転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
表紙へ
51 / 387
4巻

4-3

しおりを挟む

【さぁ、どうした!】

 戸惑う山犬たちに向かって、コクヨウはかくほうこうを放った。ビリビリと空気を震わせるその声は、先ほどのものより大きい。
 山犬たちは身をすくませ、陣形を崩しながら後ずさり始める。
 さっきはあんなに敵意をき出しにして、怖いものなんてない様子だったのに。
 今は完全に恐怖の対象として、コクヨウをとらえていた。
 もしかして、ウルバの粉末のおかげかな? 陶酔していた山犬たちの精神を、正気に戻したのかもしれない。

【逃げるなら今だぞ? まぁ、逃げずとも我は構わぬがな】

 コクヨウはペロリと舌なめずりをして、ゆらりと尻尾を揺らす。
 そんなコクヨウに山犬たちは尻尾を丸め、ブルブルと震えだした。
 コクヨウにとっては、五十匹の山犬の群れも、ただのからかいの対象か。ちょっと気の毒になってきた。
 山犬たちは悔しげにうなると、きびすを返して一斉に退却を始める。
 大人しく帰ってくれて、ホッとした。普通の山犬には、あまり怪我して欲しくない。魔に落ちかけていたとはいえ、今の様子を見るに、このまま魔獣から引き離せば大丈夫そうだ。

「フィル様、ここに魔獣化した山犬がいます!」

 カイルの緊迫した声に、俺はハッとして目を向ける。
 三十メートルほど先にある木に、カイルはいた。そして、自分がいる木の下を指さす。
 その山犬は、退却していく群れの中で、一匹だけ微動だにしていなかった。
 あれが……山犬の魔獣?
 一見、姿かたちは普通の山犬と何ら変わりはなかった。
 しかし瞳はうつろで、何を映しているのかわからない。先ほどの山犬たちが感情をあらわにしていただけに、その無表情は不気味に映る。
 魔獣が遠吠えをする。だが、その声は木々の間に溶けていった。
 今までああやって、群れの中にまぎれて指示を出していたのだろう。
 しかし、他の山犬が退散してしまった今、それに応えるものはもういない。
 カイルが魔獣に向かって、ナイフを五本同時に飛ばす。
 ナイフはかなりの速さと鋭さだったが、魔獣に当たることなく地面に刺さった。
 魔獣が姿を消したのではなく、とてつもない速さで走りだしたのだ。
 うわっ! 速いっ!
 魔獣は体全体に風をまとい、弾丸のごとき速度でこちらにやって来る。
 三十メートルくらい離れていたのに、もう数メートル先まで来ていた。

「魔獣っ! こっちだ!」

 焦ったカイルが、地面に飛び降りて注意を引こうとする。
 しかし、魔獣が進路を変えることはなかった。

「くっ!」

 カイルがナイフを投げ、ヒスイの雷撃が魔獣を追いかける。
 その攻撃に対し、魔獣は体にまとう風の層でナイフを弾き飛ばし、やくどうして雷撃を避けた。
 魔獣が顔を上げ、俺の存在を捉える。
 あきらかに俺をターゲットにしてるっ!
 何で来るんだ。食べるところ少ないって言ってるのにっ!! 
 コクヨウは魔獣の前に立ちふさがると、地を蹴って鋭く光る爪を振り下ろした。
 魔獣は風の層をさらにいくにも重ね、防御力を強化する。
 コクヨウは風圧を受けても構うことなく爪を突き立て、魔獣の体を吹き飛ばした。
 魔獣は大木に激突し、衝撃音とともにみきの一部を粉砕する。
 メキメキと木の割れる音が、悲鳴のように森にこだまし――。
 き、木が倒れたぁーっ!!
 その光景に、俺は呆然とする。
 コクヨウの攻撃力が強かったこともあるだろうが、おそらく木が倒れたのは、あの魔獣がまとう風のせいもあるだろう。あの風によって、攻撃力と防御力を同時に上げているんだ。
 それにしたって、結構な大木だったぞ。俺のいる木に激突されていたら、ひとたまりもなかったな。
 木と一緒に飛ばされる自分を想像して、思わずゾッとする。
 魔獣が木片や枝を振るい落とし、倒れた木の陰からのそりと出てくる。
 コクヨウのつけた傷口から青白い炎が立ち上り、線となって燃えていた。その深い傷を負っても、魔獣は先ほどと変わらずうつろな顔をしている。
 コクヨウはそんな魔獣の姿を見て、忌々しげに舌打ちをした。

【あの風のせいで、仕損じたか。爪が深く入らんかったわ】

 風の能力は厄介だな。通常攻撃は無効化され、コクヨウの攻撃も半減され、相手の攻撃が当たったら衝撃が倍だなんて。たちが悪い。
 俺は魔獣を見つめて、ムゥとうなった。
 魔獣相手には、浄化攻撃が有効。
 とはいえ、どの浄化攻撃なら山犬の魔獣に効果があるのか……。
 前回のおお戦では、水の鉱石と光の鉱石で聖水と聖光を発動させたけど、聖水は風で弾かれそうだし、聖光では木々に光を遮られてしまう。
 群れに対峙する時は役に立った木々が、今はネックだな。
 遮るもののないところまで、魔獣を誘導するか。
 幸か不幸か、あの魔獣のターゲットは俺だ。
 俺のエナに反応しているのかどうかはわからないが、とりあえず俺狙いを利用してみよう。

「コクヨウっ! 場所を変えようっ! 広くひらけた場所にっ!」

 体に巻いていたつたいて、木を駆け上って来たコクヨウの背に飛び移る。
 俺を乗せたコクヨウは、音もなく地上に着地すると、すぐさま走り出した。
 振り返れば、案の定魔獣は俺たちの後を追いかけてくる。
 能力から判断して、山犬は風属性だ。風属性は、動きがしゅんびんな動物が多いが……。
 あの魔獣の速さは尋常じゃないな。まとう風の層が厚いと、速度が増すのか?

「魔獣だけあって、普通の山犬より動きが速いね」

 魔獣を振り返りながら俺が言うと、コクヨウはフンと鼻で笑った。

【魔獣化すると巨大になるものもいるが、あれは速さに特化したのであろうよ】
「追いつかれちゃわない?」
【誰に言っておる。我の速さに追いつけるものなどおらん……と言いたいところだが、お前がいるからな。我が本気を出した速度に、お前が耐えられるかどうか……】

 なげかれても困る。今だって、めいっぱい必死につかまってるんだよ。
 前より筋力が増えたので、ある程度はコクヨウの速度に耐えられるようになった。
 だが、無理をしているのは変わらない。これ以上速くなったら、振り落とされて大惨事だ。
 そのまましばらく森を走っていると、前方が明るくなってきた。
 かすかに水の匂いがし、流水音も聞こえる。そろそろひらけた場所に出るみたいだ。

「ヒスイ!」

 俺が呼ぶと、後方にいたヒスイがスピードを上げ、コクヨウに並走する。
 俺はヒスイに、そっと耳打ちした。

「……頼むね」
【かしこまりました】

 ヒスイは頷くときびすを返し、後ろにいるであろうカイルのもとへ飛んでいく。
 それを見送って森を抜けると、平らでなめらかないわだたみの広がる場所に出た。
 水量は少ないが、数メートル横に広がった滝があり、その水が集まって川になっている。
 こんな状況じゃなかったら、マイナスイオンを満喫してるんだけどな。リラックスしている場合でないのが悔やまれる。
 俺はコクヨウに乗ったまま、木々と滝のちょうど真ん中辺りで体勢を整えた。
 上手くいくかはわからないが、とりあえずいちばちかだ。
 緊張にゴクリとのどを鳴らして、魔獣が来るのを待つ。
 ほどなくして、魔獣がやってきた。
 俺たちが立ち止まっているのを見て、速度を緩め、森を出る手前でウロウロしている。
 誘い込もうという思惑に気づかれてしまったのだろうか。
 そう思っていると、魔獣がこちらの様子をうかがいながら、ゆっくりといわだたみのエリアに足を踏み入れた。
 俺とコクヨウは微動だにせず、ただじっと魔獣を見つめる。
 初めの攻撃は重要だ。
 攻撃のタイミングが早すぎれば、魔獣は森に退いて、次の攻撃につなげられなくなってしまう。
 だが、近づかれすぎても、今度はこちらの身が危なくなる。
 魔獣は風をさらにまとい、歯を見せて低くうなる。
 そして一瞬後には、こちらに駆け出した。
 速いっ! しょぱなからトップスピードで来たっ!
 あっという間に距離を詰められ、目前に迫る魔獣に向かって、俺は光の鉱石を掲げて叫んだ。

「聖光!」

 辺りに射す清らかな光が、飛び掛からんとしている魔獣の体に降り注ぐ。

【ッ……グガァァァッ!!】

 魔獣の体から肉の焼けた匂いと、煙が立ち上る。
 鉱石の効力が切れるまでの数分、魔獣はいわだたみの上をのたうちまわった。
 通常攻撃はあまり効かないが、さすがに聖なる光での浄化には痛みがともなうらしい。

【まだ気を抜くな】

 コクヨウの言葉に、俺は頷く。
 聖光の攻撃は有効であったが、倒すまでには至らなかったみたいだ。
 魔獣は体中に重度の火傷やけどを負いながらも、起き上がってフラフラとこちらにやってきた。
 体にまとっていた風の層はもう消失し、歯をガチガチさせながらうなる。その様子は、不気味でしょうがなかった。
 ゾンビだ。完全なるゾンビ犬だ。
 かなりの傷を負っているのに……あの魔獣、生きることより力への執着がまさるのか。
 魔獣はうつろな瞳で俺を見つめ、仕留めるべく地を蹴った。

「カイル!」

 合図を出すと、魔獣の真横からナイフが飛んできた。
 魔獣はそれを避けようと足を速めたが、ヒスイの追い風でスピードを増したナイフが、魔獣の脇腹に刺さる。
 カイルの投げたナイフには、布が巻きつけられていた。その布には、松明たいまつに使うろうが塗られている。
 刺さり具合はどうだ? 浅いか?
 普通に考えれば充分なはずだが、聖なる光を浴びてなお立ち向かってきたのを目の当たりにすると、足りない気がしてしまう。
 魔獣はただのナイフだと思っているのだろう。突き刺さった一瞬はよろめいたが、構うことなく俺に向かって飛びかかってくる。
 もう、考えている時間はない。
 こうなったら、やるしかない。
 コクヨウが跳躍して魔獣の攻撃をよけた瞬間、俺は火の鉱石を掲げた。

「聖火っっ!!」

 刺さっているナイフが、魔獣の内側から発火する。

【グ、グガァァァァァァッ!!】

 浄化の炎は、コクヨウのつけた傷に浮かぶ青白い炎と絡み合って、勢いを増していった。
 魔獣が上げた最期の声は、炎の燃え盛る音にかき消されていく。
 倒せた……のか? あの炎の中から、またゾンビみたいに出てきやしないよな。
 俺は不安をぬぐえず、魔獣の燃えるさまをジッと見ていた。
 カイルとヒスイも、コクヨウの隣に並んで魔獣を見つめる。
 凄絶なくらい美しい炎の中で魔獣の影がちりとなるのを確認して、ようやく俺とカイルはホッと息を吐いたのだった。


   ◇ ◇ ◇


 私は、クリティア聖教会に入る際、『ラミア』と名づけられた。古代語で、『聖なる鳥』という意味だそうだ。
 八歳くらいの時、妖精と同化するな能力を得て、それ以来『ひめ』などとも呼ばれている。
 クリティア聖教会で言う『』とは、青みがかった銀髪の子供のことだ。
 青みがかった銀髪は、クリティア聖教会にとって神聖な色。それを持って生まれた子は、神に愛された子供の印だった。
 クリティア聖教会は世界中からそういった子を集めており、一般教養を学ばせつつ、聖教会の修行をさせるための宿舎があった。
 となってそこでの修行を終えれば、司教や大司教への道が約束される。
 けれど、それは親と離別し、一生を聖教会にささげるということも意味していた。
 志願して神官となる一般の者とは違い、幼くして聖教会に入るは、退路を断つためなのか、自分の出自を教えてもらえない。誰が親なのか、兄弟はいるのか、家族の名前や顔さえわからない。
 親子のえんを切らねばならぬため、になるにあたって親の許諾は必要だが、実際は子供が志望するより、親から聖教会へ差し出されることのほうが多い。家からが出たというのは名誉であり、聖教会からの恩恵も受けられるからだ。
 かくいう私も、生まれてすぐにクリティア聖教会に連れて来られた一人だった。
 クリティア聖教会の宿舎での生活が、私の世界の全て。
 狭い世界ではあったけれど、聖教会の大司教様たちや信者の方は皆優しかったし、聖教会の教えは私の拠りどころでもあったから、自分の人生に疑問や不満を抱いたことはなかった。
 修行中は、いつか人々の心に寄り添える者になれればと、それだけを考えていたものだ。
 ただ十三歳の頃、一度だけ、聖教会の宿舎を出て行こうとしたことがある。
 周りが私を神格化するのが辛くて、逃げ出したくなった時のことだ。


「ラミア姉さま、何してるの?」

 金髪のふわふわ頭を揺らして、少女が首を傾げる。

「セリナ……」

 宿舎を出て行こうとかばんに荷物を詰めていた私は、セリナを見上げた。
 私のほうが三つ年上だが、背はセリナのほうが高い。妖精と同化するようになって、私の成長は緩やかになり、あっという間に追い抜かれてしまった。
 セリナは宿舎の使用人の娘だ。手伝いで寮に出入りするうちに仲良くなり、お互い姉妹のように思っていた。

「どこに行くの?」
「……ここじゃない、どこかよ」

 見つかってしまったことに顔をこわらせて言うと、セリナはキョトンとした。

「ラミア姉さま、いつ帰ってくる?」

 ただの外出だと思っているのか、セリナはニコニコと無邪気に笑った。いつもはこの笑顔にいやされるが、これから話すことを思えば胸が痛む。

「帰って来ないわ」

 小さくそう告げると、セリナは途端に悲しそうな顔をした。

「え! どうして?」
「私には何の力もないもの……」

 うつむいて、そうつぶやく。
 妖精と同化することができても、人を助けるすべは少ない。
 日照りの時に雨を降らせることはできるが、長く雨雲を維持するのは不可能だ。
 水の中で息ができても、おぼれている人を引き上げる力はない。
 風を吹かせることや、火をおこすことは、そんなに強い力ではないから召喚獣で事足りてしまう。
 妖精に愛され同化の能力を持つ私は、人としてな存在かもしれないが、いくら神格化されても本当の神ではないのだ。
 力のない自分に、信者を救済できるのだろうか。人々の期待に押しつぶされそうな、こんな弱い自分に……。
 その証拠に、修行仲間からもひめだからと一線を引かれ、セリナ以外に親しい友達も作れない。
 そう考えたら、私がここを出て生きて行けるのかも疑問ね。このかばん一つ埋まらないほど、私が自由にできる物は少ないんだもの。どこかに行きたくても、行けないんだわ。
 隙間の多いかばんを見下ろして、ちょう気味に笑った。
 セリナはそんな私を抱きしめる。

「いなくなったら困る! 私も聖教会で修行しようと思ってるのに!」
「え?」

 それは思ってもみない言葉だった。

「母さんに言ったらね、私は金色の髪だからラミア姉さまみたいなにはなれないけど、今から修行すれば、二十歳前には司祭になれるんじゃないかって。神官だったらラミア姉さまが偉くなっても、いつでも会いに行けるもんね」

 確かに幼い時から修行を始めれば、司祭や司教の資格は取れるだろう。
 と違い、一般の神官志願者は定期的に家族と会うことを許されている。
 だが、修行は大変だし、神官になったら世界に点在する支部に派遣される可能性もある。

「支部に行くことになったら、お母様やお父様や弟たちとも離れることになるのよ」

 私は親兄弟の顔を知らないが、セリナは違う。とても優しい両親がいる。可愛い弟たちもいる。
 そんな私に、セリナは「ふふふ」と笑った。

「ラミア姉さま知らないの? 支部に行っても、年に何回かは報告で本部に戻らなきゃいけないんだよ。そのついでに会えばいいんだよ」

 セリナは抱きついたまま、おでこをコツンと合わせた。

「それに、私はラミア姉さまの妹でしょ? 姉さまが悲しい顔してたら笑わせるのが、妹の役目だもん」

 私の目から涙がこぼれ落ち、とめどなくあふれてきた。
 今まで私は姉代わりのつもりで、セリナを可愛がっていた。
 だけど、本当に支えられていたのは私のほう。
 この無償の愛情に、私はどう返せるだろう? 姉としてできることは何だろう?

「だから、ラミア姉さま。どこにも行かないで……」

 震える腕で抱きしめるセリナに、私は何度も頷いた。
 セリナがこの道を進むというのなら、私は先を歩いて導き守ろう。
 だってそれは、私にしかできないことなのだから……。


 ピチャン――と、頬にしずくが落ちる。
 ゆっくりとまぶたを開け、二度三度まばたきをした。
 視界は薄暗かったが、ゴツゴツとした岩盤が見える。
 雨に似た水の音に混じり、時々水滴の落ちる音がした。
 ここはどこかしら……? 洞窟?
 確か、聖属性の動物探索に北の森に来て、それから…………。
 頭の奥のにぶい痛みに顔をしかめ、ひたいに手を当てて床から上半身を起こす。そこで初めて、自分がコートを広げた岩盤の上に寝ているのだと気づいた。自分のコートは着ているから、下に敷いているのは別の誰かものだろう。
 そうぼんやり考えていると、駆け寄る足音が聞こえていきなり抱きしめられた。

「ラミア姉様っ! 良かったあぁぁぁっ!!」

 涙声が洞窟の中に反響する。
 抱きつかれて顔を確認することはできないが、声でセリナだとわかった。
 十八歳になっても、相変わらず落ち着きがない。てんしんらんまんなまま成長したのはいいけれど、今は豊満な胸をしているのだから、押しつけられると息が苦しい。

「ラミア姉様、結界を張ったと思ったら、糸が切れたみたいに倒れちゃって……心配したんだよ!」

 その言葉を聞いて、先ほどの出来事を思い出した。
 あぁ……そう言えば。ステア王国の北の森を探索中、魔獣が現れたんだわ。
 魔獣や山犬の群れに追われながら、滝の裏にある洞窟に逃げ込み、何とか結界を張ったのだ。
 だが、結界を張るのは、集中力を要する。
 疲労に加えて、結界を張れた安心で意識を失ってしまったのね。

「一人で結界を張るなんて、無茶するんだからぁ!」

 さらに胸を押し付けられ、息ができずに意識が遠のく。

「セリナ! 嬉しいのはわかるけど、ラミア様がちっそくしちゃうわよっ!」
「あ、ナタリー先輩! はわわ! ごめんなさい! 姉様っ!」

 セリナは両腕をぱっとといて、私を解放した。
 く……苦しかった。
 私は深呼吸を、ゆっくりと繰り返す。

「大丈夫ですかっ?」

 ナタリーがひざをつき、私を気遣って顔をのぞき込む。
 彼女のぐに伸びた青みを帯びた銀髪は、肩の長さでサラリと揺れた。

「ええ」

 息を整え、安心させるためにっこりと微笑む。
 それを見てホッとしたナタリーは、鼻息荒くセリナをひと睨みした。

「セリナったら、まったく!」
「ごめんなさぁい!」

 セリナが頭を抱えて謝る。子供の頃のふわふわ頭は、今はゆるい巻髪になっていた。腰まで伸びたそれを、高い位置で一つに束ねている。
 今彼女は、クリティア聖教会ステア王国支部に在籍している司祭だ。ナタリー司教は、セリナの一つ年上の先輩である。
 司祭になってもセリナの性格は変わらず、真面目なナタリーによくお説教されているらしい。
 今のやり取りがいつも行われていると思うと、とても微笑ましかった。

「二人とも、声が大きすぎると思うんだが……」

 男性が木を杖代わりにして、カツリ……カツリ……とゆっくり歩いてくる。
 ブラウンの髪色をした優しげな顔つきの彼は、ステア王国支部のクロード司教だ。三十代半ばだというが、年齢よりも落ち着いて見える。

「結界内と言っても、用心するに越したことはない。大声を出しては、周りの小さな音を聞き逃してしまう」

 優しくさとされて、二人はシュンと頭を下げる。

「ごめんなさい。いくらラミア姉様が心配でも、外には山犬や魔獣がいるのに……」
「申し訳ありません。私まで騒いで」

 うつむく二人を見て、クロードが小さく噴き出した。

「態度が極端だなぁ」
しおりを挟む
表紙へ
感想 4,965

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。