【完結】墓守令嬢は黒幕貴公子の溺愛に気付かない

三矢さくら

文字の大きさ
2 / 16

2.公爵令嬢フェリシアの婚約破棄(2)

屋敷に戻ると、叔父夫妻が大仰に詫びてきた。


「伝達に不備があったようで、フェリシアには申し訳ないことをした」

「いいえ。叔父様は王宮にもご出仕されるお忙しいお身体。こういうこともごさいますでしょう」


にこやかに微笑み合い、叔父夫妻を別邸に追い返す。

本邸のメイドたちは口々に叔父夫妻と従妹のディアナを罵り、わたしを慰め、励ました。

だけど、客観的に見れば勝負アリだ。

叔父は来年、わたしに爵位を返すつもりなど毛頭ない。

まあ、お祖父様の血筋は継承される訳だし、わたしがジタバタ騒げば、かえって亡きお父様の名に傷を入れることにもなりかねない。

いや、むしろ叔父はそれを狙っていると考えた方がいいだろう。

なんとかお父様の血筋を守ろうと、この3年は好きだった趣味も封印し、社交の場に勤しんできた。

できる限りのことはやったという自負がある。

わたしの戦いは、いったん終わった。あとは、最後の結果を見届けるだけだ。


翌朝、叔父を本邸に呼び出した。


「……リルブロルに?」

「ええ、叔父様。リルブロルはわがストゥーレ公爵家発祥の地。ご遺言によりお父様とお母様のお墓も200年ぶりに設けられました。この先はリルブロルに移り住み、ふたりの死後の安寧を祈って暮らしたいと思いますの」


叔父はにやけそうになる顔を、必死で引き締めている風情だ。

リルブロルの地は、はるかな辺境。

南方の乾燥地帯にポツンとあって、ちいさな村とブナ林のほかにはご先祖様を祀る聖堂しかない。

すでに、我が家の墓地は本拠地ストゥーレに移っていて、お母様の埋葬は200年ぶりのことだった。

叔父は、つとめて厳粛な声でわたしに応えた。


「実はフェリシア……、お前に縁談が来ているのだ」


手回しのいいことで。

と、鼻白む思いだ。

お相手は大地主、バネル家の嫡男。

バネル家は爵位を持たず領主でもない。いわゆる在地貴族に分類される家柄だけど、王国内外に広大な土地を所有している。

王都の4分の1はバネル家の土地だし、ストゥーレ公爵家領の半分以上もバネル家のものだ。

領主ではなく地主なので徴税権こそ持たないけれど、家格ばかり高くて経済力に乏しいストゥーレ公爵家に比べたら、はるかに裕福な資産家だ。

叔父にしては、なかなか気が利いている。

なにより、バネル家が150年前に貸本屋から身を興したところが、とても良い。


「バネル家は対等婚姻を望んでいる。……つまり、フェリシアはストゥーレ公爵家に籍を残したままということになる」

「よい、お話ですわね」


要するにバネル家は、わたし自身というよりは公爵家の権威を取り込みたいのだ。

そして、叔父はバネル家からの援助を受けたく、かつ、別の貴族をわたしの後ろ盾に持たせたくない。

わたしはリルブロルに在住することを条件に出し、縁談はトントン拍子に決まった。

貴族の結婚など、こんなものだ。


「叔父様? 来年までは本邸をご使用になられない方が、叔父様の名声をより高めますわよ?」


と、わたしが笑うと、叔父は甲高い笑い声をあげた。

負けるときは鮮やかに負けておく。

そうでなければ次がないのも、貴族というものだ。
感想 2

あなたにおすすめの小説

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

【完結】ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜

水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」 ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。 彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。 人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。 そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。 いや、唯一彼女を心配する者がいた。 それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。 「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」 本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。 そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが…… 「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」 シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。 ★全14話★ ※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。 ※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』

[完結]聖女?いいえ容赦のない鬼だそうなので、クズな父と婚約者をまとめてヤっちゃっていいですか? 、、、そして私は王妃になります。

masato
恋愛
エスト五家シリーズ、侯爵家編です。 アリア・エストラージュはエスト王国の筆頭侯爵家の一人娘である。 エストラージュ家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 元々母の実家であり、母もまた一人娘だったために父が婿養子となった。 美しく優秀な女性だったが、今から3年前アリアが11歳の時に亡くなった。 父は結婚時の約束で後妻を迎える事を禁じられているので、今も独り身である。 禁じたのは前公爵である祖父で、万が一娘が亡くなり後妻が来たことにより孫が虐げられるのを防ぐためだ。 何故かエストラージュ家には女児しか生まれない為、過去にそういった問題が度々起きていたから。 そしてアリアにも婚約者がいた。 13歳の時に、父が決めたクレヴィス伯爵家の三男、ライオネルである。 父が熱望したそうだが、はっきり言ってクズだ。 なんだかんだと突っかかってきて鬱陶しい、、、と思っていたら、なぜか王太子殿下が庇ってくれる様になった。 彼もまた苦労人の様で、、、。 エスト王国五家物語第3話となります。 第2話のエストロジア編はサイラス君のお話です。 宜しかったら見てみて下さいね。

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。