傘使いの過ごす日々

あたりめ

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異形

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《妾を早く殺して…!》

必死に自分を殺せと、語りかける女性。
虚無から上半身を出す、衣服など纏わぬ姿の青い肌の女性と、下半身を隠す禍々しい虚無の美しくも恐ろしい組み合わせに静也は目と心を奪われていた。
それほどまでに女性は美しく、肌の色が異常でも気にならないほど麗しい。
そして、それを忘れさせるかのように虚無は禍々しい。

「殺せって…そこから出れないのか!」

人形のものを殺すことに一種の忌避感を抱かずにいられない静也はその女性に殺さない手は無いのかと聞くと帰ってきた答えは

《出ても直ぐにくっついてくる!無理!》
「一応出られるんだな!なら、それだけで十分!飛び降りてこい!俺が受け止める!」
《だ、だが…》
「いいから!でないと助けられない!」

女性は意を決して静也のもとへと飛び降りる。
やはり、一糸纏わぬ姿、しかし、そんなこと今の静也は気にしていなかった。

頭上で蠢く虚無をどう倒すか、そんなことを考える前に傘を投擲していた。
戦いに馴れてきた静也は先制攻撃と言わんばかりの渾身の一投。
しかし、呑み込まれるかのように傘は虚無に消えた。
傘操作で虚無から引き出そうとするも、反応がなく、傘の存在は消えた。
つまり、虚無に触れると存在ごと抹消されるということ。

牽制のつもりもあったが、思わぬ収穫と、思わぬ厄介。
女性の手を取り村の外へ走り出した。
その間に静也は起死回生の神を呼び、アドバイスを貰おうとする。

「起死回生の神様!こいつ、どうしたらいいんですか!攻撃してもあの分からない黒いモヤモヤに消されてしまうんです!」
『……マジか…お前、何てやつと相手してんだ…』

いつもならば、仕方ないな、だったり、やれやれ、よわっちいなと、文句を言いながらも余裕そうに事を終らしてくれていた起死回生の神の声室は若干怯えを感じ取れた…

『済まないが、その女性を殺して虚無を消すしか方法は無い。』
「そんな!どうにかならないんですか?!」
『どうにかできるほどの力は無いんだ。済まないが…これは村の人を救うためだと思ってくれ…』
《……大丈夫?…やはり妾が死ななければ終わらぬのか…?》

女性の悲観な表情を見て静也は

「大丈夫!死ななくていい!安心しろ、俺が倒すから!」
『おい、シズヤ!流石に無理だ、少なくとも今のお前じゃ不可能だ!そんな無責任なことを言ってもしょうがないだろ!カッコつけたいのはわからなくもないが、っておい!』

ゆっくりと下降してきている虚無を目の前に静也は絶望しなかった。
相手が未知数の能力を持ち、倒せないのがわかっていても、不思議と静也は絶望しなかった。
いま思えば慢心なのか、とも考えた。

「あれよりも、大きな傘を召喚し攻撃したなら…」

静也はすぐさま巨大な傘を召喚した。
縦十メートルの巨大な傘。
傘操作で虚無へと発射する。

しかし、その傘を虚無は呑み込み、その全体を大きくする。
さながらブラックホール。
気持ち吸い寄せられているような気もする。
これで確実に失敗したと言える。
虚無はそんなことを知ったことじゃないと言わんばかりに女性に向かってゆっくりと…ゆっくりと下降してきている。

《早く妾を殺して!妾と虚無は一心同体、妾が死ねば虚無も死ぬ!だから早く妾を殺して!》
「馬鹿か!生きたくないのか!早合点してんじゃない!まだ終わりじゃない!」

もう一度、静也は大きな傘を召喚した。
今度は傘を開いた状態だ。しかも、虚無に持ち手が向いている状態。
また呑み込まれ巨大化を助長させるのではと起死回生の神は思ったが、その考えは直ぐに無くなった。

発射した傘は虚無を逆に呑み込んだ。
傘の能力の一つ、傘ストレージだ。
どうやら、虚無も収納できるようだ。
それを知ったのもつかの間、今度は傘に異変が起きる。

傘が徐々に黒いモヤを放ち出したのだ。
巨大だった傘が収縮し、長傘程の大きさになると、静也に向かって飛来する。
物凄い早さで飛来してくるものだから、静也は反応が遅れ、腹部へ傘がぶつかることを許してしまう。

しかし、当の静也は無傷。
腹部には傷どころかアザすらない。
服に穴が空いたくらいだ。
衝撃すら感じず、痛みすらなかった。
これは傘使いの能力の、傘からの攻撃を無効にするというものだが、攻撃を受けてからその事に静也は気付いた。

静也は禍々しい虚無を呑み込んだ傘を掴む。
すると、傘は先程と打って変わって大人しくなった。
傘の禍々しさはそのまま、気を許せばまた攻撃してきそうな雰囲気がするが、この件は解決したと言えるだろう。
そして、あのアナウンスが脳に響く。

《スキル<悪食の傘>を習得染ました。それに伴いスキル<傘>をスキル<傘召喚>へ昇華させます。》

スキル習得のアナウンスは今回少しだけ変わっていたので、落ち着いたら自己開示を使い、見てみようと思った。


《……妾、生きているのか…?》

虚無が無くなり、傘を仕舞った静也に向けてではなく、現実を受け入れられないことからの呟きだった。

「生きている。君は生きているんだ。これで君は自由だ。」
『まさか、本当に倒すとはな……』
「起死回生の神様も早合点しちゃってたんですよ。」
『ははは…返す言葉もないわ…で、どうするんだ?その女性。』

未だに手を掴んでいることに気付き、慌てて離す。
いつまでも握っていたら流石に嫌がるだろうと思ったのだが、反応はそうでもなく、残念そうに自らの手を名残惜しそうに握りしめている女性。
肌の色が青いまま、衣服など纏わぬ姿のままでいた。
目のやり場に困ったので、傘ストレージから適当な布を取りだし渡す。

《?なんだ?これは…》
「あー、目のやり場に困るから…とりあえずその布を身体に巻いといてくれないかな…」
『ほー、そいつは多分、『魔族』だな。しかもランクは村長?いや長、と見た…』

起死回生の神が何かを言っていたが直ぐに女性が話しかける。
女性は困惑していた。困った表情で静也を見た。

《成程…しかし、良いのか?妾が纏えば合法的に妾の裸体を拝めぬのだぞ?もしや…妾の裸体は醜いのか?》
「イヤイヤイヤ!そんなことないですよ!めちゃくちゃ綺麗ですし…その…」

言葉が繋がらない。
理性がそれ以上はいけないと抑制していたからだ。
しかし、もう一つの理性が言わなければ彼女は傷ついてしまうのではと静也を悩ませる。

結局出した答えは

「とても目の保養になりました。」

遂に頭までおかしくなり、返答すらままならなくなった。
すると女性はクスリと笑いを溢した。

《そうかそうか!妾の裸は目の保養になると申すか!これはまた新手の誉め言葉だ!ほれ、どうした少年。ちこう寄らんか。》
「あ、は、はは、はい。」

布で多少肌を隠せたが、艶かしさは一段と増し、彼女の声帯(?)から発せられる声は静也の脳を麻痺させる。
魅了の能力。
魔族の中には他人の精力、もしくは生命力を糧に生きているものがいるという。
それが長ランクにまでなると、発する声だけで魅了させることが出来る。

つまり目の前にいる女性は、魔族長サキュバス。
淫魔の一族の長。

静也は女性の側に寄ると、女性は静也を胸に埋めてしまう。
サキュバス流の感謝の表し方だという。
ハグ、と言えばそうなのだが、当の静也はそうとは思わない。

サキュバスの肌は柔らかく、シルクのような滑らかさにさながらシリコンのような優しい弾力を持つ。
さらに、意図して能力を発動し触れられると催淫効果が現れる。能力なしで触れられると鎮静効果がある。

静也は膝から崩れ、瞼が半開きの状態にある。
強力な鎮静効果で静也はサキュバスの肌を感じながら夢の世界へと落ちて行く。

そして静也は女性に膝枕をしてもらっている形になっている。
女性は嬉しそうに、いとおしそうに静也の髪を撫でていた。


《妾からの褒美だ。喜んで貰えたかな…?》

慈愛すら感じられる女性の雰囲気。

静也が目覚めるのは暫く後になる。
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