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雨の日のお出かけ
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宿の中で一時間が経つか経たないかというとき、静也は耐えられず立ちあがる。
起死回生の神は急なことだったので心配になった。
『ど、どうした静也…急に立ち上がって…』
「ダメです。もう我慢できません。俺は今から出かけます。」
『出かけるってどこに…』
「どこか、です。村の探索もまだ不十分ですから、覚えておいて損はないはずです。ましてやこの悪天候、土地勘が鈍ってしまいますから。」
『そうなったら<探索・傘>を使えばいいだろ。』
「鈍ってしまいます!」
『お、おう。いってら。』
起死回生の神は静也の有無を言わさぬ気迫に圧され了承した。
別段静也に特別な能力がついたわけではないが、気迫がすごかったものだからびっくりしただけだ。
宿の受付のヴィットに自室の鍵を渡し出掛けようとするとヴィットが呼び止め何をしに行くのか聞く。
静也は暇になったから出掛けるのだという。
宿のドアを開けると土砂降りの雨だった。視界いっぱいの降水。
しかし、静也は外に出ることをあきらめない。
宿の中は暇だからだ。じっとしているだけの苦痛は耐えがたかった。
傘にぶつかった雨粒の音は、聞いている者の心を落ち着かせてしまう。
ましてや、土砂降りの雨となるとこれまた格別。
絶え間なくぶつかる雨粒が最高の音を音楽を奏でる。
予定もなく歩いている静也、酒場は雨のせいか人数が少なくていつもの喧騒がなく、寂しい気持ちになる。
組合も同様に寂しい静けさに覆われていた。
恵みの雨、と言えば聞こえはいいが、時によっては災害をもたらす厄災になりうる。
幸い雷雨ではないので雷鳴もなければ落雷もない。
傘を差し歩いている通行人も少々いるが、それでも雨を嫌っている。
好きで雨の中を歩くものはいなかった。
立ち寄ったのは道具屋マル、以前色々買って、店員のティアと仲良くなった(?)。
解体の教習と悪戯の神の襲来で四日ほど顔を合わせていなかったので久しぶりに会おうと近くを通った時に考えた。
店のドアには開店中の看板が下げられている。
静也はドアに手をかけ捻り入店する。
「いらっしゃいま…あ!シズヤの兄ちゃん!久しぶり!」
「久しぶり。ごめんな、解体の教習に行ってて中々これなかったんだ。今日来たのは偶々暇になったからだ。」
「この雨の中、好きで出る人はいないからね。家の中でずっといるのも苦痛だからねー。」
アンが奥の物置から来てティアを後ろから抱きしめる。
静也は羨ましそうに、そして恨めしそうにアンを睨むのだった。
「もー、お姉ちゃん!お客さんが来ているんだからやめてよね!」
「へへへ、ごめんごめん。」
アンは反省していない。また繰り返すだろう。
それは静也がアンの立場に立っていたのなら同じだっただろう。
愛らしい少女ティアが自分の妹だったなら、静也は間違いなく溺愛していただろう。
毎日のスキンシップにハグであったり撫で回していただろう。
「そ、それより、商品を見てもいいか?」
「う、うん!見てってよ!」
他の道具屋に行ったことがないため一概に言えないが、道具屋マルは面白いものが多い。
数秒間だけ気力を上げるポテンシャルポーションや、疑似毒状態を体験できる疑似毒薬だったり、パーティーアイテムのようなものばかりだ。
前世の世界なら若者がこぞって集まるだろうものばかり置いてある。
しかし、そんなパーティーアイテムのようなものばかりだが、実際に使えるものがほとんどだ。
…ごく一部、本当にパーティーアイテムがあるが…
「シズヤの兄ちゃん、これほんとうに買うの?」
「これ使えそうじゃないか?」
「…流石に引くわ…」
アンの辛辣な言葉に若干静也は落ち込み気味だった。
静也が買おうとしたものは
「シズヤの兄ちゃん…これ、誰に使うの…?」
「誰にって、ただのぬるぬる液だろ?武器の貫通力を強化するのに使うんだよ。」
「そ、そうなんだ……良かった…」
「?何が良かったんだ?ティア。」
「う、ううん!なんでもない!」
アンは何も言わず、ただサイテーと言わんばかりの視線を送っていた。
静也が買おうとしていたものは前世で言うところのローションだ。
何故店に置いてあったのか、それは所謂、在庫処分品だ。
もともとこの店ではいろいろなアイテムを安く仕入れたものが殆どで、特に他の道具屋からの処分品を譲り受けたものが多いためだ。
ポーションなどは正規のルートで買い取っているが。
困ったことにこのようなものを押し付ける者がいるためほとんどが在庫品になっている。
「…シズヤ…あんたこれはマジで使わないから…ほとんどのやつは使わないから。冒険者は使うものじゃないから。」
「え?じゃぁだれが使うんだ?」
「それはしょぅ…って!言わすな!最低!セクハラ!」
アンの渾身のストレートが静也の顔面に入る。
鼻が折れ鼻血が流れ出る。
加えて脳が揺れ静也は意識を手放す。
アンが伊達に冒険者をしていないのがわかる。
なお、静也が、買おうとしていたものがローションだとわかり身を悶えさせるのはまた別のお話。
起死回生の神は急なことだったので心配になった。
『ど、どうした静也…急に立ち上がって…』
「ダメです。もう我慢できません。俺は今から出かけます。」
『出かけるってどこに…』
「どこか、です。村の探索もまだ不十分ですから、覚えておいて損はないはずです。ましてやこの悪天候、土地勘が鈍ってしまいますから。」
『そうなったら<探索・傘>を使えばいいだろ。』
「鈍ってしまいます!」
『お、おう。いってら。』
起死回生の神は静也の有無を言わさぬ気迫に圧され了承した。
別段静也に特別な能力がついたわけではないが、気迫がすごかったものだからびっくりしただけだ。
宿の受付のヴィットに自室の鍵を渡し出掛けようとするとヴィットが呼び止め何をしに行くのか聞く。
静也は暇になったから出掛けるのだという。
宿のドアを開けると土砂降りの雨だった。視界いっぱいの降水。
しかし、静也は外に出ることをあきらめない。
宿の中は暇だからだ。じっとしているだけの苦痛は耐えがたかった。
傘にぶつかった雨粒の音は、聞いている者の心を落ち着かせてしまう。
ましてや、土砂降りの雨となるとこれまた格別。
絶え間なくぶつかる雨粒が最高の音を音楽を奏でる。
予定もなく歩いている静也、酒場は雨のせいか人数が少なくていつもの喧騒がなく、寂しい気持ちになる。
組合も同様に寂しい静けさに覆われていた。
恵みの雨、と言えば聞こえはいいが、時によっては災害をもたらす厄災になりうる。
幸い雷雨ではないので雷鳴もなければ落雷もない。
傘を差し歩いている通行人も少々いるが、それでも雨を嫌っている。
好きで雨の中を歩くものはいなかった。
立ち寄ったのは道具屋マル、以前色々買って、店員のティアと仲良くなった(?)。
解体の教習と悪戯の神の襲来で四日ほど顔を合わせていなかったので久しぶりに会おうと近くを通った時に考えた。
店のドアには開店中の看板が下げられている。
静也はドアに手をかけ捻り入店する。
「いらっしゃいま…あ!シズヤの兄ちゃん!久しぶり!」
「久しぶり。ごめんな、解体の教習に行ってて中々これなかったんだ。今日来たのは偶々暇になったからだ。」
「この雨の中、好きで出る人はいないからね。家の中でずっといるのも苦痛だからねー。」
アンが奥の物置から来てティアを後ろから抱きしめる。
静也は羨ましそうに、そして恨めしそうにアンを睨むのだった。
「もー、お姉ちゃん!お客さんが来ているんだからやめてよね!」
「へへへ、ごめんごめん。」
アンは反省していない。また繰り返すだろう。
それは静也がアンの立場に立っていたのなら同じだっただろう。
愛らしい少女ティアが自分の妹だったなら、静也は間違いなく溺愛していただろう。
毎日のスキンシップにハグであったり撫で回していただろう。
「そ、それより、商品を見てもいいか?」
「う、うん!見てってよ!」
他の道具屋に行ったことがないため一概に言えないが、道具屋マルは面白いものが多い。
数秒間だけ気力を上げるポテンシャルポーションや、疑似毒状態を体験できる疑似毒薬だったり、パーティーアイテムのようなものばかりだ。
前世の世界なら若者がこぞって集まるだろうものばかり置いてある。
しかし、そんなパーティーアイテムのようなものばかりだが、実際に使えるものがほとんどだ。
…ごく一部、本当にパーティーアイテムがあるが…
「シズヤの兄ちゃん、これほんとうに買うの?」
「これ使えそうじゃないか?」
「…流石に引くわ…」
アンの辛辣な言葉に若干静也は落ち込み気味だった。
静也が買おうとしたものは
「シズヤの兄ちゃん…これ、誰に使うの…?」
「誰にって、ただのぬるぬる液だろ?武器の貫通力を強化するのに使うんだよ。」
「そ、そうなんだ……良かった…」
「?何が良かったんだ?ティア。」
「う、ううん!なんでもない!」
アンは何も言わず、ただサイテーと言わんばかりの視線を送っていた。
静也が買おうとしていたものは前世で言うところのローションだ。
何故店に置いてあったのか、それは所謂、在庫処分品だ。
もともとこの店ではいろいろなアイテムを安く仕入れたものが殆どで、特に他の道具屋からの処分品を譲り受けたものが多いためだ。
ポーションなどは正規のルートで買い取っているが。
困ったことにこのようなものを押し付ける者がいるためほとんどが在庫品になっている。
「…シズヤ…あんたこれはマジで使わないから…ほとんどのやつは使わないから。冒険者は使うものじゃないから。」
「え?じゃぁだれが使うんだ?」
「それはしょぅ…って!言わすな!最低!セクハラ!」
アンの渾身のストレートが静也の顔面に入る。
鼻が折れ鼻血が流れ出る。
加えて脳が揺れ静也は意識を手放す。
アンが伊達に冒険者をしていないのがわかる。
なお、静也が、買おうとしていたものがローションだとわかり身を悶えさせるのはまた別のお話。
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