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自分が冴えない女だということはあいな自身充分に理解していたので、容姿をなじられたことについては何とも思わなかった。
「でも、だからって、人様の恋人を奪うようなことはしません!絶対に!」
さすがのあいなも略奪者呼ばわりされたことに腹が立ち、相手が客だということも忘れ強く言い返してしまった。女は納得するどころか、あいなの反発を受けてさらに怒りのボルテージを上げていく。
「嘘つかないで!アイツ、最近この店に入ったコが可愛いから私とは別れるって言ってきたのよ?どんな手使ってアイツをたぶらかしたの!?」
恋人が近頃この店に通いつめ、全く自分の相手をしてくれなくなった末、一方的に別れを告げてきた。興奮気味に女はそう言った。
(もしかして、あのお客さんのこと?)
あいなは、ここで働きだして以来毎日のように口説いてくる二十代の男性客を思い出した。飲酒によりセクハラまがいな発言ばかりしてくる客だったので、彼の言うことは本気にせず流していた。
(それに、あの人、彼女さんと別れて寂しいって言ってたよね?この人の話とちょっと違う……。どういうことなんだろう?)
考え込むあいなを見て略奪肯定のサインと受け取った女は、激昂(げきこう)する。
「アイツを返してよ!それかこの店やめて!」
「どうしてそうなるんですか!私、ここやめたら行く所がないんですよ。本当に何かの間違いなんです!信じてください…!」
そこへ、足りない物の買い出しに出ていたロンとフェンネルが戻ってきた。
「お客さん、どうしたんだい?」
「あいなちゃん、何があったの?」
ロンとフェンネルの問いかけに答えようとしたあいなの頬を、女が平手で強く叩こうとしたその時、彼女の手を何者かの手が掴(つか)み、殴るのを寸前で止めた。
「何なの!?」
邪魔されたことに腹を立て女が後ろを振り向くと、そこには爽やかスマイルのハロルドが立っていた。
「お姉さん、注文しないの?ここの料理おいしいよ」
「はぁ!?料理なんて…!」
「言わせてもらっていい?彼女、僕の幼なじみと付き合ってるから、お姉さんの恋人を誘惑するなんてあり得ないよ」
ハロルドはサラッと作り話をしあいなに目配せした。怒りのやり場を失って黙りこむ女の肩を片手で柔らかく抱き寄せ、ハロルドは魅惑的な笑みを浮かべる。
「そんなことより、僕も一人なんだ。良かったら付き合って?もちろんごちそうするし退屈させないよ?」
佇(たたず)まいも美しい容姿|端麗(たんれい)なハロルドを前に、女は頬を赤くし言葉をのんだ。あいなへの敵意を削(そ)がれ、まんざらでもなさそうに微笑する。
「ふーん。どこのお坊っちゃまか知らないけど面白いコ。そこまで言うなら仕方ないわね。私はそう簡単に酔わないわよ?」
「そうなんだ。じゃあ、どっちが強いか勝負しようよ」
当たり障(さわ)りなく誘導し女を席に座らせたハロルドに、あいなをはじめロンやフェンネルも目を丸くし感心した。事の成り行きを見守っていた他の客達も「おお!」と歓声をあげている。
「助かったわね」
「はい……」
「彼、あんなこと言ってたけど本当はあいなちゃんのボーイフレンドなんでしょう?」
「えっ!?」
たしかに、ハロルドとは男友達みたいなものだからボーイフレンドだなと思いつつ、フェンネルの言葉にあいなはしどろもどろになる。
「まあ、はい、ボーイフレンド、ですかね」
「ハロルド君といったかしら?」
「はい。そうです。覚えてくれたんですね」
「そりゃあそうよ。毎日来てくれるお客さんだもの。いい身なりをしているしさりげない仕草に品の良さが出てる。どこの御曹司(おんぞうし)なのかしらね」
「さあ、そこまでは……。私も最近仲良くなったばかりなのでハロルドのことはあまり知らなくて」
「そう。でも、なかなか味のある青年よ」
あいなはあえて、ハロルドの名前だけをフェンネルに教え、詳しいことは話さなかった。
(名字教えたら王族の人だってバレちゃうもんね。ハロルドもここに来る時は自分の身分隠したいって言ってたしな。ただでさえ、王族関係者が来ると城下町は大騒ぎになるって話だし。)
フェンネルは穏やかに目を細め、明るく女の相手をしているハロルドを眺めた。
「ハロルド君、ここで働いてくれないかしら。人当たりもいいし、お客さんの相手も上手そうだし」
「そうですね。でも、ハロルドは色々勉強しなきゃいけないみたいで……」
(フェンネルさんがハロルドをスカウトしたくなるのも分かるなぁ。私もハロルドと一緒に働けたら心強い。)
あいなは思った。
(ハロルドは、トラブルを丸く収めるのがうまいんだなぁ。私はあんな風にできないよ。つい感情的になっちゃう。)
考えるあいなのそばで、ロンが調理の手を動かしながら言った。
「しかし、あの坊っちゃん、どっかで見たことあるような気がするんだよなぁ」
「あなたも?」
フェンネルが嬉々と反応する。
「実は私もなのよ。ハロルド君の顔に見覚えがあるのよね~」
「私、テーブル片付けてきまーす」
ごまかすようにロンとフェンネルの元を離れ、あいなは客席を片付けて回った。そこへハロルドが声をかけた。同席していた女はトイレで席を外しているらしい。
「さっきは本当にありがとう、助かったよ~。後で好きなものおごるね」
「いいよ、そんなの気にしないで?好きで首突っ込んだだけだし、あいなが助かったならそれでいいから」
「ありがとう。あの時ちょうどハロルドが来てくれて、本当に助かったよ」
「ごめんね。もっと早く来たかったんだけど、今日は定期試験があったから遅くなっちゃって。当分は試験勉強もしなくていいからヒマになりそうだし、僕もここで働こうかな」
「え!?」
「聞くつもりはなかったんだけど、さっきあいなや店主さん達が話してるの、聞こえたんだ」
あいなは声を小さくし、ハロルドにしか聞こえないように尋ねた。
「私は嬉しいし、ロンさんやフェンネルさんも絶対喜ぶけど、ハロルド、占い師の修行があるんだよね?働くこと、負担にならない?」
「ならないよ。あいなと違って夜だけしか時間割けないけど、負担になるどころかむしろいい息抜きになりそう」
弾んだ声音でハロルドは言った。
翌日の巡業で、シャルとルイスは思わぬことに別行動をしなくてはならなくなった。訪問先で、シャルが患者の話相手を頼まれてしまったからである。
患者は六十代の男性。病により長年寝たきりの生活を送っていたせいか、年齢以上に老け込んで見えた。しかし、ルイスの治療が効いて病状は安定し、自力で起き上がれるまでに回復した。そこへ、男性はシャルと、数時間だけ話がしたいと言い出したのである。
「アンタと話しとると、孫が帰ってきたような気分になるんじゃよ。年寄りの家は退屈かもしれんが、少しでかまわん、頼めんかのう?」
容姿は違うが、シャルの雰囲気や性格が、男性の孫とよく似ているという。
「孫も、娘も、会いたくても会えん場所におる。人の命は儚(はかな)いもんじゃのう……」
そんな話を聞いてしまったら放っておけない。シャルの心情を察したように、ルイスはその場を後にした。
「シャル様の周囲に魔法防御陣を展開しておきますが三時間ほどで切れてしまいます。くれぐれも正体を知られることのないよう。それでは、正午に噴水公園で落ち合いましょう」
シャルにだけ聞こえる小さな声で言い、ルイスは次の巡業先へ向かった。
それから何軒かの民家を訪問し、ルイスは一人、街路樹の綺麗な表通りを歩いた。
(あいな様に関する情報は全く集まりませんね。夜間の捜索時間をもう少し増やしましょうか。)
シャルとの待ち合わせまでまだしばらく時間がある。二人分の昼食を買うため市場へ足を向け、ルイスは目を見開いた。フルーツや野菜を量り売りしている露店の前に、探していた少女の姿を見つけたからだ。
「あいな様…!」
紺のロングドレス。城に居た時とは違う服装をしているが、雑多な通りに居るのは間違いなくあいなだった。鼓動が速くなり、胸は熱くなる。脈の音が耳に大きく響き全身を包むようだった。
(あいな様…!ご無事でいて下さったのですね、本当に良かった……。でも、少し顔色が悪い。まだ体調が万全でないのでは…?)
呼び止めたい気持ちを寸前でこらえる。近くの書店で立ち読みするフリをし、ルイスはあいなの様子を観察することにした。
露店で購入した新鮮な野菜を持参したカゴに丁寧な手つきで入れ、あいなは来た道を戻っていく。つかず離れずの距離を保ち、ルイスは彼女の後をつけた。
急いでいるのか、あいなは早足で後ろを振り返ることもなく進んでいく。人通りも多い道だったので、幸い尾行に気付かれることはなかった。
あいなの働く大衆レストランは、ルイスが夜間に探し回った地域とは真逆に位置していた。
(何はともあれ、見つけられて本当によかった。しかし、あの衣装は……。)
あいなの姿が店の中に消えた後、ルイスが珍しく難しい顔で思考を巡らせていると、何者かの突き刺さるような視線を感じた。一瞬の殺気――。
(今のは…!?)
自分に対してではなく、あいなを狙うはっきりした気配。ものものしい空気が漂った気がする。しばらく周囲を警戒していると、ルイスは見覚えのある顔が家屋の影に隠れたことに気付いた。
(あれは……!)
かつて、娘をシャルの婚約者にしたいと考えていた貴族は多かった。立場上、ルイスもそれら全員の顔と名前を覚えていたのだが、それがここで役に立った。
(正体を知られたら危ないのはシャル様もそうですが、今はあいな様にも危険がある……!)
その後、ルイスはいったんその場を離れ、別の場所で用事を済ませると、再びあいなの働く店に戻った。店主らしき初老男性が外に出てきた時、ルイスは彼に近付き、
「突然申し訳ありません。私は、こちらで働いている女性の――」
その日、勤務を終え二階に上がろうとしたあいなをロンが呼び止めた。
「ごくろうさん!今日もありがとな。そうそう!あいなちゃんに預かりもんがあったんだった」
ロンは、厨房の隅に設置された木製棚から紙袋を取り出し、あいなに渡した。家庭的な雰囲気のする店内には似合わないシックなデザインの紙袋。
「私に、ですか?」
スリムな見た目以上に、紙袋の中身は重い。
「昼くらいだっけなぁ、ランチの看板出しに外に出たら、あいなちゃんの弟さんがやって来て、それを渡してくれって頼まれたんだよ」
「龍河(りゅうが)が!?」
「せっかく来たんだからあいなちゃんに会ってけよって言ったんだけど、急いでるからってそそくさと帰っちまったよ。しっかし、すんごい美青年だな、あいなちゃんの弟さんは。弟ってより兄貴って感じがしたよ。しっかりしてそうだったし」
「たしかに私よりしっかりしてますけど、誉めすぎですよ」
笑って答えつつ、あいなは龍河と秋葉の身を案じた。二人はまだカスティタ城に滞在しているのだろうか?
(もしかして、秋葉の魔法でここを突き止めたのかな?でも、ハロルドならともかく秋葉ってそういう力あったっけ?そういえば、秋葉の魔法のこととか、詳しく聞けないままだったな……。今度またゆっくりそういう話もできたらいいんだけど。)
ロンは安堵(あんど)の表情で言った。
「良かったな。ちょっと安心したよ。あいなちゃん身寄りがないって言ってたから何があったのかと思ってたけど、勤め先調べてまで訪ねてきてくれる弟さんがいるんだから」
「心配してくれてありがとうございます。本当にすみません、面接の時は家族がいないなんてウソついてしまって……」
「いいんだよ、んなこと気にしちゃいないから。あいなちゃんには本当に助けてもらってるし、どんな事情があったってそれについて何か言うつもりはないよ」
今夜もゆっくり休んで、また明日よろしく頼む。そう言い、店内奥にある自分達の居住スペースに戻るロンを見送ると、あいなも自分の部屋に戻った。
疲れていることも忘れ、あいなは紙袋の中を確かめた。
「服と、これは……。お菓子の箱?」
メイド服とチョコレート入りの箱。
「不思議な組み合わせ……。龍河らしくないというか、どうしたんだろ?」
昔、階段から落ちてケガをし学校を休んだ時のことを、あいなは思い出す。
「あの時は、お気に入りのマンガとゲームを貸してくれたっけ……」
それも、小学生の頃の話。秋葉との関係が進展して、龍河の心境、趣味や思考に変化が表れたのかもしれない、と、この時あいなは思った。
心の中で龍河に感謝し、改めて物を確かめる。今着ている衣装に困っていたあいなは、さっそくもらったばかりのメイド服に着替えた。
「すごい!サイズぴったりだ!なのに体のラインが出過ぎないし動きやすい~!爽やかな感じで可愛いし!」
無難なのに品があり華やかなデザインのメイド服。これなら、客からセクハラ発言を受ける回数も減るかもしれない。なにより、体のラインが強調されないので気分的にもかなり楽だった。
「こっちも食べちゃお!」
新しいメイド服に身を包んだまま、チョコレートの箱にも手を伸ばす。
「こんな綺麗な形のチョコレート、初めて食べる…!おいしいっ」
仕事終わりに食べる甘い物はなぜこんなにもおいしいのだろう。新しい衣装を着、口当たりの優しいチョコレートに癒され、あいなはすっかりお姫様気分になっていた。
「龍河、ありがと。秋葉と幸せになってね」
二、三口チョコレートを食べると、そのまま、床に横たわり眠りにつく。シャワーは、明日の朝早く起きて浴びればいいやと、頭の片隅で考えながら。
それから、何日かが過ぎた。新しい衣装を着ることを許されたあいなは、セクハラ発言に困ることが減り仕事がしやすくなったし、夜だけ働くことにしたハロルドもだいぶ仕事を覚えた。物覚えの早さとそのルックスが生き、ここ最近店に通う女性客が増えた。
「ハロルド君、こっちも注文いい?」
「はーい、今行きますね~」
外で働いたことがないというのが信じられないほどハロルドの接客は完璧だった。女性の相手はもちろん、酔っぱらって困った言動をする男性客を宥(なだ)めるのも上手い。
「ハロルド、すごいなぁ」
感心して独り言を漏らすあいなの背後で、若い男が言った。
「ハロルド、昔からああいうところは変わらない。要領が良くて羨ましいな」
「ヴィクトリアさん!と、クロエさんも!?」
あいなは目をむき、声を上げる。
「二人そろって、どうしたんですか?」
ヴィクトリアはため息混じりに隣のクロエを見やり、
「仕事の邪魔してごめん。クロエがどうしても君に会いたいって聞かないから」
再三に渡るクロエの交渉に根負けしたヴィクトリアは、ついに自身の能力を使いクロエを連れてここへやってきたのだそうだ。
「そうだったんですか、クロエさんが……」
あいなはおずおずと頭を下げ、二人を空いた席に案内する。クロエから強い視線を感じるのに、彼女とは目を合わせられなかった。
(クロエさんはシャルのことが好き。だから私のことが気にくわないんだ。)
クロエから向けられる強い視線を、あいなは敵意と受け取った。
ところが、その後ハロルドにこんなことを言われ、あいなは混乱した。注文が途切れたわずかな時間、二人はカウンター前で客の様子を視界に入れながら肩を並べて話す。
「あの二人、うまくいったみたいだね。仲良くこんな所までやってくるなんて」
「ヴィクトリアさんとクロエさんのこと?」
「うん。前まではどこかぎこちない感じがしたけど、今はすっかり夫婦って感じ」
「クロエさんはシャルのことが好きだったんじゃ……」
「そうみたいだけど、昔の話だよ。今はヴィクトリアのことを想ってるんじゃないかな」
穏やかに目を細め、ハロルドは言った。
「気になるんだ。シャルのこと」
「全然…!もう関係ないしっ」
「クロエが来た時、かなり動揺してたよね」
「見てたの!?ハロルド接客中じゃなかった?」
「それでも気付くよ。あいなの変化は分かりやすいもの」
ハロルドには何もかも見透かされている。そんな気がして、あいなは目を伏せた。自分を抱きしめるように強く腕を組む。
「うん。正直、すごくヒヤヒヤしたよ、クロエさんが来た時」
「シャルのこと奪られると思ったから?」
「…………」
本能的に、あいなが危機感を感じたのはたしかだった。それが、ハロルドの言葉通りなのかどうかは分からないけれど。
「これは独り言なんだけど」
ハロルドはつぶやく。
「エトリアの指輪は、もうあいなの指にはないけど、シャルは今後誰とも結婚しないと思うな。だって、あいなに出会ったんだもの」
閉店後、クロエは店の前であいなを待ち伏せした。ヴィクトリアには違う場所で待機してもらっているし、ハロルドはまだ店内で雑用をさせられているので、この時あいなは一人でクロエと話さなければならなかった。
「ようやく落ち着いて二人きりで話せるわね」
クロエはツヤのある茶色い髪をサッと顔の横に払い、あいなをまっすぐ見つめた。
あいなは息をのんで立ちつくす。いつもならすぐ眠気に負けてしまうこの時間も、緊張のせいでしっかり意識を保てていた。
「この間は変なことを言って本当にごめんなさい」
クロエは頭を下げる。
「あなたにどうしても謝りたかった。シャルを譲れだなんて、シャルは物じゃないのにね。それにあなたはシャルの婚約者。私のせいで嫌な気持ちにさせたでしょう?」
「そんな、全然気にしてませんっ、頭上げてくださいっ」
まさか、謝られるだなんて……。あいなは、ますます自分の気持ちを罪に感じた。
「私、謝ってもらえるような人間じゃないんです。クロエさんっ……」
シャルだけでなくルイスにまで惹かれてしまい、仮の恋人にまでなったことを、この場で言うべきだろうか――。あいなは迷った。
(でも、シャルのことを好きなクロエさんにそんなことを言うのはひどいよ!ダメだ。)
「謝られるべき人間じゃない?どういう意味かしら」
黙りこみうつむくあいなから、クロエは何かを感じ取った。
「……いいわ。質問する前にまずは私から話すべきよね。あいなさん。私はシャルを忘れるためにヴィクトリアを利用しようとしたわ。ヴィクトリアだけじゃない。結婚が決まる前、色んな男と付き合ったわ。シャルには内緒よ?」
「えっ?」
「シャルのことを忘れるためよ。だって、シャルは昔から私を幼なじみ以上に見てくれることはなかったもの。だから、彼を忘れるために言い寄ってくる人全員と付き合った。同時に三股してたこともあったわね。でも、結局気持ちは満たされずシャルのことも好きなまま、虚しさが募るばかり。毒にも薬にもならないような別れを淡々と繰り返していたわ……。シャル以上の男、いるわけないと思っていたのよね。
シャルに代わる愛をくれたのがヴィクトリアだった。ヴィクトリアは他の男と違う。大切に思うからこそ私を遠ざけようとしてくれていた。今はヴィクトリアだけを見てるしこれからもそのつもり。ただ、ひとつ心残りがあるとすれば、シャルのことなのよね」
大きく息を吸い込み、クロエはあいなの顔を下から覗き込むように見た。
「あいなさんは?私に何を隠してるの?」
「それはっ」
「軽蔑の目で見られそうなことを洗いざらい話したつもりよ。あなた以外の人には言うつもりもない。女同士、腹を割って話しましょう?私は短気でね、ウジウジするのも遠回しなやり方も苦手な性分なのよ」
「……」
「でも、だからって、人様の恋人を奪うようなことはしません!絶対に!」
さすがのあいなも略奪者呼ばわりされたことに腹が立ち、相手が客だということも忘れ強く言い返してしまった。女は納得するどころか、あいなの反発を受けてさらに怒りのボルテージを上げていく。
「嘘つかないで!アイツ、最近この店に入ったコが可愛いから私とは別れるって言ってきたのよ?どんな手使ってアイツをたぶらかしたの!?」
恋人が近頃この店に通いつめ、全く自分の相手をしてくれなくなった末、一方的に別れを告げてきた。興奮気味に女はそう言った。
(もしかして、あのお客さんのこと?)
あいなは、ここで働きだして以来毎日のように口説いてくる二十代の男性客を思い出した。飲酒によりセクハラまがいな発言ばかりしてくる客だったので、彼の言うことは本気にせず流していた。
(それに、あの人、彼女さんと別れて寂しいって言ってたよね?この人の話とちょっと違う……。どういうことなんだろう?)
考え込むあいなを見て略奪肯定のサインと受け取った女は、激昂(げきこう)する。
「アイツを返してよ!それかこの店やめて!」
「どうしてそうなるんですか!私、ここやめたら行く所がないんですよ。本当に何かの間違いなんです!信じてください…!」
そこへ、足りない物の買い出しに出ていたロンとフェンネルが戻ってきた。
「お客さん、どうしたんだい?」
「あいなちゃん、何があったの?」
ロンとフェンネルの問いかけに答えようとしたあいなの頬を、女が平手で強く叩こうとしたその時、彼女の手を何者かの手が掴(つか)み、殴るのを寸前で止めた。
「何なの!?」
邪魔されたことに腹を立て女が後ろを振り向くと、そこには爽やかスマイルのハロルドが立っていた。
「お姉さん、注文しないの?ここの料理おいしいよ」
「はぁ!?料理なんて…!」
「言わせてもらっていい?彼女、僕の幼なじみと付き合ってるから、お姉さんの恋人を誘惑するなんてあり得ないよ」
ハロルドはサラッと作り話をしあいなに目配せした。怒りのやり場を失って黙りこむ女の肩を片手で柔らかく抱き寄せ、ハロルドは魅惑的な笑みを浮かべる。
「そんなことより、僕も一人なんだ。良かったら付き合って?もちろんごちそうするし退屈させないよ?」
佇(たたず)まいも美しい容姿|端麗(たんれい)なハロルドを前に、女は頬を赤くし言葉をのんだ。あいなへの敵意を削(そ)がれ、まんざらでもなさそうに微笑する。
「ふーん。どこのお坊っちゃまか知らないけど面白いコ。そこまで言うなら仕方ないわね。私はそう簡単に酔わないわよ?」
「そうなんだ。じゃあ、どっちが強いか勝負しようよ」
当たり障(さわ)りなく誘導し女を席に座らせたハロルドに、あいなをはじめロンやフェンネルも目を丸くし感心した。事の成り行きを見守っていた他の客達も「おお!」と歓声をあげている。
「助かったわね」
「はい……」
「彼、あんなこと言ってたけど本当はあいなちゃんのボーイフレンドなんでしょう?」
「えっ!?」
たしかに、ハロルドとは男友達みたいなものだからボーイフレンドだなと思いつつ、フェンネルの言葉にあいなはしどろもどろになる。
「まあ、はい、ボーイフレンド、ですかね」
「ハロルド君といったかしら?」
「はい。そうです。覚えてくれたんですね」
「そりゃあそうよ。毎日来てくれるお客さんだもの。いい身なりをしているしさりげない仕草に品の良さが出てる。どこの御曹司(おんぞうし)なのかしらね」
「さあ、そこまでは……。私も最近仲良くなったばかりなのでハロルドのことはあまり知らなくて」
「そう。でも、なかなか味のある青年よ」
あいなはあえて、ハロルドの名前だけをフェンネルに教え、詳しいことは話さなかった。
(名字教えたら王族の人だってバレちゃうもんね。ハロルドもここに来る時は自分の身分隠したいって言ってたしな。ただでさえ、王族関係者が来ると城下町は大騒ぎになるって話だし。)
フェンネルは穏やかに目を細め、明るく女の相手をしているハロルドを眺めた。
「ハロルド君、ここで働いてくれないかしら。人当たりもいいし、お客さんの相手も上手そうだし」
「そうですね。でも、ハロルドは色々勉強しなきゃいけないみたいで……」
(フェンネルさんがハロルドをスカウトしたくなるのも分かるなぁ。私もハロルドと一緒に働けたら心強い。)
あいなは思った。
(ハロルドは、トラブルを丸く収めるのがうまいんだなぁ。私はあんな風にできないよ。つい感情的になっちゃう。)
考えるあいなのそばで、ロンが調理の手を動かしながら言った。
「しかし、あの坊っちゃん、どっかで見たことあるような気がするんだよなぁ」
「あなたも?」
フェンネルが嬉々と反応する。
「実は私もなのよ。ハロルド君の顔に見覚えがあるのよね~」
「私、テーブル片付けてきまーす」
ごまかすようにロンとフェンネルの元を離れ、あいなは客席を片付けて回った。そこへハロルドが声をかけた。同席していた女はトイレで席を外しているらしい。
「さっきは本当にありがとう、助かったよ~。後で好きなものおごるね」
「いいよ、そんなの気にしないで?好きで首突っ込んだだけだし、あいなが助かったならそれでいいから」
「ありがとう。あの時ちょうどハロルドが来てくれて、本当に助かったよ」
「ごめんね。もっと早く来たかったんだけど、今日は定期試験があったから遅くなっちゃって。当分は試験勉強もしなくていいからヒマになりそうだし、僕もここで働こうかな」
「え!?」
「聞くつもりはなかったんだけど、さっきあいなや店主さん達が話してるの、聞こえたんだ」
あいなは声を小さくし、ハロルドにしか聞こえないように尋ねた。
「私は嬉しいし、ロンさんやフェンネルさんも絶対喜ぶけど、ハロルド、占い師の修行があるんだよね?働くこと、負担にならない?」
「ならないよ。あいなと違って夜だけしか時間割けないけど、負担になるどころかむしろいい息抜きになりそう」
弾んだ声音でハロルドは言った。
翌日の巡業で、シャルとルイスは思わぬことに別行動をしなくてはならなくなった。訪問先で、シャルが患者の話相手を頼まれてしまったからである。
患者は六十代の男性。病により長年寝たきりの生活を送っていたせいか、年齢以上に老け込んで見えた。しかし、ルイスの治療が効いて病状は安定し、自力で起き上がれるまでに回復した。そこへ、男性はシャルと、数時間だけ話がしたいと言い出したのである。
「アンタと話しとると、孫が帰ってきたような気分になるんじゃよ。年寄りの家は退屈かもしれんが、少しでかまわん、頼めんかのう?」
容姿は違うが、シャルの雰囲気や性格が、男性の孫とよく似ているという。
「孫も、娘も、会いたくても会えん場所におる。人の命は儚(はかな)いもんじゃのう……」
そんな話を聞いてしまったら放っておけない。シャルの心情を察したように、ルイスはその場を後にした。
「シャル様の周囲に魔法防御陣を展開しておきますが三時間ほどで切れてしまいます。くれぐれも正体を知られることのないよう。それでは、正午に噴水公園で落ち合いましょう」
シャルにだけ聞こえる小さな声で言い、ルイスは次の巡業先へ向かった。
それから何軒かの民家を訪問し、ルイスは一人、街路樹の綺麗な表通りを歩いた。
(あいな様に関する情報は全く集まりませんね。夜間の捜索時間をもう少し増やしましょうか。)
シャルとの待ち合わせまでまだしばらく時間がある。二人分の昼食を買うため市場へ足を向け、ルイスは目を見開いた。フルーツや野菜を量り売りしている露店の前に、探していた少女の姿を見つけたからだ。
「あいな様…!」
紺のロングドレス。城に居た時とは違う服装をしているが、雑多な通りに居るのは間違いなくあいなだった。鼓動が速くなり、胸は熱くなる。脈の音が耳に大きく響き全身を包むようだった。
(あいな様…!ご無事でいて下さったのですね、本当に良かった……。でも、少し顔色が悪い。まだ体調が万全でないのでは…?)
呼び止めたい気持ちを寸前でこらえる。近くの書店で立ち読みするフリをし、ルイスはあいなの様子を観察することにした。
露店で購入した新鮮な野菜を持参したカゴに丁寧な手つきで入れ、あいなは来た道を戻っていく。つかず離れずの距離を保ち、ルイスは彼女の後をつけた。
急いでいるのか、あいなは早足で後ろを振り返ることもなく進んでいく。人通りも多い道だったので、幸い尾行に気付かれることはなかった。
あいなの働く大衆レストランは、ルイスが夜間に探し回った地域とは真逆に位置していた。
(何はともあれ、見つけられて本当によかった。しかし、あの衣装は……。)
あいなの姿が店の中に消えた後、ルイスが珍しく難しい顔で思考を巡らせていると、何者かの突き刺さるような視線を感じた。一瞬の殺気――。
(今のは…!?)
自分に対してではなく、あいなを狙うはっきりした気配。ものものしい空気が漂った気がする。しばらく周囲を警戒していると、ルイスは見覚えのある顔が家屋の影に隠れたことに気付いた。
(あれは……!)
かつて、娘をシャルの婚約者にしたいと考えていた貴族は多かった。立場上、ルイスもそれら全員の顔と名前を覚えていたのだが、それがここで役に立った。
(正体を知られたら危ないのはシャル様もそうですが、今はあいな様にも危険がある……!)
その後、ルイスはいったんその場を離れ、別の場所で用事を済ませると、再びあいなの働く店に戻った。店主らしき初老男性が外に出てきた時、ルイスは彼に近付き、
「突然申し訳ありません。私は、こちらで働いている女性の――」
その日、勤務を終え二階に上がろうとしたあいなをロンが呼び止めた。
「ごくろうさん!今日もありがとな。そうそう!あいなちゃんに預かりもんがあったんだった」
ロンは、厨房の隅に設置された木製棚から紙袋を取り出し、あいなに渡した。家庭的な雰囲気のする店内には似合わないシックなデザインの紙袋。
「私に、ですか?」
スリムな見た目以上に、紙袋の中身は重い。
「昼くらいだっけなぁ、ランチの看板出しに外に出たら、あいなちゃんの弟さんがやって来て、それを渡してくれって頼まれたんだよ」
「龍河(りゅうが)が!?」
「せっかく来たんだからあいなちゃんに会ってけよって言ったんだけど、急いでるからってそそくさと帰っちまったよ。しっかし、すんごい美青年だな、あいなちゃんの弟さんは。弟ってより兄貴って感じがしたよ。しっかりしてそうだったし」
「たしかに私よりしっかりしてますけど、誉めすぎですよ」
笑って答えつつ、あいなは龍河と秋葉の身を案じた。二人はまだカスティタ城に滞在しているのだろうか?
(もしかして、秋葉の魔法でここを突き止めたのかな?でも、ハロルドならともかく秋葉ってそういう力あったっけ?そういえば、秋葉の魔法のこととか、詳しく聞けないままだったな……。今度またゆっくりそういう話もできたらいいんだけど。)
ロンは安堵(あんど)の表情で言った。
「良かったな。ちょっと安心したよ。あいなちゃん身寄りがないって言ってたから何があったのかと思ってたけど、勤め先調べてまで訪ねてきてくれる弟さんがいるんだから」
「心配してくれてありがとうございます。本当にすみません、面接の時は家族がいないなんてウソついてしまって……」
「いいんだよ、んなこと気にしちゃいないから。あいなちゃんには本当に助けてもらってるし、どんな事情があったってそれについて何か言うつもりはないよ」
今夜もゆっくり休んで、また明日よろしく頼む。そう言い、店内奥にある自分達の居住スペースに戻るロンを見送ると、あいなも自分の部屋に戻った。
疲れていることも忘れ、あいなは紙袋の中を確かめた。
「服と、これは……。お菓子の箱?」
メイド服とチョコレート入りの箱。
「不思議な組み合わせ……。龍河らしくないというか、どうしたんだろ?」
昔、階段から落ちてケガをし学校を休んだ時のことを、あいなは思い出す。
「あの時は、お気に入りのマンガとゲームを貸してくれたっけ……」
それも、小学生の頃の話。秋葉との関係が進展して、龍河の心境、趣味や思考に変化が表れたのかもしれない、と、この時あいなは思った。
心の中で龍河に感謝し、改めて物を確かめる。今着ている衣装に困っていたあいなは、さっそくもらったばかりのメイド服に着替えた。
「すごい!サイズぴったりだ!なのに体のラインが出過ぎないし動きやすい~!爽やかな感じで可愛いし!」
無難なのに品があり華やかなデザインのメイド服。これなら、客からセクハラ発言を受ける回数も減るかもしれない。なにより、体のラインが強調されないので気分的にもかなり楽だった。
「こっちも食べちゃお!」
新しいメイド服に身を包んだまま、チョコレートの箱にも手を伸ばす。
「こんな綺麗な形のチョコレート、初めて食べる…!おいしいっ」
仕事終わりに食べる甘い物はなぜこんなにもおいしいのだろう。新しい衣装を着、口当たりの優しいチョコレートに癒され、あいなはすっかりお姫様気分になっていた。
「龍河、ありがと。秋葉と幸せになってね」
二、三口チョコレートを食べると、そのまま、床に横たわり眠りにつく。シャワーは、明日の朝早く起きて浴びればいいやと、頭の片隅で考えながら。
それから、何日かが過ぎた。新しい衣装を着ることを許されたあいなは、セクハラ発言に困ることが減り仕事がしやすくなったし、夜だけ働くことにしたハロルドもだいぶ仕事を覚えた。物覚えの早さとそのルックスが生き、ここ最近店に通う女性客が増えた。
「ハロルド君、こっちも注文いい?」
「はーい、今行きますね~」
外で働いたことがないというのが信じられないほどハロルドの接客は完璧だった。女性の相手はもちろん、酔っぱらって困った言動をする男性客を宥(なだ)めるのも上手い。
「ハロルド、すごいなぁ」
感心して独り言を漏らすあいなの背後で、若い男が言った。
「ハロルド、昔からああいうところは変わらない。要領が良くて羨ましいな」
「ヴィクトリアさん!と、クロエさんも!?」
あいなは目をむき、声を上げる。
「二人そろって、どうしたんですか?」
ヴィクトリアはため息混じりに隣のクロエを見やり、
「仕事の邪魔してごめん。クロエがどうしても君に会いたいって聞かないから」
再三に渡るクロエの交渉に根負けしたヴィクトリアは、ついに自身の能力を使いクロエを連れてここへやってきたのだそうだ。
「そうだったんですか、クロエさんが……」
あいなはおずおずと頭を下げ、二人を空いた席に案内する。クロエから強い視線を感じるのに、彼女とは目を合わせられなかった。
(クロエさんはシャルのことが好き。だから私のことが気にくわないんだ。)
クロエから向けられる強い視線を、あいなは敵意と受け取った。
ところが、その後ハロルドにこんなことを言われ、あいなは混乱した。注文が途切れたわずかな時間、二人はカウンター前で客の様子を視界に入れながら肩を並べて話す。
「あの二人、うまくいったみたいだね。仲良くこんな所までやってくるなんて」
「ヴィクトリアさんとクロエさんのこと?」
「うん。前まではどこかぎこちない感じがしたけど、今はすっかり夫婦って感じ」
「クロエさんはシャルのことが好きだったんじゃ……」
「そうみたいだけど、昔の話だよ。今はヴィクトリアのことを想ってるんじゃないかな」
穏やかに目を細め、ハロルドは言った。
「気になるんだ。シャルのこと」
「全然…!もう関係ないしっ」
「クロエが来た時、かなり動揺してたよね」
「見てたの!?ハロルド接客中じゃなかった?」
「それでも気付くよ。あいなの変化は分かりやすいもの」
ハロルドには何もかも見透かされている。そんな気がして、あいなは目を伏せた。自分を抱きしめるように強く腕を組む。
「うん。正直、すごくヒヤヒヤしたよ、クロエさんが来た時」
「シャルのこと奪られると思ったから?」
「…………」
本能的に、あいなが危機感を感じたのはたしかだった。それが、ハロルドの言葉通りなのかどうかは分からないけれど。
「これは独り言なんだけど」
ハロルドはつぶやく。
「エトリアの指輪は、もうあいなの指にはないけど、シャルは今後誰とも結婚しないと思うな。だって、あいなに出会ったんだもの」
閉店後、クロエは店の前であいなを待ち伏せした。ヴィクトリアには違う場所で待機してもらっているし、ハロルドはまだ店内で雑用をさせられているので、この時あいなは一人でクロエと話さなければならなかった。
「ようやく落ち着いて二人きりで話せるわね」
クロエはツヤのある茶色い髪をサッと顔の横に払い、あいなをまっすぐ見つめた。
あいなは息をのんで立ちつくす。いつもならすぐ眠気に負けてしまうこの時間も、緊張のせいでしっかり意識を保てていた。
「この間は変なことを言って本当にごめんなさい」
クロエは頭を下げる。
「あなたにどうしても謝りたかった。シャルを譲れだなんて、シャルは物じゃないのにね。それにあなたはシャルの婚約者。私のせいで嫌な気持ちにさせたでしょう?」
「そんな、全然気にしてませんっ、頭上げてくださいっ」
まさか、謝られるだなんて……。あいなは、ますます自分の気持ちを罪に感じた。
「私、謝ってもらえるような人間じゃないんです。クロエさんっ……」
シャルだけでなくルイスにまで惹かれてしまい、仮の恋人にまでなったことを、この場で言うべきだろうか――。あいなは迷った。
(でも、シャルのことを好きなクロエさんにそんなことを言うのはひどいよ!ダメだ。)
「謝られるべき人間じゃない?どういう意味かしら」
黙りこみうつむくあいなから、クロエは何かを感じ取った。
「……いいわ。質問する前にまずは私から話すべきよね。あいなさん。私はシャルを忘れるためにヴィクトリアを利用しようとしたわ。ヴィクトリアだけじゃない。結婚が決まる前、色んな男と付き合ったわ。シャルには内緒よ?」
「えっ?」
「シャルのことを忘れるためよ。だって、シャルは昔から私を幼なじみ以上に見てくれることはなかったもの。だから、彼を忘れるために言い寄ってくる人全員と付き合った。同時に三股してたこともあったわね。でも、結局気持ちは満たされずシャルのことも好きなまま、虚しさが募るばかり。毒にも薬にもならないような別れを淡々と繰り返していたわ……。シャル以上の男、いるわけないと思っていたのよね。
シャルに代わる愛をくれたのがヴィクトリアだった。ヴィクトリアは他の男と違う。大切に思うからこそ私を遠ざけようとしてくれていた。今はヴィクトリアだけを見てるしこれからもそのつもり。ただ、ひとつ心残りがあるとすれば、シャルのことなのよね」
大きく息を吸い込み、クロエはあいなの顔を下から覗き込むように見た。
「あいなさんは?私に何を隠してるの?」
「それはっ」
「軽蔑の目で見られそうなことを洗いざらい話したつもりよ。あなた以外の人には言うつもりもない。女同士、腹を割って話しましょう?私は短気でね、ウジウジするのも遠回しなやり方も苦手な性分なのよ」
「……」
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