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ヤクザと初めて※
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阿久津に待っていろと言われたが、やはり話をしたら未練が残ってしまう気がして、私は彼を待たずに歯医者から帰ってきた。自転車を引いて修道院の門をくぐる。
「シスター・アンジェラ。お帰りなさい」
「ただいま帰りました」
すれ違った同僚のシスターに頭をさげ、自室へと向かう。私服からシスター服に着替え、聖堂へと向かった。祭壇に向かって祈りを捧げていたら、修道院長がやってきた。祈りを終えてから、修道院長と共に座る。
「検診はどうでしたか」
「はい、なんともありませんでした」
「よかったわね。若いうちにケアしておかないと、歳をとってからだと大変よ」
修道院長がいたずらっぽく笑った。
「入れ歯だとね、おせんべいがうまく食べられなくなるの」
私が微笑んだら、やっと笑ったわね、と言われた。
「え?」
「最近、元気がなかったでしょう」
私は、祭から帰ってきた時のことを思い出した。片足だけに下駄を履いて、泣きはらした顔で帰ってきた私を、修道院長さまは何も言わずに抱きしめてくれた。
「ご心配かけて申し訳ありません」
彼女は首を振って、
「こないだ、少しだけ阿久津さんとお話しをしたの」
「何か失礼なことを言いませんでしたか」
「いいえ。口は悪かったけれどね」
「すいません」
思わず頭を下げたら、
「あなたが謝る必要なんてないでしょう?」
「はい……」
「あの人と何があったの?」
私は、自分が組長の孫であることや、阿久津が婚姻届を持って会いにきた時のことを話した。修道院長さまはじっとそれを聞いている。
「ではあの人は……利害のためにあなたに近づいてきたというの?」
「最初は、そうだったと思います。女性にも困っていないようだったし」
「今は違うのね」
今だって、阿久津は女性関係にルーズなように思える。私を好きだというのも、どこまで本気なのかわからない。なのに私に、神さまを捨てろと言うのだ。なんて勝手なひとなんだろう。
「わかりません。わからないけれど……私は」
姿を見るだけで、胸が痛くなる。初めての恋だから。
「あの人を、嫌いになりたいのに」
私が声を詰まらせたら、修道院長さまが、そっと背中を撫でた。
「誰かを好きになることは罪ではないわ、アンジェラ」
「修道院長さま……」
私は修道院長さまにしがみついて、喉を震わせた。
☆
自室に戻った私は、書き物机の上に置かれたスマホを手にとった。真っ暗な画面をそっとなでる。阿久津に返しに行かなければ。それで、彼に会うのは本当に最後にしよう。街ですれ違っても、知らないふりをしよう。うまくできるかは分からないけれど。
消灯まであと1時間しかない。私は少し外出をする旨を先輩のシスターに告げて、自転車で阿久津の自宅へと向かった。駐輪場に自転車を停め、マンションの中へ入る。
エレベーターに乗り込もうとしたら、中から出てきた、不機嫌な顔の女性とすれ違った。彼女は私の格好をじろじろと見て、ふい、と顔を背ける。耳元で、十字架のイヤリングが揺れていた。
エレベーターに乗り込み、阿久津が住む五階へと向かう。インターホンを押してみたが、彼は出て来ない。もう寝ているのだろうか?
ポストにスマホを入れて帰ることも考えたが、高価なものだし、落下した衝撃で壊れたらことだ。ノブに手をかけてみたら、がちゃ、と回る。そのまま押したら開いた。不用心だわ。鍵をかけないで寝るなんて。
「阿久津、さん?」
私はそっとドアを開けて、呼びかけてみた。玄関から見えるダイニングは暗くしん、としていて、返事はない。
ひんやりとした廊下を歩いて行き、部屋を覗く。ベッドに阿久津が寝転がっているのが見えて、近づいて行った。室内は冷房がきいている。寒いのか、彼は大きな身体を丸めて寝ていた。シャツがはだけている。脱ぎかけてそのまま寝てしまったのだろうか?
相当飲んだのか、部屋には酒の匂いが充満していた。私は阿久津に毛布をかけた。サングラスをかけていないのと、髪が崩れているせいで、なんだか幼く見える。寝ているとかわいいかもしれない。私は思わず微笑んだ。
彼は身じろぎをして、ぼんやりした目でこちらを見た。
「……アンジェラ?」
私はハッとして、手を引っ込めた。
「こんばんは。あの、スマホをお返ししにきました」
私がスマホを差し出そうとしたら、ぐい、と腕を引っ張られた。かと思えば、視界がぐるんと回った。阿久津の顔が間近にある。アルコールの匂いが鼻をつく。
「阿久津さ」
名前を呼ぶ前に、唇をふさがれて、酒の匂いが強くなった。彼は私の唇に舌をねじこんで、絡めてくる。息苦しくて彼の肩を押そうとしたら、その手を掴まれる。彼は舌を引いて、酒で潤んだ瞳をこちらに向けた。
「これ、夢なんだろ……」
すり、と私の肩に頭をすりつける。
「夢ん中なら、もっと優しくしろよ。俺のこと、ぎゅってして、アンジェラ」
「……っ」
私は唇を震わせた。阿久津の体温とその瞳、その声に、心が囚われて行く。神さま、お許しください。今だけ、他の人にこの身を捧げる私を許してください。彼の背中に腕を回す。
「はい、夢、です」
阿久津は私をぎゅっと抱きしめた。彼の体重がかかってきて、ベッドが軋む。彼は再び私に口付けて、胸元に手をやった。柔らかく胸を揉まれ、私は吐息を漏らした。阿久津は私の唇をちゅ、ちゅ、とついばんだあと、ぬるりと舌を這わした。
「ふ、あ」
「おまえも、舌出して」
私は恐る恐る舌を出した。彼の舌と私の舌が絡まると、くちゅくちゅ音がした。ふたりの唾液がこぼれ落ちて、枕にシミができる。
「阿久津さんの口、熱い、です」
「ああ、あつくて、すげえむずむずする」
阿久津は私に下半身を押しつけてきた。硬いものが太ももに触れて、私は身体を震わせる。荒い息とその感触が、彼の興奮を伝えてきた。大きな掌がファスナーを降ろして、下着の上からゆっくり私の胸を揉みしだく。
「やわらかい。本物みてえ」
「ん」
阿久津は鎖骨あたりに噛み付いたあと、歯でブラジャーの紐を引いた。長い指先が器用にホックを外したら、はらりと下着が落ちる。露わになった胸に視線が落ちて、恥ずかしさに眼を伏せた。
「おまえの胸、すげえきれいだよな」
「あ、っ」
阿久津は私の乳首に吸い付いて、ちゅ、と吸った。舐めまわされて、軽く噛まれて、だんだん硬くなってきたのがわかる。彼は私の乳首をきゅっ、と摘んでささやいた。
「見ろよ、つまめるくらいたってる」
しこるようにされて、背中がぞわぞわする。
「だめ、です」
「なんで?」
「はずかしい」
「かわいい」
彼は私の乳首を舐め回しながら、足を撫で始めた。だんだん上がっていった指先が、内またを撫で、ショーツの上から秘部をなぞる。それだけで背中がびりびりして、阿久津の腕をぎゅっとにぎった。
彼は私の身体を抱き起こして、修道女服を脱がせていく。唇を重ねながら、ショーツを脱がせた。指先が直接蜜口に触れて、私は思わず声を漏らした。
「やらしい声」
「あ、あっ」
阿久津は私の肩を舐めながら、蜜口をゆっくり指先で撫でる。彼は私の耳元に唇を寄せて囁いた。
「すげえくちゅくちゅいってる」
「変なこと、言わないでください」
「自分でわかるだろ」
「わかり、ませ、あ」
阿久津は濡れた部分を指の腹でこすって、わざとらしく音を鳴らした。彼の指が濡れているのがわかって、私は顔を熱くする。指先を離したあと、阿久津はシャツを脱ぎ捨てた。肩や背中、腕に彫られた龍の入れ墨が露わになって、私はびくりとする。
「……こわいか」
阿久津がシャツを着なおそうとするので、慌ててかぶりを振った。
「こわく、ないです」
入れ墨も、彼の一部だ。阿久津が瞳をゆるめ、私の額に口付けた。膝に手をかけて、足をぐい、と開かせる。思わず足の間を手で隠したら、ぐい、と掴まれた。阿久津の視線が私の秘部に注いでいる。
「ぬるぬるだな」
「や」
黒い頭が足の間に埋まり、阿久津の舌が、私の蜜口に触れた。ピチャッ、と音がして、頭の奥が熱くなった。
「や、だ、め」
私は彼の肩を掴んだ。舐められるたびに下半身がじんじん痺れて、何かがせり上がってくる。阿久津は上目遣いで私をみながら、花芯を舌で転がした。恥ずかしくて死んでしまいそうになる。
なにより、舐められて感じてしまっているのが、ひどく恥ずかしかった。
蜜があふれて、ポタポタシーツに染み込んでいくのがわかる。やがて、目の前がちかちかと白く光った。
「あ、あっ」
阿久津の手をぎゅっと握りしめながら、私は身体をふるわせた。
彼は私の蜜口から舌をひいて、ダッシュボードを開けた。避妊具を取り出し、私に差し出す。
「これ、つけて」
「どうやって、ですか?」
阿久津がズボンを下ろすと、反り立ったものが現れた。阿久津は私の手を、彼のものに導く。触れてみると、熱くて硬くて、かすかに動いていた。
「おまえの手、きもちいい」
阿久津は熱っぽく囁いて、照れたように笑った。
「夢なのに、ゴムつけんの変だな」
「嬉しい、です」
無意識に、私のことを思いやってくれているのだとわかるから。私はぎこちない手つきで、阿久津のものをすり上げた。阿久津は私に口付けながら、私の胸に触れる。
「おまえのおっぱい、やわらかい」
長い指先が、胸を震わせて、花芯に滑り落ちた。先ほど達したばかりで敏感な部分を擦られ、私は声を漏らした。
「だ、め」
「おまえのここ、俺の舌、気に入ってたな」
「違います」
「なあ、早くつけろよ。いれたい」
掠れた声で囁かれながら花芯をいじられ、背中がしびれた。
避妊具をつけ終わると、阿久津は私の身体を撫でながら、ベッドに押し倒した。
大きなものが、なかに入り込んでくる。押し広げられて、ぴりぴりとかすかな痛みが走った。
「いたい?」
「大丈夫、です」
「なあ、動いていいか」
「はい」
彼はゆっくり動き出した。
「アンジェラ、すきだ」
「私も、すきです」
そう言ったら、阿久津が嬉しそうに笑う。きゅん、と胸が鳴った。指先を握りしめながら、阿久津が私を突き上げる。私は身体を震わせながら、阿久津を見上げた。
「アンジェラ、すげえ、いい、おまえのなか」
「阿久津、さ……」
なんども突かれて、なかがきゅん、きゅん、と彼のものを締め付けていた。阿久津は私を揺らしながら、熱を帯びた口調で囁いた。
「俺のにしたい、おまえのぜんぶ、俺でいっぱいにしたい」
「阿久津さ、阿久津さ……」
「名前よべよ」
「龍二さん」
「もっと」
「龍二さん、龍二さん……」
阿久津は息を吐いて、私をたくさん揺さぶった。彼のものが奥に当たって、切ない快感に身体が昂ぶっていく。
「杏樹」
きゅん、となかが締まった。私のなまえ。本当の名前。
「杏樹、俺のもんになれよ。二人だけで、どっかで静かに暮らそう」
そんなの、無理でしょう。私はシスターで、あなたはヤクザなのに。一緒になんてなれない。でもこれは夢だから。夢のなかでは、素直でいたい。
「一緒、に、いって」
突き上げが激しくなり、私は阿久津にしがみついて、高い声をあげた。結合部から、私の蜜が溢れている。しっとり濡れたシーツの感触から、逃れようと身をよじったら、腰が浮いて、阿久津のものがぐりっと奥に当たった。
「ひ、あ」
「っ」
彼が呻いて、私をぎゅっと抱きしめた。私も阿久津を抱きしめ返す。どくどくと受け入れている部分が脈うっていた。彼の胸板が私の乳首を押しつぶして、吐息を漏らしたら、阿久津のものが硬度を取り戻した。
「もっかい、する」
「え、あっ」
再開した突き上げに、私は喉をそらした。
☆
寝息が耳元に触れて、私は目を覚ました。阿久津は私を抱きしめたまま、すやすや眠っている。私はそっと彼の手を外し、音を立てないよう起き上がった。修道服を身につけていたら、
「アンジェラ」
振り返ったら、阿久津がむにゃむにゃと寝言を言っていた。
「オムライス、食いたい。作って」
オムライスが好きで、しょうもないいたずらが好きで、虫歯で不機嫌になって、ヤクザなのに子供みたいなひと。この人を好きになるなんて、最初は思わなかったのに。私は顔を近づけ、彼のほほに口付けた。癖のない黒髪を、そっとなでる。
「……さようなら、龍二さん」
そうつぶやいて、部屋を出る。阿久津がまたアンジェラ、と呼んだ気がしたが、振り返るのを我慢して、玄関のドアを閉めた。
修道院に帰った私は、荷物を片付け始めた。荷造りをし終えて、修道院長室に向かう。ノックをしたら、扉が開いて、驚いた顔の修道院長さまが顔を出した。
「シスター・アンジェラ?」
「おはようございます」
「あなた、今までどこに……その荷物は?」
修道院長さまは、部屋に入るよう促した。私は彼女と向かい合って、口を開く。
「私は、罪を犯しました」
そう言っただけで、おそらく何があったか察したのだろう。私の荷物に視線を落とし、
「だから、出ていくというの?」
私が頷くと、修道院長がため息をついた。
「阿久津龍二と暮らすつもりですか」
「いえ」
「ではどうするの」
「仕事を見つけて、どこか遠くで暮らします」
「それでいいの?」
「はい」
修道院長さまは、何かを思案するような顔になった。
「……あなたは夏期休暇をとっていませんでしたね」
「ええ、家族もいないので」
「お墓参りに行ってきたらどうですか。その間に、身の振り方を考えなさい」
「ありがとう、ございます」
私は深々と頭を下げた。修道院長さまは何も言わず、私の肩に手を置く。私は修道院の門を出て、駅への道を歩き出した。クラクションの音がして振り返ると、白いセダンがこちらに向かってくる。
停止した車から、蝶次が顔を覗かせた。
「アンジェラさん?」
「蝶次さん」
垂れた瞳が、私の手元へと向かう。
「その荷物は?」
「ちょっと、旅行に」
蝶次はちょうど良かった、と言って微笑んだ。
「駅に行く用事があってね。乗ってください」
「でも」
「どうぞ?」
なんだろう、笑顔から圧力を感じる。私はじゃあ、お願いします、と言い、車に乗り込んだ。
蝶次は駅の近くにあるコインパーキングに車を止め、私の膝にあったカバンを取り上げた。
「あっ」
「行きましょうか」
有無を言わせず車を降りて、さっさと歩き出す。私は慌てて彼を追いかけた。
「自分で持ちますから」
焦る私に、彼はにこりと笑いかける。
「女に荷物を持たせて手ぶらで歩くなんざ、俺の主義に反します」
「は、はあ……」
にこやかだが圧を感じるところは相変わらずだ。私は蝶次と共に駅へ向かい、切符を買った。
「すいません、送ってもらってばかりで」
「いいんですよ。それより、どちらへ行かれるんですか?」
私は行き先を告げた。蝶次が意外そうに目を瞬く。
「ひとりで? そりゃまたどうして」
「両親のお墓があるので。あと、観光もしようかな、と」
「そうですか」
蝶次はしばらく考えるそぶりをし、
「俺も行こうかな」
「はい?」
彼はにっこり笑い、
「そこってたしか、温泉ありますよね?」
「シスター・アンジェラ。お帰りなさい」
「ただいま帰りました」
すれ違った同僚のシスターに頭をさげ、自室へと向かう。私服からシスター服に着替え、聖堂へと向かった。祭壇に向かって祈りを捧げていたら、修道院長がやってきた。祈りを終えてから、修道院長と共に座る。
「検診はどうでしたか」
「はい、なんともありませんでした」
「よかったわね。若いうちにケアしておかないと、歳をとってからだと大変よ」
修道院長がいたずらっぽく笑った。
「入れ歯だとね、おせんべいがうまく食べられなくなるの」
私が微笑んだら、やっと笑ったわね、と言われた。
「え?」
「最近、元気がなかったでしょう」
私は、祭から帰ってきた時のことを思い出した。片足だけに下駄を履いて、泣きはらした顔で帰ってきた私を、修道院長さまは何も言わずに抱きしめてくれた。
「ご心配かけて申し訳ありません」
彼女は首を振って、
「こないだ、少しだけ阿久津さんとお話しをしたの」
「何か失礼なことを言いませんでしたか」
「いいえ。口は悪かったけれどね」
「すいません」
思わず頭を下げたら、
「あなたが謝る必要なんてないでしょう?」
「はい……」
「あの人と何があったの?」
私は、自分が組長の孫であることや、阿久津が婚姻届を持って会いにきた時のことを話した。修道院長さまはじっとそれを聞いている。
「ではあの人は……利害のためにあなたに近づいてきたというの?」
「最初は、そうだったと思います。女性にも困っていないようだったし」
「今は違うのね」
今だって、阿久津は女性関係にルーズなように思える。私を好きだというのも、どこまで本気なのかわからない。なのに私に、神さまを捨てろと言うのだ。なんて勝手なひとなんだろう。
「わかりません。わからないけれど……私は」
姿を見るだけで、胸が痛くなる。初めての恋だから。
「あの人を、嫌いになりたいのに」
私が声を詰まらせたら、修道院長さまが、そっと背中を撫でた。
「誰かを好きになることは罪ではないわ、アンジェラ」
「修道院長さま……」
私は修道院長さまにしがみついて、喉を震わせた。
☆
自室に戻った私は、書き物机の上に置かれたスマホを手にとった。真っ暗な画面をそっとなでる。阿久津に返しに行かなければ。それで、彼に会うのは本当に最後にしよう。街ですれ違っても、知らないふりをしよう。うまくできるかは分からないけれど。
消灯まであと1時間しかない。私は少し外出をする旨を先輩のシスターに告げて、自転車で阿久津の自宅へと向かった。駐輪場に自転車を停め、マンションの中へ入る。
エレベーターに乗り込もうとしたら、中から出てきた、不機嫌な顔の女性とすれ違った。彼女は私の格好をじろじろと見て、ふい、と顔を背ける。耳元で、十字架のイヤリングが揺れていた。
エレベーターに乗り込み、阿久津が住む五階へと向かう。インターホンを押してみたが、彼は出て来ない。もう寝ているのだろうか?
ポストにスマホを入れて帰ることも考えたが、高価なものだし、落下した衝撃で壊れたらことだ。ノブに手をかけてみたら、がちゃ、と回る。そのまま押したら開いた。不用心だわ。鍵をかけないで寝るなんて。
「阿久津、さん?」
私はそっとドアを開けて、呼びかけてみた。玄関から見えるダイニングは暗くしん、としていて、返事はない。
ひんやりとした廊下を歩いて行き、部屋を覗く。ベッドに阿久津が寝転がっているのが見えて、近づいて行った。室内は冷房がきいている。寒いのか、彼は大きな身体を丸めて寝ていた。シャツがはだけている。脱ぎかけてそのまま寝てしまったのだろうか?
相当飲んだのか、部屋には酒の匂いが充満していた。私は阿久津に毛布をかけた。サングラスをかけていないのと、髪が崩れているせいで、なんだか幼く見える。寝ているとかわいいかもしれない。私は思わず微笑んだ。
彼は身じろぎをして、ぼんやりした目でこちらを見た。
「……アンジェラ?」
私はハッとして、手を引っ込めた。
「こんばんは。あの、スマホをお返ししにきました」
私がスマホを差し出そうとしたら、ぐい、と腕を引っ張られた。かと思えば、視界がぐるんと回った。阿久津の顔が間近にある。アルコールの匂いが鼻をつく。
「阿久津さ」
名前を呼ぶ前に、唇をふさがれて、酒の匂いが強くなった。彼は私の唇に舌をねじこんで、絡めてくる。息苦しくて彼の肩を押そうとしたら、その手を掴まれる。彼は舌を引いて、酒で潤んだ瞳をこちらに向けた。
「これ、夢なんだろ……」
すり、と私の肩に頭をすりつける。
「夢ん中なら、もっと優しくしろよ。俺のこと、ぎゅってして、アンジェラ」
「……っ」
私は唇を震わせた。阿久津の体温とその瞳、その声に、心が囚われて行く。神さま、お許しください。今だけ、他の人にこの身を捧げる私を許してください。彼の背中に腕を回す。
「はい、夢、です」
阿久津は私をぎゅっと抱きしめた。彼の体重がかかってきて、ベッドが軋む。彼は再び私に口付けて、胸元に手をやった。柔らかく胸を揉まれ、私は吐息を漏らした。阿久津は私の唇をちゅ、ちゅ、とついばんだあと、ぬるりと舌を這わした。
「ふ、あ」
「おまえも、舌出して」
私は恐る恐る舌を出した。彼の舌と私の舌が絡まると、くちゅくちゅ音がした。ふたりの唾液がこぼれ落ちて、枕にシミができる。
「阿久津さんの口、熱い、です」
「ああ、あつくて、すげえむずむずする」
阿久津は私に下半身を押しつけてきた。硬いものが太ももに触れて、私は身体を震わせる。荒い息とその感触が、彼の興奮を伝えてきた。大きな掌がファスナーを降ろして、下着の上からゆっくり私の胸を揉みしだく。
「やわらかい。本物みてえ」
「ん」
阿久津は鎖骨あたりに噛み付いたあと、歯でブラジャーの紐を引いた。長い指先が器用にホックを外したら、はらりと下着が落ちる。露わになった胸に視線が落ちて、恥ずかしさに眼を伏せた。
「おまえの胸、すげえきれいだよな」
「あ、っ」
阿久津は私の乳首に吸い付いて、ちゅ、と吸った。舐めまわされて、軽く噛まれて、だんだん硬くなってきたのがわかる。彼は私の乳首をきゅっ、と摘んでささやいた。
「見ろよ、つまめるくらいたってる」
しこるようにされて、背中がぞわぞわする。
「だめ、です」
「なんで?」
「はずかしい」
「かわいい」
彼は私の乳首を舐め回しながら、足を撫で始めた。だんだん上がっていった指先が、内またを撫で、ショーツの上から秘部をなぞる。それだけで背中がびりびりして、阿久津の腕をぎゅっとにぎった。
彼は私の身体を抱き起こして、修道女服を脱がせていく。唇を重ねながら、ショーツを脱がせた。指先が直接蜜口に触れて、私は思わず声を漏らした。
「やらしい声」
「あ、あっ」
阿久津は私の肩を舐めながら、蜜口をゆっくり指先で撫でる。彼は私の耳元に唇を寄せて囁いた。
「すげえくちゅくちゅいってる」
「変なこと、言わないでください」
「自分でわかるだろ」
「わかり、ませ、あ」
阿久津は濡れた部分を指の腹でこすって、わざとらしく音を鳴らした。彼の指が濡れているのがわかって、私は顔を熱くする。指先を離したあと、阿久津はシャツを脱ぎ捨てた。肩や背中、腕に彫られた龍の入れ墨が露わになって、私はびくりとする。
「……こわいか」
阿久津がシャツを着なおそうとするので、慌ててかぶりを振った。
「こわく、ないです」
入れ墨も、彼の一部だ。阿久津が瞳をゆるめ、私の額に口付けた。膝に手をかけて、足をぐい、と開かせる。思わず足の間を手で隠したら、ぐい、と掴まれた。阿久津の視線が私の秘部に注いでいる。
「ぬるぬるだな」
「や」
黒い頭が足の間に埋まり、阿久津の舌が、私の蜜口に触れた。ピチャッ、と音がして、頭の奥が熱くなった。
「や、だ、め」
私は彼の肩を掴んだ。舐められるたびに下半身がじんじん痺れて、何かがせり上がってくる。阿久津は上目遣いで私をみながら、花芯を舌で転がした。恥ずかしくて死んでしまいそうになる。
なにより、舐められて感じてしまっているのが、ひどく恥ずかしかった。
蜜があふれて、ポタポタシーツに染み込んでいくのがわかる。やがて、目の前がちかちかと白く光った。
「あ、あっ」
阿久津の手をぎゅっと握りしめながら、私は身体をふるわせた。
彼は私の蜜口から舌をひいて、ダッシュボードを開けた。避妊具を取り出し、私に差し出す。
「これ、つけて」
「どうやって、ですか?」
阿久津がズボンを下ろすと、反り立ったものが現れた。阿久津は私の手を、彼のものに導く。触れてみると、熱くて硬くて、かすかに動いていた。
「おまえの手、きもちいい」
阿久津は熱っぽく囁いて、照れたように笑った。
「夢なのに、ゴムつけんの変だな」
「嬉しい、です」
無意識に、私のことを思いやってくれているのだとわかるから。私はぎこちない手つきで、阿久津のものをすり上げた。阿久津は私に口付けながら、私の胸に触れる。
「おまえのおっぱい、やわらかい」
長い指先が、胸を震わせて、花芯に滑り落ちた。先ほど達したばかりで敏感な部分を擦られ、私は声を漏らした。
「だ、め」
「おまえのここ、俺の舌、気に入ってたな」
「違います」
「なあ、早くつけろよ。いれたい」
掠れた声で囁かれながら花芯をいじられ、背中がしびれた。
避妊具をつけ終わると、阿久津は私の身体を撫でながら、ベッドに押し倒した。
大きなものが、なかに入り込んでくる。押し広げられて、ぴりぴりとかすかな痛みが走った。
「いたい?」
「大丈夫、です」
「なあ、動いていいか」
「はい」
彼はゆっくり動き出した。
「アンジェラ、すきだ」
「私も、すきです」
そう言ったら、阿久津が嬉しそうに笑う。きゅん、と胸が鳴った。指先を握りしめながら、阿久津が私を突き上げる。私は身体を震わせながら、阿久津を見上げた。
「アンジェラ、すげえ、いい、おまえのなか」
「阿久津、さ……」
なんども突かれて、なかがきゅん、きゅん、と彼のものを締め付けていた。阿久津は私を揺らしながら、熱を帯びた口調で囁いた。
「俺のにしたい、おまえのぜんぶ、俺でいっぱいにしたい」
「阿久津さ、阿久津さ……」
「名前よべよ」
「龍二さん」
「もっと」
「龍二さん、龍二さん……」
阿久津は息を吐いて、私をたくさん揺さぶった。彼のものが奥に当たって、切ない快感に身体が昂ぶっていく。
「杏樹」
きゅん、となかが締まった。私のなまえ。本当の名前。
「杏樹、俺のもんになれよ。二人だけで、どっかで静かに暮らそう」
そんなの、無理でしょう。私はシスターで、あなたはヤクザなのに。一緒になんてなれない。でもこれは夢だから。夢のなかでは、素直でいたい。
「一緒、に、いって」
突き上げが激しくなり、私は阿久津にしがみついて、高い声をあげた。結合部から、私の蜜が溢れている。しっとり濡れたシーツの感触から、逃れようと身をよじったら、腰が浮いて、阿久津のものがぐりっと奥に当たった。
「ひ、あ」
「っ」
彼が呻いて、私をぎゅっと抱きしめた。私も阿久津を抱きしめ返す。どくどくと受け入れている部分が脈うっていた。彼の胸板が私の乳首を押しつぶして、吐息を漏らしたら、阿久津のものが硬度を取り戻した。
「もっかい、する」
「え、あっ」
再開した突き上げに、私は喉をそらした。
☆
寝息が耳元に触れて、私は目を覚ました。阿久津は私を抱きしめたまま、すやすや眠っている。私はそっと彼の手を外し、音を立てないよう起き上がった。修道服を身につけていたら、
「アンジェラ」
振り返ったら、阿久津がむにゃむにゃと寝言を言っていた。
「オムライス、食いたい。作って」
オムライスが好きで、しょうもないいたずらが好きで、虫歯で不機嫌になって、ヤクザなのに子供みたいなひと。この人を好きになるなんて、最初は思わなかったのに。私は顔を近づけ、彼のほほに口付けた。癖のない黒髪を、そっとなでる。
「……さようなら、龍二さん」
そうつぶやいて、部屋を出る。阿久津がまたアンジェラ、と呼んだ気がしたが、振り返るのを我慢して、玄関のドアを閉めた。
修道院に帰った私は、荷物を片付け始めた。荷造りをし終えて、修道院長室に向かう。ノックをしたら、扉が開いて、驚いた顔の修道院長さまが顔を出した。
「シスター・アンジェラ?」
「おはようございます」
「あなた、今までどこに……その荷物は?」
修道院長さまは、部屋に入るよう促した。私は彼女と向かい合って、口を開く。
「私は、罪を犯しました」
そう言っただけで、おそらく何があったか察したのだろう。私の荷物に視線を落とし、
「だから、出ていくというの?」
私が頷くと、修道院長がため息をついた。
「阿久津龍二と暮らすつもりですか」
「いえ」
「ではどうするの」
「仕事を見つけて、どこか遠くで暮らします」
「それでいいの?」
「はい」
修道院長さまは、何かを思案するような顔になった。
「……あなたは夏期休暇をとっていませんでしたね」
「ええ、家族もいないので」
「お墓参りに行ってきたらどうですか。その間に、身の振り方を考えなさい」
「ありがとう、ございます」
私は深々と頭を下げた。修道院長さまは何も言わず、私の肩に手を置く。私は修道院の門を出て、駅への道を歩き出した。クラクションの音がして振り返ると、白いセダンがこちらに向かってくる。
停止した車から、蝶次が顔を覗かせた。
「アンジェラさん?」
「蝶次さん」
垂れた瞳が、私の手元へと向かう。
「その荷物は?」
「ちょっと、旅行に」
蝶次はちょうど良かった、と言って微笑んだ。
「駅に行く用事があってね。乗ってください」
「でも」
「どうぞ?」
なんだろう、笑顔から圧力を感じる。私はじゃあ、お願いします、と言い、車に乗り込んだ。
蝶次は駅の近くにあるコインパーキングに車を止め、私の膝にあったカバンを取り上げた。
「あっ」
「行きましょうか」
有無を言わせず車を降りて、さっさと歩き出す。私は慌てて彼を追いかけた。
「自分で持ちますから」
焦る私に、彼はにこりと笑いかける。
「女に荷物を持たせて手ぶらで歩くなんざ、俺の主義に反します」
「は、はあ……」
にこやかだが圧を感じるところは相変わらずだ。私は蝶次と共に駅へ向かい、切符を買った。
「すいません、送ってもらってばかりで」
「いいんですよ。それより、どちらへ行かれるんですか?」
私は行き先を告げた。蝶次が意外そうに目を瞬く。
「ひとりで? そりゃまたどうして」
「両親のお墓があるので。あと、観光もしようかな、と」
「そうですか」
蝶次はしばらく考えるそぶりをし、
「俺も行こうかな」
「はい?」
彼はにっこり笑い、
「そこってたしか、温泉ありますよね?」
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