転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第36章 転生王子は3年生

新入部員

 レイの問いに、二人は少し戸惑いつつ答える。
 「はい。ファンクラブには、まだ入っていません」
 「たくさんありすぎて、よくわからなくなってしまって……」
 答えを聞いて、俺たちはホッと息を吐く。
 これは、セーフ!
 「ファンクラブに入らないと、モフモフ鉱石研究クラブには入部できないでしょうか?」
 心細そうなエドに、俺は「いやいや」と手を横に振る。
 「違う。逆だよ。ファンクラブの人は、規約があってモフ研に入れないみたいでね」
 そう言って、鉄の掟のことを説明した。
 聞き終わって、二人は「なるほど」と息を吐く。
 「ファンクラブには、そんなに厳しい規約があるんですね。入会を保留していて良かったです。ね、エド様」
 顔を窺うヴァンに、エドは「ああ、本当に良かった」と笑う。
 「鉱石実験も楽しみなんですが、召喚獣との活動もしたくて!モフ研に入れば、フィル師匠から直々に動物との接し方を学べるんですよね?」
 無邪気に尋ねるエドに、俺は微笑む。
 「わかることがあれば、教えるよ」
 エドは安堵の表情を浮かべたが、すぐに「ハッ」と息を呑む。
 「僕の召喚獣って、モフモフしていないけど大丈夫でしょうか?」
 エドの召喚獣は、水属性のメルガモ蛇。
 ツルツルした肌なので、心配になったようだ。
 「あははは。モフモフと名前がついているけれど、モフモフしていなくても問題ないよ」
 「じゃあ、僕たち入部できますか?」
 エドの問いに、俺は笑顔で応じる。
 「もちろん、歓迎するよ」
 エドとヴァンは互いの顔を見合わせ、「やったぁ!」と喜ぶ。
 同時に、俺たちもモフ研に後輩が入ったことに安堵する。
 「いやぁ、エドたちが入部してくれて良かったね」
 「さっき新入部員が欲しいって話し合っていたところだったもんねぇ」
 「助かりましたね」
 俺とトーマとカイルがそんな話をしていると、それが聞こえたのかヴァンは不思議そうな顔で尋ねる。
 「助かるとは?先ほど『状況が状況』とおっしゃっていましたが、何か関係が?」
 レイは「いずれ話すつもりだったんだが……」と、前置きしたあと、彼らに事情を話した。
 「モフ研には今、俺たちしかいないだろ?クラブを引き継いでくれる後輩がいないままだと、俺たちの卒業と同時に廃部になる。存続させるためには、後輩の新入部員が必要だったんだ」
 それを聞いて、エドは喜びに声を震わせる。
 「僕たちが入部したことで、廃部を回避できたんですね。しかも、僕たちがフィル師匠たちの守ってきたモフ研を、後に引き継いでいくことができるなんて!」
 エドはポンッ!と自分の胸を叩いて、宣言した。
 「わかりました。モフ研の未来は僕たちにお任せください!」
 エドの目は、使命の炎で燃えている。
 レイはその熱さに、呆気にとられていた。
 「入ってきたばかりの部員が、熱血すぎる……」
 俺はそんなエドの背中を優しく撫でた。
 「エド、落ち着いて。そんなに気負わなくていいんだよ。君たちが入部してくれただけで充分なんだから。そりゃ、クラブが長く存続し続けてくれたら嬉しいけど、守ることに固執してほしくはないよ」
 デュラント先輩もそれは望んでいないだろう。
 「だから、のんびり楽しくクラブ活動して」
 俺がそう言って微笑むと、エドは感嘆の息を吐く。
 「さすが、フィル師匠です。確かに、気負わずに楽しむことが、長続きの秘訣かもしれませんね!」
 「ん?……ん~、まぁ、そうとも考えられるかな?」
 「わかりました。『のんびり活動を楽しみながら』を第一に頑張ります。でも、やはりモフ研を十年、二十年と続く、ご長寿クラブにしたいですよねぇ。フィル師匠の素晴らしい教えを、後輩たちに伝えたいですから」
 俺の話を聞きつつも、目標は高くありたいようだ。
 エドは本当に頑張り屋だよね。
 すると、シエナ先生が音を立てて席を立ち、ツカツカ歩いて俺たちのところにやってきた。
 「長い」
 たった一言の呟きに、俺たちは揃って首を傾げる。
 ……長い?何が?
 「十年二十年は、長すぎないか?」
 いつも余裕な彼女にしては珍しく、焦りの表情が見える。
 「目標ですよ?」
 エドに真っ直ぐ見つめられ、シエナ先生は目を細めた。
 「目標だとしてもだ。とりあえず、一、二年くらいでいいだろう」
 「それじゃあ、僕らが在籍中に廃部になるってことですよ?」
 ヴァンの指摘に、エドが加勢する。
 「そうですよ。目標が短すぎます」
 だよね。こんなにやる気のあるエドたちが、途中で投げ出すなんてことはないだろう。
 最低でもあと三年は大丈夫じゃないだろうか。
 そもそも、目標なんだからどれだけ長くても別にいいのに。
 そこまで考えて、とあることを思い出す。
 「あ、モフ研が廃部になると、シエナ先生も顧問の任から解かれるんでしたっけ」
 俺がそう言うと、シエナ先生はちょっと視線をそらす。
 否定はしないってことは、それが関係しているようだ。
 シエナ先生の教員任期は、あと二年ほどしかない。
 ただ、教員の任期が終わっても、クラブ顧問は継続して務めてくれることになっている。
 シエナ先生自身は、「任期満了をしたら顧問は別の職員に引き継ぎたい」って希望していたみたいなんだけどね。
 ただ、シエナ先生ほど鉱石研究の知識がある人はいないので、デュラント先輩が彼女を説得してくれたんだ。
 いや、取引をしたと言ったほうが正しいだろうか。
 シエナ先生の自宅は、この鉱石学教務担当室と隣の部屋を合わせた二部屋。
 学校から買い取ったので、教員を辞めてもここに住み続けるという。
 学校敷地内に世界一のステア王立図書館があるし、夜は静かだから研究するのに適しているからなぁ。そりゃあ、出て行きたくないよね。
 でも、教員を辞めたら、一部のサポートは終了しちゃうみたい。
 そのサポートとは、部屋への配達。
 シエナ先生は食堂の食事とか購買部の商品とか、配達してもらっているらしいんだよね。
 初めはシエナ先生が職員さんにお願いして届けてもらっていたみたいだけど利用頻度が多くなったため、学校側がサポートの人を用意してくれたらしい。
 普通はここまでのサポートはつけないんだけど、シエナ先生の場合放っておくと食事しないで研究に没頭したりするから、心配したデュラント先輩がかけあってくれたんだって。
 デュラント先輩は卒業後も、時々この部屋を掃除に来ているしなぁ。
 シエナ先生の生活や健康って、デュラント先輩によってキープされている気がする。
 ただ、そのライフラインの配達が、任期とともに終わってしまうのだという。
 学校の善意によるサポートだから、当然と言えば当然。
 配達が終わるだけで、任期終了後も構内の食堂や、学校敷地内のカフェは利用できるしね。
 ただ、当人は今の環境が快適すぎるゆえに、不安を感じていたらしい。
 デュラント先輩はそんな心情に目をつけ、教員契約が満了してもクラブ顧問を続けてくれるなら、永続的にそのサポートを受けられるようにすると持ちかけたのだ。
 こちらは学校ではなく、王国側からのサポートらしい。
 さすが、ステア王国の王子様。ステア王立学校創設者の一族にしかできない取引である。
 そうして、シエナ先生はその取引を受けたわけだ。
 うちの学校はクラブの新設数と同じくらい廃部になる数も多いし、もしかすると軽い気持ちで受けたのかもしれない。
 「シエナ先生としては、モフ研があまり長く続くときついと感じるわけですね」
 俺の言葉に、みんなもなるほどという顔をする。
 「べ、別に、廃部を望んでいるわけではないぞ。本当に嫌ならば、そもそも一年に声をかけない。ただ、こいつらが十年、二十年と言うから……。今合同でやっている鉱石研究の規模が大きくなれば、今より忙しくなる可能性もあるし」
 リアルな数字に、少し不安になってしまったわけか。
 確かに、十年単位の数字って、大きく感じちゃうもんね。
 シエナ先生は時々、こういう反応が素直というか、子供っぽいというか。
 可愛く感じて、俺は「ふふ」と笑う。
 「何を笑っている」
 まずい。シエナ先生に気づかれてしまった。
 機嫌を損ねた様子なので、慌てて真面目な顔を作る。
 「いえ、なんでも。でも、きっと大丈夫ですよ。もしシエナ先生が本格的にお忙しくなる前に、デュラント先輩が適切な対応をしてくださると思いますので」
 「……そう思うか?」
 シエナ先生は顔をズイッと寄せて、圧をかけてくる。
 「はい。そう思います。思慮深いデュラント先輩ですから」
 デュラント先輩からこっそり聞いたのだが、先輩もずっとシエナ先生に負担をかけるのは申し訳ないと思っているのだという。
 だから、今も後任を探し続けているみたいなんだよね。
 たとえ後任が見つからなくても、サポートを入れたりしてくれるのではないだろうか。
 どうなるかはまだわからないから、今の段階では俺からは何も言えないんだけど。
 シエナ先生は小さく息を吐いた。
 「まぁ、今心配していてもしょうがないな。問題が出てきたらライオネルに言えばいいか……」
 気持ちを切り替え、シエナ先生は俺たちを見回した。
 「では、そろそろクラブ活動を始めるぞ」
 
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みんなの感想(4995件)

お腹が狸
2026.05.10 お腹が狸

モフ研の救世主になれるのか?
シエナ先生が認めているならありかな。

更新のペースが遅いのは、アニマルカフェ モフに行っているとか、いないとか?
ヤベ、調べて行きそう。(笑)

2026.05.11 朝比奈 和

感想ありがとうございます。
アニマルカフェ行きたい。
まだ時々、妖怪ミュージアムを夢にみるんですよ。
なんてものを見せるのですか。
(´;ω;`)

解除
noj
2026.05.07 noj

ここでエドとヴァンのモフ研加入が認められると、「ファンクラブ未加入ならフィルくんにお近づき出来るのでは…」と企む1年生女子が現れそうです。

2026.05.11 朝比奈 和

感想ありがとうございます。
た、確かに……
しかし、エドもかなりフィルにぺったりですから、
カイルとは別の意味でガードが発動しそうな気もしますね。

解除
アズール
2026.05.07 アズール

更新お疲れ様でした!
予想通りエドandヴァンが、クラブに入会希望でしたね!
エドのフィル師匠の尊敬具合と流れからおいらは、どこのファンクラブに入らずにいると思います。せいぜいトーマと同じ動物研究くらいかと思います。
モフ研に入会してくれそうな人は、エドに誘われて感化されたかフィル信者であるが鉱石に興味ありでファンクラブに属してない1年と転入生の人達だと思います!

2026.05.11 朝比奈 和

感想ありがとうございます。
彼らが入会希望に来ました。w
モフ研存続の危機を助けてくれる
希望となるのか……
最新話をどうぞお楽しみに!
他にも入ってくれる子いるでしょうかね。
廃部は避けたいですね。

解除

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