シスターはヤクザに祈る

あた

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ヤクザと温泉

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 銀色の車体に、オレンジの線が入った電車が、ホームに滑り込んで行く。私と蝶二は駅に降りたって、改札口を抜けた。蝶二はのどかでいいところですね、と言って目を細め、あたりを見回した。

「海が近いのかな、潮の匂いがする」
 駅の出口には、競艇の予定表が貼られている。そうか、ここには競艇場があるのだ。
「寺へはどうやっていくのかな」
 蝶二の問いに答える。
「駅から歩いて五分くらいです」
「暑いし、タクシーで行かれたらどうですか」
「いえ、大丈夫」

 蝶二は私の荷物をひょい、と取り上げ、
「俺は宿をとってきます。駅で待ってますから、アンジェラさんはお墓参りを済ませて来てください」
「え」
 蝶二は爽やかに手をあげて、有無を言わさずに去っていく。じりじりとした暑さが肌を焼いた。なぜ彼はスーツを着ていたのに、涼しい顔をしていられたのだろう。日傘を持って来ればよかった。私はハンカチで自分の額をぬぐい、道なりに歩きだした。


 ☆


 私は、歩いて行ったところで見つけたホームセンターで仏花と御線香を買って、寺へと向かった。たどり着く頃には、背中が汗でしっとり濡れていた。

 行儀よく並んだ墓石が、暑さに耐えかねるみたいに白く光っている。私は桶に水を入れて、ひしゃくを持って墓の前に立つ。

「坂口家の墓」と書かれた墓石の前に行き、墓の周りを綺麗にしてから、乾いた墓石に水をかける。これで少しは涼しくなればいいな。私はしゃがみこんで、墓石に向かって手を合わせた。

 お墓参りを終えたあと、再び駅への道を辿った。海沿いの道路を、車が次々に通っていく。私は車のナンバープレートに目をやる。昔、黄色いナンバープレートを探す遊びをしたっけ。
 風が吹いて、私の髪を撫でていった。かすかに潮の匂いがかおって、鼻先をくすぐる。

 少しだけ海を見ていこうかな。私はそう思いながら、そちらへ足を向けた。

 目前に海が広がっている。寄せては返す水面が、夏の日差しにきらきらと輝いていた。海水浴客らしい人々が、砂浜にちらほらと見えている。赤と白のパラソルの下、座っていた小さな男の子がひとり波間に近づいて行ったので、慌てて止めた。

「まーくん、ダメでしょ」
 母親が駆け寄ってきて、すいません、と頭を下げる。
「いえ」

 男の子は母親に抱き抱えられ、キョトンと私を見ている。かわいいな。2歳くらいだろうか。私はその子に手を振って、波打ち際を歩きだした。足元だけでも涼しいと、気分が変わる。それに、海を見ていると心が穏やかになった。砂に足を取られてしまい、靴が脱げる。

「あっ」
 私は慌てて靴を拾い上げようとしたが、ちょうど波がやってきて、さらわれて行ってしまった。
「ああ……」
 私はズボンを捲り上げ、片足だけを水面につけて、ぴょんぴょんと飛んだ。ふいに、ぐいっ、と腕を掴まれる。振り向いたら、阿久津が立っていた。

 え? 私は片足で立ったまま、ポカンと彼を見つめる。なんでこの人がここに? 彼は私を睨みつけ、思いきり叫んだ。
「何してんだおまえ!」
「はっ!?」

 いきなり身体が浮いた──と思ったら、阿久津に抱き上げられているのに気づいて、私は悲鳴をあげる。
「ちょっ、なんですか!」
「なんですかじゃねえ!
「なにをわけのわからないことを。離してください」

 押しのけようと肩を突いたら、阿久津がバランスを崩した。あっ、と思う間も無く、二人して海へと落下する。私は海面からぷは、と顔をだして叫んだ。
「もう、なんなんですか!」
「おまえがなんなんだ! いくら時代遅れだからって、入水自殺とかしてんじゃねえ!」
「入水自殺!?」
 私はぎょっとした。
「するわけないでしょそんなこと! なんで私がそんなことしなきゃならないんですか」
「なんでって……俺が突っ込んだから?」
「!」

 私は真っ赤になった。覚えているのか。あんなに酔ってたのに。
「何を言い出すんですか、あなたは!」
「事実だろうが」
「もうっ」
 私は海の中をバシャバシャと歩いていき、砂浜で服を絞った。シャツを絞っている阿久津を、横目でにらみつける。

「あなたのせいでベタベタじゃないですか」
「人のせいにしてんじゃねえよ。おまえが紛らわしいことするからだろ」
「してません。あなたが勝手に勘違いしたんでしょう」
「おい、どこ行く」
「駅です」
「車あるから乗れ」

 ここまで車で来たのか。私は内心驚いていた。私を追いかけてきたのだろうと思ったら、胸がきゅっと痛んだ。だけど、阿久津のことは諦めると決めたのだ。
「結構です」

 私はずぶ濡れのまま歩きだした。後ろから阿久津がついてくるのがわかる。背中に視線を感じて、焦げそうなほどだ。阿久津の熱視線ゆえか、真夏の日差しゆえか、服も乾いてきていた。駅で待っていた蝶二が、すっ、と手をあげた。

「アンジェラさん」
 彼は阿久津に目を向けて、怪訝な顔をした。
「龍二?」
 阿久津は蝶二を目にして、ぴく、と眉を動かす。そうして、不機嫌そうな声を出した。

「おい、なんでこいつがいるんだ」
「なんでって、一緒に来たからだよ。ねえ、アンジェラさん」
 阿久津がますます眉をしかめた。
「一緒にだあ?」
「にしても、なんでずぶ濡れなんだ? 二人とも」
「阿久津さんのせいです」
「はあ? てめえが暴れるからだろうが」
「人のせいにしないでください」

 言い合いをしている私と阿久津を、蝶二は不可思議そうに見比べる。その時、クラクションの音が響いた。音がしたほうに目を向けると、小さなバンが止まっている。「ホテル 竹の島」と書かれていた。

「送迎バスを頼んでおいたんだ。行きましょう、アンジェラさん。じゃあな、龍二」
「は? ふざけんなコラ」
 蝶二は私の手を引いてバスに乗り込み、龍二の鼻先で、バン、とドアを閉めた。私は、小さくなっていく龍二の姿を目で追う。

「龍二と何かあったんですか?」
 そう尋ねられ、どきりと心臓を鳴らした。龍二に何度も求められたことを思い出し、顔がかあっと熱くなる。蝶二から見えないように顔を伏せ、呟いた。
「いえ……何も、なにもありません」
「そう?」
 蝶二は探るような目でこちらを見ている。私は必死に話をそらした。
「そ、そういえば、よく旅館取れましたね」
「ああ、知り合いの女将がいてね」

 彼はにっこりと笑う。そういう表情をすると、なんともいえない甘さが滲み出た。
「知り合い……ですか」
 どういう知り合いだろう。そんなことを思っていたら、バスはスロープを登って、旅館の前に止まった。
「もう着いたんですか」
「どうぞ」
 先に降りた蝶二が手を差し伸べてくる。私は遠慮して、一人で地面に降り立った。
「いえ、大丈夫です」

 その時、すさまじいブレーキ音がして、黒塗りの車が駐車場に滑り込んできた。ドアが開き、阿久津が降りてくる。
「おいこら蝶二!」
 阿久津はずかずかとこちらに近づいてきて、私の腕をぐい、と引いた。

「てめえなんのつもりだ。なんでこいつと一緒にいた」
「なんのって、アンジェラさんともっと仲良くなりたいから、ついてきただけだが?」
「なにが仲良くだ。やりてえだけだろ」
「品がないな。これだから高2で九九が言えなかった男は」
「それはカンケーないだろ」

 私は二人のやりとりに口を挟んだ。
「あの、ここで言い争ってると迷惑になると思うんですが」
 案の定、運転手さんは困った顔をしている。私たちが邪魔な場所にいるから、出発できないのだ。

「そうですね。行きましょう。龍二、おまえは帰れ」
 蝶二はそう言って、私の肩を抱いて歩き出した。私は肩ごしに阿久津を振り返る。彼は捨てられた犬のような顔でこちらを見ていた。蝶二が囁いてくる。

「気になりますか?」
「べ、べつに」
 フロントへ向かうと、受付の女性が笑顔を浮かべた。
「お部屋は二つ、2名さまでよろしいですか」
「ええ」
 頷いた蝶二と私の間に、黒い塊がずい、と割りこんでくる。

「一名追加だ」
 いきなり現れたでかい男(しかもなぜか濡れている)に、受付の女性がギョッとした。
「ただいまからだと、お食事なしになってしまいますが……」
「んなもんいいよ、カップ麺でも食うから」
 阿久津の言葉に、女性は困惑しつつも笑みを浮かべている。

「では、お部屋のほうとらせていただきます。おタバコは吸われますか」
「吸う」
 どんな客にも笑顔で対応。プロだわ……私が感心していたら、女性がご案内します、と言ってフロントを出た。エレベーターで五階にあがる。

「食事会場は二階になっております。お風呂も二階から別館へ行けますので、そちらでお入りください。お風呂は十二時まで、朝は六時からです」
 流れるような説明をして、私たちを部屋へと連れて行く。私は阿久津と蝶二の部屋に、挟まれる形になった。

「お食事の時間は六時になります。では、ごゆっくりおくつろぎください」

 受付の女性が、一礼をして出ていく。私は部屋を見回した。一人分にしては広すぎる。結構な値段がするのではないだろうか。
 お風呂に入りたい。そう思った私は、浴衣を探した。大きさ的には小サイズでいいだろう。部屋を出て、エレベーターで二階へ向かい、お風呂へと足を進めた。

 風呂から出て、再びエレベーターへ向かうと、浴衣姿の阿久津が立っていた。長身だからか、丈が足りていない。鋭い瞳に見据えられ、私はどきっとした。
 彼から離れたところに立ち、エレベーターを待つ。早く来ないだろうか。エレベーターの回数表示を見ていたら、阿久津が口を開いた。

「おまえの実家って、ここにあんの」
「え? はい……家はもう売ってしまってないんですが」
「ふーん」
 エレベーターがつくと、阿久津が私に顎をしゃくった。私が先に乗り込むと、彼は閉のボタンを押して、私の腕を壁に押しつけた。
「!」
 私が手にしていた着替え類が、エレベーターの床に落下する。
「なんで蝶二といた」
 耳元に低い声で囁きかけられて、喉が震えそうになる。

「だから、偶然です」
「偶然なわけねーだろ。頭ん中スポンジか」
「阿久津さんにだけは言われたくないです。九九も言えないんでしょう?」
「このクソ尼」
「もう、尼じゃないんです。私はその資格を失いました」
「じゃあ、俺の嫁になれ」
「!?」

 私は目を見開いて阿久津を見た。彼は私を見下ろして、眉をあげる。
「なに驚いてんだよ」
 慌てて目をそらす。

「お、驚いてません。嫌がってるんです」
 私がそう言ったら、阿久津が舌打ちした。
「とりあえずヤらせろ。酔ってたせいではっきり覚えてねえんだ」
「えっ、やっ」
 阿久津は私の胸元を弄りだした。素肌に大きな掌が触れて、頭の奥がかあっと熱くなる。
「いいにおいする」

 首筋をくんくん嗅がれ、恥ずかしくなった。阿久津がじっと私を見つめながら、長い指先で顎を持ち上げる。彼の唇が近づいてきて、吐息が私の唇に触れた。

ぎゅっと目をつむったら、ガーッ、とエレベーターのドアが開閉した。ドアの向こうに蝶二がいて、私はギョッとする。慌てて阿久津の足を蹴り飛ばした。
「ってえ!」

 浴衣の前をかき合わせ、落とした着替え類をかき集める。キョトンとしている蝶二のそばを足早に駆け抜けて、私は部屋に戻った。ドアに背を向けて、息をつく。
 ──おまえ、俺の嫁になれ。

 プロポーズされるのは二回目だ。だけど、全然、違う。初めて阿久津と会った時と。心臓が痛いくらいに高鳴っていて、顔が熱い。

 落ち着いて、落ち着いて。私はうろうろと部屋を歩き回った。熱くなった自分のほほに手を当て、息を吐く。鏡を見たら、顔が真っ赤だった。


 ☆


 ぼんやりテレビを見ていたら、ノックの音がした。扉を開くと、蝶二が立っている。風呂に入ったのか、髪がかすかに濡れていた。

「アンジェラさん、夕飯を食べに行きましょう」
「あ、はい」
 私は阿久津の部屋にちら、と目をやる。蝶二は私の視線を追って、
「気になりますか?」
「あ、いえ、全然」
 ギクシャクとエレベーターに向かうと、蝶二がくすくす笑った。
「あなたはほんとに、かわいい人だな」
「な、にがですか?」

 蝶二は長い指先で私の髪を梳いた。甘い声で囁いてくる。
「龍二が好きなんでしょう?」
「そんなこと、ありません」
「そう? じゃあ俺と付き合いますか」
 唇を耳元に寄せ、
「俺の入れ墨はちょっと珍しい柄なんです。見たければ二人きりにならないといけないけど」
 くらくらするような声で言った。危ないひとだ。身体からなにかの物質が出ていそう。

「からかわないでください」
「からかってませんよ」
 軽い口調で言う。蝶のようにひらひらと、つかみどころのない人だ。食事会場は二階の突き当たりにあった。テーブル席に名札が立っている。
「和食なら用意できるってことだったので。よかったですか」
「はい、和食大好きです」
 蝶二は日本酒を一口飲み、私にも勧めてきた。
「アンジェラさんもどうですか」
「いえ、私は」
「そう言わずに。一杯だけ」
「じゃあ、一杯だけ」

 差し出された盃を受け取り、飲み干した。日本酒を普段飲まない私には、少し辛い。私は食事をしながら、ちらちらと時計に目をやる。もうすぐ八時だ。

「どうかしましたか、時間を気にしているようだけど」
「いえ、なんでも」
 阿久津は食事をしただろうか。部屋でひとり、カップラーメンをすすっているのだろうか。そわそわしている私を、蝶二が目を細めて見ている。
「龍二は幸せものですね」
「え?」
「わかりますよ、あなたが何を考えてるのかくらい」
「いえ、阿久津さんのことを考えてたわけじゃ」

 私の言い訳を軽く受け流し、蝶二は言う。
「わからないのは、なんでそんなに意地を張るのかってことだけど」
「……阿久津さんは、その、普通のひとじゃないから」
「ああ、ものすごいバカってこと?」
「い、いえ、そうではなく」

 私は言葉を濁した。蝶二は首を傾げ、自身のほほを指でこすってみせる。
「これもん、ってことかな」
「すいません」
「謝らなくたっていい。遊びならともかく、俺たちみたいな男とまともに付き合うのは勇気が要るでしょう。実際、危険がないとは言えないから」

 私は怖いから、阿久津を拒むのだろうか。
「ニュースとかで、よく、抗争とか話題になりますよね」
「ええ。まあ、俺らの商売じゃ、珍しいことじゃありません」
「嫌なんです」
 ぽつりと呟いたら、蝶二がなにが? と問い返してきた。
「あの人が誰かを傷つけたり、傷つけられたりするのを見たくない」
 蝶二は目を瞬いた。

「それが理由、ですか」
「はい」
 彼は天井を仰ぎ、ため息をつく。
「なにか変、でしょうか」
 おずおず尋ねたら、蝶二は艶然と微笑んだ。
「本当はね、あなたを酔わせて部屋に連れ込もうと思ってたんですよ」
「え」
「それなのに龍二は来ちまうし、のろけは聞かされるし、ここまで来た甲斐がねえな」
「……嘘です」

 私は蝶二をじっと見た。
「だって、蝶二さんは部屋を二つ取ってくれました」
「油断させるためですよ。甘い密を吸うために、色々やってのけるのが蝶ってもんだ」
「優しいんですね」
 蝶二はふっ、と笑い、
「あんたは見る目がないよ、シスター」
 酒をあおった。


 ☆


 もう少し飲んでくんで、先に部屋に行っててください。蝶二にそう言われ、私はひとり自室へと向かった。阿久津の部屋の前を通りすぎる寸前に、立ち止まる。ノックをしたが、返事はなかった。もしかして、寝ているのだろうか。

「阿久津、さん?」
 ドアを開いたら、部屋の中は真っ暗だった。ベッドは空だし、阿久津の気配はない。どこかへ行っているのかもしれない。外へ食べに行ったとか? 鍵もかけていないのに……。私は浴衣から服へと着替え、フロントへ向かった。フロントの女性に尋ねる。

「あの、大きな人が通りませんでしたか?」
「あ、ええ、鍵をお預かりしようとしたんですが、べつにいい、とおっしゃられて」
 間違いなく阿久津だ。

「どこへ行くとか、言ってませんでしたか」
「ああ、竹の島に行けるのかどうか聞かれましたが、暗いので、出かけるなら朝のほうがいいとお答えしました」
「ありがとうございます」

 竹の島というのは、ホテルのすぐ前、海に浮かぶ小さな島だ。橋がかかっていて、渡って島まで行ける。龍二があそこに行きたがるとは思えなかったが……。

 外に出ると、むっとした空気が身体を包んだ。夏とはいえ、もう八時だ。灯りがなければ何も見えない。橋には灯りがぽつぽつと灯っている。私は橋がある方へと歩きだした。
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