傘使いの過ごす日々

あたりめ

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強化種との交戦

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ゴーレム・多重硬化の誕生。
老人が一体何者かは置いておくとしても、自身の魔力と周りの瓦礫等で作った巨大な岩石の巨人は厄介極まりない。
ゴーレムという魔物は迷宮の深部にのみ生息するのだが、自己復活力が高く、瓦礫があればそれを魔力でくっつける。体力という概念を知らない魔物なので、冒険者を疲弊させ、体力が無くなった者を嬲り殺しにする。
知性は人間より劣るも、個々としての能力は高い。集団で襲ってきたのならば一国を滅ぼしかねない存在になるともいわれる。
そんなことを静也は知っているはずもなく、目の前にいるゴーレム・多重硬化に圧巻されている。

魔物の中には稀に強化種がいるのだが、強化種は外部から何らかの魔力を受け、適合適応した場合、強化種として存在が進化する。
何を強化されたかは高位の鑑定士ですら識別は難しく、高位のマジックアイテムを使用してやっとわかる。
確実に判明しているのは強化前と後とではスペック的なものが格段に違うという。
しかも、老人が誕生させたゴーレムは本来のゴーレムの規格より2倍大きい。
老人の魔力も混じり、禍々しい魔力を発している。
魔樹海の魔力と同等、もしくはそれ以上の魔力の濃さだ。
体内に虫が這いずるような不快感、魔力の重圧で押しつぶれそうになった。

「自己紹介が遅れたのう、儂の名前は『ディーム』、世界で最も強化魔法が得意じゃ。ついでに召喚魔法も。」

このタイミングでするのか、と常識を問いたいところだったが、目の前にいるゴーレムはそれを許さなかった。
巨大な巨体からでは考えられないようなスピードで拳を振り下ろす。
ゴーレムの拳はバラン達といた小屋と同じくらいの大きさだ。避けようにもすでにもう遅い。

咄嗟に思いついた防御方法は円錐状に開く傘で防御することだった。
造形も想像でき、簡単に召喚できた。
防御時に補正がかかるよう超小型の傘を召喚し開き空いているほうの手で持ち、上からの攻撃に備え防御する。

傘の生地からガラガラ、ゴロゴロと岩が転がる音が聞こえるも、壊れる気配はなかった。
ゴーレムの攻撃は止む気配はなく、このままでは埒が明かないと思い、考える。
勝つ方法を。


「どうした?亀のように閉じこもっておっても勝てはせんぞ?儂の老衰を待っておるのかのぉ?」

ディームが冗談めいた言い方で煽る。
しかし、亀のように閉じこもっているのはディームもまた同じ。
ゴーレムの頭部に空間を作り、そこで魔力を操作し、ゴーレムを操縦している。
しかし途端にゴーレムの巨体が傾き、攻撃が止まる。

何事かと、ディームがゴーレムの頭部から出て見ると、ゴーレムの胴体に風穴があいていた。
先ほどから攻撃を繰り出していたから抜け出すのは不可能、地面を潜って出るだろうと思いあらかじめ地面に自動修復機能を付与したのだから無理なはず。
瓦礫もなく、きれいに風穴があいている。
ゴーレムの固有能力で復活するも、体格が数段小さくなっている。
ディームは自身の魔法で岩石を生み出し、融合させ元通りにする。
すると、ゴーレムの後ろから巨大な傘が飛んできて、またゴーレムの胴体に風穴が開く。

「な、なに?!どうやって儂のゴーレムの攻撃を抜け出した?!」

飛んできた方向をみると、傷ひとつない静也が立っていた。
攻撃が止まった時に抜け出したのはわかる、しかしどうやってゴーレムの胴体に風穴を開けたのか。

「魔法を使って、抜け出しました。」

静也は、二つの意味で答えた。
一つ目は、とても不思議な力で抜け出した。という意味で。
もう一つは、正真正銘、本当の魔法で。という意味だった。

ディームはまた魔法を使い、岩石を生み出しゴーレムと融合させようとしていた。
すると、今度は通常の大きさの傘がディームが創り出した岩石目掛け高速で飛んでくる。
岩石は塵となり、ゴーレムに融合されない。
ディームが空を見上げると、無数の大小さまざまな傘が浮遊していた。
ディームはゴーレム風穴が開いた理由が、魔法で後ろから巨大な傘を召喚しそれを飛ばし攻撃した結果だと気付く。
傘はゴーレム目掛け一斉に飛んでいく。
ゴーレムの体は固有能力で復活しては、傘に風穴を開けられと繰り返していき、最終的にゴーレムの大きさは静也と同じ大きさになった。
もともとのゴーレムは、動く要塞が如くどっしりしていたのだが、今のゴーレムはスマートになって人の形をしている。指の先まで精巧につくられている。
ディームはこれも想定内とでも言いたげな表情で静也に向け不気味な笑みを浮かべる。

「身体は小さくなったが、多重硬化の効果は継続しておる、加えて小さくなったから、行動は素早いぞぉ?」

その発言と同時にゴーレムはとんでもない速さで静也に向かって走る。
魔法で背後に傘を召喚し、飛ばすも、ゴーレムのほうが早く、傘が追いつかない。
傘を開き、防御態勢に急遽移す。
ゴーレムの精巧につくられた手で拳を握り、右手を後ろに大きく振りかぶり、傘ごと殴る。
静也は腰を落とし、どんなに強い衝撃をうけてもいいようにしていたが、傘を握る手に意識が行かなかったから、傘が飛んでしまった。

ゴーレムの顔はこちらを向いていた。表情がない分不気味さは増していた。
ゴーレムは後ろにいっている左手で拳を握り殴る。
静也はいま、自身を守る傘は近くにない。
その瞬間、脳裏によぎったのは、前世の城の城壁だった。
傘を大量召喚するのと同時に組み立てるのを省く。
召喚したのは傘の壁、ゴーレムの殴打に耐える。その間に傘を召喚し、魔法〈傘操作〉を行使し傘の壁に間を開ける。
傘と傘の間にゴーレムを捉えると、傘を投擲する。
投擲された傘はゴーレムの顔面を捉え、いま、グリグリとめり込んでいる。
これで、仕留められなくても、動きを止められただけで十分だった。
魔法で傘をゴーレムの周りに四方八方取り囲むような形で召喚する。
そして、止めに傘で一片の瓦礫すら残さないように入念に仕留める。

そしてゴーレム・多重硬化は文字通り、塵も残さず消えた。



「ほっほっほ!見事!途中お主が本当に死んでしまうかと冷や冷やしたわい!」

ディームは豪快に笑っていた。

「お主は本当にまだまだじゃが、最後のあれはとても面白かったわい!久しぶりにわくわくしたぞい!」

顔を引きつらせながら静也は薄ら笑いをしていた。
顔中血管が浮いていたのは言うまでもない。


「依頼達成じゃ。報酬はいま渡すわい。」

ディームは腰につけたポーチから袋を取り出すと、50ルターを取り出し静也に渡す。
正直割に合わない。
下手をすると10回は死んでいたのだから。

「あ、ついでじゃ、これもあげるかの。儂はもう使わんからの。お主のようなのに渡したら面白そうじゃからの。」

といって、またもポーチから何かが入った容器が出てきた。

「あの、これは一体…」
「<生命力操作>の魔法が使えるようになる不思議なお水じゃよ。おいしいぞ?」
「おいしいって…なんか、液体が禍々しいんですが…」
「そういうもんじゃ。ほれ、飲んでみい。」

ディームが容器の蓋を開けた瞬間、激臭が放出される。
みると、ディームは魔力でマスクをつくって臭いをブロックしていた。
一方の静也はあまりのにおいに嘔吐、しまいには気絶してしまった。

「…これはまいったのう…やはり、超化したものでは常人は耐えられないのかのう…。普通のを飲ませて昇華を待つかの…」

そういって、ポーチからもう一個の容器を取り出し、静也の口に無理やり捻じ込み飲ませる。

静也の意思気外で魔法〈生命力操作〉が習得されていたが、気付くのは先になる。
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