6 / 77
第6話 賢者様は婚活上手?
しおりを挟む
賢者エルナ・グリーベル。
『エターナル・クエスト』においては、聖女アリシアと並ぶメインヒロインの一人。
そんな彼女のキャラクターを一言で言うと「完璧主義者」だ。
魔法の理論、実技、応用——全ての分野で完璧を求め、決して妥協を許さない。
史上最年少で宮廷魔法師の地位に就いたのも、その徹底した完璧主義の賜物だったのだろう。
原作においても勇者一行の頭脳として、戦略立案から魔法支援まで全てを完璧にこなしていた。
まさに賢者の称号が似合うキャラクターだ。
そして辛辣な物言いも彼女の特徴の一つだろう。
何事にも臆せず直接的に言葉を発する彼女は、それはもう癖の強いキャラクターである。
小柄な毒舌少女という外見とのギャップも含めて、非常に人気の高いキャラクターだった。
その彼女が――恋愛に現を抜かしているという。
一部ファンからは男嫌いというレッテルまで貼られていた彼女が、だ。
にわかに信じがたい状況である。
今や「理想の男性の条件100箇条」を作成して婚活に励んでいるほどに、歪んでしまっているのだから。
まあ、完璧主義だからこそ、その矛先が恋愛に向いてしまったら、そうなるのも理解できるのが非常に悩ましいところではあるのだが。
「ディラン様? 顔色が優れないようですが」
講義の後、廊下を歩いている俺に、マルタが心配そうに声をかけた。
「ああ、いや……少し考え事をしていただけだ」
俺はマクスウェル教授から受け取った法技会の案内書を握りしめながら答えた。そこにはエルナの名前がはっきりと記載されている。
「法技会の件ですか?」
「まあ、そんなところだ」
実際のところ、ゲーム上においてディランはエルナに関係する破滅フラグはなかったはずだ。
多くのイベント回収場となる学院において、原作開始時点で彼女は既に大成しており、落ちこぼれであったディランとの接点はほとんど生まれなかったからだろう。
だからメタ的にはリスクは低めの人物。
相当なヘマをやらかさない限り、運命的な何かにはならないはずである。
だが、それとはまた別ベクトルで問題があるとしたら、それは紛れもなく今現在の彼女自身だろう。
あのポスターが脳裏に浮かぶ。
一体、彼女はどんな状態になっているのだろうか。
想像しただけで忌避感を覚える。
俺だって、エルナとアリシアでどっちのルートに進むか迷うくらいには好きだったのに。
「それでしたら心配ありません。ディラン様の実力なら、きっと有意義な時間を過ごせるはずです」
「……そうだといいんだが」
もちろん魔法だけなら、俺だってそれなりに自信はある。
「何か不安でもあるのですか?」
マルタの問いに俺は素直に答えるべきか悩んだ。
「……いや、単純に緊張しているだけだ。何しろ宮廷魔法師との勉強会だからな」
俺はぼかしつつ不安を述べる。
「宮廷魔法師……それはエルナ・グリーベル嬢ですか?」
「え? ああ、そうだけど、知っているのか?」
マルタは侍女としてかなり優秀だが、そこまで宮廷政治に詳しい印象はない。
宮廷魔法師といえど位階が上位でもなければ、王国中に個人の名が轟くのは極めて稀のことだ。
「……いえ、少し耳にしたことがあるだけです」
珍しく歯切れの悪いマルタに俺は首を傾げる。
「……もしかして、エルナの縁談の話か?」
俺は少し声のトーンを抑えて聞いてみる。
陰口というほどではないが、どこで誰にどのようにして捉えられるか分からないものだ。それこそ貴族間の婚姻は時に戦略そのものだ。
その言葉に、マルタは一瞬だけ目を見開いた。
「ご存知だったのですね。ディラン様が山に籠もられてからの話でしたので、まだ耳に入っていないものだと」
「まあ、オスカーからな」
それにしても、半年も前から“あの活動”を始めていたとは。それもベルモンド領にいたマルタにまで届くほど派手に……。
「オスカー様から……? そうでしたか。てっきりご本人から直接お聞きになったのかと」
マルタは少し驚いた様子で続けた。
「ん? そりゃあ、本人には聞きづらいというか……」
いくらおかしいと思っていたって、俺もそこまで図太くはない。
「確かに……そうですね。ただ私は、ディラン様の思うままにしたら良いと思います」
マルタはそう言って俺に助言する。
「あ、ああ。何だか大げさな気がするが、ありがとう」
俺も簡単に返した。
この不安は単に見たくないものを見ることになる時の恐怖心だ。
今までの死への恐怖とはまた違う。
「――じゃあ、行ってくる」
俺はマルタと別れ、一人で指定された研究室へと向かった。
法技会は、講堂のような開かれた場所ではなく、学院の最奥にある教授専用の研究棟の一室で行われるらしい。それだけで、選ばれた者しか入れないという特別感が伝わってきた。
重厚な木製の扉をノックすると、「入りたまえ」というマクスウェル教授の低い声が聞こえた。
俺が入室すると、円卓に座っていたマクスウェル教授が顔を上げた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
俺は貴族としての作法に則り、丁寧に頭を下げる。
「うむ。堅苦しい挨拶は不要だ。ここでは誰もが魔法の探求者、身分は関係ない」
教授はそう言うと、俺に席を勧めた。
円卓には既に一人の先客がいた。俺は息を呑む。
窓から差し込む光を浴びて、銀色の髪がキラキラと輝いている。
透き通るような白い肌に、知性を感じさせる涼やかな碧眼。小柄ながらも、その佇まいには近寄りがたいほどの気品が漂っていた。
原作ゲームのイラストからそのまま抜け出してきたかのような、完璧な美少女。
――賢者エルナ・グリーベル。その人だった。
(……あれ? 普通じゃないか? ポスターの印象とは全然違う――)
俺が内心で安堵しかけた、そのときだった。
彼女は手に持っていた羊皮紙の束から顔を上げると、俺の頭のてっぺんからつま先までを、まるで品定めするかのようにじろりと一瞥した――かと思うと。
「初めまして、私はエルナ・グリーベルと申します」
彼女は途端に俺との距離を詰め、手を握った。
柔らかく、それでいて少し冷たい感触。俺は突然のことに思考が停止する。
(な、なんだ!?)
「入学してまだ数日だと言うのに、マクスウェル教授が法技会にお誘いするほどですもの。どれほどの逸材かと気になりまして」
エルナはにこやかに言った。
ゲーム本編でも聞いたことのない柔らかさで。
やはりあのポスターには間違いはなかったのだと、思い知らされる。
「差し支えなければ、お名前を伺っても?」
彼女は手を離さない。碧眼が期待に煌めいている。
「ディラン・ベルモンドです」
短い沈黙。
光が、ふっと消えたように見えた。
「……ベル、モンド?」
エルナは指先をわずかに震わせ、握っていた手をそっと放した。頬から音を立てて血の気が引いていくのが見えるほど、青い。
次の瞬間、張りついた笑顔だけは辛うじて維持したまま、瞳の奥だけが氷のように冷える。
「――失礼。少々、取り乱してしまいました」
その声音は先程とは打って変わって刺々しいものに変わっていた。
俺としてはこちらの方が慣れ親しんだものではあるのだが、そのあまりの豹変ぶりには動揺を隠せない。
「む、エルナ嬢。何か気に障ることでも?」
マクスウェル教授が不思議そうに俺達を見ていた。
やはり先ほどの彼女の対応は平常運転だったようだ。
そして今の状態はマクスウェル教授から見ても、不自然であったことも感じ取れる。
「……いえ、ここは学びの場。婚姻やらは――いえ、余計な雑音は一切忘れて、純粋に魔法だけに集中すべきだと思い立っただけです」
その言葉は、俺ではなくマクスウェル教授に向けられたものだった。
完璧な淑女然とした所作で一礼すると、エルナはすっと俺から距離を取り、先ほどまで座っていた席へと戻る。まるで俺との間に見えない壁を築くかのように。
(何が何やら……)
怒涛の展開に俺はついていけていない。
「う、うむ。その意気や良し。ディラン君、君もエルナ嬢に負けぬよう、探求に励みたまえ」
マクスウェル教授は咳払いを一つして、無理やり場を収めた。どうやら彼にも詳しい事情は分からないらしい。
「さて、みな揃ったところで、初めていこうか」
それからは他の法技会メンバーと簡単な挨拶を交わしただけで、本日はお開きとなった。
ちなみにその間にも、エルナとは一切口を聞いておらず、他のメンバーも困惑しているようで、やはりエルナは俺に対して何か思うところがあるとしか思えない。
それが一体何なのか。それは一切分からないままである。
▼
「お帰りなさいませ、ディラン様」
部屋に戻ると、待機していたマルタが出迎えてくれた。
「随分とお疲れのようですね。やはりマクスウェル様の法技会というのはそれほどのものだったのでしょうか」
「いや……そういうわけではないんだが」
小さく首を振る。
あれは、何といって良いのか。
悪戯されるほどの間柄でもない。
「そうなんですか? では、グリーベル嬢のことでしょうか」
「……よく分かったな」
やけに鋭いマルタに俺は思わず顔を上げる。
彼女は小さく微笑み、しかしその表情にはどこか影が差していた。
「はい。今のディラン様を見ていれば、きっとそのことだろうと」
「……そのこと?」
「ええ。やはりご負担でしたか? ご婚約の件が」
「……ん?」
どこかマルタと話が噛み合っていない気がした。
それも根本のところで。
「……エルナ・グリーベル嬢とのご婚約の件です。まだ正式な決定とはなっていないようですが――」
「待て、待て待て。婚約? 誰と誰が?」
「ですから、ディラン・ベルモンド様と、エルナ・グリーベル様です」
マルタはまっすぐ俺を見る。
その瞳は、決してそれが冗談などではないということを示していた。
「……………………は?」
『エターナル・クエスト』においては、聖女アリシアと並ぶメインヒロインの一人。
そんな彼女のキャラクターを一言で言うと「完璧主義者」だ。
魔法の理論、実技、応用——全ての分野で完璧を求め、決して妥協を許さない。
史上最年少で宮廷魔法師の地位に就いたのも、その徹底した完璧主義の賜物だったのだろう。
原作においても勇者一行の頭脳として、戦略立案から魔法支援まで全てを完璧にこなしていた。
まさに賢者の称号が似合うキャラクターだ。
そして辛辣な物言いも彼女の特徴の一つだろう。
何事にも臆せず直接的に言葉を発する彼女は、それはもう癖の強いキャラクターである。
小柄な毒舌少女という外見とのギャップも含めて、非常に人気の高いキャラクターだった。
その彼女が――恋愛に現を抜かしているという。
一部ファンからは男嫌いというレッテルまで貼られていた彼女が、だ。
にわかに信じがたい状況である。
今や「理想の男性の条件100箇条」を作成して婚活に励んでいるほどに、歪んでしまっているのだから。
まあ、完璧主義だからこそ、その矛先が恋愛に向いてしまったら、そうなるのも理解できるのが非常に悩ましいところではあるのだが。
「ディラン様? 顔色が優れないようですが」
講義の後、廊下を歩いている俺に、マルタが心配そうに声をかけた。
「ああ、いや……少し考え事をしていただけだ」
俺はマクスウェル教授から受け取った法技会の案内書を握りしめながら答えた。そこにはエルナの名前がはっきりと記載されている。
「法技会の件ですか?」
「まあ、そんなところだ」
実際のところ、ゲーム上においてディランはエルナに関係する破滅フラグはなかったはずだ。
多くのイベント回収場となる学院において、原作開始時点で彼女は既に大成しており、落ちこぼれであったディランとの接点はほとんど生まれなかったからだろう。
だからメタ的にはリスクは低めの人物。
相当なヘマをやらかさない限り、運命的な何かにはならないはずである。
だが、それとはまた別ベクトルで問題があるとしたら、それは紛れもなく今現在の彼女自身だろう。
あのポスターが脳裏に浮かぶ。
一体、彼女はどんな状態になっているのだろうか。
想像しただけで忌避感を覚える。
俺だって、エルナとアリシアでどっちのルートに進むか迷うくらいには好きだったのに。
「それでしたら心配ありません。ディラン様の実力なら、きっと有意義な時間を過ごせるはずです」
「……そうだといいんだが」
もちろん魔法だけなら、俺だってそれなりに自信はある。
「何か不安でもあるのですか?」
マルタの問いに俺は素直に答えるべきか悩んだ。
「……いや、単純に緊張しているだけだ。何しろ宮廷魔法師との勉強会だからな」
俺はぼかしつつ不安を述べる。
「宮廷魔法師……それはエルナ・グリーベル嬢ですか?」
「え? ああ、そうだけど、知っているのか?」
マルタは侍女としてかなり優秀だが、そこまで宮廷政治に詳しい印象はない。
宮廷魔法師といえど位階が上位でもなければ、王国中に個人の名が轟くのは極めて稀のことだ。
「……いえ、少し耳にしたことがあるだけです」
珍しく歯切れの悪いマルタに俺は首を傾げる。
「……もしかして、エルナの縁談の話か?」
俺は少し声のトーンを抑えて聞いてみる。
陰口というほどではないが、どこで誰にどのようにして捉えられるか分からないものだ。それこそ貴族間の婚姻は時に戦略そのものだ。
その言葉に、マルタは一瞬だけ目を見開いた。
「ご存知だったのですね。ディラン様が山に籠もられてからの話でしたので、まだ耳に入っていないものだと」
「まあ、オスカーからな」
それにしても、半年も前から“あの活動”を始めていたとは。それもベルモンド領にいたマルタにまで届くほど派手に……。
「オスカー様から……? そうでしたか。てっきりご本人から直接お聞きになったのかと」
マルタは少し驚いた様子で続けた。
「ん? そりゃあ、本人には聞きづらいというか……」
いくらおかしいと思っていたって、俺もそこまで図太くはない。
「確かに……そうですね。ただ私は、ディラン様の思うままにしたら良いと思います」
マルタはそう言って俺に助言する。
「あ、ああ。何だか大げさな気がするが、ありがとう」
俺も簡単に返した。
この不安は単に見たくないものを見ることになる時の恐怖心だ。
今までの死への恐怖とはまた違う。
「――じゃあ、行ってくる」
俺はマルタと別れ、一人で指定された研究室へと向かった。
法技会は、講堂のような開かれた場所ではなく、学院の最奥にある教授専用の研究棟の一室で行われるらしい。それだけで、選ばれた者しか入れないという特別感が伝わってきた。
重厚な木製の扉をノックすると、「入りたまえ」というマクスウェル教授の低い声が聞こえた。
俺が入室すると、円卓に座っていたマクスウェル教授が顔を上げた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
俺は貴族としての作法に則り、丁寧に頭を下げる。
「うむ。堅苦しい挨拶は不要だ。ここでは誰もが魔法の探求者、身分は関係ない」
教授はそう言うと、俺に席を勧めた。
円卓には既に一人の先客がいた。俺は息を呑む。
窓から差し込む光を浴びて、銀色の髪がキラキラと輝いている。
透き通るような白い肌に、知性を感じさせる涼やかな碧眼。小柄ながらも、その佇まいには近寄りがたいほどの気品が漂っていた。
原作ゲームのイラストからそのまま抜け出してきたかのような、完璧な美少女。
――賢者エルナ・グリーベル。その人だった。
(……あれ? 普通じゃないか? ポスターの印象とは全然違う――)
俺が内心で安堵しかけた、そのときだった。
彼女は手に持っていた羊皮紙の束から顔を上げると、俺の頭のてっぺんからつま先までを、まるで品定めするかのようにじろりと一瞥した――かと思うと。
「初めまして、私はエルナ・グリーベルと申します」
彼女は途端に俺との距離を詰め、手を握った。
柔らかく、それでいて少し冷たい感触。俺は突然のことに思考が停止する。
(な、なんだ!?)
「入学してまだ数日だと言うのに、マクスウェル教授が法技会にお誘いするほどですもの。どれほどの逸材かと気になりまして」
エルナはにこやかに言った。
ゲーム本編でも聞いたことのない柔らかさで。
やはりあのポスターには間違いはなかったのだと、思い知らされる。
「差し支えなければ、お名前を伺っても?」
彼女は手を離さない。碧眼が期待に煌めいている。
「ディラン・ベルモンドです」
短い沈黙。
光が、ふっと消えたように見えた。
「……ベル、モンド?」
エルナは指先をわずかに震わせ、握っていた手をそっと放した。頬から音を立てて血の気が引いていくのが見えるほど、青い。
次の瞬間、張りついた笑顔だけは辛うじて維持したまま、瞳の奥だけが氷のように冷える。
「――失礼。少々、取り乱してしまいました」
その声音は先程とは打って変わって刺々しいものに変わっていた。
俺としてはこちらの方が慣れ親しんだものではあるのだが、そのあまりの豹変ぶりには動揺を隠せない。
「む、エルナ嬢。何か気に障ることでも?」
マクスウェル教授が不思議そうに俺達を見ていた。
やはり先ほどの彼女の対応は平常運転だったようだ。
そして今の状態はマクスウェル教授から見ても、不自然であったことも感じ取れる。
「……いえ、ここは学びの場。婚姻やらは――いえ、余計な雑音は一切忘れて、純粋に魔法だけに集中すべきだと思い立っただけです」
その言葉は、俺ではなくマクスウェル教授に向けられたものだった。
完璧な淑女然とした所作で一礼すると、エルナはすっと俺から距離を取り、先ほどまで座っていた席へと戻る。まるで俺との間に見えない壁を築くかのように。
(何が何やら……)
怒涛の展開に俺はついていけていない。
「う、うむ。その意気や良し。ディラン君、君もエルナ嬢に負けぬよう、探求に励みたまえ」
マクスウェル教授は咳払いを一つして、無理やり場を収めた。どうやら彼にも詳しい事情は分からないらしい。
「さて、みな揃ったところで、初めていこうか」
それからは他の法技会メンバーと簡単な挨拶を交わしただけで、本日はお開きとなった。
ちなみにその間にも、エルナとは一切口を聞いておらず、他のメンバーも困惑しているようで、やはりエルナは俺に対して何か思うところがあるとしか思えない。
それが一体何なのか。それは一切分からないままである。
▼
「お帰りなさいませ、ディラン様」
部屋に戻ると、待機していたマルタが出迎えてくれた。
「随分とお疲れのようですね。やはりマクスウェル様の法技会というのはそれほどのものだったのでしょうか」
「いや……そういうわけではないんだが」
小さく首を振る。
あれは、何といって良いのか。
悪戯されるほどの間柄でもない。
「そうなんですか? では、グリーベル嬢のことでしょうか」
「……よく分かったな」
やけに鋭いマルタに俺は思わず顔を上げる。
彼女は小さく微笑み、しかしその表情にはどこか影が差していた。
「はい。今のディラン様を見ていれば、きっとそのことだろうと」
「……そのこと?」
「ええ。やはりご負担でしたか? ご婚約の件が」
「……ん?」
どこかマルタと話が噛み合っていない気がした。
それも根本のところで。
「……エルナ・グリーベル嬢とのご婚約の件です。まだ正式な決定とはなっていないようですが――」
「待て、待て待て。婚約? 誰と誰が?」
「ですから、ディラン・ベルモンド様と、エルナ・グリーベル様です」
マルタはまっすぐ俺を見る。
その瞳は、決してそれが冗談などではないということを示していた。
「……………………は?」
3
あなたにおすすめの小説
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる