君は僕だけの

アラレ

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5時40分※

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私達はバスケ部だった





といっても、男バスと女バスで関わりはあんまりなかったけど




1年の頃からクラスが同じで




だから、私も伊央のことは知ってたし、伊央も多分、私のこと知ってたと思う






春大のすぐ後、私は右足を盛大に捻挫した




部活を続けたかったけど、さすがに色んな人に止められて、いっとき練習を休むことになった



でもやっぱり、何もしないのは気が引けて、自分からマネージャーを志願した




全治2ヶ月



その期間はとてももどかしかった







体育館はバレー部と共同で使っていて、バレー部が練習してるときはバスケ部は外周に行く




もちろん私は行けるはずもなく、 みんなが帰ってきた時のために、外の少し離れたとこにある水道まで行って、スクイズの用意をしていた



そんなある日







「…あ」




「あれ、吉高くんじゃん」




いつものように水道に行くと、渡り廊下の影に隠れて座っている彼を見つけた







「…どうも」




「なるほど~、こんなとこでいつもサボってたのか!こりゃ見つからんはずだわ」




「…そっちは」




「ん?」




「…怪我、大丈夫なの」





「うん!全治2ヶ月って言われちゃったけどね」





「…松葉杖は?」





「あー、…苦手でさぁ」




「…ふっ」




「あれ、ちょっと今笑った?」




「別に」





「うそ!笑ったでしょ!」





「笑ってない


…まぁ、春大終わってからでよかったじゃん」








なんか、吉高くんってゆっくり話すなぁ



マイペースっていうか




なんか、




いいなぁ








「そういえばさ、ずっと言いたいことあって!」



「…なに」





スクイズの準備が終わって、彼の横に腰掛ける



うわ、気持ちいいなここ






「吉高くん!名前で呼んでもいい?」


ちゃんと話したのは今日が初めてだけど




ずっと気になってた



伊央って名前





「…あんまりすきじゃないから」



「ええ!私も!交換する!?」



「は?…」




月島結希


男っぽい名前がずっとコンプレックスで



男の子なのに、可愛らしい伊央って名前が羨ましかった










「私ね、結希って言うんだけど、いっつも男の子だと思われる!」




「…俺も女の子だと思われるよ」






「いいなぁー!」



「いいなって…一緒でしょ、境遇は」



「伊央くんって呼んでいい??」



「…人前ではやめてね、みんなが呼び出したら嫌だから」




「やったあ!!」










そこから、その場所でよく話すようになった





いつも怒られている彼だけど、



外周のたびに毎回サボっている訳ではないらしく、



ちゃんと計算しているようだ






「毎回さぼったらさすがにバレるからね、

ここも見つかったらやだし、

3回に1回くらいしれっと抜ける」





「くそお!なんでそんなやつがバスケ上手いかなぁ」




人数の少ない女バスの私が試合に出してもらうのはそんなに難しくないけど、



人数の多い男バスで試合に出してもらってる彼は普通にすごい





「…まぁ、結局バレて怒られるんだけど」





そんな彼を嫌う同級生ももちろんいた


無愛想だし、サボるし、そのくせ謎に先輩に好かれるし、試合に出るし



でも実力は認めてるから、喧嘩になったりとかはしなかった






「伊央くんって器用だよね~」




「無駄をはぶいてるだけだよ」




「それがすごいんだよ」







私の幼なじみの、かなも伊央くんが気に入らないらしい


(なんか、いけすかないんだよね、態度が)


って言ってたな笑





まぁ、サボりは普通に悪いことだし、そういうとこがあるのは認めるけど



私はやっぱり



彼の雰囲気とか、話し方とか




好きだなって思う










そんなとき、彼がお笑い好きだと知った





「たまに教室でYouTube見てると思ったらお笑い見てたのか!


えーー!!!意外すぎ!!!」




「…月島さんは好きそうだよね」




「でしょ?!でもね、意外といないんだよね、お笑い好きって!だから嬉しい!」





「俺も、M-1とか見てる人はいるけど、がっつり好きな人はあんまいないよね」






なんと、好きな芸人もいろいろ被ってて


でもお互いに知らないのもあった





そこからLINEを交換して、オススメを送りあったりした



教室ではあんまり話しかけられたくないらしく、話すのは外周のときくらいだったけど




私達はどんどん仲良くなった




呼び方が、伊央くんから伊央に変わり、


月島さんから結希に変わるころには



この気持ちはもうすっかり恋だった






でもそれと同時に、足はばっちり完治して、私も練習に復帰した








そして、伊央と話すことはほとんど無くなった








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