誤り婚-こんなはずじゃなかった!-

蒼崎 恵生

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 あいなは秋葉の居る客室に向かっていた。無意識のうちに足が早くなるのは、内に抱え込んだ様々な感情のせい。

 シャルと一晩共に過ごし、不覚にも彼と迎えた朝を幸せに思えてしまった。一緒にいると伝わってくる、シャルの気持ち。自分に対しての彼の言葉、行動、それらは全て、あいなへの一途な愛を表現するのに充分だった。

(今まで片想いしてきた人からは、望んでも向けられなかった気持ちだな……。)

 自分の父親のようにはなりたくない。結婚に妥協したくない――。
 シャルの言葉を思い出し、あいなはしんみりした。子供が自分の親を否定するのは勇気がいるし痛みを伴(ともな)う。

(ああ言った時、シャルはどんなにつらかっただろう?)

 幸せになりたいのは自分も同じだし、今さら結婚を辞めることなどできない。しかしあいなは、シャルの内面を知れば知るほど、結婚にためらいを覚えていた。

(シャルにドキドキする。優しさに胸がギュッとなる。でも、今までの恋みたいに私から好きになったわけじゃないし、こっちから告白したわけでもない。
 結婚相手は好きな人と。そう決めたクセに、今の私は流されるがままになってる……。それってどうなの?)

 シャルの愛情を感じれば感じるほど、あいなは自分がいい加減な女に思えてならなかった。彼と同じ大きさの愛情を彼に対し持てているのかも分からない。結婚に熱心なシャルを自分のせいで不幸にしたくないと思う。

 ここへきて、あいなはもっとも真剣に結婚のことを考えていた。

 今の自分に違和感を感じてしまう理由は他にもある。ルイスの存在だ。

(シャルとの結婚を控えてるクセに、私、ルイスさんにもドキドキしてるし……。同時に二人の男の人にときめくなんて、最低なことだよね?)

 思えば、城に来た時からルイスは優しかった。

(さっきなんて、主のシャルを不愉快にさせてまで、私のこと気遣ってくれた。ルイスさんはシャルの専属執事なのに、どうしてそこまで?)

 立ちくらみにより背後から抱きしめられたこと。指先にそっと触れられ見つめられたこと。
 ルイスに触れられた場面全てを思い出し、一人赤面してしまう。

 普段から冷静で穏やかなルイスが、今日は何だか違って見えた。それは、執事として次期王妃を敬う態度なのだとあいなは思い込もうとしたが、何だか違う気がする。

『私も、好きな人の前ではただの男です』

 ルイスの言っていたことを思い出し、あいなの胸はまた、高鳴った。自分に向けられた言葉ではないのに、どうしてこうも胸を乱されるのだろう?

(秋葉なら、何て言うかな?)

 一刻(いっこく)も早く、秋葉に相談してスッキリしたい。


 考えごとをしながら歩いているとあっという間に秋葉のいる客室前にたどり着く。ノックをしようとして、あいなはピタリとその手を止めた。中から、ルイスやシャルの声が聞こえてきたからだ。

(まだいたんだ……!)

 秋葉と二人きりで話したかったのに、なぜまだいる。そう思ったが、シャルはもうじき公務で城を出ると言っていた。

(大丈夫。シャル達はすぐ出ていくんだし、気にせず開けちゃえ!何とかなるさっ!)

 ノックをすると、あいなは自分の名前を告げた。

「おはよう。あいなだよ。今、いい?」
「いいよ、入って」

 ノックする前の緊張がどこかへ行ってしまうくらい秋葉の声は穏やかで、あいなは安堵(あんど)した。だが、室内に足を踏み入れると、空気が固まっている。

(何、何!?)

 あいなは動揺し、同時に、やっぱりノックせずに引き返せば良かったと後悔した。

 どういうわけかルイスはシャルによって壁際まで追いつめられているし、シャルはシャルでひきつった顔であいなを見ている。あいながこの部屋を訪れる直前まで何かしらの件で揉めていたのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。反射的に、さきほどシャルとルイスがケンカに近いやり取りをしていたのを、あいなは思い出した。

 しかし、今はもう、険悪な雰囲気ではなさそうである。ならばなぜ、皆、あいなを見て硬直しているのだろうか。

 その場でただ一人、秋葉だけはあいなの訪問に安心感をあらわにしている。

「壁の絵画が外れかかってたから、ルイスさんとシャル王子が直してくれたんだよ。危なかったですね。ありがとうございました」

 ルイスより先にそう言葉を連ねたのは秋葉だった。あいなは納得し、「良かったね、ケガとかしなくて」と、納得した。シャルとルイスは感謝の気持ちを込めて秋葉を一瞥(いちべつ)する。

 それでもまだ消えきらない不自然な雰囲気を気にせず、秋葉は言葉を継(つ)いだ。

「ちょうど皆|揃(そろ)いましたし、私から話しておきたいことがあるんです。すぐ済みますから聞いてもらえたら嬉しいんですけど」
「改まって、どうした」

 シャルが興味を示す。

 ルイスの案内で皆がソファーに腰を下ろすと、秋葉は語った。

「あいなと龍河(りゅうが)君が昔ここへ訪れる前に使ったあのおまじない……。私があいなに教えたバロニクス製の秘(ひ)された呪術(じゅじゅつ)なんです」
「なるほど……。あれは、秋葉様のご両親が地球に移住する際に自国から持ち込んだまじないだったのですね」
「そういうことです」
「バロニクス製で、しかも、皇帝の側近しか知ることのできないまじない。世界のまじない書に記載されていなかったわけもうなずけます」

 ルイスが言った。

「では、何のためにあなたはあいな様にそのようなまじないを教えたのでしょう?」
「それは俺も聞きたい」

 シャルが秋葉を見つめる。あいなは困った顔で、

「そんなすごそうなおまじない、使った?私は覚えてないんだよぉ……」
「それは、あいなに魔法耐性がなかったからなの。魔法耐性のない人が強力なおまじないを使うとその分負荷がかかってしまうから、おまじないを使った記憶とそれに関する出来事があいなの脳から消えてしまう。その時の私は、おまじないの恐さを知らなかった」
「そっか、それなら仕方ないね」
「後々お母さんに聞いておまじないの危険性を知ったけど、あいなにも龍河君にも言えなかった。そんな危ない思いさせたって知られたら、嫌われるんじゃないかって……。あいなのこと失いたくなかった。ごめんね、そんな大事なこと今まで黙ってて……」
「大丈夫だよ。この通り、何ともないからさっ」
「あいな……。許してくれるの?」
「最初から怒ってないよ。悪気がないの分かってるし、いつも秋葉と一緒にいられて楽しかった。私こそありがとうって言いたいよ。だから気にしないで?ね?」

 あいなは秋葉を抱きしめ、怒っていないことをアピールする。友情に飢(う)えている秋葉の心情を、あいなは誰よりも理解していた。

「恐がらないで?私は何があっても秋葉を嫌いになったりしない。今までも今日もこれからも、ずっと大好きだから」

 優しく秋葉を抱きしめるあいなの姿に、シャルとルイスはそれぞれ見惚れていた。

「私のこと、羨(うらや)んでます?」

 男性二人のまなざしに気付き、秋葉はクスリとイタズラな笑みをこぼす。

「うらやましいって?」と首をかしげるあいなから、シャルとルイスはパッと目をそらし、それぞれのセリフを秋葉に返す。

「お二人の仲の良さが微笑ましいです、とても」
「女の友情ってやつにちょっと感動しただけだっ」

 秋葉はからかうような口ぶりで、「そういうことにしておきます」。気を取り直し、事のいきさつを話した。

 昔、秋葉とあいなは、恋愛のおまじないを試すことに夢中だった。小学校高学年にもなると、恋の話に興味を深める女子は多かった。それに引きずられるように、二人は恋への関心を高めていく。

 小中学生向けに、おまじないや占いの本が多数発行されている。それを知った二人は、手当たり次第にそれらを試していった。

 好きな人と街でバッタリ会えるおまじない。魅力的な女の子になれるおまじない。異性から告白されるおまじない。

「でも、何をやってもコレといった効果が出なくて……。ダメだと思いつつ、私は両親の管理する書斎からまじない書を持ち出しました。これなら絶対効果が出る、そう確信して……。

 あいなにそれのやり方を教えました。『運命の人に出会えるおまじない』です。龍河君は時々私達の遊びに付き合ってくれてたんですがその時もたまたま一緒に居たので、あいな、龍河君、私の三人でおまじないを使いました」

 このおまじないは強力なので効果対象に制限人数があった。そのため秋葉だけが弾かれてしまい、あいなと龍河だけがその効果を得ることになる。

「でも、後々よく確認したら、それは運命の人に出会えるおまじないではなく、『緊急脱出用の術式』だったんです。両親から聞いたんですが、バロニクス帝国では、万が一の危機に備え、要人を守るべくこういう術式を数多く作り出していたそうです。私の父や母もその研究に携わっていたそうです」

 あいなと龍河が使ったおまじないには、異世界グランツェールと地球を結ぶ時空間転移の効力があった。

「納得はしたが、理解できない点がひとつある」

 シャルが口を挟んだ。

「緊急脱出用の術式と言ったな。だとしたら、秋葉があいな達に教えたまじないは不完全だと思わないか?あいなと龍河は一週間しかここへ居られず、その後は強制的に地球に戻された。一般的に広まっている弱いまじないとさほど変わらぬ効力しか発揮しないとは、呪術の最高峰と評されるバロニクスのものにしてはひどい出来だ。

 緊急時にその場から逃げるためのまじないなら、長期間の脱出を視野に入れ術式を組むべきだろう。そのまじないは皇帝だけが生き残るために作られたものなのか?国民を守るのにはふさわしくない低レベルなまじないだ。国民あっての皇帝だろうに……」
「シャル……?」

 あいなは目を見開いた。これまで見てきたシャルとは違う、王子としての彼の一面を見た気がした。

「シャル王子の言う通りですよ。あのおまじないは失敗作なんです」

 秋葉は言った。

「両親は、その失敗作を地球に持ち帰り、機会があれば改良したかったそうです。子育てや仕事で忙しくて、そんなことももう忘れてしまっていると思いますが」

 秋葉の説明に納得し、シャルとルイスは感慨(かんがい)にふけった。様々な間違いが重なり、自分達はあいなと出会った。出会ってしまった。

 あいなもあいなで、じんわり胸にくるものを感じていた。その時の記憶がないといえ、何の力も持たない自分が異世界人の彼らとこうして出会い、交流を深めている。シャルとは結婚をひかえ、ルイスとは友達になった。
 
 本来は出会うはずのなかった者同士、連帯感を覚えた瞬間だった。

 シャルは晴れ晴れした顔で立ち上がり、あいなの手を取る。

「まあいい。運命の人に出会えるおまじないと間違えたと言ったが、それはあながち間違いではないと思うぞ。俺はあいなに運命を感じているからな」
「ちょっ、シャル?きゃっ……!」

 胸元に抱き寄せるようにあいなを立ち上がらせ、シャルはあいなを見つめた。

「お前に大事な話がある。あまり時間もない。一緒に来てくれ」

 公務の時間が迫っている。シャルは急ぎ足であいなを連れ出した。客室にはルイスと秋葉が残されたのだった。




 客室から強引にあいなを連れ出すと、シャルは彼女を横抱きしに、時間短縮のため空間転移の魔法を使った。

「シャル、下ろしてっ」
「いいからじっとしてろ」

 水色の柔らかい光に包まれたかと思えば、体だけを残して魂だけが遠くにいってしまったような感覚。それは一瞬のことで、あいなは目をしばたかせるしかなかった。

「ちょっと魔法を使っただけだ。害はない」

 気が付いたら、城の最上階、遠くの海が見渡せるテラスに居たのである。心洗われそうなほど美しい青空と海のコントラストにあいなは魅了され、驚く気分をなくした。

「綺麗だね。この国にも海があるんだ。でも、初めて見た気がしない」

 またもやデジャブを覚え、あいなは切なさを感じた。

「もしかして私、昔もここへ来たことあるの?」
「そうだ。俺のつまらない発言のせいでお前を怒らせてしまってな。感情的になったお前が行き着いたのがこの場所だったらしい。後からルイスが教えてくれた」
「そんなことが……」

 その時の思い出を共有できないことが、あいなは寂しかった。

「シャルは、何でもよく覚えてるんだね」
「当たり前だろ?初恋の人のことだ。死ぬまで忘れない」
「それはちょっと大げさだよ……」

 あいなは照れた。

「歳を取ったって、この気持ちは変わらない。お前がそばにいると、何でもない景色も鮮やかに見える」
「シャル……」
「ここへはあまり来ないが、いいところだ。公務がない日に、お前と一緒にまたこの景色を見たい」

 シャルの顔が妙に近い。その綺麗な顔から一瞬目が離せなくなったものの、横抱きにされたままの自分に気付き、あいなは身をよじらせた。

「もっ、もういいからおろしてっ」
「暴れるなっ!おいっ…!」
「だって重いに決まってるもん!離してくれないなら自分でおりるっ!」

 普段意識しない体重が、この時ばかりは人生最大の汚点みたく感じられた。あいなは恥ずかしさで胸が壊れそうだったが、直後、彼女をさらに赤面させる出来事が起きた。

「……シャル!?」
「ホント、おてんばだな」

 床に落下しそうだったあいなを支えるべく、シャルは瞬間移動の魔法を使い彼女の下敷きになった。

 地面に仰向けで倒れたシャルは、上空を向くあいなを背中から強く抱きしめている。

「シャル、ごめん!頭打ってない?大丈夫!?」

 体を起こしシャルの無事を確かめようとしたが、抱きしめるシャルの力が強くてあいなはその場から動けなかった。体が接触しているせいか、シャルの心音がダイレクトに伝わってくる。

(シャルの心臓の音、早い……。)

 あいなは全身が熱くなるのを感じた。服越しにもシャルの体温が伝わり、彼の放つ独特の柔らかい匂いが鼻をかすめる。

「シャル、私はもういいから、手、離して?じゃないと……」

 顔は真っ赤になり、声が震えた。このままでいるわけにはいかないのに、あいなは強く抵抗できなかった。エトリアの指輪がなかったとしても、彼女は今シャルに何かをする気にはならなかっただろう。

「こっち向くなっ、頼む……!腰を打ったみたいだ。お前が動くとよけい痛む」

 シャルにとっては精一杯の、苦し紛(まぎ)れの嘘。

「だったらなおさらどかなきゃダメじゃん!」
「いい!後で魔法で治す!」

 シャルが、珍しくうろたえていた。この様子なら変なこともしてこなさそうだと、あいなはしばらくそうしていることにした。心臓の方は、あいかわらず激しく鳴り続けているけれど……。

 ギュッとあいなを抱きしめながら、シャルは頬を赤く染めていた。初めて間近に感じる彼女のぬくもりに、柔らかさに、体も心も敏感に反応してしまっている。こんな所、とてもじゃないが見せられない。

 あいなを力強く抱きしめることで、シャルは自分の表情を隠そうとしていたのだった。今まで余裕ぶって彼女に接してきた分、今さら素直に顔を赤らめる所を見せたら彼女に情けないと思われそうで……。

 しかし、長らくそうしているのは体勢的に無理があった。

「シャル……。もう、どいていい?体、痛いよ……」

 仰向けのままシャルの体に乗っかっているあいなは、しんどさを増している。苦痛混じりの彼女の声音を色っぽく感じ、シャルは体に熱が帯(お)びるのを感じた。理性を保つため、あいなの体を抱き止めながら上半身を起こす。

「悪かった……。ケガはないか?」
「うん。シャルこそ平気?」
「大丈夫だ。たいしたことない」

 シャルの腕が離れると、あいなは彼から離れ、何となく地面に座り込んだ。それに合わせるように、シャルもその長い足を床に投げ出して座る。

 二人はお互いに相手の顔を見つめた。その距離が思いのほか近く、あいなは赤面してしまう。そらそうと思えばそらせたのに、シャルの瞳は何かを訴えかけるように潤んでいて、あいなは目を離せなかった。

「あいな……。お前に謝りたいことがある」
「なに?」
「エトリアの指輪のことだ……」

 シャルはあいなから視線を外し、言いづらそうに切り出した。

「お前がその指輪を手にしたのは偶然じゃない。俺が仕組んだことだ」
「え……?シャルが?」

 目を見開くあいな。

 彼女に責め立てられる覚悟をし、シャルは語った。自(みずか)ら宝物庫の鍵を壊してエトリアの指輪を盗み、あいなと結婚するためルイスに色々な指示をしていたことを……。

「無限に広がっていたはずのお前の人生の選択|肢(し)。それを俺は、自分の都合で奪った。お前がこの結婚に抵抗するのは当たり前だった」

 嫌われても仕方ない。シャルは両目をかたくつむり、緊張した面持ちであいなの言葉を待った。

「そっか、そうだったんだ……」

 アニメで大どんでん返しの結末を見せつけられたように拍子抜けした顔で、あいなは言った。

「今さらどうしてそんな話するの?」
「怒らないのか……?」
「うん。自分でも意外なんだけど、そういうシャルのこと、憎めない。もちろん、初対面で今の話されてたらぶっ飛ばしてただろうけど」
 
 強引で自分勝手な王子様。そんな第一印象が塗り替えられるくらい、今はシャルの良さを感じ始めている。

 あいなのシャルに対する思いは、まだ恋愛感情にまで達していない。友達より上、その程度だ。分かっていても、自分の過(あやま)ちを受け入れてくれたあいなに恋情を高めるのはシャルにとって自然なことだった。嬉しさのあまり、彼の両手は震えている。

「何で、そんなに優しくしてくれる?好きな気持ち、ますます大きくなるだろ……」

 あいなを抱き寄せ、シャルは彼女のこめかみに唇を這(は)わせた。そのまま次は頬にそっとキスをする。シャルの唇が触れた部分からあいなの体全体に、甘く切ない感情が走った。

「シャル……」
「誰にも渡したくない、絶対に。お前にその気はないと知っていても、俺は好きだ。あいなが、好きだ……!」

 熱くて強いシャルの抱擁(ほうよう)に、あいなは抵抗を忘れた。今まで、色んな人に片想いをしてきた自分の姿が、目の前のシャルに重なる。

(今まで私が好きになった人に感じてきたような恋愛感情を、今度は私が向けられているの?こんなにも強く、シャルは私のことを……。)

「愛してる。あいな」

 かすれたシャルの声に、あいなは体験したことのない甘い感情を覚えた。

「でも、私……」

 シャルの強い気持ちを知れば知るほど、あいなは自分の心の中を罪深いものに感じた。

「シャルのこと見ていきたいと思ってるし、幸せな結婚をしたいって気持ちに嘘はないよ。でも私、ルイスさんに……」
「言うな。分かってる」

 あいなを立たせ、シャルはまっすぐ彼女を見た。

「俺はお前の夫になる男だ。他人が批判するような醜(みにく)い部分も、俺だけに見せてくれる可愛い部分も、全部ひっくるめて愛している」
「それじゃあ、シャルはつらいんじゃ……」
「お前にとっては望まぬ結婚だ。多少の浮気には目をつむる」
「こっ、言葉がおかしい!浮気じゃないもん!」
「あの性格にあの顔。ルイスはお前に特別優しいしな。アイツに惹かれてしまう女心は分からなくもない。俺がアイツにかなう部分なんてないしな。魔法の熟練度も、他人を気遣う心も、頭の回転も、何もかも、昔から俺はアイツに劣り続けていた。でも……」

 シャルは両手であいなの頬を包み込む。

「お前を想う気持ちは誰にも負けない。そう、ルイスにもな。それだけは言っておく」
「そんなこと言っていいの!?」

 従順極まりないシャルに、あいなは反論したくなった。

「どうして簡単にそんなこと言えるの?ルイスさんと仲良くして私の気持ちがルイスさんに行ったら…って、不安にならないの!?それに、シャルは最初からルイスさんのことライバル視してたみたいだし……」
「愚問(ぐもん)だな」

 シャルは強気な瞳であいなを見|据(す)える。

「お前のありのままの姿を愛すると決めた。無理矢理婚約させたようなものだ。これでも自分の立場はわきまえている。それに、俺だってまだお前を振り向かせることを諦めたつもりはない」

 シャルは意地悪な表情であいなを抱き寄せた。

「胸が高鳴るから恋しているかも、なんて、早計だ。ルイスに対する感情が恋かどうかは、まだお前自身にも分かっていないんだろう?ならまだ、俺が入り込む隙(すき)はあると思わないか?」
「どこまでも前向きだね……。うらやましいよ」

 前向きなあいながこう思ってしまうくらい、シャルの発言はプラスの力を放っていた。

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