傘使いの過ごす日々

あたりめ

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ただいま

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飛行する傘足場の飛行速度はそこまで早くない。
歩行速度と同じか、もしくはそれ以下だ。
魔樹海の上空でいて、見渡せど魔樹海の葉の深緑色一色。

「どれくらいかかるかな…」
『5時間だな。』
「ええええ!そんなに?!」
『嫌なら魔樹海の中に入って走って帰るのも手だぜ?まぁ、また魔物に囲まれるのがオチだけどな。』
「…空を行かせてもらいます。」

また魔物に囲まれるのは御免だった。


「起死回生の神様、質問いいですか?」
『なんだ?』

静也が傘で飛行しているときに唐突に質問した。

「あの…自分達っていまこう会話しているわけですけど、傍からみたらどうみられるんですかね…やっぱり俺が一人で話しているような形になるんですか?」
『そうだな。俺の声は今のところお前にしか聞こえていないぞ。』
「…ほかの会話方法ないんですか…」
『ないことはないが、人間には難しいな。<念話>ってのがあるけど、人間じゃまず取得不可能だな。』
「どうしましょうか…」
『どうしましょうもこうしましょうもないからな。精々小声でやり取りするんだな。』
「小声でも大丈夫なんですか?」
『まぁな。俺は今お前の体の中に一時的に宿っている状態だからな。お前が見る世界を一緒にみることはできるし、聞いている音も共感できる。だが、思っていることまではこの状態じゃ感じ取れないからな。』

静也は溜息をつく。起死回生の神はそれを傍目に鼻で笑った。



「かなり飛んでいますが…あとどれくらいですかね?」
『まだ一時間も飛んでないぞ。』

静也は肩をがくりと落とす。あまりにも暇だから時間の流れが遅く感じられたからだ。
静也は長い長い傘の空の旅を続けていた。



なお、悪戯の神襲来の時は日が昇る随分前、戦っている時には日が昇りだし日光が大地を照らし始めていた。
悪戯の神を殺した頃には村の人たちが活発に働く時間になっていた。

静也が村に着いたのは昼頃のこと。
人目のつかないところで着陸し、関所へ向かう静也。
現在の門番はデカルトともう一人、知らない門番が役職に回っていた。

「お、帰ってきたか…って、どうしたんだ?!ボロボロじゃないか!魔物か?!…いや、お前がボロボロになるような魔物はこの辺りじゃ出現しないはず…まさかお前、魔樹海に行ったな!」
「い、色々理由がありまして…」
「お前よく生きていられたな!普通の奴じゃ爆発四散してたぞ?」

デカルトは静也の力を過度に評価していた。
自分達の世界より高い次元にいる、そうデカルトは思っていた。
あながち間違ってはいない。寧ろ当たりだ。

「ところで、あの、入っても大丈夫ですか?」

静也は話を逸らすように、デカルトに許可を申請した。

「お、おう。すまんすまん。で、何を倒したんだ?」
「……一体の立派な雄でした。」
「おいおい、内緒かよ。まぁいいや。身分証だしてくれや。」

傘ストレージから冒険者カードを取りだしデカルトに渡す。

「よし、通ってもいいぞ。おかえりシズヤ。」

デカルトから冒険者カードを返してもらう。

「ただいま、デカルトさん。」

静也はマルナ村に帰ってきた。


静也が村に帰ってきて真っ先に行ったのは呉服屋のように衣服をを陳列している服屋だった。
以前、組合で5ルターで買った地図に載っている服屋の一つだ。
値段のわりにかなり高品質でとても見やすいのでかなり重宝している。
それは置いておとき、静也は服屋の中に入る。

「いらっしゃいませー」

中では三名ほどの従業員が衣服を陳列していた。
木製のマネキンもあり、二名がそれに着飾らせていた。

「お客さま、どのようなものをお探しで?」

男性従業員が呼び掛ける。

「日用使うのと…服を見繕って下されば嬉しいです。」

するとどこからく聞いていたのか女性の従業員が飛んでやってくる。

「服を見繕って欲しいと言いましたか?!言いましたよね!?」
「は、はい。」
「でしたら私が見繕います!ではこの試着室に入ってくださいね!」

すると、女性従業員はまた飛んでいくような動きであちこちへ動き服をとっていた。

「すいません、お客さま…彼女人に服を着せるのが好きで…後でキツく言っておきますので…」
「いえいえ、見繕ってもらえるだけでも嬉しいですからお構い無く。」

内心自分は人形か何かか?と問い詰めたくなったが堪えていた。

「一応服を目測でサイズを計ったので持ってきたんですけど合わなかったらサイズをまた変えますので合わなかったらいってくださいね。オーダーメイドも可能ですよ?サイズ、計っておきますか?」

女性従業員は手をワキワキと蠢かせる。
一種の危機を感じたので静也は提案を断る。

「いえ、既製品をこれからも買うと思いますので。」
「そうですか…、あ、必要になったら言ってくださいね。」

必要になることは無いだろうと静也は思っていた。

「それでは一通り服を持ってきたので試着してみてください。気に入らなかったなら私に渡してください。要望等ございましたらお伝えください。」

服を渡され試着室に入らされる。
渡された衣服はハンガーで一纏まりにされていたのでわかりやすかった。
結局、静也はどれがいいのかわからなかったので一通りのものを買うことにした。
買い上げ金額7400ルター、従業員の人は驚いていた。
無論、その料金の中には日用使うものも入っている。

現在静也の衣服は両胸にポケットのあるミリタリーシャツといわれるものと、下はカーゴパンツで、上下の衣服ともにポケットの多いものを選んでいた。
見たくれも問題の無い組合せになった。
転生した静也の体が服と合ったのか、それとも誰にでも合う服だったのかは考えても無駄だと思いそのことは諦めた。

静也は次に解体所へむかった。
ジョアンから解体の仕方を習うためだ。
衣服屋で汚れてもいい服を買っておいたのでソレを着て習いに行くのだ。

「お、来たね。今日は遅いじゃないかい?」

ジョアンと会うと、ジョアンは少し心配そうに言う。
村の人たちの暖かさを感じた。

「すいません、今日は朝一からかみ…」

神様と戦ってました。と言おうとしたとき起死回生の神からストップがかかった。

『バカ野郎!それは言うな!神殺しは一部の人間からしたら何よりも赦されない大罪だぞ!安易な気持ちでそんなことをいうな、どうせなら魔物を狩ってたといえばいい。』
「魔物を狩ってました!」
「そんなに元気ならヤンチャもしたくなるからね!ハハハ!若いねぇ!」

ジョアンは豪快に笑う。
一方の静也は渇いた笑い声を出すので必死だった。

「それじゃぁ、教習料金10000ルターを払ってもらおうかな。」
「え?」
「当たり前だろう?仕事してんのにわざわざ無料で教えてやるほど馬鹿じゃないよ!どうすんの?払うの払わないの?」

技術はタダじゃない。金を払う価値はあるものだからだ。
しかも忙しいのに時間を割いてまで教えてもらうのだ。10000ルターなんて安いほうだ。

「…払います。」

静也はジョアンに10000ルターを即金で払った。
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