転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第35章 転生王子と夏休み 後半

ランタン祭り~はじまり

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 ランタン祭り当日。今日は月のない新月。
 ヒスイによると、今のところ大気も安定しているみたい。
 この安定した状態を維持したまま、夜になってほしいな。
 強風でもお祭りはやるみたいだけど、ランタン飛ばしは中止になっちゃうからね。
 さて、ランタン飛ばしの本番は夜だけど、お祭りは午前中からやっている。
 俺たちのスケジュールは、こうだ。
 午前中、アンリ義兄さんとステラ姉さんはお祭りの公務があるので、俺たちだけで街中を散策。
 日が傾き始めたら、ティリア王室が用意してくれたテラス席で、アンリ義兄さんたちと合流。
 そこで夕食を食べつつ、お祭りを見学する。
 ランタンもそこから飛ばす予定になっている。
 つまりは、日中の街中散策は一般人として行動し、夕方になったら王族として過ごすのだ。
 俺たちに散策はさせてあげたいけど、夜になると人も増えるし暗くなるから護衛なしでの散策は危ないからって、アンリ義兄さんに言われちゃったからね。
 ちなみに、テラス席は三階に位置し、屋根と囲いがあるので、登って覗き込まれない限りは一般の人に見られる心配はないらしい。
 学校では王子だと隠しているため、王族としての姿を見られるわけにはいかないもんなぁ。
 知り合いに気づかれることなく、安全にお祭り見学ができるのは大変ありがたい。
 ともあれ、まずはティリア城下町へ行き、ランタン祭り巡りだ。
 街のメインストリートに出る前に、俺は改めて帽子をちゃんとかぶれているか確認する。
 最近俺は、街を歩く際、帽子やカツラなどを着用している。
 数ヶ月前、俺と同じ髪色で背格好も似た少年が、人助けをして歩いているという噂が、近隣諸国に広がっていたことがあった。
 俺の青みがかった髪色は、この世界ではとても珍しい色で、とにかく目立つんだよね。
 しかも、『聖なる髪色』とも言われており、クリティア聖教会では神に愛されし者の証として珍重されている髪色なのだ。
 俺が街中に地毛で出ていったら珍しいから目立つし、その子と勘違いされて騒ぎになることが予想されている。
 だから、その噂が落ち着くまでは、帽子やカツラをかぶるようにしているのだった。
 「あ、そうだ。コハクランタンも腕につけよう」
 俺はそう言って、先日作ったミニランタンをみんなに渡す。
 俺が二の腕につけると、コハクがしがみついているみたいに見えた。
 みんなは俺と同じく腕につけたり、手首につけたり、それぞれ好きな場所につける。
 動かした際に中のエラフル石に衝撃が伝わったのか、コハクランタンはほのかに光る。
 今は日中で明るいからあまり目立たないが、夜になったらもう少し光るだろう。
 アリスが手首につけたコハクランタンを見て微笑む。
 「ふふふ、可愛い」
 「おそろいでつけると、チームみたいでいいね」
 トーマの言葉に、みんなが頷く。
 「これで準備万端。さぁ、ランタン祭りに行こう!」
 俺が言い、みんなでティリア城下町の中心地を目指す。
 通りはすでにランタン祭り一色だが、中心地にある大通りや市場は、ここよりももっと屋台が集中し賑わっているそうだ。
 お祭りなんだから当然なんだけど、以前来たときと全然街の様相が違うなぁ。
 以前鉱石を買い付けに街を訪れた時は、通りに並ぶパステルカラーの家の可愛さから、おもちゃ箱のような街だという印象を受けていた。
 今日はその家に色とりどりの丸いランタンが飾られていて、まるで砂糖菓子を飾ったお菓子の家のように見えた。
 家が美味しそうに感じるなんて、食いしん坊のレイみたいな発想だ。
 気持ちに引っ張られているのか、本当に甘い匂いまでしてきた。
 その時、突然レイが前方を指差して叫んだ。
 「あー!パークスティックが売ってる!」
 驚いた俺たちは、レイの指差す先を注目する。
 そこには確かに、パークスティックの屋台があった。
 ティリア王国では、少し前に遊園地と動物園と植物園が合体したティリアパークという施設ができた。パークスティックはチュロスのような見た目の揚げ菓子で、パーク内でしか売られていないお菓子だ。
 甘くて、表面カリカリ、中もっちりで美味しいんだよね。
 甘い匂いがしていたのは、これかぁ。
 だけど、どうして街に屋台が?パーク内限定のお菓子だよね?
 一足先に屋台に駆け寄ったレイが、若い店主に向かって尋ねる。
 「このお菓子、パークスティックですよね?どうして町で売ってるんですか?」
 若い店主はにこっと笑って答える。
 「今日はランタン祭りだからね。ティリアパークから、特別出店だよ」
 なるほど。お祭りだから、特別にお店を出しているのか。
 「もしパークスティックが好きなら、今買っておいたほうがいいよぉ。在庫は多めに用意しているけど、なくなったら閉店だから」
 あおる店主に、ライラはニヤリと笑う。
 「今買わないと、なくなってしまうかもしれないという客の心理を突く。商売上手ですね」
 その返しに、店主は大笑いをした。
 「あははは、そう返されると思わなかったな。でも、本当に売り切ったら終わりなんだよ」
 「いいじゃん、買おうぜ」
 俺たちを振り返るレイに、カイルが少しトーンを落として言う。
 「だが、ティリアパークに行けば、パークスティックは好きなだけ食べられるだろう?パークスティック大食い大会でもらった、無料チケットがあるんだから」
 先日行った時、レイはパークスティック大食い大会で準優勝し、賞金としてパークスティックを無料で食べられるチケット百枚をもらった。
 俺たちもレイの賞金から、各十枚ずつお裾分けをもらっている。
 パークに行けば、たくさん食べられるんだよね。
 「それはそうだけどさぁ。美味しそうなんだもん」
 レイは言って、恨めしげに屋台に並ぶパークスティックを見る。
 カイルは仕方ないと言った様子で、息を吐いた。
 「わかったよ。そんなに食べたいなら買おう」
 カイルが折れたところで、会話の成り行きを見守っていた店主が言う。
 「君たち無料券を今持っている?ここでも使えるよ」
 パークスティックを見つめていたレイは、パッと店主を見上げる。
 「え!!本当ですか!?ポーチに入れっぱなしにしてるんで、多分あります!」
 そういって、腰につけていたポーチに、手を突っ込んで探る。
 俺たちも一緒に、自分の無料チケットを探し始めた。
 確か、レイからもらって、お財布に入れたはず……。
 目当ての無料チケットを見つけて、ホッとする。
 他のみんなも、無事に探し当てられたようだ。
 チケットと交換で、パークスティックを貰う。
 「わー!やった、パークスティックだぁ!美味ーい!」
 さっそく一口食べて顔を綻ばせるレイに、店主は噴き出して笑う。
 「ぷっ!あははは!そんなに好きなのかぁ。もし食べたかったら、また来てくれよな」
 店主に見送られながら、俺たちは歩き出す。
 「いやぁ、パークスティックがここでも食べられると思わなかったなぁ」
 にこにこのレイに、ライラはため息を吐く。
 「食べ過ぎに気をつけてよ」
 「堅いこと言うなよ。せっかくのお祭りなんだから、片っ端から食べていこうぜ。ほら、あそこにも美味しそうなお店がある!」
 レイはまだ手に持っているパークスティックも食べ終わっていないというのに、新しい屋台を指差す。
 「せめて食べ終わってからにしたほうが……」
 俺はそう言いながら、ふと屋台の幟に目が止まる。
 幟には『ステラ妃殿下特製タレの串焼き』の文字があった。
 屋台を覗くと、真っ赤な色に染まった串焼きが焼かれている。
 近付いた俺の鼻を、強い香辛料の香りが刺激した。
 「こ……この真っ赤なタレは……」
 「『ステラ妃殿下の特製タレ』って、もしかして……」
 俺とカイルが呟き、レイたちも困惑しながら串焼きを見つめる。
 「あんまり近付くと、煙が行くぞ。辛みを含んだ煙だから、危ないんだ」
 店主に声をかけられて、俺は串を焼く彼を見上げる。
 辛い煙から守るためなのか、鼻と口をマスクで覆い、特製のゴーグルをしていた。
 「食べたいかもしれないが、子供にはこの串焼きは辛くて、食べられないだろうなぁ」
 うん。見るからに食べられなそう。
 「ステラ妃殿下の特製タレって、どういうことですか?」
 アリスの問いに、店主は答える。
 「皇太子妃のステラ殿下は、辛いものがお好きらしくてな。いろいろな香辛料を混ぜた、特製ソースを作り、料理にかけて召し上がっているそうなんだ」
 その通りである。庭でバーベキューをしたときも、ステラ姉さんは料理に特製ソースをかけて食べていた。
 「お祭りだと、辛いものが好きなドルガド王国の人も来るだろう?だから、今回試験的に特製ソースを使った焼き串を出そうって、アンリ王太子様が提案してくださったんだ」
 なるほど。そういうわけか。
 ドルガドの人は大人も子供も、辛いものが好きだもんね。
 そもそもステラ姉さんがこんなに辛いものにはまったのも、ティリア王国にお嫁に来て隣国のドルガド料理を食べてからだし。
 結婚する前も辛いものが好きな方だったけど、あそこまでじゃなかったもんなぁ。
 店主は串を裏返しながら言う。
 「初めての商品だから少しだけ不安だったんだが、ありがたいことにもう結構ドルガドの人が買って行ってくれてるんだよ」
 「へぇ、そうなんですか?」
 ライラが興味津々で聞くと、店主は嬉しそうに言う。
 「ああ、タレに使っているステラ妃殿下の特製ソースが欲しいって言ってる人もいたなぁ」
 ライラはそれを聞いて、含みのある笑顔をする。
 「……へぇ、そうなんですかぁ」
 先ほどと同じ台詞だったが、企んでいるかのような響きがある。
 レイが顔をひきつらせ、ライラに小声で言う。
 「ライラ、特製ソースの販売権を得ようと考えてないか?」
 ライラは口元に手を添えて「ほほほほ」と上品に笑う。
 「それより、レイ。片っ端から屋台料理を制覇するみたいなこと言っていたけど、特製タレの串焼き買うの?」
 そう言って、店主が持つ串焼きを指差す。
 店主は焼いたばかりの串を、レイに見せた。
 「坊主、辛いのいけるのか?買うか?」
 レイは真っ赤な串を見て、プルプルと首を振った。
 「ま、まだパークスティック食べている途中なんで……」
 そう言って、踵を返し歩き出した。
 うん。賢明な判断だね。
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