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9巻
9-1
1
ステア王立学校の夏季休暇。俺――フィル・グレスハートはアルフォンス兄さんと、友人のカイルとアリスと一緒に、コルトフィア王国を旅行することになった。
その道中、国境の道をリガールという鳥に阻まれ、あわや旅行中断の危機を迎えたのだが――
薬師のヒルデさんとバルサさんのところへ行った俺たちは、彼女たちからリガールの気を鎮める特別なお香をもらい、無事コルトフィア王国に入国することができたのだった。
「国境警備の方、お香を分けてあげたら喜んでいらっしゃいましたね」
移動する馬車の中、微笑むアリスに俺は頷いた。
「お香があればリガールを刺激しないで、安全に行き来ができるようになるからね。良かったよ」
貴族の馬車はもちろんのこと、商人の馬車もより多くの物資を載せてゆっくりと通ることができる。
アリスの召喚獣である香鳥のノトスが、外に取り付けてある香炉を馬車の窓の縁に立って覗く。
【人間の作り出すお香は素晴らしいですね。僕の棲息域にはリガールがいなかったので、この匂いは知りませんでした。召喚獣になって良かったです。ご主人様と一緒にいろいろな所へ行き、新しい匂いを知ることができるのですから。アリスお嬢様に感謝しなくては】
香鳥の能力は匂いを作り出し、広域に拡散するというものだ。いい匂いで特定の動物をおびき寄せることも、嫌な匂いで天敵である肉食獣を遠ざけたりすることもできる。
匂いで無駄な戦闘を避ける香鳥のやり方は、リガールをお香で避ける今回の方法と似てるかもな。
アリスは動物の言葉がわからないので、俺はノトスがアリスに感謝していることを通訳してあげた。アリスはノトスを自分の指に呼び寄せ、優しく頭を撫でる。
「ノトスは香りを再現できるんだよね? ってことは、この香りも再現できるの?」
俺が尋ねると、ノトスは大きく頷いた。
【可能です。ただ、移動しながらの場合は私の能力の範囲が狭くなりますので、馬車を何台もとなると難しいと思います】
そっかぁ。もしノトスが再現できるのであれば、お香がなくなっても大丈夫かと思ったが……。
王族や貴族のように、馬車数台での移動だと全てをまかなうのは難しいんだな。
「アルフォンス様。そろそろ日が傾き始めましたが、今宵は野営になるのでしょうか?」
カイルの問いに、アルフォンス兄さんは首を振った。
「いや、この先にピレッドという大きな街がある。夜には着くはずだから、その街に宿泊するよ。リガールのことがなければ、ピレッドではなく、さらに先の街で宿泊しようと思っていたんだけどね」
アルフォンス兄さんが少しがっかりした顔をしたので、俺は不思議に思った。
この旅は急ぐ必要もないから、基本的にゆったりとした行程が組まれている。
リガールで少し手間取りはしたが、お香がなければそこで数週間足止めされる可能性もあった。
それを考えたら、順調なはずなんだけどな。
何だかピレッドに立ち寄るのが、不本意そうだ。
「ピレッドで宿泊することに、何か問題でもあるんですか?」
そう尋ねた俺に、アルフォンス兄さんは困った顔で息を吐く。
「ピレッドを治める領主が、私たちの出発を引き止めるだろうと思ってね。まぁ、この先に山越えがあるから食料の調達は必須だし、結局は一日、二日はピレッドに滞在するんだけど……」
「なぜ、僕たちを引き止めるんですか?」
キョトンと小首を傾げると、アルフォンス兄さんはフッと笑って俺の頭を優しく撫でた。
「領主の対応は私がするから、フィルは気にしなくていいよ。滞在している間、フィルたちは街観光でもしてくるといい」
ごまかされた。でも、アルフォンス兄さんが話さないと決めたなら、もう一回聞いても無駄だろう。
理由が気になるところではあるが、街観光という言葉も魅力的だ。
「街観光してきていいんですか?」
思わず喜んだ俺に、アルフォンス兄さんは穏やかな表情で言う。
「フィルの場合、堅苦しいのは嫌いだろうからどんな格好で出かけてもいいけど、リックたちを護衛としてつけるよ。いいかい?」
リックとエリオットはグレスハート王国から連れてきた、アルフォンス兄さん付きの近衛兵だ。
つまり、護衛付きなら、お忍びで街を観光できるということか。それはとても嬉しい。
俺はコクコクと何度も頷き、カイルやアリスと顔を見合わせて笑う。
コルトフィアに入国して、初めての街だ。ここ一年でいろいろな国の街を観光したが、それぞれに特徴があった。ピレッドはどんな街かな。今から期待に胸が膨らむ。
◇ ◇ ◇
ピレッドの街に入ったのは、日が沈み、街を囲う門が閉まる直前だった。
貴族や王族御用達の宿屋に着くと、俺たちは軽く夕食をとってすぐに就寝した。
明けて次の日、俺とアリスとカイルは早々に朝食をすませた。
ピレッドの街を観光するためである。もちろん、服は平民服だ。
さらに、俺の髪色は珍しく、そのままだと目立ちすぎるので、帽子をかぶることにした。
アルフォンス兄さんから「可愛すぎる!」とのお墨付きをいただいた、キャスケットの帽子だ。
「できることなら、私も一緒に行きたかったよ」
残念そうにこぼすアルフォンス兄さんに、俺は口元を引きつらせて笑う。
アルフォンス兄さんは目を引く容姿だから、一緒にいるときっとお忍びにならないよなぁ。
「アルフォンス兄さまは、今日はどうされるんですか?」
「私たちが街に入ったことを領主が知ったらしくてね。こちらに挨拶に来るというから、それは断って私が領主の館へ出向くことにしたんだ」
行くと決めたわりには、気が進まなそうなのが声のトーンで伝わる。
面倒だけど、宿に来られて居座られるよりマシってことかな。アルフォンス兄さんをこんなに憂鬱にさせる領主ってどんな人なんだ。
そんな気持ちでじっと見つめていると、アルフォンス兄さんは微笑んで俺の頭を撫でた。
「街観光を楽しんでおいで。帰ってきたら私に話して聞かせてくれ」
「はい」
アルフォンス兄さんに見送られて、俺たちは部屋を後にする。
宿を出る際、宿屋の主人にお忍びで出かける旨を伝えると、裏口を教えてくれた。
高貴な人がお忍びで出かけることはよくあるようで、そういった場合は目立たない裏口から出入りをするらしい。
「フィル様、どこに行きましょうか?」
宿屋から出て、カイルが辺りを見回しながら言う。すると、腰に剣を下げて街の剣士風の格好をしたエリオットが、自分の胸に手を当てた。
「どこに行きたいか仰ってくだされば、我々が案内いたしましょう。以前アルフォンス殿下にお供して、ピレッドを訪れたことがあります」
「民芸品のお店に、観光向きの建造物、名物料理も知っていますよ。卵焼きの美味しいお店がありまして……あ、今さっき朝食を召し上がったばかりでしたね」
指折り数えながら説明していたリックは、途端に眉を下げる。その情けない顔に、俺とアリスとカイルは思わず笑ってしまった。
「まずは、民芸品のお店を見よう。お昼になったら、そのおすすめのお店に行けばいいよ」
「リックさん、エリオットさん。案内よろしくお願いします」
「どうぞよろしくお願いします」
アリスやカイルが頭を下げると、リックとエリオットは「かしこまりました」と微笑んだ。
民芸品のお店に向かいながら、昨夜は暗くて見られなかった街の風景を見て回る。
街を囲う石造りの防壁は、厚さがあって高かった。見張り台の役目もあるのか、壁の上には兵士の姿も見える。
この街の規模にしては見張りがあまりいないけど、どこかで待機しているのかな。
「コルトフィアの中央から離れているのに、大きな街だね」
辺りを見回しながらそう呟くと、リックとエリオットが教えてくれる。
「コルトフィアの辺境にある街の中で、ピレッドは最も大きいんですよ」
「旅人や商人の多くはこの街を経由して、コルトフィアの中央や他国に向かいますから、重要な拠点と言ってもいいでしょう」
なるほど。王都から離れていても、交易などに利便性があれば街も栄えるってことか。
やっぱり実際に土地を訪れたほうが勉強になるな。
それからしばらくして、リックのおすすめの民芸品屋に到着した。
店内に入ると、木彫りや毛織物、動物の角で作られた民芸品が置いてある。
今までの国の品と違い、幾何学模様のモチーフが多いようだ。
「うわぁ、すごいな」
「初めて見る柄です」
シンプルなデザインを好むカイルも、細やかな模様の見事さに感嘆している。
「いらっしゃい。坊ちゃんたち旅人かい?」
店主に声をかけられて、俺たちは頷いて挨拶をする。
「ステアの方から来ました。角を使った商品が多いんですね」
俺が角の形をそのまま利用した笛を手にして言うと、店主の目元に笑い皺ができた。
「コルトフィアはグラント大陸の中でも北方だから、ステアよりも雪深い地域が多いんだ。山岳にはヴィノっていう、でっかい山羊を飼育している民族がいてな。ヴィノの角が年に数回生え変わるもんで、外に出られない冬にはヴィノの毛や角で民芸品を作ってるのさ」
「へぇ。ヴィノかぁ」
俺の呟きを聞いて気持ちを察したのか、アリスがクスクスと笑う。
「この旅行で会えたらいいですね」
「ヴィノに興味が出てきたかい? なら、なおさらここで買ったほうがいい。ヴィノの民芸品は他国で人気だから、ピレッドの街に多く卸されるんだ。コルトフィアの中央より品数が多いよ」
営業スマイルで、店主のおじさんは微笑む。
なかなか口が上手い。そう言われちゃうと、購買欲をくすぐられるな。
エリオットたちを振り返ったところ、二人はコクリと頷いた。
「確かに中央よりも品数が豊富ですし、値段も安いですよ」
アリスは「それなら……」と、店内の小物をさらにじっくりと見て回る。
「私、ライラに何か買っていこうかしら」
「ライラは民芸品とか好きだからいいかもね。僕もレイたちにお土産を買おうかな」
休暇明けに、ステア王立学校の同級生であるライラやレイ、トーマ、それからシリルにお土産を渡せば、きっと喜んでくれるだろう。
「この羽根ペン立てはいかがですか?」
カイルに呼ばれて見に行くと、羽ペンを立てる小さな台に、角の一部が使われた品だった。
手軽でかさばらず、使い勝手も良さそうだ。嬉しいことにお値段も手ごろである。
「いいね。じゃあ、皆おそろいで買おうか」
自分たちの分と、レイたちの分を購入する。アリスはそれとは別に、ヴィノの毛で織られたお財布をライラに買うらしい。
それぞれ包んでもらい、お金を払って民芸品店を出る。その頃には小腹が減ってきたので、通りの商店を覗きつつ、卵焼きのお店へと向かうことにした。
リックおすすめのお店は、街の中心の広場に面した場所にあった。大衆食堂といった雰囲気で、多くの地元民や旅人でごった返している。客席の半分がオープンテラスになっており、俺たちはテラスの隅に座ることにした。
「騒がしいところですみません。でも、味は素晴らしいので!」
力強く言うリックに、俺はお客さんを見回しながら頷いた。
「これだけお客さんがいるってことは、人気ってことだよね」
「そうさ! うちの卵焼きは何度でも食べたくなるって評判だよ!」
俺たちの話が聞こえたのか、お店のおかみさんがにっこりと笑って、テーブルの上に卵焼きの皿二枚と薄く切ったバゲットの籠をドンっと置く。その力強さに皿に載った卵がぷるぷると揺れ、籠のバゲットが跳ねた。
「おぉ! 美味しそう!」
特大の卵焼きだ。卵の黄身の色が濃く、オレンジ色をしている。
「たくさんおかわりして、大きくなるんだよ」
おかみさんは俺の背中を叩き、他の客が叫んだ注文に返事をして店の中に入っていった。
エリオットはおかみさんを見送ると、心配そうに囁く。
「フィル様、背中は大丈夫ですか? あのおかみさん、気風がよすぎるところがありまして……」
俺はクスクスと笑って、大丈夫だと頷く。
「ああいう人、好感もてるよね」
肝っ玉母さんのような、元気なおかみさん。これぞ街の食堂だ。
きっと王子の格好をしていたらこの食堂には入れなかっただろうし、入店できたとしても皆に恐縮されてこの雰囲気を味わえなかったと思う。
やっぱり堅苦しい貴族専用のレストランより、こっちのほうが性に合ってるなぁ。
「では、食べましょうか」
エリオットは、ナイフとフォークで卵焼きを切り分ける。
「切るとさらにいい香りがしますね」
アリスの言葉に、俺も匂いを吸い込む。切った断面が、何とも美味しそうだ。
「パンの上に卵焼きを載せて食べるのが美味しいんですよ」
リックはそう言って、見本を示すように卵焼きを載せてバゲットを食べた。
「相変わらず美味しいです。さぁ、どうぞフィル様も」
幸せそうな顔ですすめられて、俺もリックと同様に卵焼きを載せたバゲットを大きな口でパクリと頬張る。
ふわふわの卵焼きは、野菜の出汁が香る優しい味がした。
内陸では魚が手に入らないから、出汁は野菜でとっているんだな。
味付けはシンプルに塩だけ。野菜の出汁の甘みが、バゲットに合っていて美味しい。
「もう一つ卵焼きがありますけど、こちらは同じものですか?」
カイルがまだ切り分けていないほうの卵焼きを指さすと、リックはニヤリと笑った。
「こっちはバターと砂糖を入れた甘い卵焼きだ。これも美味しいぞ!」
そう言って、皿に切り分けてくれる。
こちらは中がほんのちょっと半熟だった。とろりと溶ける卵をこぼさないように、口に運ぶ。
甘い卵焼きは食感がさらにふわふわで、食べるごとにバターの香りが鼻に抜けていった。
柔らかい食感の甘いふわとろオムレツ。バターが入っているからか、デザートのようだ。
「甘くて美味しい! それに……いつも食べているバターと違う?」
俺が小首を傾げると、カイルもそれに同意した。
「違いますね。バターがさっぱりとして、くどくないです」
「濃厚な卵の味を邪魔していないわ」
アリスもそう評価すると、リックとエリオットが感心する。
「さすがフィル様方ですね。味覚が素晴らしい」
「これは先ほど民芸品店で話に出たヴィノのバターです」
「え! 山羊のバター? それにしては全然クセがないね。そういう種類の山羊なの?」
俺が驚くと、リックは得意げな顔で説明をする。
「ヴィノだから、というわけではありません。コルトフィアの高山で暮らすヴィノだけが、この味を作り出すのです」
カイルが顎に手を当てて、興味深げに卵を見つめる。
「つまり、そこで食べている牧草、もしくは環境が、このくせのないバターを作り出しているわけですね」
「へぇ。ますますヴィノに会ってみたいな」
俺が甘い卵焼きを口に運びながら言うと、エリオットがニコッと口角を上げる。
「ピレッドの街に民芸品を卸しに来ることがありますから、運が良ければ見ることができるかもしれませんよ」
俺は相槌を打って、会えたらいいなと広場に視線を向ける。
その時、隣の席に三人の少女が座った。年齢は十六、十七くらい。格好や雰囲気から、この街の住人だとわかる。
注文を終えた彼女たちの話題は、宿屋の前で垣間見たらしいアルフォンス兄さんのことだった。
「麗しかったわね。グレスハートのアルフォンス皇太子殿下」
「本当ね。今夜は素敵な夢が見られそう」
「あら! 夢でお会いしようなんて大胆ね。でも、いいわよねぇ。夢の中なら、身分も関係なくロマンスを想像できるもの」
口元に手を当てて、クスクスと笑い合う。
アルフォンス兄さんは、どこに行ってもお嬢さん方に人気だ。
彼女たちは声が大きめなので自然と耳に入ってしまうのだが、兄の話題はちょっと気まずいな。ご飯を食べたら早々に移動しよう。
俺が卵を載せたバゲットを齧ったその時、少女の一人が「ねぇ、そう言えば」と友人に話しかけた。
「アルフォンス殿下のご婚姻の噂、本当かしら?」
「ルーゼリア王女様と破談寸前ってこと?」
何っ? 破談寸前っ!?
「んぐっ!」
「大丈夫ですか?」
ビックリして喉にバゲットを詰まらせかけた俺は、カイルが差し出すコップの水で流し込んだ。
ど、どういうことだ。アルフォンス兄さんからは、コルトフィア王国のルーゼリア王女との関係は良好だと聞いている。
だからこそ、今回の旅行になったんだもんな。
婚姻に至らないのは、コルトフィアの準備が整っていないからだって聞いたんだけど……。
破談? だって、申し入れはコルトフィアからだったんだよな?
幸いにも少女たちは頭を抱える俺に気づかず、そのまま会話を続けている。
「ご婚約してから随分経っていらっしゃるものねぇ。だけど、あなた何で突然そんなこと聞くの?」
「そうよね。雲の上の方が婚約しようが、破談しようが私たちには縁がないのに」
少女二人が笑うと、話題に出した少女は首を振った。
「私じゃないわ。領主様のご息女のキャサリン様にとっては重要ってことよ。私の友達が領主様のお屋敷に勤めてるんだけど、アルフォンス殿下が以前ご滞在された時、キャサリン様が一目惚れなさったそうなの」
そう言うと、聞いていた二人は相槌を打つ。
「あぁ、そう言えば。前回いらした時、歓迎パーティーをして滞在を随分引き延ばそうとしてたって噂で聞いたわ」
「なるほどね。それじゃあ、破談なんて聞いたら、ますますキャサリン様がはりきっちゃいそうね。ご正室は身分的に無理でも、側室くらいにはなれるかもしれないものねぇ」
そんな話でひとしきり盛り上がった彼女たちは、運ばれてきた卵焼きに歓声を上げた。
楽しげに食事を始める少女をチラリと見た後、俺は呆然としたままリックたちに目を向ける。
リックは慌てながらも小声で説明を始めた。
「大丈夫です! 破談寸前じゃないですよ!」
「本当に?」
俺が念を押すと、エリオットがしっかりと頷いた。
「誓って本当です。コルトフィアの森の治安情勢が落ち着かないから、準備が整わないだけなんです」
コルトフィアで、森の治安情勢? それはまさか……。
俺とカイルは、お互いに顔を見合わせた。
「それって、もしかして森の奥に出るっていう魔獣のこと?」
俺が聞くと、エリオットは意外そうな顔をした。
「よく御存じですね。ステアにも情報が入っているんですか?」
「前に知り合った女騎士の人がコルトフィア出身で、成人の儀式をやる森にボルケノの魔獣が出たみたいなことを言っていたから……」
俺の説明に、エリオットは「なるほど」と頷く。
「その儀式をする森というのが、ちょうどこの山を越えた向こうにあるのですが、まだ退治できていないそうなんです」
「あ、ご心配なく。今回の旅行では、我々はその森の近くを通らず、迂回しながら進もうと考えておりますから。そもそも森には入れないように結界が張ってありますしね」
リックは安心させるためか明るく言うが、アリスの表情は晴れないままだ。
「結界があっても、近くに住んでいるコルトフィアの人は不安でしょうね」
確かに。俺の召喚獣のコクヨウなんか、以前ドルガドの温泉に行った時に、クリティア聖教会の作った結界を破ったことがあったもんなぁ。伝承の獣ディアロスであるコクヨウを基準にしたらいけないのはわかっているけど、正直ちょっと強度が心配だ。
「クリティア聖教会に依頼しているって聞いていたから、てっきりもう退治されたのかと思ってた」
気持ちが沈む俺に、カイルも厳しい顔で頷く。
「そうですね。その一件を知ってから半年くらいは経っていますし、コルトフィアで魔獣による大きな被害が出たとの話も聞いていなかったので、解決したと思っていました」
エリオットは硬い口調で、俺たちに状況を話す。
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