君は僕だけの

アラレ

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14時

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「…いお?」


聞き返す彼女にひとつ頷くと、案の定



「え!!かっわいい!!女の子みたい!!」





もう言われ慣れたけど




「伊央さんって呼んでいいですか♡」

「ダメだよ絶対」





えーー!可愛いのにーー!と繰り返す彼女を無視していると、横で泥酔女が俺のいる側に置いていた冷奴を皿ごとテーブルにぶちまけた



うわぁ、もう勘弁しろよ




「あああー、大丈夫??」

目の前で調理していた店主らしき人が女に声をかける




「…すみません」



とんだ迷惑女だと思っていたが、常識はあるらしく、何度も何度もすみませんと繰り返す


「お兄さんも大丈夫?」

「あ、俺は全然」



そのあと布巾を持ってきた若い娘にもすみませんと繰り返していた





「伊央さん大丈夫ですか?」

「ほんとにやめて」




「今日だけ!お願い!!だって可愛いんだもん♡」

美咲あおいはすっかり面白がってしまっている



「はぁ…」


そういえば


「…あいつもよく言ってたな」



こんな時にも、思い出すのは君ばっかで、自分でもちょっと呆れる


「何をです?」


「それ…可愛いってやつ

あいつは逆に男みたいな名前でさ」





「…すみません同じのもう一杯」


おいまだ飲むのかよ





「男みたいな名前?」


「うん、それでよく俺の名前が可愛くて羨ましいって言ってた」








「いやいや、もう今日は止めときなって!帰った方がいいよ!お代はまた今度でいいし!」


なんだ、常連なのか





美咲あおいと話しながら、なんとなく耳に入ってくる横の会話に1人つっこむ



「いや、もうちょっと、飲み足りなくて」

いや帰れや、呂律まわってねーし





「なんて名前なんですか?その人」




「そいつの名前、」









「悪いこと言わないから今日は帰りな!



ゆうきちゃん!」



「そうそう、結希…


え、」







まさか、






名前が一緒なんてよくあることだし






そんな珍しい名前ってわけでも







「あの!こいつ月島結希ですか?」


頭の中では冷静を装いながらも、体はそうはいかなかったみたいだ



「ちょ、先輩どうしたんですか?」


美咲あおいは珍しく声を荒らげた俺に驚いたようで、不安げな声を漏らす








「…なんだ兄ちゃん、結希ちゃんの知り合いかい?悪いけど送ってってあげてよ、今日ちょっといろいろあったみたいでさー」




「もちろんです」



自分の心臓の音が頭まで響いてきて、今にも割れそうだ





「結希!結希!」

ああ、声がふるえる






意識が虚ろで反応のない彼女の肩に腕を回すと、急に暴れだし、全く力の入っていない手で胸を叩かれる


「帰んない!」



そう言った彼女が俺をキッと睨んだとき、初めてまともに顔をみた



化粧もぐちゃぐちゃ、髪もボサボサ



でも




「…ああ、ほんとに、



ほんとに、結希だ」





興奮で胸がいっぱいになる


俺まで頭がくらくらしてきた




彼女は俺だと分かってないようで、必死の抵抗を繰り返す



その目には涙が浮かんでいた





ねぇ、それは何の涙なの



どうしてやけ酒なんかしてたの






「あの、先輩?」




「…大丈夫だよ、結希」


暴れる彼女をそっと抱きしめる


「はっな、して!」


しばらく抵抗したあと、気を失った彼女を背中に抱える





「悪いねぇ兄ちゃん、頼んだよ」



「はいっ…」


息が詰まって目眩がする


上手く呼吸ができない







「ちょっと先輩待って!説明してくださいよぉ!」


完全に忘れてた




「っ…ごめん美咲、また会社で!」



「え!ちょっと!先輩?!」


後ろから美咲あおいが何か言っているが、そんなことを気にする余裕もないまま、店を出た








「スタンガン使わないじゃない…あんなに大事そうに抱きしめちゃってさ…」













タクシーを捕まえて、眠っている結希を先に乗せ、俺も一緒に乗り込む




「結希、家どこ?」


「…」





「すみません、┈┈┈までお願いします」



運転手に俺の住所を告げると、あいよ、と頷き車を出した







居酒屋はいろんな匂いが混じってて、横にいても気づかなかったけど



店を出た瞬間すぐに感じた






結希の匂いだ



ずっと大好きだった匂い







「っ…」



「…お客さん、どうかしやしたか?」




ああ、胸がいっぱいすぎてはち切れそうだ



「ああ…いえ、今最高に幸せで…」


「はは、そうですかい、それならよかった」








もう胸がいっぱいすぎて、涙が止まらない


































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