傘使いの過ごす日々

あたりめ

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ノーナのいる村で

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魔族との友好を築くことに意味があるとザークが発言する。

「意味がわかんねぇよ!ちゃんとしろよ!村長なんだろ!村の人を第一に考えないでどうするんだ!」
「これが私の思う、村のためだ。魔族にも悪いものも居る、しかし、良いものも居る。それは人間も同じだろう?」
「そんな独裁許されるわけ無いだろ!魔族は殺すべきだ!」
「魔族だからと言って直ぐに殺すだとか、追放だとか、人間に置き換えたならどうなる?君だったらどう思う?」
「うぐっ…、そ、そいつは魔族なんだぞ!魔族に思いやるとか意味わかんねぇよ!」

小さい子供に叱るとき、大抵出てくる言葉、それは「自分が相手の立場に立っていたならどうなんだ?」だ。
子供っぽい叱り方だが、これはこれで効果は高い。
それは相手の立場に立っていたならどうなのか、と問われたら自分のしたことが間違っていると、相手の言葉が正論だと思うからだ。

「ならば、こうしよう。もしもそこの魔族が少しでも悪さをすれば追放する。程度によっては死刑に処そう。しかし期限は一月だ。それまで悪さをしなかったらもうこの件には口を出さないこと、それでいいね?」
「…ッチ、少ない。せめて半年だ。」
「わかった、それでいいね。」
「ふん…精々化けの皮が剥がれるのを待ってるぜ。」

男は渋々という感じで広間から出ていく。
静也とザーク、他使用人から安堵の息が漏れる。

「と、言うわけだ。トーレル、今のやり取り映像化できてるな?」
「はい、勿論です。」
「え?映像化?…どう言うことですか?」

困惑する静也はザークに問いかける。
ザークは静也のその反応に何故か嬉しそうにしていた。

「魔道具だ。どういった原理かは知らないが、これが今までの事柄を保存することができるのだ。これを競り買った額は10年たった今でも未だに覚えているよ。」
「は、はぁ…ところで、その映像はどうするんですか?」
「村に流す。そしてこれを周知の上でノーナをこの村で過ごさせる。」

ザークの言葉には別の意味があるような気もした。

「…そうなれば、しばらくの間はノーナが魔族の仲間と会うための拠点が私の家になりますね。そうなればノーナは安全ですよ。」
「あぁ、一応私からも、安全のために手を貸す。」
「本島ですか?!ありがたいです!」



そうして魔族の一人ノーナ・ヒルデバランが、マルナ村に暫く過ごすことになった。

やはり、魔族を毛嫌いする者も多く、ノーナの命を奪おうとする者もいたが、ノーナが言葉を覚え、会話をする頃には、命までとろうとするものは居なくなっていた。
寧ろ、好意的になっていた。
ある者は、物々のサービスだったり、値引きだったり。
ある者は、求愛、告白に、しかしノーナは告白、求愛を断っていった。
理由は言わずもがな、静也だ。
一番最初に救ってくれたのは静也であり、一番の理解者だと思っているからだ。
信頼という感情はいつしか恋心へと変わる。

ノーナはその気持ちを素直に伝えることが出来ず、村で数十日を過ごしていたある日のことだ。


「シズヤよ、妾も少しでもそなたの力になりたいのだ。な、何でもするぞ!」
「…ノーナのその気持ちだけでも嬉しいよ。」
「うぬぅ…、これはまた手強いのぉ…」
「じゃぁ、食器洗い手伝ってくれる?」
「そういうのでは無いのだが…まぁ、良い。少しでも役に立てるのであれば何でも良い。」

勇気を振り絞って出し、オブラートに包んだ言い方でも、静也には伝わらないというもどかしさを感じていた。
実際は静也は気づいている。しかし、「勘違い」だったら赤っ恥だ、となかなか攻めに入れないのだった。

家を借りるてから、二人の間は徐々に縮まるも、恋仲にまでには至らない。
それは両者共に、自信がないからだ。
静也は自分のことを好きになってもらえるのかという不安から
ノーナは、自分は魔族であるという現実から、告白するに告白できなかったからだ。

その結果、何十日もこの状態で停滞。


ノーナが好意的に村の人に受け入れられてから、顔を晒して村を歩くことが多くなり、静也とクエストを受けにいくことも多くなって、特例で組合から冒険者カードを渡すことになった。


別の日には、ノーナの服を買いに行った。
騒動の発端のクローザはノーナを見るや否や、すぐさま変態的な洞察眼でノーナの身体を測っていく。
以前より制度が上がったとのことで、1センチ以内の誤差にまでとどまるようになったとのこと。

服を見繕ってくれるのはいいのだが、時折クローザから嫌にへばりつくような視線を感じた。
店員の人達は毎日これを感じていて、原因はクローザの洞察から来る衣服の想像、もとい妄想からだという。



ーーーー???sideーーーー

魔族と人間の友好。
とある神の作ったルールに違反する、否、その世界のルールに違反する。
世界の均衡を保っていたが、この切っ掛けで、世界の歯車は徐々にズレ始め、別の未来を作り始める。

森羅万象、すべての事象には、必ず始まりがあり、そして終わりがある。
しかしすべての事象は必ずしも同じ終わり方はしない。


一柱ひとりの高次元の存在は、その事象を静かに眺めていた。
その目は、優しく見守るような目でもありながらも、どこか冷たい目をしていた。

「…■■■■の奴が見たなら、どうするのか…」

そして、玩具を眺めるかのような、悪戯な眼をしていた。




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