天使の国のシャイニー

悠月かな(ゆづきかな)

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旅立ち

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ラフィがサビィの部屋を訪れると、彼は望遠鏡を覗いていた。

「やぁ、サビィ。また地球を見ているのかい?」
「いや、地球だけではない。子供達が向かう全ての惑星を見ていた。」

サビィは望遠鏡から目を離し、ソファに座るように促した。
2人がソファに座ると、早速マレンジュリティーがテーブルに並び、甘く爽やかな香りを放った。

「それで、子供達は無事に惑星を決めたのか?」
「うん。全員決めたよ。最初は旅立ちに不安を感じていたけど、今は落ち着いてるよ。」
「そうか…それなら良かった。シャイニーとフレームが決めた惑星は?」
「シャイニーは地球を選び、フレームはレイニー星に決めたよ。」
「シャイニーは、やはり地球にしたか…修業で地球を選んだ天使はブランカ以来だ…」
「そうだね…シャイニーなら、きっとやり遂げるはずだよ。」
「うむ…そうだな。シャイニーならやり遂げるだろう。問題はフレームか…」
「まぁ…フレームに関しても "小さくてもちゃんとサビィ " もいるし、僕達が気を付けていれば大丈夫だろうね。」
「ラフィ…私の分身をそのように呼ぶのは止めろ。」

サビィは、上目遣いでジロリとラフィを睨んだ。

「あはは。ごめんごめん。あまりにも小さなサビィが可愛いから、ついついからかいたくなるんだ。」

クスクス笑うラフィを、サビィは横目で見ながら髪を数本抜くとフーッと息を吹きかけた。
キラキラと輝く美しい銀髪は、小さなサビィ達へと姿を変えていった。

「さぁ、お前達は私の代わりにフレームを守るのだよ。」

小さなサビィ達は頷くとスッと姿を消した。

「さてさて…子供達にとって実りある修業となるように僕達は見守ろうか。」

ラフィの言葉にサビィは頷き、子供達が成長し無事に帰ってくる事を願いながら、2人はマレンジュリティーを飲み干したのであった。



シャイニーとフレームは、ハーニーがいる誕生の部屋を訪れていた。

「ハーニー、いよいよ明日から修業の旅に出発するよ。」
「明日からなのね。もう、そんな時期なのね…本当に早いわ…2人はどこの惑星に行く事にしたの?」
「俺はレイニー星に行くんだ。」
「僕は地球だよ。」
「レイニー星は、フレームに合っていると思うわ。シャイニーは地球にしたのね。大丈夫。2人なら必ずやり遂げられるはずよ。気を付けて行って来てね。」

ハーニーは笑顔で2人の頭を撫でた。

「私も2人の修業の様子を見てみたいわ。ラフィ様にお願いしてみようかしら。」
「うん!ハーニーが見てくれるなら頑張れるよ。ね、フレーム。」
「うんうん。ハーニーが見てるなら、俺も頑張って修業するぞ!」
「あらあら、私が見てるから頑張るの?」

ハーニーは、クスクス笑いながら2人を見た。

「ち、違うよ。ハーニー。えっと…ちゃんと頑張るよ。だけど…ハーニーが見てくれるなら、もっと頑張れるかなって…ね!フレーム!」
「お、おう!そうそう。ハーニーが見てくれるなら、めちゃくちゃ頑張るぜ!」
「ウフフ。2人が頑張っている姿を見るのが楽しみだわ。」

ハーニーは2人の成長が楽しみでもあったが、同時に寂しさも感じていた。

「2人共、ついこの間まで小さかったのにね…学び始めてからの成長は目覚ましいわ…」

ハーニーは、成長の部屋に行くのが嫌で泣いていたシャイニーの姿を思い出していた。

「ハーニー…僕達が修業の旅に行くと寂しいの?」

シャイニーが心配そうにハーニーを見つめている。

「いいえ…そんな事はないわ。修業の旅は、あなた達にとって大きな学びになるの。とても良い経験になるはず。とても喜ばしい事なのよ。」
「でも…ハーニー、寂しそうだったよ。」

ハーニーは、首を左右に振りながらシャイニーとフレームを見た。

「あなた達の成長はとても嬉しいわ。でも…困った時や苦しい時は、いつでも私を頼ってね。」

シャイニーとフレームは大きく頷くと、ハーニーに抱きついた。

「ハーニー、行ってくるね。」
「ハーニー、行ってくるぞ。」
「行ってらっしゃい。」

ハーニーは2人をギュッと強く抱き締めた。



シャイニーとフレームは誕生の部屋を後にし、それぞれの部屋に向かった。

「シャイニー、次に会う時は修業から帰った時だな。」
「うん。フレーム、お互いに頑張ろうね。」
「おう!明日は、それぞれ黙って旅に出るか?」
「うん。お互いが一番良いタイミングで旅立った方が良いだろうし、そうしようか。」

2人は頷きながら固い握手を交わした。

「シャイニー、頑張れよ。」
「うん。フレームも頑張って!」

そうして、2人はお互いの部屋に戻って行った。
シャイニーが部屋に入ると、髪の中からフルルが飛び出し飛び回ろうとした。

「フルル、こっちにおいで。」

シャイニーが呼び掛けると、フルルはすぐにやって来た。

「フルル、僕は明日から地球に修業の旅に出るんだ。この間も聞いたけど…君も一緒に来るかい?」

フルルは、シャイニーの問い掛けに、すぐさま頷くように体を何度も倒した。

「良かった。フルルが一緒に来てくれるなら頼もしいよ。」

フルルは、シャイニーの言葉が嬉しかったのか、その場でジャンプを何度も繰り返して見せた。
その姿が可愛らしくニコニコと見ていたが、ふとシャイニーは顔を上げ部屋を見渡した。

「暫く、この部屋ともお別れだな…あ!そうだ。チック、僕は明日から地球に修業の旅に行くんだ。暫く留守にするね。」
「そうだったわね…寂しくなるけど、頑張って行って来てね。シャイニーが帰って来るまで、シッカリこの部屋を守りながら待ってるわ。」

掛け時計のチックは、寂しさを隠すように努めて明るい声で言った。

「ありがとう、チック。今日は早めに寝て明日に備える事にするよ。」
「そうね、その方が良いわ。おやすみシャイニー。」
「おやすみ、チック。おいでフルル。一緒に寝よう。」

シャイニーは、フルルを優しく抱き締めるとベッドに潜り込んだ。

「修業の旅が僕にとって素晴らしい旅となりますように…それから、琴ちゃんと出会えますように…」

シャイニーが呟くと、天蓋の星達がキラキラと瞬き流れ星となって一斉に流れていった。

「わぁ~凄く綺麗…星達がまるで応援してくれてるみたい。ありがとう。」

シャイニーは、期待と不安を胸に抱きながら瞼を閉じた。



フレームも、その頃ベッドに横になっていた。

「ヒュー、明日からの修業の旅にお前も行くだろ?」

ヒューは飛び回りながら遊んでいたが、問い掛けに動きをピタッと止め、少し考えるとフレームに飛び付き、じゃれるようにまとわりついた。

「あはは!ヒュー、くすぐったいぞ!一緒に行きたいのは分かったから。」

ヒューは、フレームの言葉に納得し頷くと、そのまま髪の中に潜り込んだ。

「おいおい、納得したら寝るのかよ。まぁ、明日から大変そうだしな。俺も寝るとするか。」

フレームがベッドに潜り込むと咳払いが聞こえてきた。

「コホッ!コホッ!」
「ん?何だ?クルックか?」
「ええ!そうですわ。フレーム、私の存在をお忘れのようですわね。」
「ん?クルックの事は忘れてないぞ。お前みたいな強烈な時計、忘れたくても忘れられないし。」
「まぁ!フレーム!それは一体どういう意味ですの?」
「そのままの意味だけど?」

フレームは、ニカッと笑いクルックを見た。

「キーッ!フレーム!失礼ですわよ!」
「お!何だ?久し振りにムチを飛ばすのか?」

フレームは慌てて枕を頭に被り、飛んで来るかもしれないムチに備えた。

「そんな事…しませんわ…明日からフレームは、暫く帰ってきませんもの…」

クルックは寂しそうに呟いた。
フレームは頭から枕を下ろすとクルックを見た。
クルックは、ムチをダランとぶら下げ項垂《うなだ》れている。

「クルック…どうしたんだ?」
「どうもしませんわ!ちょっと寂しいだけです…」

フレームは、そんなクルックを見てフッと笑うと、壁からソッと外した。

「クルック、今夜は一緒に寝ようぜ。また子守唄歌ってくれよ。」

クルックは、フレームの優しさに胸がジンワリと温かくなったが、その気持ちを悟られないように、文字盤をグッと反らし胸を張るような姿を見せた。

「仕方ありませんわね。歌って差し上げますわ。」
「クククッ…何照れてんだよ。」
「て、照れてなんていませんわ!さぁ!明日から大変な修業が始まるのですから、もう寝ますわよ。」

クルックは、慌ててフレームの手の中からベッドへと飛び降りた。

「はいはい。全く素直じゃないよな~」

フレームは、ブツブツ言いながら再びベッドに潜り込んだ。

「では、歌いますわよ。」

クルックが優しく子守唄を歌うと、フレームはすぐに規則正しい寝息を立て眠りに落ちていった。

「フレーム…あなたは本当に生意気ですわ。でも…優しい子…明日からの修業を頑張るのですよ。」

クルックは、優しく囁くとフレームに寄り添うように眠るのだった。



翌日、フレームは部屋の中央に立ち深呼吸をしていた。

(俺はレイニー星に旅立つ…)

心の中で呟き、レイニー星を思い浮かべると足下に砂漠が広がった。
(これがレイニー星か…それで、俺が行く街は…)

フレームが街を探しキョロキョロしていると、砂漠の中に一部だけ緑に囲まれた街が見えてきた。

(あの街だな。)

フレームは目を閉じ深呼吸すると、心の中でシャイニーに話しかけた。

(シャイニー…お互いに頑張ろうぜ。また後でな!)

「よし!ヒュー行くぞ!」

目を開けヒューに話しかけると、髪の中でモゾモゾと動いている。
その動きを確認するとフレームは、翼を羽ばたかせ飛び立った。
その瞬間、小さなサビィ達が姿を現し、フレームの後を追うように飛び立っていったのだった。




「フレーム…?」

シャイニーは、フレームの声が聞こえた気がして辺りを見回した。

(フレームの声が聞こえた気がしたんだけど…気のせいかな?)

シャイニーは、ベッドに座り地球に旅立つ心の準備をしていた。
フルルは、シャイニーの手の平に乗りジッとその時を待っていた。

「よし、行こう!」

シャイニーは心の準備を終え、地球の姿を思い浮かべた。
様々な美しい自然が頭に浮かび、再びシャイニーを魅了していった。

(やっぱり地球は綺麗だな…ラフィ先生が見せてくれた蛍も綺麗だったし…でも、僕はやっぱり琴ちゃんの事が凄く気がかりだ…)

泣いている琴の姿が脳裏に浮かんだ瞬間、足下の床が消え去り雲海が広がった。
そして、厚みのある雲が少しずつ切れ切れとなり、その切れ間から緑に囲まれた住宅街が見えてきた。

(ここに琴ちゃんがいるの?)

フルルは、突然広がった住宅街に驚き、急いで髪の中に潜り込んだ。
シャイニーは深呼吸をすると翼を広げ、心の中でフレームに話しかけた。

(僕も頑張るから、フレームも頑張ってね。)

「フルル。さぁ、行くよ!」

シャイニーは、翼を羽ばたかせ地球へと飛び立っていった。



「いよいよ旅立ちの時が来たか!」

ガーリオンが黒い炎に縁取られた禍々しい鏡で、シャイニーとフレームの旅立ちを見ていた。

「この時を待っていた。ラフィやサビィの守りが手薄になる時を!イガレス!イガレスはいるか!」

ガーリオンが呼び掛けると、女性の悪魔が現れ跪《ひざまず》いた。

「ガーリオン様、イガレスはここに。」
「フレームとシャイニーが旅立った。サビィやラフィに気付かれぬように、シャイニーを潰せ!」
「はっ!承知しました。」

イガレスが、その場からスッと姿を消すと、ガーリオンはシャイニーを映し出していた鏡を叩きつけた。

「フレーム…お前が我が元に来る日は近い。シャイニー、お前は邪魔だ。必ず潰す!」

ガーリオンは呟きながら、割れた鏡を憎々しげに踏み潰した。

「この世に光など必要ない。闇が全てとなるのだ!小賢しい天使ども、今にみておれ!全ては我が手中にある!」

ギリギリと歯軋りをしながらガーリオンは、赤い液体が入ったゴブレットを手に取り一気に飲み干した。

「天使など、この手で捻り潰してくれるわ!フッフッフッ…アーハッハッ!」

不気味で身の毛もよだつような笑い声が魔界中に響き渡り、それを聞いた悪魔達は歓喜の声を上げるのであった。

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