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4巻
4-1
1
大学生の俺、一ノ瀬陽翔は、異世界にあるグレスハート王国という小さな国の第三王子フィル・グレスハートとして転生した。
束縛だらけだった前世から、気楽な末っ子王子になった俺。
国にいては目立つので、平穏を求め、鉱石屋の息子フィル・テイラとして、国外の学校に留学することにした。
従者のカイルと幼馴染のアリス、レイやトーマやライラという学友とともに、のんびりスクールライフを楽しむんだ!!
っと思ったのだが……。
一年生ながらに中等部男子寮のお風呂監督に任命され、召喚学では一人だけ光り輝くエナ草を作り出し、いつの間にか俺の見守り隊やファンクラブができていた。
何で目立っちゃうんだ? 確かに精霊を召喚獣にしていることが、一年・三年の一部男子にバレはした。エナ草騒動後に、妖精や動物と会話できることをレイとトーマとライラには話したけどさ。
でも、伝承の獣ディアロスを召喚獣にしていることも、俺の発動する鉱石の威力が強いことも、カイルとアリス以外は誰にも知られていないのにっっ!!
そんな騒ぎや周囲の状況に疲れ、今日は連休の一日を使って、友人や召喚獣たちと一緒にピクニックに来ていた。
ステア王国北にある湖で、のんびり楽しいもふもふピクニック! 癒されるっ!
あぁ、こういう時間が、ずっと続けばいいのになぁ。
俺は湖を眺めながら、しみじみと平凡な幸せを噛みしめていた。
湖の畔で俺たちは持ち寄ったお弁当を広げ、昼食を楽しんでいた。
もふもふピクニックのお弁当、最後のデザートはグレスハート名産のプリンだ。
一口食べると、口の中でカスタードの甘味とカラメルの苦味が絶妙に広がる。
うん、安定の美味しさだな。
傍らではコクヨウがプリンの器に鼻先を突っ込んで、がふがふと音を立てながら食べていた。顔を上げると、口元がプリンだらけだ。
まがりなりにも伝承の獣なんだから、もう少し上品に食べられないものかな。
コクヨウに呆れつつ、レイたちに目をやる。皆は幸せな顔で、プリンを堪能していた。
「美味~い! このプリンは国宝級に美味いな」
レイがコクヨウに負けない勢いでプリンを口に運び、ライラはとろけた顔をしていた。
「もう幸せぇ。夢にまで見たグレスハートの王子プリン! ずっと食べたかったの」
「そうなの?」
驚いて俺が聞くと、ライラは大きく頷いた。それから、少し悔しそうな表情に変わる。
「うちの店の行商人が、グレスハートに行くたびに王子プリンを食べてきたって自慢するのよ。だけどあれ、日持ちしないでしょ? いつかグレスハートに行って食べようと思ってたんだけど、まさかステアで食べられるとは思わなかったわ」
ライラの家は、世界をまたにかける大きな商家トリスタン家で、色々な商品を取引している。しかし、さすがにプリンは無理なのだろう。
乳製品であるプリンは冷蔵必須。氷を使って保冷したとしても、大陸移動みたいな長距離を運ぶのは、なかなか難しい。
俺は袋鼠のテンガの能力で空間を移動させて持ってこられるが、そういった召喚獣を従えている者は殆どいない。
「懐かしいわ。グレスハートではよく食べていたけど。他の国ではこういうのないものね」
アリスが一口食べて、にっこりと微笑んだ。
ライラは腕組みして、唸る。
「これもグレスハート王国の王子様が考案したのよね? 石鹸や干物、ドライフルーツにジャム……王子様の開発した商品はどれも品質最高で、売れ筋商品ばかりなのよ。日干し王子ってどんな方なの? 気になるわ。フィル君、会ったことない?」
身を乗り出して聞くライラに、俺はぎこちなく笑った。
「会ったことは……ないかなぁ」
だって、俺だもんな。嘘は言っていない。まぁ、鏡で自分の姿を見たことはあるけどね。
だが、そんなことを言ったら、俺が王子だとばれてしまう。
「日干し王子に会ってみたいなぁ」
ライラは深いため息を吐いて、恨めしげにプリンを見つめる。そんな彼女を、俺は物悲しい気持ちで見ていた。
ライラの中じゃ、すっかり日干し王子で定着なんだね……。
俺の手がけた初期の名産が、干物や干し芋、ドライフルーツだったりしたせいか、知らないうちに俺には『日干し王子』という愛称が付けられていた。
気づいた時にはすでに広まっており、日干し王子はすっかりブランド化している。
せめてもうちょっと、カッコイイ愛称だったら良かったのに……。
「その王子様、フィルみたいに料理が上手なんだろうね」
トーマが無邪気に微笑むので、俺はギクリとした。
時々、鋭いんだよな、トーマ。他意があるわけではないんだろうけど、ヒヤリとする。
「グレスハートの男性って、料理好きが多いのね」
感心するライラに、アリスは微笑む。
「王子様が料理好きだから、国民の男性も料理する人が増えているのよ」
そう。近年うちの国では、男子ごはんが流行っている。今まで料理なんかしたことないという人も、やってみたら楽しいとハマっているのだ。
「アリスちゃん本当に? 料理ができる男、そんないるの?」
料理のできないレイは、驚いて目を見開く。
アリスの代わりに答えたのは、何故か少し自慢げなカイルだった。
「本当だ。王子様の国民に与える影響力はすごいんだ」
ライラとトーマが「へぇ」と感嘆の声を漏らす。
カイルって、俺のことになると少し熱が入るよね。
俺としてはボロが出る前に、早く話題を変えたいところなのだが……。
とはいえ、無理に話を逸らしたり、下手なことを言ったりして怪しまれたら困る。
俺が口を噤んで状況を見守っていると、突然コクヨウが頭を上げた。
湖の対岸を見つめ、何かの気配を探っている。
「どうかした?」
ハンカチで口元のプリンを拭ってやりながら聞くと、コクヨウは目を光らせて笑った。
【血の匂いがする】
「え?」
驚いてコクヨウの視線の先を見るが、俺にはよくわからなかった。
気づいたことといえば、静かに揺れる湖面と、風に揺らされた木々のざわめきだけ。
しかし、コクヨウは対岸に顔を向けたまま、瞳を動かし何かを探っている。
その瞳がどこか楽しげなのは、気のせいだろうか。
【様子を見てくるか?】
「いえ、俺が見てきます。コクヨウさんは、フィル様の側についていてください」
俺たちのやり取りを聞いていたのか、コクヨウが動く前にカイルが立ち上がった。
コクヨウは、そんなカイルにチラリと視線を向ける。
【位置はわかるか?】
「細い木とともに、何かが倒れる音がしましたので、あの辺りかと」
指し示した方向を見たコクヨウは、特に訂正しなかった。
カイルはそんなコクヨウの様子に確信を得て、ペコリと俺に頭を下げる。
「では行ってきます」
「あ、カイル待って! ヒスイ」
俺は木の上で休んでいた精霊のヒスイを見上げ、声をかける。
ヒスイはふわりと飛んで、目の前に降り立った。
【何でしょう?】
「カイルと一緒に、対岸の様子を見に行ってもらってもいい? 何かあったみたいなんだ」
【はい。かしこまりました】
「二人とも気をつけてね」
ヒスイとカイルは頷いて、すぐさま対岸へと向かう。
何事もなければいいんだけど……。コクヨウの言う『血の匂い』が気になる。
かすかな不安を感じ、カイルたちの後ろ姿を見つめて小さな息を吐く。
隣にいたアリスが、俺の袖を軽く引っ張った。
「フィル、何かあったの?」
気づけば、皆も不安そうにこちらを見ている。俺は安心させるため、皆に優しく微笑んだ。
「まだわからないんだ。今、カイルたちに様子を見に行ってもらってる。大丈夫だとは思うけど、カイルが戻るまでにここを片付けようか? もう食べ終わったよね?」
今、ここにいるのは子供ばかりなのだ。万が一を考えれば、即座に逃げられる態勢でいたい。
皆がそれぞれ頷いて、広げた荷物を片付け始める。
俺も一緒にプリンの器をしまっていると、コクヨウがまだ食べていない自分のプリンを抱え込んだ。
【我のプリンに手出しはさせん】
この状況で、まだ食べる気かいっ!
「何かあるかもしれないって言ったのは、コクヨウじゃないか。片付けさせてよ」
呆れた口調で言うと、コクヨウはフンと鼻で笑った。
【何があろうと、我にとって脅威になり得るものはない】
そう言って、プリンの器に顔を突っ込む。
もう、仕方ないなぁ。
俺は説得を諦めて、毛玉猫のホタル、氷亀のザクロ、光鶏のコハク、そしてテンガに声をかける。
「ホタルとザクロとコハクとテンガは、いったん控えておいて。何か頼みたいことがあったら、また召喚するから」
【はいです!】
【がってんでぃ!】
【りょーかいっ!】
【わかったっす!】
ホタルとザクロは元気に返事をして、コハクは敬礼、テンガは手を挙げる。
俺は「よしよし」と三匹と一羽の頭を順番に撫でた。
「ホタル、ザクロ、コハク、テンガ、我が身に控えよ」
空間が歪んで、ホタルたちが姿を消す。
それを見て、レイとトーマも自分たちの召喚獣を控えさせた。
荷物をあらかたまとめ、あとは敷布をたたむだけとなった頃、カイルとヒスイが戻ってきた。
カイルたちの無事な姿にホッとしたが、全く問題ないというわけではなさそうだ。
ヒスイの蔦によって、一人の人間が運ばれてきている。
優しく包み込まれているから、捕縛したわけではなさそうけど……。
その人物を敷布に寝かせると、蔦はシュルリとほどけて地面に消えた。
「大丈夫ですか? 意識はありますか?」
俺は優しく肩を叩いて、その人に声をかける。意識はあるみたいだが、反応は薄かった。
モスグリーンのフード付きロングコートを着た、十代後半から二十代とみられる男性だ。ブラウンの前髪から覗く顔は色白で、少年のあどけなさを残していた。
俺は持ってきた水筒を傾け、彼の口に少しずつ水を含ませる。
「ありが……と……う」
弱々しくお礼を言う彼は、とても憔悴していた。
これは、まともに話を聞ける状態じゃないな。
「カイル、ヒスイ、状況わかる?」
俺の質問に、カイルは首を振った。
「俺にも詳細はわかりません」
【私たちが着くと、すでにこの人が倒れていて。負傷していたようなので連れてきたのですわ】
カイルたちの言葉に唸り、俺は横たわる彼に視線を落とす。
いったい彼に何があったのだろうか……。
ロングコートは、ところどころが破け、泥と血が付いていた。
コクヨウの言った『血の匂い』とは、この人のものだろう。
「うぅ……」
胸元を掴んで苦しそうに呻くので、彼のコートの留め金を外してゆるめてあげた。
ん? あれ……この服って……。
コートの隙間から、白地に青の入った模様が目に入る。
「……聖教会の神官か?」
遠巻きに様子を窺っていたレイが、彼の服装を見て息を呑む。
そう。彼が着ている服は、クリティア聖教会の神官のものだ。
聖教会の神官が遠出する際に着る服で、胸元に付いている装飾の石の色で階級がわかる。彼の付けている石は水色なので、司祭のはずだ。
ライラもそれに気がついたようで、不可解そうに眉を寄せる。
「何で聖教会の司祭がこんな所に?」
レイは顎に手を当てて、考え込む。
「街道側でもないステアの森に聖教会の神官がいるとしたら……。聖属性の動物の調査や保護……もしくは魔獣の探索や退治……」
俺たちに視線を巡らせながら零れたレイの呟きに、皆の顔が強張る。
……魔獣。
以前、大蜘蛛の魔獣と戦った時のことを思い出し、ぞわりと鳥肌が立った。
残虐な行いを繰り返した獣が、精神を魔に落とすことで変化したもの――それが『魔獣』だ。
その性質は残忍で、凶暴。強大な力を手に入れる代償として、自我を失う。
一度魔獣になってしまえば、元の性質には戻れないため、討伐対象となっているのだ。
「ここら辺に魔獣がいるってこと?」
青ざめたライラに詰め寄られ、レイは慌てて宥める。
「落ち着けよ。あくまで可能性の話だって。魔獣情報がステア王国に入った時点で、一般人にはこの地域全体への立ち入りを禁止するだろうから、違うとは思うけど……」
それを聞いてライラは少し表情を緩めたが、濡らしたハンカチで男性の傷口を清めていたアリスは重い口調で言った。
「でも……傷口が動物に襲われた痕のようだわ」
確かに彼の腕や足には、複数の噛み傷やひっかき傷があった。
魔獣かどうかはわからないが、少なくとも人を襲う動物がこの森の中にいるということだ。
手当てを終え、アリスは俺を見上げる。
「フィル、どうしたらいい?」
気丈にしているが、その瞳は不安に揺れていた。
当然だよな。目の前に突然怪我人が現れて、原因もわからないんだから。不安にならないほうがおかしい。
俺はアリスの微かに震える手に、そっと自分の手を添えて皆を見回した。
「街に戻ろう。ただ、この人を運ばなきゃならない。とりあえず、あの塔にいる兵に状況を説明して……」
しかし俺が言い終わる前に、神官が俺の腕を弱々しく掴んだ。
「……だ、ラ……ミアさ……まが……」
苦しそうに喘ぎながら、彼は必死に訴える。
え…………今、何て言った?
聞き違いでないなら、彼は『ラミア』と言わなかっただろうか?
「ラミア様って、神子姫ラミア様ですか?」
レイが身を乗り出して聞くと、神官は力なく頷く。
【森から、あの娘の気配を感じるのはそのせいか】
森に視線をやって、気配を探っていたコクヨウは、フンと鼻息を吐いた。
「ギルド……レイク様のご命令……で、五人で……探索に……、しかし……山犬の魔獣が……」
俺にすがる彼の手が、ぶるぶると震える。
「魔獣が、森にいるんですか? ラミアや、他の人も?」
俺は言葉を区切ってゆっくりと話し、間違いがないか確認する。
それに対して、神官は大きく一つ頷いた。
思いもしない事態に、俺たちは絶句する。
ラミアは聖教会の中でも上位の階級である大司教。しかも妖精と同化する能力のある彼女は、信者から絶大な人気を誇る神子姫だ。
俺はグレスハート王国からステア王立学校に向かう途中、ドルガド国のダレスにあるクリティア聖教会の施設で、偶然ラミアと知り合いになった。不思議な雰囲気のある、とても美しい少女だった。
そんな彼女が、何故魔獣のいる森に……。
「ラミア……様を、仲間を……どうか……早く」
神官は最後の力を振り絞ってそう言うと、そのまま瞼を閉じた。
アリスは神官の脈や息遣いを診て、安堵の息を吐く。
「意識を失っただけみたい。外傷は多いけどそう深くはないし、精神的な疲労のせいだと思うわ。湖まで必死に逃げてきて、私たちに伝えたことで緊張の糸が切れたのかもしれないわね」
それを聞いて、様子を窺っていた俺たちも詰めていた息を吐いた。
「とりあえず、見張り台に行って兵を呼んできます」
言うが早いか、カイルが見張り台へと走っていく。あの足の速さなら、そう時間はかからないだろう。
俺たちはカイルが兵を呼んでくるまで、神官の様子を見守りながら待つことにした。
トーマは神官を見つめ、ため息を吐く。
「山犬の魔獣って言ってたね。言われてみたら、さっき見た傷痕は山犬の歯型に似ていた。残されたラミア様たち、無事かな? 山犬は群れる動物なんだ。一斉に襲われたら、きっと……」
そう言って口を噤み、トーマは俯いた。
アリスやライラも、心なしか顔色が悪い。
俺はトーマの肩を優しく叩く。
「ラミアは妖精と同化できる神子姫だよ。きっと大丈夫さ」
俺がにっこりと力強く微笑むと、トーマは小さく笑って頷いた。
「そ……そうだよね」
トーマと同じく、ここにいる皆が不安を抱いている。
だが、ラミアたちの実際の状況がわからない今、最悪の事態を想像して不安に不安を重ねてもいいことは何一つない。
「それにしても、普通は魔獣探索って団体で行うんじゃないの? 五人って少なすぎない? ラミア様に力があるから?」
幾分か硬い表情で話すライラに、俺は首を傾げる。
「普通は何人くらいでやるものなの?」
「魔獣の種類や強さにもよるけど、調査には少なくとも十人以上は必要だと思うわ。魔獣退治になったらそれの倍ね」
え、俺……大蜘蛛一人で倒しているんだけど。
二十人以上で討伐に向かうところを、一人でやっちゃったわけ? 俺、そんな無謀なことをしてたのか。
そりゃあ、父さんたちが俺を規格外認定するはずだ。
あの時、アグレッシブなコクヨウの背に乗ってなきゃ、戦うこともなかったのになぁ……。
恨めしげにコクヨウを見ると、ワクワクと楽しそうに尻尾を揺らし、対岸の森を見つめている。
やばい……行く気満々だ……。
「人数の少ない探索ってことは、聖属性の動物の探索かしら。そこで運悪く、魔獣に遭遇したとか」
アリスは神官の額ににじむ汗を、ハンカチで拭いながら言った。
しかしレイは眉根を寄せて、首を振る。
「アリスちゃん。聖属性の動物探索にしたって、五人は少ないよ。それに、探索を行う時は、事前に下調べをするはずだ。ラミア様が探索に参加するなら、なおさらね。その時に魔獣が確認されてないっていうのはおかしい」
レイの隣で考え込んでいたライラが、突然ハッとした。
「そう言えばこの神官の人、ギルドレイク大司教の命令って言っていたわよね」
それを聞いて、レイも何かに思い当たった顔をする。
「あ、なるほど、ギルドレイク大司教か……」
呟いて、ガシガシと頭をかく。綺麗にセットされていた髪型が崩れていくが、今はそれどころではないのだろう。
「誰? その人。知ってる人?」
俺の問いに、レイは顔を顰める。
「知ってるっていうか……情報だけな。ギルドレイク大司教は、大司教の中でも一番発言力のある人物だ。いずれ教皇になるだろうって噂されている」
ライラは苦虫を噛み潰したような表情で、レイの説明に補足する。
「あの人、ルワインド大陸出身だから、私はパーティーで何度か会ったことあるのよね。ゼモスみたいな顔してるの」
ゼモス……動物事典で見たことある。子犬ほどのサイズの大ネズミだ。鼻が潰れていて出っ歯で体毛がないため、動物の中で最もブサイクだと言われている。
「ゼモスに似てるって……嫌だな」
俺が零すと、トーマは首を傾げる。
「え、嫌? ツルツルの肌は触り心地好さそうだし、あの鼻と出っ歯の絶妙な加減が可愛いと思うけど」
相変わらず、トーマの動物に対する守備範囲は広い。だが、それに似た人間は、やはり可愛いには分類されない気がする。
「トーマの好みは置いといて、女の子しか興味がないレイが、よくギルドレイク大司教のこと知ってたね」
俺が嫌味でなくそう言うと、レイはチラリとこちらを見て渋い顔をした。
「俺だって別に知りたかったわけじゃないよ。だけど、ギルドレイク大司教はそれくらい有名なんだ」
「ラミアと同じくらい?」
首を傾げる俺に、レイは首を振った。
「いや、最近はラミア様のほうが有名かな。まぁ、あんだけ可愛いけりゃあ、仕方ないと思うけど。次期教皇を望むギルドレイク大司教にしてみたら、ラミア様は……邪魔……かもしれない」
最後を言い淀んだことから、レイの言わんとしていることを察して、俺たちは口を噤んだ。
つまりこの探索は、ラミアを亡き者にしようとして、ギルドレイク大司教が画策した可能性もあるということか。
探索隊の身が、さらに心配になってきたな。
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