがガタンに言う。緊張しているのか?と思わず言いそうになったのを呑み込んだ。

うっすらと暗くなっていく空の下、魔導ランタンが点き始める。
組合にたどり着きアイナが依頼達成の報告をしに行った。
報告が終わるまで組合の外で待つ静也、村の様子はいつも通り活気付いている。屋台から醸される芳しい匂い、路上で舞踏する者、酒に酔い馬鹿騒ぎする者、女を口説こうとする者だったりと、夜になるというのに人の明るさで昼間のように感じられる。
この村で過ごすのが本当に好きになってきた。
そんなことを思っていると組合の扉からアイナが出てきた。

「シズヤさん、買い取りにいきましょう。」
「わかりました。」

買い取り屋のカウンターにはいつも通りジョアンが居た。

「おや、いらっしゃい。今日は遅かったね。」
「はい、少しシズヤさんに教えてて遅くなったんです。」
「そうかいそうかい。で…シズヤ、すまないけど今日も買い取れる量が限られるんだが…いいかい?」
「ええ、量が量ですから仕方ないのはわかってます。自分も手伝うことはできないんですか?」
「おや?買い取りに興味があるのかい?手伝いは多いに越したことはないからね。明日にでも来てもらおうか?」
「はい、では明日にでも…という前に何体くらい買い取れますか?」

ジョアンが少し悔しそうな顔をしていた。まだ覚えていたのかと言いたげな顔だ。

「ぐぅ、今日は30体で勘弁しておくれ」
「わかりました…なんで自分が悪いやつみたいな言われ方してるんですか…」

買い取り、鑑定が終わるまで少しの間解体屋で待つことにした。


「はいよ、鑑定おわったよ。」

ジョアンが鑑定を終えたことを伝える。

「じゃ、先にアンナちゃんね。これでいいね?」
「はい。いつもありがとうございます」

薬草類が今回多く取れたのもあって袋は結構膨れていた。

「で、次にシズヤのだね。はい、これね。」
「ありがとうございます。」
「それと、はやく汗を流したほうがいいよ。かなりよごれているからね。」

そう言われやっと気づく、顔にも泥や土がついていた。汗も混じりかなり汚い。

「うわっ、本当ですね…では今日はここで。アイナさん、また誘ってくださいね」
「ええ、それではまた。」

と笑顔で別れた。まずは適当に体を洗い流さないとな、と思っていた。
このまま帰って風呂に入るのもいいが、先日村を歩いていると銭湯を発見したので、衣類とタオルと石鹸を買って銭湯に向かう。


銭湯は老若男女問わず人気で朝から入るものもざらではない。
地下に泉源があり、魔導学を応用した魔導機械で熱を発生させ、また、熱を保っている。
同じく魔導学を応用した魔導機械で、水をきれいにしている。
ほぼ魔導機械で温泉を作っているような状態だが地下からとった水であることには違いないので一般家庭の風呂とはまた違った気持ちよさがあるらしい。
毎日通い詰めている者もいるほどなのでさぞかし気持ちがいいのだろうと静也は期待いていた。

前世の温泉と遜色ないくらいの温泉がそこにはあった。
人が百人は入れるのではと思うほど広い空間、石畳がややひんやりとしている。
混浴はないと知り、ちょっぴり残念と思った静也。しかし露天風呂があるので後で入りに行くつもりだった。
冒険、依頼終わりの冒険者も多くいるので賑やかな風呂だ。
効能は『冷え性、肩こり、筋肉痛、治癒力向上』と言ったものが挙げられる。入ってみたらわかるが、身体の芯から温まるのだ。
思わず声を漏らしてしまう。
勿論、入浴前には身体を洗っているのであしからず。

シャンプー、リンスー、ボディーソープは嗜好品なので、ないから石鹸で洗うことになった。その石鹸は前世の石鹸より荒く、見た目は汚いのだが、きちんと泡立っているので石鹸だと分かる。

気持ちの良さに眠りそうになったので、一風変わってサウナに入っている。
開けた瞬間に一気に吹き出る暑い空気が、身体から汗を吹き出させる。中に入ると蒸せ返るような空間に数人の男。
空いているところに座り汗を出す。サウナ室の木材の薫りがなんとも言えない暑さを出す。
入って数十秒で流れる汗はポタポタと滴る。
サウナ室の中の人の中には冒険者が居て、どちらがより長くサウナに居られるかっと言うのをやっていた。

十分もしない内にサウナから出てシャワーを浴び、水風呂に入る。一気に冷める身体、本能的に温かい湯を求めているのが分かる。頑張って肩まで水風呂に浸かり、暫くして別の風呂に入りに行く。


結局、すべての種類の風呂を楽しんだ。
期待していたよりも気持ちがよく、リピーターが多いのも頷けた。ふやけるはほど長く浸かっていた。

風呂から出て着替えたら飲み物のサービスをいただいた。
風呂上がりの冷たい飲み物は身体の中に流れ込み喉を潤し、水分を補給する。

料金は10ルターとかなりお安い。良心的な御値段となっている。
今度からここで風呂に入ろうと決心したのだった。
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