傘使いの過ごす日々

あたりめ

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村長宅で説得

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ホライン邸に到着した静也達一行

「おかえりなさいませ。ザーク様。そちらの方々は?」
「私の客人だ。丁重に扱ってくれ。」
「わかりました。」

門番が出迎える。
フルプレートの全身鎧を身に纏った門番は、傍目で見ても十分な威圧感がする。
それだけで、盗みや空き巣に働こうとは思わないはずだ。


門番は不審な格好のノーナを見て、多少警戒をしていた。
今時、肌ひとつ晒すことない格好のままいるのはどう考えてもおかしい。
さらに、極めつけは会話を殆どしていないように見えるからだ。
静也が話しているのは見るが、ノーナと会話することはない。間接的に話しているのだから、異様さを覚えた。
極めつけに、ザークの反応、ノーナに対する反応に少し嫌悪感が混じっていたからだ。

よく見ればわかることなので、門番は見逃すことなかった。
しかし、主人の許しもなく勝手な行為を行うのも如何なものかと自問自答をしながら屋敷へ向かう。


「おかえりなさい。あなた。シズヤさんもよくいらしてくださいました。…その方は?」
「あ、あぁ、シズヤ君の友人で、私も今日知り合って、我が家に招いたのだよ。安心しろ、シズヤ君の友人だぞ。見た目は不審だが、ワケアリだからそこのところは勘弁してやってくれ。」

ザークの妻のマリアの質問に必死に回答するザーク。
ボロが出ないかひやひやしながら静也はただザークの発言に相づちをうつだけだった。

「そう…、まぁ、いいわ。どうぞお上がりください。」
「あ、失礼します。」
「うむ」


玄関入ってすぐの立派な柱、絵画、壺など、出迎えてくれるのはどれも高価そうな物ばかり。
もし、傷を付けたなら、もし壊してしまったなら。
考えるだけで恐ろしい。
そんなことを静也とノーナは思っていた。

多くの装飾品のある屋敷に二度目とは言えど、目移りしてしまう静也。
初めてのノーナはただ、呆然としているだけだ。
長く感じられる廊下を通っていき、ある一室に招かれる。

「使用人を全員、広間に呼んで来い。」
「わかりました。直ちに呼んで参ります。」

ザークは近くにいた警備員に使用人を呼ぶように命令する。



「全員呼んで参りました。」
「うむ、ご苦労。では、全員あちらで待機しておいてくれ。シズヤ君、彼女を。」

そう言われ、ノーナのフードを取った。
使用人全員は驚き、すぐに臨戦状態になる。
魔族が嫌われているのは聞いて、何となくは察していたが、ここまで魔族が嫌われていることに静也は驚きを隠せない。

「村長様!魔族を何故屋敷に?!まさか、シズヤ殿に…!」
「まぁ、落ち着け。彼女は…」

そこからはザークの説得会があった。
彼女の過去、魔族との友好でのメリット、固定概念の見直しなど
ザークに言われ納得する者、納得しない者、一貫してノーナに殺意を向けている者で分かれている。
納得2、納得しない7、殺意1の割合だろう。

「私はこの村でノーナと一緒に暮らしたいんです。彼女が直接あなた達に被害を被ったでしょうか?過去、ノーナは呪いか何かで虚無を生み出しましたが、もういません。安全なんです。」
「何かあったら責任とれるのか!魔族がこの村にいるだけで穢れてしまう!お前さんがそいつと暮らしたいというのならそれは結構、だが!俺達の村に二度と来ないでもらいたい!」

反対派の一人の男が声を荒げて静也に怒鳴る。

「魔族は危険だと、小さいころに父さん、母さんに言われたこともある、絵本の悪役にもなっている。でも、小さいころから本当にそうなのか?って思ったことがあった。魔族がもしも本当に悪い奴だけならその時には魔族を倒そうとは思っていたが…その子は悪い奴には見えない。寧ろ安心できる…」
「魔族も悪い奴と良いやつがいるらしいですよ。人間だってそうじゃないですか?人間同士の争いで殺しにまでなる、戦争がいい例です。魔族が皆悪い奴だけじゃないんです。人間だっていい奴だけじゃないです。」

賛成派の女が一人が立ち上がって物怖じしない様子で言う。
反対派からの突き刺さるような視線を浴びながらだ。なかなかできたものじゃない。
彼女は人並み以上に肝が据わっているな、と感心してしまう。

「魔族がいい奴なわけないだろ。今すぐ殺してはい終わり、だ。武器を持て!魔族は根絶する!」
「待ってください!なんでそうなるんですか?!」
「うるさい!魔族のせいで魔物なんかがいるんだろ!魔物のせいで何人死人が出ていると思っている!」
「そんなのデマですよ!本当にそんなことが起きていると思っているんですか!」
「問答無用!<身体強化>!<筋力強化>!うおぉああああ!」

殺意を向けている者がスキルを使用し、ノーナに襲い掛かる。
静也はとっさに構え、傘を開き、<アンブレラシールドモード>に切り替える。

殺意を向ける者の殴打、身体能力向上系のスキルを使用しただけあってか、踵が浮いてしまう威力だ。
その証拠に殴打の圧だけで強烈な風が起きたからだ。
本当にノーナを殺す勢いだ。

「…『動くな!』…ったく、ここは私の屋敷だ。片付けが大変だろうが。」
「!う、動けない?!どうなってやがる!」
「ッ!動けない!?」

ザークの一言で、静也も硬直してしまう。
一瞬ではなく、継続的にだ。
動こうと気張るも指先一つすらも動かせない状態。
そして、ザークから発せられる異様な威圧を受け、背中から嫌にこびりつくような冷や汗が流れ、不快感に襲われる。

「なにしやがった!」
「なに、動かないでもらっているのだ。私の屋敷を汚されるのは、不快だからね。」

男は村長に対して既に言葉遣いを改めることすらしない。
既に吹っ切れていた。

首筋を死神が撫でるような感覚で鳥肌が立つ。
ザークは平静を装っているが、内心激怒している。

「君が魔族が嫌いなのは十分わかる。だが私はこの村の為に魔族と友好を築こうとしているのだよ。それを君一人のせいで、関係が壊れたら、どう責任をとるんだ?」

ザークが村の為に魔族とノーナと友好を築こうとしていることは初耳だ。
そこまで考えていたのかと感心した。

「ぐっ…魔族となんか友好を結んだってなんのメリットもないだろ!」
「私は彼女と、魔族と友好を結ぶことで村の発展、安全にもつながると考えている。そもそも君は本当に魔族と会ったことがあるのか?今ここで初めてあったのだろう?」
「魔族についての伝承は知っているはずだろ!それに書かれていることがすべてで真実だろ!」
「だからだ、友好を築くべきだと私は考える。」

そこには一人の革命家の姿があった。
部下の反対を押し退け、独裁的に決める。それを村人が許すものかと思われるが、何故かわからない彼なら出来るのではという期待が涌き出るのだった。




話はかわるが反対過激派の男の発言で、伝承を今度調べようと思った静也なのだった。
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