乙女ゲームの世界に転生したけど私には悪役令嬢は向いていません

あた

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ずっと大好き 9

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 俺は、夢を見ていた。わたあめに包まれてるような気分。幸せで、暖かくて、ふわふわした気分になれた。

ふいに、ころん、ころん、って、何かが転がるような音がした。床に、飴玉が、たくさん落ちている。俺は、しゃがみこんで、それを拾い集めた……。

 肩を揺さぶられている。なんだよ、だれ……?

 俺はゆっくり、瞳を開いた。きらきら輝く、ウエーブの髪。少しきついけれど、綺麗な顔立ち。

「……セーレ?」
「レイさま」
「なんか、真っ白になって……いまの、なに?」

 俺がぼんやりしていたら、セーレが口を開いた。
「レイさま、私……おかしな夢を、見ていました」
「おかしな、夢?」
「大事なことを全部、忘れてしまうんです」
 その言葉に。心臓がどくりと鳴った。どくどくと鼓動を鳴らしながら尋ねる。
「いまは、どう?」

 セーレは俺に視線を据えて、微笑んだ。
「私の、一番大事な人が、目の前にいます」
「セーレ……」

 俺は喉を震わせて、強くセーレを抱きしめた。柔らかい感触。甘い匂い。俺のセーレが、戻ってきた。

 飴玉みたいにこぼれ落ちた記憶が、元の通りになったんだ……。ありがとう。俺は、見知らぬ誰かに言った。ありがとう、セーレを返してくれて。

「セーレ、すき。俺はセーレがだいすき」
「私も、レイさまがすき。ずっと、だいすきです」
 俺は身体を離して、セーレの唇に自分の唇を寄せた。セーレも、俺のほうに顔を寄せる。

 唇が触れ合って、離れて、また触れ合う。
 目を伏せたセーレに、どうしたの、と尋ねた。セーレが顔を赤らめる。
「は、はずか、しい……です」
「かわいい」

 口づけするたびに、セーレは小さく震える。俺がぎゅっと抱き寄せたら、シャツを掴んできた。彼女は、少しまなじりのあがった目でこちらを見上げる。

「レイさま、なんか、おとな、ですね」
「大人だから」
「すごく、かっこいい、です」
 セーレの表情は、高校生の時のままだ。なんか、悪いことしてるみたい。
「セーレは、かわいい」

 ああ、なんか、久しぶりに頭の中がふわふわする。ずっとこうしていたい。もう仕事なんかどうでもいいや。セーレを抱っこして、髪を撫でていたら、ガラ、と病室の扉が開いた。
「やべー、財布忘れた──……あ」
 アレックスが、扉の向こうに立っていた。でっかいお邪魔虫の登場に、俺は冷たく言った。

「かえれ」
「いや、なんで? なんで急にそうなるの?」
「早くかえれ」 
 俺は、アレックスの背中をぐいぐい押した。
「ちょ、説明しろよ!」

 くすくす笑う声が聞こえた。セーレが笑っている。まるで、天使みたい。

「なに笑ってんの」
 アレックスが、憮然としながら問いかけてくる。
「なんだか、おかしくて」

 アレックスはむかつく。だけど、セーレが笑ってくれたから、許そうかな、って思う。

 セーレが幸せなら、俺も幸せ。
 セーレが笑ってたら、俺も嬉しい。

 俺は、きらきら輝くセーレの髪を、目を細めて見ていた。

 これから、埋めていこう。失われた時を、セーレと二人で。

※※※※※

本編おわり。おまけを投稿予定。
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