風漂〜売れない物書きと少女の日々〜

物書未満

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第6話 二人の歳の差、旅の始まり

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 さて、数と時間がわかった所で昨日忘れていた自己紹介の続きだ。

 私は今二十九歳で、誕生日はこちらの十一月二十七日、こちらの暦であるトリクメニス暦三九七〇年の生まれであると伝えた。

 彼女の年齢も気になるところだが女性にそれを聞くのは不躾と思っていると、

「ルカワ様は私より一回りも上なのですね。私は十七歳、トリクメニス暦三九八二年、七月一八日生まれです」

 そう自分から話してくれた。

 やはりそれくらいの年齢だったか。向こうなら今頃警察のお世話になっていてもおかしくない。まあ下手をすれば、の話ではあるが。

 幸か不幸か私は男として枯れてしまっている節があり、それが据え膳でも手出しできないし、あの状況で手出しなどする奴はとんだクズである。

 それに私は元来、一般的に言う倫理に背くのは苦手で、いずれにせよ彼女を傷つける様な事はしない。

 とにかく自己紹介がほぼ完璧なものとなり、朝食を摂って荷造りでもしようかと考えていると、

「ルカワ様は私より一回りも上です。私のことはミーナとお呼び捨て下さい。丁寧に話されるとむず痒いのです」

 と、頼んできた。

 確かにそれもそうだし逆の立場なら私もそう思うだろうが、彼女はいかにも名家の御令嬢で呼び捨てにするのはどうも気が引ける。

 地位や家柄というのは嫌でも意識してしまうのだ。全く困ったものである。

「私の家柄というものはお気になさらないで下さい。気にされると返って居心地が悪いというか」

 私の逡巡に気がついたのか、どうやら地位や家柄というものはその地位にある者を苦しめる時がある様で彼女もまた同じ様な事を言ってきた。

 私は少し頭を抱かえ、

「分かったよ、ミーナ。なるべく砕けて話すようにする。その代わりに」

 と、私は続けて、

「ミーナも砕けて話して欲しい。歳とかは関係なく、ね。それこそ私がむず痒いんだ。無理にとは言わないけど」

 と、伝えた。するとミーナの顔はグンと明るくなって、

「ありがとう、ルカワ様。ああっとルカワさん。砕けて話せるよう努めてみますね」

 と、はつらつとして返してきた。

 明るい気持ちになれるのはとても良い事だ。それは悲しみへの特効薬かもしれない。
 
 自己紹介も終わったところで朝食の時間である。すぐに用意できるからと言われキッチンへ向かったのだが昨日の様なすぐに食べられる物は無かった。

 ミーナの言動からするに今からすぐに作れるという事なのだろうかと思っていると戸棚から大きめの水色の球を三つ持ってきてテーブルの上に置いた。

 これはなんだと私が不思議そうに覗き込んでいると、突然その球が弾けて朝食が一揃いが出てきた。

 それだけでも驚きなのだがその食べ物全てが丁度いい具合に温かいのである。

 私はハッとしてこれも霊術かと聞くと、その通りでミーナは少し得意げな顔をしていた。

「空気に触れると劣化しますし、温かいまま保存するのは難しいのですが」

 と、言っていて、確かに昨晩からそれは厳しいし仮に保温出来てもそれこそ劣化が著しい筈だと思っていると、

「真空にした水球の中にちょっと細工した火球を入れる事で劣化無しに温かいまま保存しているんです」

 と説明された。良く分からないが素晴らしい技術であることに間違いはない。

 何でもこれを編み出すのに半年、実用まで三ヶ月かかったのだという。

「今なら半年もかからないのですが、これを作ったのは六歳の頃でしたから」

 驚きの連発だ。霊術については良く分からないがそれでも六歳でこんなものを編み出すとは天才である。
 私が呆気に取られていると、

「ご飯にしましょう。折角温めていたのに冷めてしまいますから」

 そう言われて我に返った私の腹の虫はまたしても文句を言っていた。

 食事は言うまでもなく美味であり、箸をすすめながら(使っているのは洋食器のそれだが)ミーナに霊術とは何なのだと聞くと、一口に説明するのは難しく旅の途中で順を追って説明すると返された。

 確かに色々と複雑そうではあったので一口には無理、と言われても仕方のない事だし、特段急ぐ訳でも無いので、また後で頼むよ、と言って朝食を平らげた。

 後は荷造りをしてしまえば出発出来る頃合いとなり、ミーナは自室で用意があるとの事で私も先程の部屋に戻り、用意する事にした。

 荷造りとはいっても私の荷物と言えば鞄一つくらいのものである。ミーナから、必要と思う物があれば持っていっても構わないと言われたので紙とペンとインクを拝借させてもらう事にした。

 幸いにして私の鞄の中には祖母の影響で色々と入っている為、多くを拝借せずとも良かったのである。

 一応旅の前なので鞄を少し整理しようと思い、物を出していくと案の定色々入っていた。

 言い出せばキリがないが、ボールペンやら万年筆やらの筆記用具、丸い缶入りの煙草、ライター、携帯灰皿、ミントガム、その他諸々沢山ある。最近のスマート化についていけていない証拠だ。

 タブレット端末も出てきたがココでは使い物にならない只の銘板なので鞄の奥にしまっておいた。

 何故鞄にペンがあるのに紙とペンとインクを拝借していくのかというと、多分足りなくなるからという事と、この部屋にあったのはつけペンだったので慣れておかないと後々面倒だと思ったからである。

 とりあえず空いているスペースに紙とペンとインク、それから五十音表を入れて荷造りは完了した。

 鞄の中の煙草を見て少し吸いたくなったが文字通り煙たがられると思ってやめておいた。

 荷造りを終えて玄関口のソファに腰掛けてミーナを待っていたのだが、その時二つほど問題が浮かんだ。

 先ずは着替えの事である。昨晩はミーナが持ってきてくれたが私には何処にあるやらまるで分からないし、人の家を無闇に探るのも失礼だ。

 それからヒゲ剃りなどもどうしようかと思ったのだがこれも先述の理由でどうしようもない。

 とりあえずミーナが来てから聞いてみてその辺りはどうにかするしかないだろう。

 すぐにミーナに聞きに行かないのは彼女の部屋が分からないのと、女性がお出かけの準備をしている時は邪魔をしない方がいいからである。

 三十分程玄関で待っていると何やら大きめの荷物を持ったミーナがやってきた。

 その荷物について聞くと、洗濯した私の服や着替え、それにヒゲ剃り諸々と私に必要だと思う物を持ってきたと言うのである。
 
「ありがとう、ミーナ。聞いてから自分で用意しようかと思っていたんだが、持ってきてくれたとは」
「この屋敷は少々広いので中の事を知っている私が用意した方が早いと思ったんです」
 
 いやはや全くもってその通りである。私はもう一度礼を述べてから荷物を受け取り荷馬車へむかう事にした。

 荷馬車に荷を積み、いざ出発となったところで荷馬車を引く馬の類が居ないことに気がついた。

 まさかと思いミーナに聞くとそのまさかであった。

「霊術で動かすんですよ」

 昨日と今朝、その力を見た私はもうあまり驚かなかったが、ミーナは凄いと思うよりなかった。

「先程までの霊術とは少し違う物になりますが」

 そう言って荷馬車の荷台、つまり我々が乗る所の中心に大きめの陣を描き、ミーナが手を押し当てると荷馬車がゆっくりと音を立てて進み始めた。

 なるほどこれなら馬はいらないなと考えていると、

「この霊術は物体の持つ性質を自分の意図した様に操る特殊霊術なんです」

 と、ミーナから説明があった。

 流石にこれだけ大きな物を動かすとなると何かしらのリスク、つまり疲労などがあるのではと思いそれについても聞いてみた。

「確かに反動はありますね。まずはルカワさんの言った通り疲れます。私くらいの術者なら自分で歩いた程の疲れです」

 ミーナからはこの様に説明され、更に「霊気」なるものを消費するらしい。

「霊気」の消費はある程度疲れに比例するのだが、「霊気」を使いすぎると疲れていなくても霊術が使えなくなる様だ。

「あ、霊気が何物かというのは分からないですよね。うーん、なんともこれは説明がしにくくて」
「ああ、いや何となくだけど分かったよ。疲れとかのそういうのとはまた別の何かしらのエネルギーだと思えばいいのかな」
「大枠はその様な感じです。詳しい事はまた首都に行けば分かると思いますので」

 大体把握は出来ている様だ。とにかく首都へ行かない事には分からない事が多いのも事実だろう。

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