転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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14巻

14-3

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【く……くくく】
【ふふ…………ふふふ】
【ぐふ……ふふふ】

 こらえるようなミネルオーたちの笑い声に合わせて、貝が小刻みに揺れている。

【どうしたんだ?】
【なんや……なんで笑ってるん?】

 ランドウは首を傾げ、ナッシュが不気味そうに貝を見つめる。
 そして、アリスたちも揺れる貝に気がついたようだ。

「なんだか貝が揺れてない?」
「本当だ。カタカタ揺れてる」
「騒ぐからミネルオーたちを怒らせちゃったのかな?」

 揺れる貝を見て不安になったのか、皆が小声で俺に尋ねる。

「えっと……多分、怒っているわけじゃないと思うよ」

 だって、笑ってるもんな。
 それに、どちらかといえば怒っているというより、喜んでいるような笑い声だ。
 その理由はわからないけど。
 すると、コクヨウはミネルオーたちをチラッと見て、フンと鼻を鳴らした。

【大方、すごいすごいと言われて、浮かれているのだろうよ】

 ……浮かれて?

「あぁ、あの三匹なら、可能性はありますね」

 カイルの囁きに、俺も「なるほど、あり得る」と頷く。
 その推測は当たっていたようで、貝の中からちょっと得意げな声が聞こえてきた。

【ふはは! やはり俺たちミネルオーのすごさは、貝の中にいても隠しきれないようだな!】
【この程度の動きで驚くとは!】
【もっと速く動けるし、もっと高く跳べるんだぞ!】

 ミネルオーたちはそう言って、来た道を滑って再び湖の中に飛び込むと、ショーのように水しぶきを上げながら水面から出てくる。

【どうだすごいだろう!】
【こんなこともできるんだぞ!】

 空中で一回転をする貝たちに、レイたちは戸惑いつつ「おぉぉ」と声を上げて拍手をする。

【すごい! ミネルオーすごいな!】

 ランドウが感動する一方、ナッシュは困惑気味だ。

【すごい、……すごいんやけど。……なんなん? コレ。どんな状況なん?】

 ナッシュ、俺も同じ気持ちである。
 ミネルオーたちは湖の中から飛び出したり、小さなアイスリンクの上で、軽やかに回転ジャンプしたりする。
 その光景はさながら『水と氷のミネルオーショー』だ。

「うおぉ! すげー!!」
「わぁ! また跳んだ!」

 レイたちは初めこそ突然のショー開催に戸惑っていたようだったが、今はすっかりその演技に夢中になっていた。
 大技が繰り出されるたびに、大喜びで拍手している。

【俺たちの実力はこんなものじゃないぞ!】
【こんなこともできるんだ!】
【どうだすごいだろー!】

 得意げに技を繰り出すミネルオーたちに、カイルはため息を吐く。

「すっかり調子に乗っていますね。いつになったら話し合いができるんだか……」

 すっかり呆れているカイルに、俺はぎこちなく笑う。

「満足したら戻ってきてくれると思うよ」
【全然戻ってきそうにないけどなぁ。皆、ますます盛り上がってるやん】

 ナッシュはそう言って、ミネルオーたちを前足で指し示す。
 確かに、レイやサイードたちは夢中になっていつの間にか湖の岸近くに移動しているし、そんな彼らの歓声が大きくなればなるほどミネルオーのテンションは上がっていく。

「どんどん技が派手になってきてるなぁ」

 勢いをつけて、くるくると三回転してるよ。

【まったく、お調子者どもめ】

 コクヨウは一つ息を吐いて、立ち上がる。

【仕方ない。我が止めてくるか】

 やれやれと歩き出すコクヨウに、ランドウは慌てる。

【ま、待てよ! どうやって止める気だ? まさか……】

 コクヨウは顔だけランドウを振り返り、簡潔に答えた。

【踏む】

 なんとなく予想はついていたけど、やっぱり踏むのか。

「止めてくれるのは助かるけど、その止め方しかないの?」
【そうだぞ! 俺やミネルオーを踏むのは、コクヨウくらいだぞ! 神様なのに!】

 ランドウは足を鳴らして、不満を訴える。

【我は神など信じておらぬし、お前たちを神にえた人間でもない。踏まれたくなくば、騒がぬことだ】

 フンと鼻を鳴らすコクヨウに、ランドウは言い返すことができず【くぅ!】と唸る。
 きばや爪を使わないだけ、まだ優しい選択なのかもしれないが、踏まれるほうは嫌だよねぇ。
 俺たちがそんな会話をしていると、突然レイたちが「あぁ!」という大きな声を出した。
 何事かと彼らの視線の先に目を向けると、貝が三つ、宙に浮かんでいる。
 それは回転ジャンプの飛距離より遥かに高い位置にあった。

「え?」

 ……ミネルオーって空も飛ぶの?
 一瞬そんなことを思ったが、その下の氷を見てそれは違うと気がついた。
 どうやら何回も水から飛び出したりしていたから、その影響で湖に波ができ、ミネルオーたちの滑っていた氷がひっくり返ってしまったみたいだ。
 ミネルオーたちはジャンプ台と化した氷から飛び出し、弧を描いて岸辺の草むらにボスッと落ちる。

「わー! ミネルオーが落ちた!」
「た、大変だ!」

 レイたちが叫び、俺とカイルはすぐさま落下地点へと向かう。
 あのあたりは砂地だから、多少衝撃は吸収されると思うけど、結構高く上がっていたから心配だ。
 落下地点には、岸から少し離れて見ていた俺とカイルが先に到着した。
 見つかった三つの貝は、横やななめの状態で半分砂に埋まっていた。
 貝の中から、ミネルオーたちの焦った声が聞こえる。

【わぁぁん、横になったまま動かないぃ! これじゃ移動もできないし、蓋が開かないよ。どうしよう!】
【うわー! 俺のも蓋が開かないぞ】
【大変だ! こっちも開かないよ!】

 ミネルオーたちは、わぁわぁと騒ぎながら貝の中からトントンと叩いている。
 その様子に、カイルはげんなりとため息を吐いた。

「何かこれと似た状況、前もありましたよね」

 この三匹のミネルオーとの初対面の時のことを言っているんだろう。

【……心配したけど、元気そうやん】

 ナッシュが言い、周りから貝を調べていた俺は頷く。

「貝も壊れてないみたいだね」

 回転ジャンプの着地に耐えるくらいだから丈夫だとは思っていたけど、古代貝ってずいぶん衝撃に強いんだな。
 まぁ、それくらい丈夫じゃないと、何百年もそのままの形を保てないか。

【無事なようで良かったぁ】

 ランドウはホッと安堵の声を漏らす。

【あ! フィルとランドウの声が聞こえる!】
【おーい! 出してくれぇ!】
【お願いぃ! 出してぇ!】
「怪我はしてない? ちょっと待って、今出してあげるから」

 地面に刺さってるから、まずは砂を掘らないと……。
 俺とカイルは近くの木の棒を使って、貝の周りの砂を削る。
 その時、少し遅れてアリスたちが走ってやって来た。

「ミネルオーは無事なの?」
「今のやつって、技の一部とかじゃないよな?」

 尋ねるサイードに、俺は苦笑する。

「ちょっと調子に乗りすぎたみたいです。中からミネルオーの元気そうな鳴き声は聞こえるんですが、地面に刺さって動けないみたいで……」
「それで地面を掘っているわけか」
「じゃあ、早く出してあげないと!」

 トーマたちも近くから木の棒を持ってきて、一緒に砂を掘り始める。
 一生懸命掘っているが、しっかりはまっているので出すのも一苦労だ。
 その間にも、ミネルオーたちは【はっやく~はやくぅ~】と貝の中からトントン叩いてかしてくる。
 助けてもらえることがわかって余裕が出てきたのか、叩く音がリズミカルだ。

「この音を聞いていたら、もう一回埋めたくなってきた」

 真顔で呟くカイルに、サイードやライラが頷く。

「カイル君の気持ちわかる」
「なんか、必死になって頑張っている私たちを、太鼓たいこを叩きながら見物しているような響きがあるわよね……」

 言葉がわからないながら、貝を叩く響きでそこまでわかったらしい。

「あ、あと少しだけ頑張りましょう。ライラ」
「そうそう、あと少しだから。ね、カイル!」

 アリスと俺は笑顔で、カイルたちに協力をうながす。
 そんな俺たちをチラッと見て、コクヨウがミネルオーたちに向かって言った。

【助けてもらいたいなら、少しは大人しくしろ。お調子者どもが】

 呆れ口調のコクヨウの声に、中のミネルオーたちは叩くのをピタッとやめた。

【黒い伝承の獣の声……】
【く! お調子者って言われた】
【身動き取れない状態だから、なんにも言い返せないぃぃ】

 この三匹のミネルオー、初対面の時こそコクヨウに食ってかかっていたんだけど、コクヨウが最強の伝承の獣とわかって以降、抑えているみたいなんだよね。

【ここが開きさえすれば、こんなこと言われないのに……。はっ! もしかして蓋が開かないのって、また踏まれているからじゃないのか?】

 声を落として、仲間二匹にヒソヒソと話しかける。

【そうかも! だって、ランドウが言ってたもん。性格が歪んでるから、俺たちみたいな愛らしい動物を踏むのが趣味なんだって】
【うわぁ、嫌な趣味だなぁ】

 小声で言っても、コクヨウが近くにいるから聞こえるのに……。
 相手の神経をさかなでするようなことを、ペロッと言っちゃうところはそのままだ。
 俺とカイルは呆れながら会話を聞いていたが、陰口をばらされたランドウは大いに慌てた。
 貝とコクヨウを交互に見ながら、貝に向かって呼びかける。

【あ、ちょ、聞こえてる! 話し声、外に聞こえてる!】

 一瞬にしてミネルオーたちに沈黙が落ち、おそるおそる外に向かって尋ねる。

【き……聞こえてた?】
【内緒話……全部?】
【もしかして……黒い伝承の獣にも?】

 コクヨウは貝の前に立つと、目を細めて貝をにらむ。

【ああ、わざとかと思うくらいにしっかりとな。あらぬ疑いをかけた上に、悪口とは……。一生そこから出たくないと見える】

 姿は見えなくとも、その声色に不穏な空気を感じたらしい。

【うそうそ!】
【これっぽっちも思ってないよ!】
【お願いだから出してください!】

 ミネルオーたちはコクヨウに向かって、半泣きで訴える。

【調子のいい奴らめ】

 コクヨウはフンと鼻を鳴らすと、砂を掘っていた俺たちに向かって「ガウ」と鳴いた。

【少し下がれ】
「へ?」

 俺たちが反射的に手を引っ込めると、コクヨウは斜めになっていた三つの貝を順番に後ろ足で蹴り上げた。

「えぇ!? コクヨウ何を……」

 驚く俺たちの前で、大きな貝はゴロリと地面に転がり、正しい形に戻る。
 しかも、転がった勢いで蓋がパカッと開いて、中のミネルオーたちが姿を現した。
 転がったせいなのか、でんぐり返しの途中みたいな体勢だ。
 古代の神様の威厳いげんも何もない。

【望み通りに出してやったぞ】

 見下ろすコクヨウに、ミネルオーたちはそのままの体勢で【うぬぅ】と唸る。
 出してもらえたことには感謝しているが、方法には不満があるのだろう。
 それでも、コクヨウの圧に負けて、ミネルオーたちはでんぐり返し姿のまま、モゴモゴ【ありがとうございました……】とお礼を言う。
 一方トーマたちは、姿を現したミネルオーに興味津々だ。

「うわぁぁ! すごい! これがミネルオーなんだぁ! 感動だよぉ!」

 トーマが叫び、サイードがゴクリと息を呑む。

「これが古代神のミネルオー……」
「聞いてたけど、本当に白くて丸いな……。お饅頭まんじゅうじゃん」

 まじまじと見ながら、レイが呟く。

【おまんじゅうってなんだ! 悪口か!】

 ミネルオーは馬鹿にされたと感じたのか、でんぐり返しの体勢から元に戻って威嚇いかくの声を上げた。

「うわっ! 威嚇された!」

 ひるむレイを、ライラは呆れたように睨む。

「何、怒らせてんのよ。丸まっていたんだから、丸く見えるのは当たり前でしょ」

 そう言って、ミネルオーたちに向かって微笑む。

「白くてふわふわで可愛いじゃない」
「本当ね。とても可愛いわ」

 アリスが頷き、イルフォードもミネルオーたちを見つめて顔をほころばせる。

「……よろしく」

 それを聞いたミネルオーたちは、機嫌が直ったのか元気よく鳴く。

【おう! よろしくしてやるぞ!】
【アイツは抜かしてな!】

 ミネルオーに前足で指されて、レイが不安げな顔をする。

「なんか指された……」

 調子を取り戻したミネルオーたちに俺が苦笑していると、ふと後ろから声が聞こえた。

【何がよろしくしてやるだ。たわけ者が】

 威厳のあるこの声は……。
 俺やカイルが振り返ると、ミネルオーの婆様ばばさまがいた。ミネルオーの長老である。
 その隣には、もう一匹ミネルオーがついていた。遺跡で見張り役をしていた子だ。

【ば、婆様……】
【なんでここに……】

 三匹のミネルオーたちは、婆様の登場に驚き、あわあわとしている。
 あれ? 驚いているってことは、婆様はここに来る予定ではなかったのかな?
 まぁ、確かに予定ではお孫様三匹だけって聞いていたもんな。
 俺がそんなことを考えていると、そばにいたサイードが少し焦った様子で俺に言う。

「フィ、フィル君、ミネルオーが二匹も増えたぞ」

 俺やカイルは遺跡の中でたくさんのミネルオーに囲まれた経験があるが、サイードたちにしてみたら希少種のミネルオーだもんね。
 普通は二匹増えただけでも驚くか。
 俺はサイードたちに向かって、婆様たちを紹介する。

「紹介します。こちらはミネルオーの長老である婆様です」
「ミネルオーの長老!?」

 サイードが驚愕きょうがくし、トーマは目をキラキラさせる。

「うわぁ! フィルが前に話してくれた婆様? ミネルオーの長老様にも会えるなんて光栄だよ!」
「どうりで威厳があるわ」

 ライラは息を吐いて感心する。
 婆様は長命種族であるミネルオーの中でも、二百五十歳を超えるご長寿だもんね。
 ミネルオーやダンデラオーの歴史を知る字引じびきである。

「そして、婆様の隣にいるのが、神殿で僕ら探索隊が初めて出会った子」
「神殿の見張りをしていたって子ね?」

 確認するアリスに、俺は笑顔で頷く。
 見張りをしている最中、居眠りをしていたうっかりさんだ。
 俺はひそかに、見張り役の『ミハルくん』というあだ名をつけている。
 アリスは少し体を屈め、婆様たちに向かって微笑んだ。

「はじめまして。私たちはフィルとカイルの友人です。よろしくお願いします」

 その様子を見て、ライラたちも慌てて「こんにちは」と挨拶あいさつをする。

【これはどうもご丁寧ていねいに。はじめまして】
【あ、えっと、こんにちは】

 婆様は「キュイ」と短く鳴き、ミハルくんがもじもじと気恥ずかしそうに挨拶を返す。

【婆様、外までよく来たな! 会えて嬉しいぞ!】

 元気よく飛び跳ねて歓迎するランドウに、婆様は目を細めて嬉しそうに頷く。

【ああ、私もまた会えて嬉しいよ。ただ……あの子たちは私がここに来て、嬉しくないみたいだけどね】

 穏やかな声から一転、突然低い声になった婆様は三匹へ視線を向ける。
 鋭い視線を受け、三匹はお互いの体を寄せ合いながら言う。

【う、嬉しくないわけじゃないぞ】
【そうそう。びっくりしただけだよ。婆様たち、来るなんて言ってなかっただろ】
【僕たちに任せてくれるんじゃなかったの?】

 ビクビクしながら言う三匹に、婆様は大きなため息を吐いた。

【初めはお前たちだけに任せようと思っていたんだがねぇ】
【皆が何も持たずに、さっさと出かけちゃったから僕らが来たんだろ】

 ミハルくんの言葉に、三匹は同時にハッと息を呑む。

【そういえば、そうだった……】
【急いで来たから、忘れちゃってた】

 どうやらこちらに何かを持ってくるはずだったのに、忘れてきちゃったみたい。

【お前たちだけで行かせた責任は私にある。それで、私自ら来たんだよ】
【婆様に運ばせるわけにはいかなかったから、僕は荷物持ちでね】

 ポンと前足で胸のあたりを叩くミハルくんに、婆様は頷く。

【一匹では大変だったろうに、よく頑張ってくれた。それなのにお前たちときたら、私らが到着しているのにも気づかず、ずいぶんと楽しそうにクルクル回っていたね。しかも、調子に乗ったあげく、地面に埋まって皆様のお手をわずらわせるとは……】

 呆れた様子の婆様に、さらに体を寄せ合った三匹はもごもごと話す。

【ぜ……全部見てたの?】
【いつからいたの、婆様】
【ちょっとやりすぎたなって、俺たちだって思ってるんだよ】

 うつむく三匹に、婆様はさとすように言う。

【それなら、いい。だったら、ちゃんと謝れるね?】

 三匹はしょんぼりしつつ貝から出てくると、俺たちに向かって「キュイィ……」と鳴いた。

【調子に乗ってごめんなさい】
【助けてくれてありがとう】
【反省してます】

 先ほど貝を叩いて俺たちを急かしていたとは思えない、殊勝しゅしょうな態度だ。
 しょんぼりしたミネルオーたちの様子にイルフォードは小首を傾げ、俺に向かって尋ねる。

「なんか……この子たち落ち込んでる?」
「助けた僕たちへの感謝と、反省の気持ちからの態度だと思います。あ、えっと、多分ですけど……」

 俺が言うと、ミネルオーたちはコクコクと頷く。
 その仕草にライラとアリスは微笑む。

「へぇ、そうなの?」
「ちゃんと反省できるのは偉いわ」

 褒められて三匹は照れくさそうに頭を掻く。
 そんな孫たちの様子に息を吐き、婆様は俺たちを見上げる。

【うちの孫たちがお騒がせしてしまい、大変申し訳ありませんでした】

 婆様の謝罪に、コクヨウはフンと鼻を鳴らす。

【まったくだな】

 婆様が謝っているのになんて言い方を……。

「僕らももう少し早く止めていれば良かったです」

 婆様に小声でそう言うと、婆様は優しい目で言う。

【止めようとしても、調子に乗った孫たちは止まらなかったでしょう。もうこんなことはしないでしょうが、また今度同じことをしたら、そのまま放っておいてください】

 優しい口調で言われて、俺はゴクリと喉を鳴らす。
 埋まったら、そのままに?
 ……婆様ジョークか? それとも本気だったりして。
 それを聞いた三匹は【婆様ひどい】とぶつぶつ文句を言っていたが、婆様に睨まれてキュッと口を閉じた。

【あの賑やか三匹をひと睨みで黙らせるやなんて、さすがお婆様やわ】
【婆様の前でイタズラはやめよう】

 ナッシュやランドウがヒソヒソと話している。
 前じゃなくても、イタズラはしないでもらいたい。

【さて、皆で持ってきたものを引き上げておいで】

 婆様がミネルオーたちを見回してそう言うと、三匹は【はぁい!】と大きな返事をして自分の貝に乗り込んだ。

【もぉ! 皆、置いてある場所わからないくせにぃ】

 ミハルくんはわたわたと、三匹から少し遅れて自分の貝へと入る。

「また貝に入った……」
「どこかに移動するんですかね?」

 サイードが目をパチクリとさせ、トーマはワクワクとミネルオーたちを見守る。

「でも、移動っていっても、ここ砂地だぞ。氷もないし、滑りのいい草もないのに、どうやって動くんだ?」

 貝の口を覗き込んだレイに、俺は慌てた。

「あ、レイ! 今覗き込んじゃ――」

 止める前に、貝の口から勢いよく空気が噴き出した。
 砂を巻き上げながら、貝がぴょんと跳び上がる。

「うぉぉ!! ミネルオーの噴射で砂が顔にぃ!」

 覗き込んでいたレイは、顔に砂を浴びて大騒ぎだ。

「ミネルオーは氷のないところでは、ああやってジャンプしながら移動するんだよ」

 俺の説明に、顔を砂だらけにして目が開けられないレイは情けない声で言う。

「早く言ってくれよぉ」

 そんな暇なかったのだからしょうがない。

「動かないで、砂を落としてあげるから」
「目には入ってない?」

 俺やアリスがハンカチで優しく、砂を払い落としながら聞く。

「痛くはないけど、砂が怖くて目が開けられない!」

 砂がかかった時、とっさに目を閉じたのは幸いだ。
 ちょっと安心した。目に入ったら、炎症が起こるかもしれないもんな。

「まったく、痛くないなら騒ぐな。俺がフィル様に代わって、砂を払ってやるから」
「なら、私もアリスと代わるわ」

 俺たちに代わって前に立ったカイルとライラの気配に、レイは目をつむりながら後退りする。

「え、カイルとライラはちょっと……へぷっ!」
「口を開くと、口にも砂が入るわよ」
「へぷっ、へぷっ、へぷっ」

 二人はハンカチでレイの顔を叩いて、砂を叩き落とす。

「交互に繰り出す的確な砂払い。見事な連携だ……」

 見ていたサイードが、妙に感心している。
 確かに見事だけど……。
 俺としては、レイの口から出る小動物みたいな擬音が気になるんだが……。


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