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4巻
4-2
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「聖教会の人たちは、魔獣に遭遇したらどうするの? 対抗策はあるの?」
俺が問うと、レイは唸りつつ腕組みをした。
「一般的に、魔獣討伐をする神官は、浄化能力を持つ聖属性の召喚獣と契約してる。とはいえ、聖属性の動物は数が少ないから、探索に行った神官たちが契約しているかはわからないな……」
聖属性の動物は、癒し系と浄化系の二種類に分類される。癒し系は治癒能力、浄化系は清浄な力を周りに与える能力を持つ動物だ。ランクによって威力は異なるが、聖属性の場合、下級の動物でも希少である。
「浄化能力で、魔獣にダメージを与えるんだ?」
つまりは俺が鉱石を使って浄化する方法を、召喚獣でやる、と……。
「あと、結界が張れる。気力と時間はかかるけど、結界を張れば魔獣は入れないはずだ」
結界って……ダレスにあった聖教会の施設の周りに張られていたアレだよなぁ。コクヨウは簡単に破っちゃったけど、本当に魔獣は入れないのかな?
「もし結界を張れていれば、ラミア様たちも無事かもしれないわね」
ホッと息を吐くライラとは対照的に、レイは顔を曇らせる。
「でも、無事結界を張れたとしても、そんなに長く維持できるものじゃないぜ」
「体力の消耗を考えたら、早く救出してあげたいわね」
アリスは心配そうに目を伏せ、ライラも頷く。
レイは腕組みをしたまま、深く息を吐いた。
「救出か……。見張り台の兵士を呼んできても、できることはこの神官の保護と、ステアの城に伝令の使いを走らせることだけだよな」
確かに、あの見張り台の人数を考えれば、そうするしかない。
そして、知らせを受けて早急に捜索部隊を組んだとしても、ここに着く頃には夜だ。魔獣のいる夜の森に入るなんて自殺行為だし、夜の捜索は困難を極める。であれば、おそらく明け方に捜索が開始されるだろう。
捜索が遅れるほどラミアたちの危険は増すが、犠牲者を増やさない選択といったらこれしかない。
まだ明るい現時点で、俺が捜索に行ったほうがいいのだろうか……。
そう考えているところへ、息を切らしたカイルが戻ってきた。
「フィル様、お待たせいたしました」
しかし、カイルの後ろに呼びに行ったはずの兵士の姿はない。
「兵士は?」
「後からやって来ます。王都の軍にも早馬を出してもらいました。ただ、見張りにできるのは神官の保護のみで、少人数での捜索には向かえないそうです」
沈痛な面持ちのカイルの報告に、皆は落胆の色を見せる。
やっぱりか……。
「フィル様、ご命令ください」
そう言うカイルの気持ちは、すでに決まっているみたいだった。
俺は息を一つ吐くと、皆の顔を見回す。
「皆にお願いがあるんだ。これから、僕とカイルでラミアたちの捜索に行ってこようと思う」
「ええぇっ!!」
「フィル君、そんなの無茶よ」
「危ないわ、フィル」
「何言ってんだ正気かっ!?」
トーマとライラ、アリスとレイに次々と反対されて、俺は手で制止のポーズをとる。
「皆が心配するのは、当然だ。でも、捜索が遅れれば遅れるほど、ラミアたちの状況は悪くなる。僕にはヒスイがいるし、カイルには闇の妖精がいる。魔獣に遭遇しても、逃げることくらいならできるよ」
「でも、どこにいるかわからないのよ。いくらフィルやカイルでも……」
だんだんと声が小さくなっていくアリスに、俺はコクヨウを持ち上げてにっこり微笑んだ。
「コクヨウがいるから平気。コクヨウは一度ラミアに会っているから、どこにいるかわかるよ」
コクヨウはアリスたちにわかりやすいよう、「ガウ」と鳴いて返事をする。
「日暮れ前までには戻るつもり。だから、兵の人には僕たちが独断でラミアたちを探しに行ったことは秘密にしておいて欲しいんだ」
レイは逡巡していたようだが、真剣な表情の俺とカイルを見てため息を吐いた。
「わかった! お前たちを信じて、何とか誤魔化してやるよ。だけど無事に帰って来いよ!」
いつになく真面目な顔で言うレイに、俺とカイルは力強く頷いた。
「あ、フィル、待って」
俺とカイルが森に向かおうとした時、トーマが俺を引き止めた。慌てて自分のポケットを探り、革製の小袋を出す。
「さっきも言ったように、山犬は群れで行動する動物なんだ。この神官の傷も複数から受けたものみたいだから、相手が群れなのは間違いないと思う。でも、もともと山犬の気性が荒いとはいえ、群れ全体が魔獣化しているとは思えないんだ。きっと群れの中に、魔獣が紛れているはずだよ」
そう言って俺の手に、小袋を握り込ませる。
「これは山犬の嫌いな植物を粉末にしたもの。ステア王国の森には山犬がいるから、念のために持ってきたんだ。魔獣には無意味かもしれないけど、普通の山犬には効くはず。少ないけど持っていって。山犬は上位のものの号令に従う習性があるから、その山犬を何とかすれば群れの動きを止められるかも。それから山犬は木登りができないんだ。危なくなったら木に登ってね」
動物に対して博識のトーマが、これほど頼もしく感じられたことはない。
「ありがとう。助かるよ」
俺はにっこり笑うと、カイルとともに森へ駆け出した。
皆の姿が見えなくなった辺りで、カイルと一緒に大きくなったコクヨウに乗り、木々の間を走り抜けていく。
気配を探るためか、コクヨウはそこまでスピードを出していないので、周りを見回す余裕はあった。
こう見ると、ステア王国の森の木は緑の濃い植物が多いようだ。奥に進んで木が増えるにつれ、森の色が濃くなっていく。
湖の辺りは明るかったのに、それが今や暗い森の中。あの楽しかった時間が、夢だったのではないかと思ってしまう。
「カイル、大丈夫?」
後ろに相乗りするカイルに、声をかける。
「だ、大丈夫です」
返事をしたカイルは、ガチガチに緊張していた。
……とても大丈夫とは思えない。
カイルはコクヨウのことを、自分より立場が上だと思っているので、背に乗ることが畏れ多いらしい。
急ぎたかったからコクヨウに乗ってもらったけど、悪かったかな?
どこに掴まればいいかわからないらしく、カイルは俺の肩をガッシリ掴んでいた。
俺を掴んでも、何かあったら一緒に吹き飛ばされるだけなんだけど。
「コクヨウ、ヒスイ。ラミアがいる辺りまでどのくらい? 近くまで来ているの?」
俺の問いにコクヨウは走りながら、頭をクッと上げた。
【ああ、この先の真っ直ぐ行ったところに気配がある】
【そうですわね。だんだん妖精たちや木々のざわめきが強くなっていますわ】
ヒスイは服をはためかせて飛び、コクヨウと並走する。
ラミアたちは無事だろうか……。
湖からコクヨウに乗って、すでに一キロメートルは来ていた。怪我した神官の移動時間を考えると、魔獣と遭遇してからだいぶ経っているはずだ。
「移動してる様子はないの? 他の神官も一緒なのかな?」
【結界を張っているみたいだな。ひとところから動いてはおらぬ。娘の周りにいくつか人の気配があるから、それが神官たちであろうな】
コクヨウが言うと、ヒスイも頷く。
【妖精の話では、ひとかたまりで行動しているのは間違いないようです。でも、正確な人数まではわかりませんわ】
「そう」
四人全員揃っていてくれたらいいが……。あの神官と同様、怪我を負っているのだろうか?
結界を張っている間は安全だと思うけど、もしひどい怪我を負っていたら……。
「急がなきゃ」
俺は前を見据えて、呟く。
だがそんな俺に、コクヨウは喉で笑った。
【その前に、我々を出迎えているものがいるようだがな】
コクヨウの嬉しそうな声を聞いて、俺はげんなりする。
それって、もしかしなくても山犬ですか?
すんなりとラミアたちに再会できるとは思っていなかったけど、やっぱりいたか。
「どのくらい?」
【正確にはわからぬが、五十ほどか】
コクヨウの返答に、カイルが唸る。
「数が通常の群れより多いですね。開けた場所に移動しますか?」
俺は少し考えて、首を横に振った。
「いや、トーマの話じゃ山犬は木に登れない。木のあるところにしよう。できるだけ山犬の群れに近づいてもらえる?」
木で死角はできるが、何もないところで一斉に飛びかかられるよりはマシだ。
しばらくして、コクヨウが徐々にスピードを落とし始めた。
山犬が近くにいるのだろう。辺り一帯から獣臭がした。
俺とカイルは、コクヨウから飛び降りる。
「ヒスイ、もし山犬との交渉がうまくいかなかったら、僕らを木の上に引き上げて欲しい。上から魔獣の位置を確認したいから。コクヨウはその時が来たら、小さくなってね」
小声でそう言うと、ヒスイは頷いて木の上から蔦を下ろす。そしてシュルリと、俺とカイルの体に巻きつかせた。
「フィル様、やって来ます」
カイルが辺りを警戒しながら、やや緊迫した声で呟く。
緊張で喉がカラカラになってきた。枯葉や小枝を踏みしめる音があちこちから近づいてくると、心音が自分でもわかるくらい大きくなる。
山犬は大型犬より一回り大きかった。短い体毛は赤と焦げ茶のまだらで、額に一本角が生えている。
山犬もコクヨウの存在を感じ取り、様子を窺いながらじわりじわりと近寄ってきた。
一定の距離をあけて、俺たちの周りを取り囲む。
この中に魔獣は潜んでいるのだろうか? これだけ数がいると、よくわからない。
山犬は獰猛な唸り声をあげながら、俺たちを威嚇した。
五十匹からの威嚇は、迫力が凄まじい。覚悟はしていたが、恐怖を感じる。
【……余所者め。何をしに来た】
【我らの縄張りに入ったからには、決して帰さぬ】
【その柔い喉を噛み切ってくれるわ】
山犬たちは敵意剥き出しで、四方八方から吠える。
あまりの喧騒に、俺とカイルは耳を覆った。
【喧しいっ!!】
コクヨウは煩しげに、歯を見せて恫喝する。
山犬たちは吠えるのをやめたが、退くことはしなかった。
このまま立ち去ってくれたら、とてもありがたかったのに。
しかしコクヨウの恫喝に反応したということは、自我があるということだ。会話が成立するなら、どうにか説得できるかもしれない。
俺は山犬たちに向かって、大きな声で叫んだ。
「僕たちは人を探していて、その人たちを連れ帰るために来た。君たちが何もしないのであれば、僕たちはその人たちを見つけ次第、ここからいなくなる。むやみに君たちを傷つけるつもりはない」
山犬たちは近くの仲間同士で顔を見合わせ、それから俺たちに向かって低く唸った。
【戯れ言を】
【あの娘らを帰すわけにはいかぬ】
【あれは我らの獲物だ】
山犬たちからの返答に、俺は唇を噛んだ。
そう簡単には説得できないか。
すると、先頭にいた一匹の山犬がニタリと笑った。
【安心しろ。お前を喰ろうたら、すぐあの娘らも同じところへ送ってやる】
全然安心できない内容なんですけど。
「僕を食べたって、肉がないから美味しくないよ」
そう言うと、その山犬は俺を見て舌なめずりをする。
【力のある者を喰えば、力を得られる……】
近くにいた山犬らも【そうだ】【喰うてやる】と賛同し、その声はどんどん広がっていく。
少し前の雰囲気とはまた違った、陶酔しきった山犬たちを見て、俺はゾワリと背筋が凍った。
カイルも異様さを感じ取ったのか、俺をかばって前に出る。
どうしたんだ? 魔獣化していないと思ったのに、この山犬たちの様子は何だ。
俺とカイルが戸惑いながら山犬たちを見回していると、ヒスイは顔を強張らせる。
【フィル、山犬たちが魔に落ちかけていますわ】
それを聞いて、俺は血の気が引くのを感じた。
「魔に落ちかけてる? 普通の山犬も、魔獣になりかけてるってこと?」
俺が聞き直すと、コクヨウは瞳に侮蔑の色を浮かべて山犬の群れを睨んだ。
【大方、群れの中にいる魔獣に感化されたのだろうよ。愚かな】
山犬の群れが魔に落ちる? まずい。それは非常にまずい事態だ。
一度魔に落ちれば、元には戻れない。もしこの大勢の山犬がすべて魔獣化したら?
いったい、どうなってしまうのか。
「どうにかできないの?」
俺は焦って、コクヨウとヒスイに尋ねる。
ヒスイは少し考えて、俺を見つめた。
【彼らはまだ、群れにいる魔獣に感化されているだけです。おそらく魔獣から引き離せば、元の性質に戻ると思いますわ】
ヒスイの言葉に、コクヨウも頷く。
【落ちかけているとはいえ、完全に魔獣化したわけではないからな】
じゃあ、まだ助かる可能性はあるのか。
コクヨウは山犬たちに向かって一歩踏み出すと、辺りが振動するくらいの咆哮を放った。
【お前らには用はない! 魔獣を出せ】
一瞬、後ずさった山犬たちだったが、再び躙り寄って飛びかかる隙を窺う。
【ほう。小者が我に逆らうか】
コクヨウはニヤリと歯を見せて、不敵に笑った。
【数でかかれば、我らにも分がある】
【その子供を拐えば良いだけのこと】
【勝てずともそのくらいの隙は作れる】
周りの山犬たちが「そうだ」と口々に言う。
その子供って……俺のことだよね。ターゲット・ロックオン?
できれば戦わずにお引き取り願いたかったのだが、山犬たちの目を覚ますためには、群れの中から魔獣を見つけだし、討伐しなければならない。
どうやって魔獣を炙り出そうかと思案していると、どこかから山犬の遠吠えが聞こえた。
その途端、山犬たちが一斉に走り出し、真っ直ぐ俺たちへと向かってくる。
「ヒスイ!」
俺が小さくなったコクヨウを抱きかかえるのと同時に、俺とカイルは蔦によって木の上へ引き上げられる。
「んぐっ!」
速いっ! 引き上げるのが速いっ!
山犬たちの攻撃が届かないくらいの速度でいいんだけどっ!
ヒスイに注文をつける間もなく、俺は木の上の太めの枝に降ろされた。
この世界で逆バンジーすると思わなかった……。
ひとまず避難できてホッとしたのも束の間、ガンッガンッと木が強く揺さぶられる。
その振動でバランスを崩しかけ、俺は慌てて幹にすがりついた。
何事かと木の下を見て、驚愕する。
「んなっ!?」
山犬たちが俺たちのいる木を目掛け、代わる代わる突進していたのだ。
木を揺らして、俺たちを落とすつもりなのか? …………いや、違う。
額の一本角を突き立てて木を削り、へし折ろうとしているんだっ!
見れば山犬は、角に風の層を纏わせていた。それによって硬度が増すのか、角が突き立てられる度に木片が飛んでいる。木の幹には、ドリルを受けたみたいな跡が付いていた。
「何してるのっ! 木は大事にだよっ!!」
俺が慌てて叫んだその時、またどこからか遠吠えが聞こえた。
途端に山犬たちは頭数を増やし、複数での突進を始める。
ガシンッガシンッと先ほどより強く木を揺さぶられ、飛び散る木片の数も増えていった。
ダメだ。ヤバい。このままだと木が倒される。その前に、衝撃で俺が落ちるかもしれない。
俺は幹にしがみつきながら、ポケットから小袋を取り出した。
トーマに貰った、山犬が苦手だという植物の粉だ。それをヒスイに渡す。
「ひ、ヒスイ、こ、この粉を下の山犬全体にかけてくれるっ?」
【わかりましたわ】
ヒスイが手をかざすと、徐々に風が吹き始めた。落ち葉を巻き込みながら、風が渦のように回り始める。
ヒスイは優雅に舞って、ひらりひらりと山犬の上を飛行した。粒子の細かい粉が撒かれると、それは風に乗って、辺り一帯へと広がっていく。
その途端、山犬たちはブシャンブシャンとくしゃみを始めた。連続で出続けるくしゃみのせいで、木に突進することもできないようだ。
木の揺れが収まり、俺はホッと息を吐く。
トーマの言った通り、この粉末は山犬に効果てきめんみたいだ。飛散が落ち着いても、山犬はまだくしゃみをしている。
「よく効くなぁ。何の植物なんだろ」
幹に掴まったまま山犬を見下ろしていると、カイルが説明してくれた。
「湖に来る道すがらトーマが話していたんですが、山犬はウルバという花の匂いが苦手で、その花が自生している場所には近寄らないそうです。だから、ウルバの花を乾燥させた粉末ではないでしょうか」
「へぇ」
あんなにくしゃみが出るってことは、山犬だけが刺激される何かがあるのかな? アレルギー症状とか? 辛いもんなぁ、花粉症。
「それより、俺は今の遠吠えが気になります」
眉を寄せて呟くカイルに、俺も頷いた。
「うん、僕も。さっきから遠吠えで、山犬たちに号令が出されてるよね」
遠吠えが聞こえて、その直後に攻撃が始まっている。そして、その遠吠えは俺たちの側にいる山犬ではなく、群れの後方から聞こえてきた。
「ここに来る前、トーマが言っていましたよね。合図を出せるのは、群れの中でも上位のものだと。通常、上位の山犬なら前方にいるはず。しかし、遠吠えは後方から聞こえました。もし上位にもかかわらず、隠れて合図を出しているなら……」
神妙な面持ちのカイルに、俺も同じ意見だと頷く。
大蜘蛛の魔獣も、自分の子を手下として使っていた。山犬の魔獣も、仲間を手駒として使っているとしたら……。最初は隠れて命令し、群れが獲物を弱らせたところで自分が出ていって狩ろうということなのかもしれない。
「魔獣が、どこにいるかわかる?」
「遠吠えの反響からして、あちらかと……。今から魔獣の場所を探ってきます」
カイルは体に巻かれた蔦を解き、他の木に飛び移りながら移動していった。
忍者みたいだな。
カイルの後ろ姿を見送っていると、コクヨウが俺の懐でもぞもぞと動き始めた。
【さて、そろそろ遊んでやるか】
そう言って、木の上から飛び降りる。クルリと回転して地上に降り立った時には、コクヨウの体は大きく変化していた。
山犬たちはすぐさま陣形をとって、コクヨウに向かってくる。
【子供を寄越せっ!】
【力を寄越せっ!】
一斉に飛びかかってくる山犬たちを、コクヨウは軽い仕草で薙ぎ払った。
凄まじい勢いで、山犬たちは数メートル先の草むらに次々と吹き飛ばされる。
「コクヨウ、魔獣以外は手加減してあげてよ」
木の上から叫ぶ俺を、コクヨウは面白くなさそうに見上げる。
【お前が嫌がるから、そうしておるわ。見よ、この自慢の爪を引っ込めた足を】
そう言って、俺の方に肉球をワキワキしてみせる。そのついでに、後ろから飛びかかってきた山犬たちを、ノールックパンチで弾き飛ばした。
山犬は悲鳴をあげながら、尻尾を丸めて群れの中に帰っていく。
犬手パンチで、その威力ですか……。
コクヨウはゆるりと首を回して、山犬たちを見た。
【手加減はしているが、我が主に危険が及ぶのであれば容赦はできぬな。さぁ、我の相手になりたいものはいるか?】
コクヨウは楽しげにニヤリと笑って牙を見せる。
挑発するような物言いで、本当は喧嘩したいだけじゃないのかなと思ってしまう。うちの子、暴れん坊だもんな。
俺が問うと、レイは唸りつつ腕組みをした。
「一般的に、魔獣討伐をする神官は、浄化能力を持つ聖属性の召喚獣と契約してる。とはいえ、聖属性の動物は数が少ないから、探索に行った神官たちが契約しているかはわからないな……」
聖属性の動物は、癒し系と浄化系の二種類に分類される。癒し系は治癒能力、浄化系は清浄な力を周りに与える能力を持つ動物だ。ランクによって威力は異なるが、聖属性の場合、下級の動物でも希少である。
「浄化能力で、魔獣にダメージを与えるんだ?」
つまりは俺が鉱石を使って浄化する方法を、召喚獣でやる、と……。
「あと、結界が張れる。気力と時間はかかるけど、結界を張れば魔獣は入れないはずだ」
結界って……ダレスにあった聖教会の施設の周りに張られていたアレだよなぁ。コクヨウは簡単に破っちゃったけど、本当に魔獣は入れないのかな?
「もし結界を張れていれば、ラミア様たちも無事かもしれないわね」
ホッと息を吐くライラとは対照的に、レイは顔を曇らせる。
「でも、無事結界を張れたとしても、そんなに長く維持できるものじゃないぜ」
「体力の消耗を考えたら、早く救出してあげたいわね」
アリスは心配そうに目を伏せ、ライラも頷く。
レイは腕組みをしたまま、深く息を吐いた。
「救出か……。見張り台の兵士を呼んできても、できることはこの神官の保護と、ステアの城に伝令の使いを走らせることだけだよな」
確かに、あの見張り台の人数を考えれば、そうするしかない。
そして、知らせを受けて早急に捜索部隊を組んだとしても、ここに着く頃には夜だ。魔獣のいる夜の森に入るなんて自殺行為だし、夜の捜索は困難を極める。であれば、おそらく明け方に捜索が開始されるだろう。
捜索が遅れるほどラミアたちの危険は増すが、犠牲者を増やさない選択といったらこれしかない。
まだ明るい現時点で、俺が捜索に行ったほうがいいのだろうか……。
そう考えているところへ、息を切らしたカイルが戻ってきた。
「フィル様、お待たせいたしました」
しかし、カイルの後ろに呼びに行ったはずの兵士の姿はない。
「兵士は?」
「後からやって来ます。王都の軍にも早馬を出してもらいました。ただ、見張りにできるのは神官の保護のみで、少人数での捜索には向かえないそうです」
沈痛な面持ちのカイルの報告に、皆は落胆の色を見せる。
やっぱりか……。
「フィル様、ご命令ください」
そう言うカイルの気持ちは、すでに決まっているみたいだった。
俺は息を一つ吐くと、皆の顔を見回す。
「皆にお願いがあるんだ。これから、僕とカイルでラミアたちの捜索に行ってこようと思う」
「ええぇっ!!」
「フィル君、そんなの無茶よ」
「危ないわ、フィル」
「何言ってんだ正気かっ!?」
トーマとライラ、アリスとレイに次々と反対されて、俺は手で制止のポーズをとる。
「皆が心配するのは、当然だ。でも、捜索が遅れれば遅れるほど、ラミアたちの状況は悪くなる。僕にはヒスイがいるし、カイルには闇の妖精がいる。魔獣に遭遇しても、逃げることくらいならできるよ」
「でも、どこにいるかわからないのよ。いくらフィルやカイルでも……」
だんだんと声が小さくなっていくアリスに、俺はコクヨウを持ち上げてにっこり微笑んだ。
「コクヨウがいるから平気。コクヨウは一度ラミアに会っているから、どこにいるかわかるよ」
コクヨウはアリスたちにわかりやすいよう、「ガウ」と鳴いて返事をする。
「日暮れ前までには戻るつもり。だから、兵の人には僕たちが独断でラミアたちを探しに行ったことは秘密にしておいて欲しいんだ」
レイは逡巡していたようだが、真剣な表情の俺とカイルを見てため息を吐いた。
「わかった! お前たちを信じて、何とか誤魔化してやるよ。だけど無事に帰って来いよ!」
いつになく真面目な顔で言うレイに、俺とカイルは力強く頷いた。
「あ、フィル、待って」
俺とカイルが森に向かおうとした時、トーマが俺を引き止めた。慌てて自分のポケットを探り、革製の小袋を出す。
「さっきも言ったように、山犬は群れで行動する動物なんだ。この神官の傷も複数から受けたものみたいだから、相手が群れなのは間違いないと思う。でも、もともと山犬の気性が荒いとはいえ、群れ全体が魔獣化しているとは思えないんだ。きっと群れの中に、魔獣が紛れているはずだよ」
そう言って俺の手に、小袋を握り込ませる。
「これは山犬の嫌いな植物を粉末にしたもの。ステア王国の森には山犬がいるから、念のために持ってきたんだ。魔獣には無意味かもしれないけど、普通の山犬には効くはず。少ないけど持っていって。山犬は上位のものの号令に従う習性があるから、その山犬を何とかすれば群れの動きを止められるかも。それから山犬は木登りができないんだ。危なくなったら木に登ってね」
動物に対して博識のトーマが、これほど頼もしく感じられたことはない。
「ありがとう。助かるよ」
俺はにっこり笑うと、カイルとともに森へ駆け出した。
皆の姿が見えなくなった辺りで、カイルと一緒に大きくなったコクヨウに乗り、木々の間を走り抜けていく。
気配を探るためか、コクヨウはそこまでスピードを出していないので、周りを見回す余裕はあった。
こう見ると、ステア王国の森の木は緑の濃い植物が多いようだ。奥に進んで木が増えるにつれ、森の色が濃くなっていく。
湖の辺りは明るかったのに、それが今や暗い森の中。あの楽しかった時間が、夢だったのではないかと思ってしまう。
「カイル、大丈夫?」
後ろに相乗りするカイルに、声をかける。
「だ、大丈夫です」
返事をしたカイルは、ガチガチに緊張していた。
……とても大丈夫とは思えない。
カイルはコクヨウのことを、自分より立場が上だと思っているので、背に乗ることが畏れ多いらしい。
急ぎたかったからコクヨウに乗ってもらったけど、悪かったかな?
どこに掴まればいいかわからないらしく、カイルは俺の肩をガッシリ掴んでいた。
俺を掴んでも、何かあったら一緒に吹き飛ばされるだけなんだけど。
「コクヨウ、ヒスイ。ラミアがいる辺りまでどのくらい? 近くまで来ているの?」
俺の問いにコクヨウは走りながら、頭をクッと上げた。
【ああ、この先の真っ直ぐ行ったところに気配がある】
【そうですわね。だんだん妖精たちや木々のざわめきが強くなっていますわ】
ヒスイは服をはためかせて飛び、コクヨウと並走する。
ラミアたちは無事だろうか……。
湖からコクヨウに乗って、すでに一キロメートルは来ていた。怪我した神官の移動時間を考えると、魔獣と遭遇してからだいぶ経っているはずだ。
「移動してる様子はないの? 他の神官も一緒なのかな?」
【結界を張っているみたいだな。ひとところから動いてはおらぬ。娘の周りにいくつか人の気配があるから、それが神官たちであろうな】
コクヨウが言うと、ヒスイも頷く。
【妖精の話では、ひとかたまりで行動しているのは間違いないようです。でも、正確な人数まではわかりませんわ】
「そう」
四人全員揃っていてくれたらいいが……。あの神官と同様、怪我を負っているのだろうか?
結界を張っている間は安全だと思うけど、もしひどい怪我を負っていたら……。
「急がなきゃ」
俺は前を見据えて、呟く。
だがそんな俺に、コクヨウは喉で笑った。
【その前に、我々を出迎えているものがいるようだがな】
コクヨウの嬉しそうな声を聞いて、俺はげんなりする。
それって、もしかしなくても山犬ですか?
すんなりとラミアたちに再会できるとは思っていなかったけど、やっぱりいたか。
「どのくらい?」
【正確にはわからぬが、五十ほどか】
コクヨウの返答に、カイルが唸る。
「数が通常の群れより多いですね。開けた場所に移動しますか?」
俺は少し考えて、首を横に振った。
「いや、トーマの話じゃ山犬は木に登れない。木のあるところにしよう。できるだけ山犬の群れに近づいてもらえる?」
木で死角はできるが、何もないところで一斉に飛びかかられるよりはマシだ。
しばらくして、コクヨウが徐々にスピードを落とし始めた。
山犬が近くにいるのだろう。辺り一帯から獣臭がした。
俺とカイルは、コクヨウから飛び降りる。
「ヒスイ、もし山犬との交渉がうまくいかなかったら、僕らを木の上に引き上げて欲しい。上から魔獣の位置を確認したいから。コクヨウはその時が来たら、小さくなってね」
小声でそう言うと、ヒスイは頷いて木の上から蔦を下ろす。そしてシュルリと、俺とカイルの体に巻きつかせた。
「フィル様、やって来ます」
カイルが辺りを警戒しながら、やや緊迫した声で呟く。
緊張で喉がカラカラになってきた。枯葉や小枝を踏みしめる音があちこちから近づいてくると、心音が自分でもわかるくらい大きくなる。
山犬は大型犬より一回り大きかった。短い体毛は赤と焦げ茶のまだらで、額に一本角が生えている。
山犬もコクヨウの存在を感じ取り、様子を窺いながらじわりじわりと近寄ってきた。
一定の距離をあけて、俺たちの周りを取り囲む。
この中に魔獣は潜んでいるのだろうか? これだけ数がいると、よくわからない。
山犬は獰猛な唸り声をあげながら、俺たちを威嚇した。
五十匹からの威嚇は、迫力が凄まじい。覚悟はしていたが、恐怖を感じる。
【……余所者め。何をしに来た】
【我らの縄張りに入ったからには、決して帰さぬ】
【その柔い喉を噛み切ってくれるわ】
山犬たちは敵意剥き出しで、四方八方から吠える。
あまりの喧騒に、俺とカイルは耳を覆った。
【喧しいっ!!】
コクヨウは煩しげに、歯を見せて恫喝する。
山犬たちは吠えるのをやめたが、退くことはしなかった。
このまま立ち去ってくれたら、とてもありがたかったのに。
しかしコクヨウの恫喝に反応したということは、自我があるということだ。会話が成立するなら、どうにか説得できるかもしれない。
俺は山犬たちに向かって、大きな声で叫んだ。
「僕たちは人を探していて、その人たちを連れ帰るために来た。君たちが何もしないのであれば、僕たちはその人たちを見つけ次第、ここからいなくなる。むやみに君たちを傷つけるつもりはない」
山犬たちは近くの仲間同士で顔を見合わせ、それから俺たちに向かって低く唸った。
【戯れ言を】
【あの娘らを帰すわけにはいかぬ】
【あれは我らの獲物だ】
山犬たちからの返答に、俺は唇を噛んだ。
そう簡単には説得できないか。
すると、先頭にいた一匹の山犬がニタリと笑った。
【安心しろ。お前を喰ろうたら、すぐあの娘らも同じところへ送ってやる】
全然安心できない内容なんですけど。
「僕を食べたって、肉がないから美味しくないよ」
そう言うと、その山犬は俺を見て舌なめずりをする。
【力のある者を喰えば、力を得られる……】
近くにいた山犬らも【そうだ】【喰うてやる】と賛同し、その声はどんどん広がっていく。
少し前の雰囲気とはまた違った、陶酔しきった山犬たちを見て、俺はゾワリと背筋が凍った。
カイルも異様さを感じ取ったのか、俺をかばって前に出る。
どうしたんだ? 魔獣化していないと思ったのに、この山犬たちの様子は何だ。
俺とカイルが戸惑いながら山犬たちを見回していると、ヒスイは顔を強張らせる。
【フィル、山犬たちが魔に落ちかけていますわ】
それを聞いて、俺は血の気が引くのを感じた。
「魔に落ちかけてる? 普通の山犬も、魔獣になりかけてるってこと?」
俺が聞き直すと、コクヨウは瞳に侮蔑の色を浮かべて山犬の群れを睨んだ。
【大方、群れの中にいる魔獣に感化されたのだろうよ。愚かな】
山犬の群れが魔に落ちる? まずい。それは非常にまずい事態だ。
一度魔に落ちれば、元には戻れない。もしこの大勢の山犬がすべて魔獣化したら?
いったい、どうなってしまうのか。
「どうにかできないの?」
俺は焦って、コクヨウとヒスイに尋ねる。
ヒスイは少し考えて、俺を見つめた。
【彼らはまだ、群れにいる魔獣に感化されているだけです。おそらく魔獣から引き離せば、元の性質に戻ると思いますわ】
ヒスイの言葉に、コクヨウも頷く。
【落ちかけているとはいえ、完全に魔獣化したわけではないからな】
じゃあ、まだ助かる可能性はあるのか。
コクヨウは山犬たちに向かって一歩踏み出すと、辺りが振動するくらいの咆哮を放った。
【お前らには用はない! 魔獣を出せ】
一瞬、後ずさった山犬たちだったが、再び躙り寄って飛びかかる隙を窺う。
【ほう。小者が我に逆らうか】
コクヨウはニヤリと歯を見せて、不敵に笑った。
【数でかかれば、我らにも分がある】
【その子供を拐えば良いだけのこと】
【勝てずともそのくらいの隙は作れる】
周りの山犬たちが「そうだ」と口々に言う。
その子供って……俺のことだよね。ターゲット・ロックオン?
できれば戦わずにお引き取り願いたかったのだが、山犬たちの目を覚ますためには、群れの中から魔獣を見つけだし、討伐しなければならない。
どうやって魔獣を炙り出そうかと思案していると、どこかから山犬の遠吠えが聞こえた。
その途端、山犬たちが一斉に走り出し、真っ直ぐ俺たちへと向かってくる。
「ヒスイ!」
俺が小さくなったコクヨウを抱きかかえるのと同時に、俺とカイルは蔦によって木の上へ引き上げられる。
「んぐっ!」
速いっ! 引き上げるのが速いっ!
山犬たちの攻撃が届かないくらいの速度でいいんだけどっ!
ヒスイに注文をつける間もなく、俺は木の上の太めの枝に降ろされた。
この世界で逆バンジーすると思わなかった……。
ひとまず避難できてホッとしたのも束の間、ガンッガンッと木が強く揺さぶられる。
その振動でバランスを崩しかけ、俺は慌てて幹にすがりついた。
何事かと木の下を見て、驚愕する。
「んなっ!?」
山犬たちが俺たちのいる木を目掛け、代わる代わる突進していたのだ。
木を揺らして、俺たちを落とすつもりなのか? …………いや、違う。
額の一本角を突き立てて木を削り、へし折ろうとしているんだっ!
見れば山犬は、角に風の層を纏わせていた。それによって硬度が増すのか、角が突き立てられる度に木片が飛んでいる。木の幹には、ドリルを受けたみたいな跡が付いていた。
「何してるのっ! 木は大事にだよっ!!」
俺が慌てて叫んだその時、またどこからか遠吠えが聞こえた。
途端に山犬たちは頭数を増やし、複数での突進を始める。
ガシンッガシンッと先ほどより強く木を揺さぶられ、飛び散る木片の数も増えていった。
ダメだ。ヤバい。このままだと木が倒される。その前に、衝撃で俺が落ちるかもしれない。
俺は幹にしがみつきながら、ポケットから小袋を取り出した。
トーマに貰った、山犬が苦手だという植物の粉だ。それをヒスイに渡す。
「ひ、ヒスイ、こ、この粉を下の山犬全体にかけてくれるっ?」
【わかりましたわ】
ヒスイが手をかざすと、徐々に風が吹き始めた。落ち葉を巻き込みながら、風が渦のように回り始める。
ヒスイは優雅に舞って、ひらりひらりと山犬の上を飛行した。粒子の細かい粉が撒かれると、それは風に乗って、辺り一帯へと広がっていく。
その途端、山犬たちはブシャンブシャンとくしゃみを始めた。連続で出続けるくしゃみのせいで、木に突進することもできないようだ。
木の揺れが収まり、俺はホッと息を吐く。
トーマの言った通り、この粉末は山犬に効果てきめんみたいだ。飛散が落ち着いても、山犬はまだくしゃみをしている。
「よく効くなぁ。何の植物なんだろ」
幹に掴まったまま山犬を見下ろしていると、カイルが説明してくれた。
「湖に来る道すがらトーマが話していたんですが、山犬はウルバという花の匂いが苦手で、その花が自生している場所には近寄らないそうです。だから、ウルバの花を乾燥させた粉末ではないでしょうか」
「へぇ」
あんなにくしゃみが出るってことは、山犬だけが刺激される何かがあるのかな? アレルギー症状とか? 辛いもんなぁ、花粉症。
「それより、俺は今の遠吠えが気になります」
眉を寄せて呟くカイルに、俺も頷いた。
「うん、僕も。さっきから遠吠えで、山犬たちに号令が出されてるよね」
遠吠えが聞こえて、その直後に攻撃が始まっている。そして、その遠吠えは俺たちの側にいる山犬ではなく、群れの後方から聞こえてきた。
「ここに来る前、トーマが言っていましたよね。合図を出せるのは、群れの中でも上位のものだと。通常、上位の山犬なら前方にいるはず。しかし、遠吠えは後方から聞こえました。もし上位にもかかわらず、隠れて合図を出しているなら……」
神妙な面持ちのカイルに、俺も同じ意見だと頷く。
大蜘蛛の魔獣も、自分の子を手下として使っていた。山犬の魔獣も、仲間を手駒として使っているとしたら……。最初は隠れて命令し、群れが獲物を弱らせたところで自分が出ていって狩ろうということなのかもしれない。
「魔獣が、どこにいるかわかる?」
「遠吠えの反響からして、あちらかと……。今から魔獣の場所を探ってきます」
カイルは体に巻かれた蔦を解き、他の木に飛び移りながら移動していった。
忍者みたいだな。
カイルの後ろ姿を見送っていると、コクヨウが俺の懐でもぞもぞと動き始めた。
【さて、そろそろ遊んでやるか】
そう言って、木の上から飛び降りる。クルリと回転して地上に降り立った時には、コクヨウの体は大きく変化していた。
山犬たちはすぐさま陣形をとって、コクヨウに向かってくる。
【子供を寄越せっ!】
【力を寄越せっ!】
一斉に飛びかかってくる山犬たちを、コクヨウは軽い仕草で薙ぎ払った。
凄まじい勢いで、山犬たちは数メートル先の草むらに次々と吹き飛ばされる。
「コクヨウ、魔獣以外は手加減してあげてよ」
木の上から叫ぶ俺を、コクヨウは面白くなさそうに見上げる。
【お前が嫌がるから、そうしておるわ。見よ、この自慢の爪を引っ込めた足を】
そう言って、俺の方に肉球をワキワキしてみせる。そのついでに、後ろから飛びかかってきた山犬たちを、ノールックパンチで弾き飛ばした。
山犬は悲鳴をあげながら、尻尾を丸めて群れの中に帰っていく。
犬手パンチで、その威力ですか……。
コクヨウはゆるりと首を回して、山犬たちを見た。
【手加減はしているが、我が主に危険が及ぶのであれば容赦はできぬな。さぁ、我の相手になりたいものはいるか?】
コクヨウは楽しげにニヤリと笑って牙を見せる。
挑発するような物言いで、本当は喧嘩したいだけじゃないのかなと思ってしまう。うちの子、暴れん坊だもんな。
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