傘使いの過ごす日々

あたりめ

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傘の新たな能力

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目が覚めるといつもより少し暗い世界。
しかもじめじめとしている。

生憎の雨模様。外へ出掛けられるが、服が雨で濡れ重くなるのはあまり精神衛生的にも宜しくない。

しかし、雨のなか宿でずっといるのは暇だ。
暇を潰せるような物は持ち合わせていないし、一人でいて寂しくないと言える精神は持ち合わせていない。
だからといって、そのまま宿で寝ているのは難しい。
何せ目が覚め切っているからだ。
眠くなりそうにない。


折角なので、傘を召喚し色々調べてみることにした。

今現在判っていることは、

いろいろな種類の傘が召喚できること。
その傘の基本性能はどの傘とも同じだということ。
召喚主の明確なイメージ次第ではそのイメージした傘を召喚できる。
異常な堅さを持ち、異常な攻撃力を誇る。
傘に色々な物を収集するストレージ機能もある。

というところだ。
これだけでも十分なほど強力だが、これがすべてではないと思っていた。
理由ははっきりとしない、なんとなくだ。

とは言ったものの、何をしたらいいものか…そう思っていたら起死回生の神が不審がって話しかける。

『どうしたんだ?傘を出したままずっとにらめっこして…』
「あ、起死回生の神様…実は…」

静也は起死回生の神に傘に他の能力があるのではないかと思い調べていることを伝えた。

『ほう…それは面白そうだな。俺にもやらせろよ。てか身体かせや。』
「一緒に考えてくださいよ…」


『傘の本来の使用方法は、雨から濡れるのを防ぐ為にあるんだろ?考え方ってか捉え方によっては災いから身を守ることができるんだろ?』
「そうですね。『相合傘』でほかの人も守ることができますね………」

その時静也が思ったのは「相合傘をして濡れなかった記憶はない」だった。
しかし、相合傘、やってみる価値はあると思うしどんな効果があるのか気になるところだ。
だが、相手が居ない。彼女かパートナーが居れば、と切に思うのだった。

『相合傘か…誰かにでもしてみろよ。それか普通に傘差してみたらどうだ?』
「…自分で試しますよ。」

幸いなことに宿の一室は広いので傘を差しても問題はない。
室内で傘を差す行為自体どうかと思うが。

静也は傘を差す。
何も起きないが、十数秒後聞き覚えのあるアナウンスが聞こえた。

≪スキル<傘差し>を習得しました。≫

「起死回生の神様、スキルが習得しましたって。」
『おう。で、どんな効果だ?』

静也はプレートを取り出し、<自己開示>を行い習得したスキルを確認する。

<傘差し>
傘を差すことで自分、もしくは自分の傘の中に入っている者を強化する。
傘の中に強化もしくは守護したいと思う者が多くいることによって自身にその分、強化の補正が入る。
傘の中から出ても5分間は補正が残ったままになる。

「…だそうですよ。」
『ハハハ!お前にはあまり意味がないな!だってパートナーもいないからな!』

起死回生の神が腹を抱えながら笑う。

『そういや、お前男の知り合いのほうが多いからな、ソッチの方でも行くのか?』
「冗談じゃないですよ!俺はちゃんと女の人が好きですよ!」
『そうはいっても、ねぇ?』

起死回生の神がからかうような言い方をする。

『及び腰というか、へっぴり腰というか。まぁお前はチキン野郎だからな。』
「そういわれましても…もしもフラれたなら俺は立ち直れそうにないですよ…」
『そういってもねぇ…あ、そういやアイツがいたな。アマゾネスの血を引くあの女…えーっと名前は確か…』
「レナさんですか?」
『そうそう!ソイツ!ソイツ、ワンチャンどころか押せば付き合えるぞ?』

静也は考えていた。
レナは容姿もよく、能力的にも申し分ない。
しかし、恋愛対象として考えたなら、一方的に襲われそうな気もしなくもない、と。

この世界で生きていて、前世で夢描いたような恋愛はできないが。
付き合うというのより、一生のパートナーに近いなにか。
どのような生き方を、死に方をするのも個人の自由。

しかし、レナも美人だ。妖艶な雰囲気を醸し、見る人をスキルなしでも虜にしてしまうのではないか。
隣に立つと考えたなら、自分は場違いな気がしなくもない。

「…俺なんかでいいのか…」
『どうしたんだ?』
「いえ…なんでもないですよ。」

この世界の人間は老若男女問わず美人だ。自分に自信が持てない静也には恋愛は夢物語だと思っていた。
この世界に来てから静也の自身のなさに助長がかかっている。
その自身のなさが恋愛の鈍さにつながるものだと、起死回生の神は教えようとしたが、変な勘違いをしかねないと思いその言葉を呑み込んだ。


外は雨。晴れない心。
今の静也の恋愛を連想させるような空模様だった。
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