転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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8巻

8-2

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「商家のトリスタン家独自のルートを使えば、輸送は可能なはずだ。輸送に関してグレスハートと独占契約を結ぶことは、トリスタン家にとっても悪くない話だと思う。そんなわけで、私はこのままティリアに滞在し、ドルガドと交渉しなければならないんだよ。備蓄に関する時期や数量についても、細かく取り決めを行う必要があるし……」

 忙しくて大変だという顔で、アルフォンス兄さんはため息をつく。
 我が兄ながら、何て抜け目のない人だ。いったい、いつそんな計画を立てたんだか。
 呆気にとられる俺に、アンリ義兄にいさんは真面目な顔で言う。

「アルフォンス殿下からその話をうかがった時は、私もとても驚きました。ですが、同盟内容としてはドルガドにとって悪いものではありません。ディルグレッド国王は、おそらくこの話を受けるでしょう」

 アルフォンス兄さんも、アンリ義兄にいさんに向かってゆうぜんと頷いた。

「ええ。私もそう思います。答えは保留とされましたが、国王としてすぐ了承するのははばかられただけのこと。間もなく連絡が来るでしょう。父上もこれで私が黙って国を出たことを、大目に見てくださるんじゃないかと思います」

 大目に見るっていうか、そうせざるを得ない状況にアルフォンス兄さんが持っていっただけでしょう。もしかして向こう三ヶ月の公務を終わらせてきたのって、こっちに居座る可能性も考えてのことだったのか?
 俺とカイルはチラリとお互いの顔を見合わせ、兄のそら恐ろしさにゴクリと喉を鳴らす。
 そんな俺たちの気持ちを知ってか知らずか、アルフォンス兄さんはご機嫌な様子だ。

「ティリアって、ステアにもドルガドにも近いからいいよね」

 ……まさか、ここからステアに来る気じゃあるまいな。
 にこにこと微笑むアルフォンス兄さんに、とりあえず釘を刺しておくことにした。

「卒業生としてうちの学校に来ないでくださいね。目立ちますから」
「ええっ! 駄目かい? こっそりでも?」

 ショックを受けるアルフォンス兄さんに、俺は大きく頷いた。
 カイルはアルフォンス兄さんから視線をらし、言いにくそうに口を開く。

「そうですね。アルフォンス様は、こっそりできる方ではありませんし……」
「私も、ステラが許してくれると思えません」

 カイルに続いて、アンリ義兄にいさんは困った顔で俺に味方した。
 俺たちの反対にあって、アルフォンス兄さんはがっくりと肩を落とす。そして牧場に到着するまでの間、「何とかフィルと会える方法はないかな」などとブツブツと呟いていた。
 ……ブラコンさえなけりゃ、優秀な人なんだけどなぁ。


 車内でそんな会話をしているうちに、牧場へと到着した。
 ようしゃを降りてすぐ、柵越しに見えるモコモコの出迎えに俺は歓喜した。

「うわっ! すごいティルン羊の群れ!」

 一頭でもすごいのに、百頭以上もいると圧巻としか言いようがない。
 この中に飛び込んでも、きっとしないだろうなぁ。
 柵の近くのティルン羊をモフモフと撫でながら、俺は妄想を膨らませる。

【はじめてぇ見る顔だぁ】
【ほんとうだぁ】

 のんびりとした口調で話すティルン羊たちは、こちらを見て「ムームー」と鳴いている。コクヨウが近くに来ても、怖がる様子はなかった。
 コクヨウは気を抑えていても、もともとの力が強すぎるために抑えきれず、動物を怖がらせてしまうことがある。もし今回もそうなったら、控えさせようと思っていた。しかし、それはゆうだったみたいだ。

【黒い狼、はじめて見たぁ。よろしくぅ】

 そう言って、俺が抱いているコクヨウに顔を寄せた。
 コクヨウはその顔を、前足で押さえる。

【よろしくしてやるから、顔を寄せるな】

 コクヨウも初対面からこういう反応をされたことはないのか、ちょっと戸惑っている様子だ。
 俺はそんなコクヨウたちの姿に、くすくすと笑う。



「ティルン羊って、あんまり物怖じしないんですね」

 アンリ義兄にいさんに尋ねると、彼は口角を少し上げて頷く。

「ええ。ティルン羊の毛はいにしえの時代から重宝され、大事に守られてきました。それゆえ、脅威というものに大変うとい動物なんです。国で管理しているのも、人間や肉食獣、などから守る意味もあるんですよ」

 動物は本能で危機回避を行うものだが、それがほとんどないというのはとても珍しい。危険が迫っていても気がつかないってことだもんな。それは周りの人が、よく見て、注意してあげてないと心配だ。

「さぁ、他にも見せたいところがあるんですよ。参りましょう」

 アンリ義兄にいさんの案内で、ティルン羊の食事風景やブラッシング、刈り取った毛が織物工場へと運ばれていく過程を見学した。
 刈り取る職人さんの技は、実に見事だったな。羊が大人しいのもあるだろうが、ティルン羊がボーッと目の前の景色を眺めている間に、すごい速さで刈っていた。数センチ毛を残してはさみを入れるのが、ティルン羊にをさせることなく、ストレスをかけないコツなんだそうだ。
 そんな見学を終え、太陽が真上に来た頃、アンリ義兄にいさんが俺たちを振り返った。

「お腹は空いていませんか? 昼食としましょう。カイル、君もおいで。フィル殿下の友人として、一緒に昼食を食べよう」

 そう言って、後ろに控えていたカイルにも声をかけた。

「もったいないお言葉です。しかし、従者である私が同席するのは……」

 カイルが遠慮しているので、俺は駆け寄ってその背中を押す。

「行こうカイル。カイルは僕の従者だけど、友達でしょ」

 俺がそう言って微笑むと、カイルは少しはにかんで「はい」と頷いた。
 アンリ義兄にいさんが昼食に選んでくれた場所は、牧場の近くのテラス席だった。なだらかな傾斜に木製デッキが作られており、牧場が見渡せるようになっている。

「今の時期は、ティルンチーズが食べ頃なんです。別荘の食事に出しても良かったのですが、この牧場で食べるのが一番良いと思いまして」

 アンリ義兄にいさんは、そう言って薄く微笑む。
 見た目がちょっとこつなアンリ義兄にいさんではあるが、細やかな気配りをしてくれる人だ。

「ティルンチーズということは、ティルン羊の羊乳から作られたのですか?」

 俺が尋ねると、アンリ義兄にいさんは頷く。

「昨年に作ったものです。事前に味を確認しましたが、良い出来ですよ」

 ティルン羊のチーズかぁ。国で管理されているティルン羊のチーズなら、相当貴重だ。
 先ほど、大事に育てられている姿を見ているから、より一層そう思う。
 運ばれてきたティルンチーズは、作り方が違うのか二種類あった。
 一つはハードチーズ、もう一つはソフトチーズだ。
 皿にはチーズのみだったから、まずはそのまま試食ということだろう。
 俺は早速口に入れる。

「美味しい!」

 ハードチーズには塩気があり、その中に旨味とコクを感じる。
 ソフトチーズのほうは甘みがあった。先ほどのハードチーズがあっさりめなら、こっちはこってりとした味だ。

「同じティルンチーズなのに、味わいが全然違いますね」

 驚くカイルに、俺は同意した。
 元は同じものなのに、これだけ変わるなんて不思議だ。
 感心している俺の前に、ティルンチーズを使ったいろいろな料理が並べられる。
 削ったチーズが、ふんだんにかけられているサラダ。これはチーズに塩気とコクがあるので、オイルだけで充分完成された料理だった。
 チーズをのせたバゲットにはちみつがかかっているのも格別だったし、肉にチーズソースがかかっているのも良かった。
 このティルンチーズは、一般的な羊のものよりとても旨味が強い。

「料理によって味わいが変わるのがいいね。山羊やぎのチーズのようなくせも酸味もないし、芸術的な美味しさだ」

 美味しい料理を食べるとグルメ評論家みたいになるアルフォンス兄さんも、納得の味らしい。
 テーブルの下のコクヨウが、俺の足をテシテシと叩いた。
 うちのグルメ王もおかわりが欲しいのか。さっき、バゲットをあげたばかりなのに……。
 俺がチーズののったバゲットを再びあげると、コクヨウはあっという間に平らげる。

【濃厚で美味い】

 ペロリと食べるその様子は、呆れるけれど可愛かった。
 確かに、この濃厚さは特別かもしれない。

「フィル殿下。もしよければ、お土産に差し上げましょう」

 アンリ義兄にいさんの申し出に、俺は目を丸くした。

「本当ですか?」
「ええ、対抗戦の交流会では、私もフィル殿下考案の美味しいカレーをいただきましたから。料理することがお好きなんですよね? どうぞお役立てください」
「ありがとうございます! ……持って帰ったら、きっとレイたち喜ぶね」

 俺が隣にいるカイルにこそっと耳打ちすると、カイルは小さく噴き出した。

「また食べ過ぎるんじゃないですか? だけど、フィル様の料理、俺も食べたいです」

 そんなに期待されると、張り切らないわけにはいかないな。

「何にしようかなぁ。パスタとかピザは、当然美味しいだろうし……」

 あれこれ考えていると、アルフォンス兄さんが恨めしそうにこちらを見ていた。

「フィルの手料理、食べたいなぁ……」
「今夜、別荘の厨房を借りて作ってあげますから……」

 俺は困った兄さんだなと、眉を下げて笑った。



 2


 ティリアの別荘での休暇を終えた俺とカイルは、ステラ姉さんたちに別れを告げ、シリルを迎えに再びドルガドへ戻ってきた。

「この邸宅で間違いないようですね」

 カイルがシリルに描いてもらった地図を確認しながら、目の前の邸宅をあおぎ見る。
 シリルのお父さんは、ドルガドの英雄と呼ばれるほど有名な、けんごうグレイソン・オルコットだ。
 さすが英雄の家らしく、騎士家の中でも特に大きいみたいだ。規模で言えば、中級貴族の家と同等レベルかもしれない。
 レイが「ドルガドは他の国とは少し違っていて、貴族よりも騎士のほうが立場的に強いんだ」と言っていたが、そういうのも関係しているんだろうか。
 俺たちが門の衛兵に名乗ると、すぐさまメイドがやって来て中へと案内される。
 メイドについて行きながら、俺は邸内を見渡した。
 大きさは貴族の邸宅と一緒でも、中はさすが武人の家だ。
 屋外には弓の射的場や、試合を行えそうな広場があり、打ち込みに使う木製人形が置いてある。その奥には、屋内用の訓練施設まであった。
 そして屋外・屋内どちらにも、鍛錬している人が十数人ほどいる。
 オルコット家とどういう関係なのかはわからないが、子供から大人まで年齢は様々で、男性女性関係なく鍛錬を行っていた。誰もが真剣で、その姿は鬼気ききせまるほどだ。
 どれだけストイックに鍛えたら、あんなに筋骨隆々りゅうりゅうな姿になれるんだろう。
 俺じゃ無理だなぁ。カイルは興味あるかもしれないけど……。
 屋内訓練施設の横を通りながら、そんなことを思って後ろを振り返る。
 すると、すぐ後ろにいたはずのカイルが、足を止めて訓練風景に見入っていた。その目は、まぶしいほどにキラキラしている。
 ディルグレッド国王にドルガド王立学校への転入を勧められた時、最終的には断ったが、一瞬揺らいでいたもんな。
 実際、ドルガド王立学校は武術に力を入れているから、鍛錬好きなカイルにはピッタリなのだ。
 断ったことを後悔しないか確認したら、「ステアには獣人の俺を受け入れてくれた恩義がありますから、ドルガドに行ったりはしませんよ。それに俺は、フィル様をお支えするのが第一ですから」って言っていたが……。
 今の輝く目を見ていると、不安になってくる。

「あの人たちは、どういった方々ですか?」

 先を歩くメイドに俺が尋ねると、彼女は俺たちのところまで戻ってきて教えてくれた。

「ご当主グレイソン様に師事したいと、各国からいらっしゃっている方たちです。グレイソン様はけんごうであり、ディルグレッド国王陛下の右腕とも言われている素晴らしいお方ですから……。忙しいため直接稽古を見る機会は少ないのですが、それでも良いと言う方が多いのですよ。ほとんどの方は街に宿をとって通われておりますが、住み込みの方もいらっしゃいます」
「そうなんですか」

 頷いて、もう一度訓練場に目を向けると、その中に見知った顔を発見した。
 あれは……ドルガドの対抗戦メンバーの少年、ミカ・ベルジャンだ。
 剣術戦でステアとドルガドが対戦した時、シリルと戦って負けた彼は木刀で無差別に人を傷つけようとした。
 怪我人が出る前に俺が止めたけど、ミカに対して何も処罰しないというわけにはいかない。
 そこでステアとドルガドの対抗戦メンバー同士でミカの処遇について話し合い、探索戦のメンバーから外すことで収まったのだ。
 その話し合い以降、俺もカイルもミカに会っていなかった。ドルガドの対抗戦メンバー主将であり、シリルの兄でもあるディーンの話では、寮の自室できんしんしているということだったが……。
 ミカは俺たちに気がついて、少しバツの悪そうな顔をした後、こちらへとやって来た。

「君たちが来るとシリルから聞いていたけど、会うとは思わなかったな」

 ミカから自然にシリルの名前が出てきて、俺は少し驚いた。彼が起こした事件は、シリルへの憎悪も関係していたからだ。
 今はステアの中等部に在籍しているシリルだが、初等部はドルガド王立学校に通っていた。
 当時、優秀な兄に引け目を感じていたシリルに、優秀な弟がいるミカは仲間意識を持っていたらしい。だからこそ、留学して今を自由に過ごすシリルに憎しみを抱いたようだ。
 確かに、剣術戦後の話し合いでミカも反省し、二人のわだかまりも解けたみたいに見えたけど……。
 そっか、二人で会話できるまでになったのか……。
 そんな普通のことが、とても嬉しかった。もともと仲は良かったのだし、シリルもミカのことを尊敬する先輩の一人だと思っていたそうだから。

「ステアに帰るんだよね? シリルを迎えに来たの?」

 ミカに尋ねられて、俺とカイルは頷く。

「じゃあ、僕が案内してあげるよ。君たちに話したいこともあるし……」

 ミカはメイドに一言、二言、話をして案内を引き受け、俺たちについて来るよう目で促す。
 俺とカイルは、黙ってミカの後に続いた。
 それにしても、どうしてミカがオルコット家にいるんだろう。
 そんな疑問が顔に出ていたのかもしれない。ミカは俺たちの横に並んで、チラリとこちらを見た。

「学校や寮以外の時間は、オルコット家に通ってるんだ。ディーン先輩のくちきで、グレイソン様に師事している」
「そうなんだ」

 俺たちが頷くと、ミカは少し間を置いて告げる。

「……僕、家を出たんだ」
「え!?」

 俺とカイルは、目を見開く。
 ミカはベルジャン子爵家の長男だが、両親はミカの弟を跡継ぎにと考えていた。
 そんな両親に自分の存在を認めてもらいたいがために、対抗戦で行き過ぎた行動をしてしまったのだ。
 剣術戦の事件後、父親から「息子でも何でもない。出て行け」と言われていたけど、まさか……。
 俺がミカの顔をうかがうと、彼はかすかに笑って首を振った。

「自分の意思だよ。まぁ、出て行かなくても、追い出されるのは時間の問題だったけどね。ただ、そのまま放り出すのはがいぶんが悪いと思ったのか、学校は卒業させてくれるらしい。本当にありがたい話だよね」

 皮肉めいた口調はミカらしかったが、毒気は感じられなかった。少し遠い目をして、他人事のように話す。

「……感謝しているんだ。あの時、僕のことなんか放っておいたっていいのに、皆で考えてくれただろう? 僕は自分の行動が、周りに……国にどう影響するかなんて考えられなかった。自分を強く見せることにいっぱいいっぱいで、味方なんていないと思っていた。家を出て、冷静になって、自分はとんでもないことをやってしまったんだって、ようやく理解できたよ」

 ミカはこぶしを震わせて、苦しそうに唇をむ。

「迷惑をかけた皆には……改めて謝罪したい。だけど、まだ自分は心が弱いから、精神的に鍛え直してから謝罪に行きたいんだ。その時は……君たちに……ステアの対抗戦メンバーに会いに行ってもいいかな?」

 不安に揺れる目で、ミカは俺たちをうかがい見る。

「待ってるよ」

 俺とカイルが頷くと、ミカはあんしたのか気の抜けた顔で笑う。
 その時、ディーンとシリルの兄弟がこちらに歩いてきた。

「あ……フィル君、カイル君」

 ディーンとシリルは、俺たちとミカが一緒にいることに驚いた様子だ。

「ディーン先輩、シリル君の客人をお連れしました」

 ミカはそう言って、俺たちやディーンとシリルに深くお辞儀をして去っていく。
 次に会う時は、もっと笑顔が見たいな。
 そう思いながら、俺はミカの背中を見送った。
 ディーンもそんなミカを見て、それから俺に目を向ける。

「何か話したか?」
「近況をちょっと。改めて謝罪に来てくれるそうです」

 そう言うと、ディーンは短く「そうか」とだけ呟いた。

「それで、シリルはもうステアに行く準備できてる?」

 俺が聞くと、シリルは俺たちに向かって手を合わせた。

「フィル君、カイル君。ごめん。家を出る前に父さんに挨拶をしたいんだ。父さんもフィル君たちと会いたいって言ってたんだけど、いいかな?」

 シリルが申し訳なさそうに言うので、俺とカイルは快諾する。

「良かった。客間で待っててくれる? すぐ呼んでくるから」

 シリルは微笑んで、廊下を走っていった。
 え、客間で待っててって、ここまで案内してくれたメイドもミカもいなくなっちゃったんだけど。
 もしかして……。
 そう思って、チラリとディーンを見ると、彼は眉をひそめたまま呟いた。

「ついて来い」

 そう言って、ツカツカと歩きだす。俺たちはその後ろを慌ててついて行った。
 気のせいかな? 何だかディーン、不機嫌じゃないか?
 対抗戦ではちょっと仲良くなったと思ったのに、ツンツンディーンに戻っている。
 案内された客間は、大型動物の巨大な牙や角などが壁に飾られていた。けんごうの邸宅らしく、なかなかワイルドな装飾である。
 メイドがれてくれたお茶を飲んで、俺は無言に耐えられずディーンに話しかけた。

「さっき二人で仲良く歩いてきたってことは、シリルとちゃんとお話ができたんですね?」

 そう言ってニコッと微笑むと、ディーンは不機嫌そうな眉をピクリと動かした。

「確かに、いろいろなことをシリルと話した」
「おぉ、それは良かったです」

 あんしたのもつか、ディーンにキッとにらまれる。

「俺がかけた重圧で、シリルは精神的に追い詰められたこと。シリルの体格が、ドルガドの剣技に合っていないということ。ステアにはワルズ先生という良い教師がいること。フィル・テイラやカイル・グラバーは、優れた剣士であると同時に素晴らしい友人たちであること。さらに、フィル・テイラやその仲間たちは、自分の悩みに親身になってくれ、尊敬すべき人物であること」

 一気に言い終えて、ディーンは大きく息を吸い込んで吐く。

「えっと……シリルにそう言ってもらえて、嬉しいです」

 ディーンの勢いに呆気にとられつつ返事をした。
 すると、ディーンはけんに深いしわを作った。

「昔はシリルの尊敬する剣士は父上か俺だった。だが、久々にシリルに聞いてみたら、ことごとくお前たちに関する話だった!」

 そう言って、ディーンは不愉快とばかりに腕組みする。

「あー……フィル様、これってあれですね」

 カイルにささやかれて、俺はコクリと頷いて小声で返す。

「シリルと仲が良い僕たちにしっしてるね」
「何ボソボソと話をしている」

 不機嫌さを隠さないディーンを、俺はどうなだめようかと考える。

「シリルはお兄さんのことを尊敬していますよ。ですので、僕たちにしっする必要はなく……」

 そう言うと、ディーンはいぶかしげな顔をした。

「嫉妬? 何を言っている」
「え、だから、シリルが僕たちと仲がいいから、ヤキモチを焼いてるんじゃないんですか?」

 どう考えても、ディーンの感情はそれだろう。
 だが、ディーンは意味がわからないと言いたげに眉をひそめる。

「馬鹿を言うな。何で俺がヤキモチを焼かなくてはならないんだ。ただ単に、面白くないだけだ」

 フンと鼻息をつくディーンに、俺とカイルは呆気にとられる。
 それを世間一般では、ヤキモチって言うんだよ。無自覚かっ!
 ツッコミを入れたいが、自覚してないんだから理解してくれないだろう。
 ディーンが弟を大事に思っていることはわかったけど、シリルはまだまだ苦労しそうだ。
 俺はカイルと顔を見合わせて、ため息をつく。
 その時、客間の扉が開き、シリルとシリルのお父さんが部屋に入ってきた。

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