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2.王太子妃教育がはじまっちゃう
〈花乙女宮〉に入ってすぐ、宮付きのメイド長を呼び出した。
「侯爵家の身には過ぎた栄誉を賜り〈花乙女宮〉に入らせていただきました。つきましては、三大公爵家の皆さまにご挨拶させていただきたいのですが……」
「先例にございません」
にこやかに優雅な所作で頭をさげる、黒縁眼鏡のメイド長。
分かる。
20年か30年に一度しか使われない、王太子妃候補のためだけの離宮を守ってきたのは、しがない侯爵家の令嬢を迎えるためじゃないよね。
礼儀作法に精通し、にこやかな振る舞いだけど、内心おだやかなはずがない。
しかし、こっちも実家の存続がかかっているのだ。
簡単に引き下がるわけにはいかない。
「あら……? わたしごときが〈花乙女宮〉に入ること自体、先例なきこと。それとも三大公爵家への配慮をメイド長殿が退けられた……、という先例をおつくりになられるのですか?」
「……ガブリエラ様のお考えは承知いたしました。わたくしの一存では決めかねますので、少々お待ちくださいますか?」
「ええ、もちろん。……お互い、先例第一のわが国にあって、先例がないということは大変ですわね。わたしなど陛下の御前に着てゆくドレス選びにも苦労したのですよ?」
「お気遣いにあふれる言い回し。感謝申し上げます」
と、ふかく頭をさげたメイド長がさがり、おおきく息を抜いてソファにもたれると、
侍女のイロナが、両こぶしを握って興奮していた。
「カッコいいです! 王宮のメイド長にも一歩も引かないなんて! さすがガブリエラ様です!」
「……必死なだけよ」
「そのキレイな銀髪をさりげなくかき上げる仕草もカッコいいです! きっと三大公爵家の皆さんも祝福してくださいますよ!!」
「だと、いいけどね……」
イロナを同行侍女に選んだのは、この底抜けの楽天家であるところも大きい。
身分違いの華やかな離宮に隔離され、不安や悲観的な考えとの闘いが待ち受けていることは想像に難くない。
ほんとうは早めに切り上げたいのだけど、わたしの思惑どおりにいくかどうか……。
半日待たされて、
――殊勝な心がけである。非公式に訪問せよ。
と、王妃陛下の御意が下った。
いまごろ王宮の典礼室は、てんやわんやの大騒ぎだろう。
先例がないということは、対等に扱われるべき三大公爵家を〈どの順番で訪問するか〉の定めがないということだ。
しかし、王太子妃教育がはじまる前に、三大公爵家から物言いがついて『なかったこと』になるなら、それに越したことはない。
王太子妃教育――、
語学、礼儀作法に加えて、王国の貴族家すべての歴史を叩き込まれる。
ヴィラーグ王国の貴族は爵位持ちだけでも、公爵家が3、侯爵家が27、伯爵家が78、子爵家が105、男爵家が261。合計474家もある。
社交の場において、さりげなく各家の歴史に触れるのも王太子妃のたしなみだ。
知らないなどということがあれば、相手のプライドをひどく傷つけることになるし、王家の権威にも関わる。
ただ――、
公にされていない、各家と王家との関わりについても学ぶ。
――三大公爵家の秘密なんか知りたくねぇ~~~っ!!
止めてくれるなら、王太子妃教育が始まる前でないと意味がない。
イロナにはああ応えたものの、祝福などされては困るのだ。
結局、3日ほど待たされて、挨拶回りに出発した――。
Ψ
最初はカールマーン公爵家。
順番の理由など知らん。
応対してくださるのは王太子妃候補筆頭と噂されていたご令嬢、エルジェーベト様。
初めて通された貴賓室で、じっとエルジェーベト様がおみえになるのを待つ。
〈花乙女宮〉に入れば、王太子殿下以外の男性との接触は、厳しく制限される。
三大公爵家の王都屋敷はどれも王宮に次ぐ広さを誇るのに、執事など男性使用人の姿は一切目に入らなかった。
「結婚イヤなんです!」
と訴えれば、王家への不敬でお家断絶。
なんとか、それとな~く、三大公爵家から止めてもらえる方向に持っていきたい。
やがて、貴賓室に入ってこられたエルジェーベト様は、いつにも増してお美しい。
わたしより2つ年上の19歳。
黄色みを帯びた落ち着きのあるハニーブロンドの髪はふんわりしていて、端正でありながら柔らかなお顔立ち。
儚げな雰囲気も漂わせる、絵に描いたようなお姫様。
わたしが嫁にもらいたいくらいだ。
同い年の公爵令嬢カタリン様と、どちらが王太子妃になられるか、王都中が注目していた。
わたしは断然、エルジェーベト様派。
寛大で穏やかなご気性。慈悲深さは平民にまで知られている。
わたしが領地から王都にのぼったばかりの頃には、社交の場になじむよう、やさしくお声掛けくださった。
貴族令嬢に相応しいふる舞いを、身を持って教えて下さったわたしの憧れだ。
だけど――、
いまは、その笑顔が恐ろしい。
「おめでとうございます、ガブリエラ様。わざわざのお運び、痛み入ります」
「いえ……、身に余る栄誉。恥じ入るばかりにございます……」
「あら? 過ぎた謙遜は、王太子殿下を射止めたガブリエラ様の美しいお顔に、お似合いになりませんわよ?」
「お、お戯れを……」
怒ってるな。
うん。怒るよね。
先代王妃を輩出したカールマーン公爵家。
エルジェーベト様はアルパード殿下の〈またいとこ〉でもあられる。よく似たハニーブロンドの髪色が、王家との親密さを象徴しているかのよう。
その妃が、わたしなんかでは……。
――今だぞ! 止めるのは、今だぞ!
と、心のなかで強く念じたけど、エルジェーベト様は最後までにこやかに応対してくださり、
わたしも、にこやかに広大な屋敷をあとにした。
暗殺とかだけは、やめてほしい……。
Ψ
続いて、エルジェーベト様のライバルと目されていたカタリン様のいらっしゃる、ナーダシュディ公爵家へ。
妹のメリンダ様と一緒に、貴賓室に姿をみせられた。
といってもカタリン様の3歳年下のメリンダ様は、側室腹のお生まれ。万事控え目で、社交の場でも目立たない。
キレイな赤髪が印象的なメリンダ様だけど、お生まれで苦労されているのか大人びた印象のご令嬢だ。
ソファにも腰かけず、お姉様であるカタリン様のうしろに立たれた。
対して、カタリン様は――、
「侯爵家ごときから王太子妃候補だなんて信じられない」
と、敵意むき出しだ。
いいぞ!! それを待っていた! 頼もしい味方が現われた!!
「身に過ぎた栄誉を賜り……」
「わたしはどうなるのよ!? エルジェーベトならともかく、貴女なんかに王太子妃候補の座を奪われたなんて、恥ずかしくて表を歩くこともできやしないわ!」
不愉快と不機嫌を隠すこともしない。
高位貴族の令嬢としていかがなものか。
だけど、ナーダシュディ家は王太子妃を5代輩出していない。カタリン様個人の想いを超えて、家全体に焦りがあるのも解る。
ストロベリーブロンドというかピンクの髪を小刻みに揺らし、屈辱に震えている。
小悪魔的な美貌が人気のカタリン様だけど、いつも相手を値踏みしてるような視線が、わたしは苦手だ。
しかし、いまは心強い。
「陛下の御意に、侯爵家ごときが物申すことなど……」
「なによ? ウチから物言いをつけろってこと?」
そうだ! 勘がいいな!!
とは言えないので、困ったような笑みを浮かべて首を傾げてみせる。
それも気にくわないようで、ますますヒートアップするカタリン様。
「ウチからクレーム入れたら、お咎めを受けるのはウチじゃない!? どうせ、貴女の家は潰れるんだから、貴女の家から断ればいいでしょ!?」
う~ん。一理ある。
いやいや、そうじゃない。
穏便に丸く収める政治力が、三大公爵家にはあると思うんだけど……。
お父様のナーダシュディ公爵に働きかけてくれることを祈りつつ、
ずっとツンケンしていたカタリン様のもとをあとにした。
いまのところ、貴女だけが頼りだ。
Ψ
最後になったトルダイ公爵家に、ご令嬢はいない。
当主夫人であるレオノーラ様が応対してくださった。
お祖母様と同世代の、たしか56歳。
だけど、濃い青紫の瞳はクリクリと大きく、長くて真っ黒の髪はツヤツヤしてる。
知らずに17歳のわたしと同い年と紹介されても、疑うことはないだろう。
「身分違いの家に輿入れすると、なにかと苦労が絶えないものです」
と、やさしげな微笑みを浮かべるレオノーラ様は子爵家のお生まれ。
当主のゾルターン・トルダイ公爵に見初められ、熱烈な求婚を受け、ご結婚にまで至ったことは、王都で知らぬ者がいないラブロマンスだ。
しかも、現王妃フランツィスカ陛下は、ゾルターン閣下の妹君。
子爵家に生まれて王妃陛下を義理の妹に持つとは、これまでのご苦労は並大抵ではなかったことだろう。
「わたしどもトルダイ公爵家に出来ることは、なんでもさせていただきます。どうか遠慮なく頼ってくださいね」
と、微笑んで下さるのだけど、
――それでは、破談にしてください。
とは、さすがに言えない。
そして、レオノーラ様の想いが、トルダイ公爵家の総意とも限らない。
万一、わたしがこのまま王太子妃に収まってしまった後になって、お父様とお母様にツラく当たらないとも限らない。
王太子妃への道を後押ししてくださろうとするレオノーラ様には、要警戒だ。
示してくださったご好意に、当たり障りなく謝意を述べ、早々にトルダイ公爵家をあとにした。
Ψ
って、三大公爵家への非公式な挨拶回りが無事に終わってしまった――――っ!!
カタリン様が暴れてくれたとしても、穏便な婚約破棄にいたるのは、いつのことになるのか……。
トボトボと肩を落として〈花乙女宮〉に帰った。
王太子妃教育が、はじまっちゃうなぁ~~~。
「侯爵家の身には過ぎた栄誉を賜り〈花乙女宮〉に入らせていただきました。つきましては、三大公爵家の皆さまにご挨拶させていただきたいのですが……」
「先例にございません」
にこやかに優雅な所作で頭をさげる、黒縁眼鏡のメイド長。
分かる。
20年か30年に一度しか使われない、王太子妃候補のためだけの離宮を守ってきたのは、しがない侯爵家の令嬢を迎えるためじゃないよね。
礼儀作法に精通し、にこやかな振る舞いだけど、内心おだやかなはずがない。
しかし、こっちも実家の存続がかかっているのだ。
簡単に引き下がるわけにはいかない。
「あら……? わたしごときが〈花乙女宮〉に入ること自体、先例なきこと。それとも三大公爵家への配慮をメイド長殿が退けられた……、という先例をおつくりになられるのですか?」
「……ガブリエラ様のお考えは承知いたしました。わたくしの一存では決めかねますので、少々お待ちくださいますか?」
「ええ、もちろん。……お互い、先例第一のわが国にあって、先例がないということは大変ですわね。わたしなど陛下の御前に着てゆくドレス選びにも苦労したのですよ?」
「お気遣いにあふれる言い回し。感謝申し上げます」
と、ふかく頭をさげたメイド長がさがり、おおきく息を抜いてソファにもたれると、
侍女のイロナが、両こぶしを握って興奮していた。
「カッコいいです! 王宮のメイド長にも一歩も引かないなんて! さすがガブリエラ様です!」
「……必死なだけよ」
「そのキレイな銀髪をさりげなくかき上げる仕草もカッコいいです! きっと三大公爵家の皆さんも祝福してくださいますよ!!」
「だと、いいけどね……」
イロナを同行侍女に選んだのは、この底抜けの楽天家であるところも大きい。
身分違いの華やかな離宮に隔離され、不安や悲観的な考えとの闘いが待ち受けていることは想像に難くない。
ほんとうは早めに切り上げたいのだけど、わたしの思惑どおりにいくかどうか……。
半日待たされて、
――殊勝な心がけである。非公式に訪問せよ。
と、王妃陛下の御意が下った。
いまごろ王宮の典礼室は、てんやわんやの大騒ぎだろう。
先例がないということは、対等に扱われるべき三大公爵家を〈どの順番で訪問するか〉の定めがないということだ。
しかし、王太子妃教育がはじまる前に、三大公爵家から物言いがついて『なかったこと』になるなら、それに越したことはない。
王太子妃教育――、
語学、礼儀作法に加えて、王国の貴族家すべての歴史を叩き込まれる。
ヴィラーグ王国の貴族は爵位持ちだけでも、公爵家が3、侯爵家が27、伯爵家が78、子爵家が105、男爵家が261。合計474家もある。
社交の場において、さりげなく各家の歴史に触れるのも王太子妃のたしなみだ。
知らないなどということがあれば、相手のプライドをひどく傷つけることになるし、王家の権威にも関わる。
ただ――、
公にされていない、各家と王家との関わりについても学ぶ。
――三大公爵家の秘密なんか知りたくねぇ~~~っ!!
止めてくれるなら、王太子妃教育が始まる前でないと意味がない。
イロナにはああ応えたものの、祝福などされては困るのだ。
結局、3日ほど待たされて、挨拶回りに出発した――。
Ψ
最初はカールマーン公爵家。
順番の理由など知らん。
応対してくださるのは王太子妃候補筆頭と噂されていたご令嬢、エルジェーベト様。
初めて通された貴賓室で、じっとエルジェーベト様がおみえになるのを待つ。
〈花乙女宮〉に入れば、王太子殿下以外の男性との接触は、厳しく制限される。
三大公爵家の王都屋敷はどれも王宮に次ぐ広さを誇るのに、執事など男性使用人の姿は一切目に入らなかった。
「結婚イヤなんです!」
と訴えれば、王家への不敬でお家断絶。
なんとか、それとな~く、三大公爵家から止めてもらえる方向に持っていきたい。
やがて、貴賓室に入ってこられたエルジェーベト様は、いつにも増してお美しい。
わたしより2つ年上の19歳。
黄色みを帯びた落ち着きのあるハニーブロンドの髪はふんわりしていて、端正でありながら柔らかなお顔立ち。
儚げな雰囲気も漂わせる、絵に描いたようなお姫様。
わたしが嫁にもらいたいくらいだ。
同い年の公爵令嬢カタリン様と、どちらが王太子妃になられるか、王都中が注目していた。
わたしは断然、エルジェーベト様派。
寛大で穏やかなご気性。慈悲深さは平民にまで知られている。
わたしが領地から王都にのぼったばかりの頃には、社交の場になじむよう、やさしくお声掛けくださった。
貴族令嬢に相応しいふる舞いを、身を持って教えて下さったわたしの憧れだ。
だけど――、
いまは、その笑顔が恐ろしい。
「おめでとうございます、ガブリエラ様。わざわざのお運び、痛み入ります」
「いえ……、身に余る栄誉。恥じ入るばかりにございます……」
「あら? 過ぎた謙遜は、王太子殿下を射止めたガブリエラ様の美しいお顔に、お似合いになりませんわよ?」
「お、お戯れを……」
怒ってるな。
うん。怒るよね。
先代王妃を輩出したカールマーン公爵家。
エルジェーベト様はアルパード殿下の〈またいとこ〉でもあられる。よく似たハニーブロンドの髪色が、王家との親密さを象徴しているかのよう。
その妃が、わたしなんかでは……。
――今だぞ! 止めるのは、今だぞ!
と、心のなかで強く念じたけど、エルジェーベト様は最後までにこやかに応対してくださり、
わたしも、にこやかに広大な屋敷をあとにした。
暗殺とかだけは、やめてほしい……。
Ψ
続いて、エルジェーベト様のライバルと目されていたカタリン様のいらっしゃる、ナーダシュディ公爵家へ。
妹のメリンダ様と一緒に、貴賓室に姿をみせられた。
といってもカタリン様の3歳年下のメリンダ様は、側室腹のお生まれ。万事控え目で、社交の場でも目立たない。
キレイな赤髪が印象的なメリンダ様だけど、お生まれで苦労されているのか大人びた印象のご令嬢だ。
ソファにも腰かけず、お姉様であるカタリン様のうしろに立たれた。
対して、カタリン様は――、
「侯爵家ごときから王太子妃候補だなんて信じられない」
と、敵意むき出しだ。
いいぞ!! それを待っていた! 頼もしい味方が現われた!!
「身に過ぎた栄誉を賜り……」
「わたしはどうなるのよ!? エルジェーベトならともかく、貴女なんかに王太子妃候補の座を奪われたなんて、恥ずかしくて表を歩くこともできやしないわ!」
不愉快と不機嫌を隠すこともしない。
高位貴族の令嬢としていかがなものか。
だけど、ナーダシュディ家は王太子妃を5代輩出していない。カタリン様個人の想いを超えて、家全体に焦りがあるのも解る。
ストロベリーブロンドというかピンクの髪を小刻みに揺らし、屈辱に震えている。
小悪魔的な美貌が人気のカタリン様だけど、いつも相手を値踏みしてるような視線が、わたしは苦手だ。
しかし、いまは心強い。
「陛下の御意に、侯爵家ごときが物申すことなど……」
「なによ? ウチから物言いをつけろってこと?」
そうだ! 勘がいいな!!
とは言えないので、困ったような笑みを浮かべて首を傾げてみせる。
それも気にくわないようで、ますますヒートアップするカタリン様。
「ウチからクレーム入れたら、お咎めを受けるのはウチじゃない!? どうせ、貴女の家は潰れるんだから、貴女の家から断ればいいでしょ!?」
う~ん。一理ある。
いやいや、そうじゃない。
穏便に丸く収める政治力が、三大公爵家にはあると思うんだけど……。
お父様のナーダシュディ公爵に働きかけてくれることを祈りつつ、
ずっとツンケンしていたカタリン様のもとをあとにした。
いまのところ、貴女だけが頼りだ。
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最後になったトルダイ公爵家に、ご令嬢はいない。
当主夫人であるレオノーラ様が応対してくださった。
お祖母様と同世代の、たしか56歳。
だけど、濃い青紫の瞳はクリクリと大きく、長くて真っ黒の髪はツヤツヤしてる。
知らずに17歳のわたしと同い年と紹介されても、疑うことはないだろう。
「身分違いの家に輿入れすると、なにかと苦労が絶えないものです」
と、やさしげな微笑みを浮かべるレオノーラ様は子爵家のお生まれ。
当主のゾルターン・トルダイ公爵に見初められ、熱烈な求婚を受け、ご結婚にまで至ったことは、王都で知らぬ者がいないラブロマンスだ。
しかも、現王妃フランツィスカ陛下は、ゾルターン閣下の妹君。
子爵家に生まれて王妃陛下を義理の妹に持つとは、これまでのご苦労は並大抵ではなかったことだろう。
「わたしどもトルダイ公爵家に出来ることは、なんでもさせていただきます。どうか遠慮なく頼ってくださいね」
と、微笑んで下さるのだけど、
――それでは、破談にしてください。
とは、さすがに言えない。
そして、レオノーラ様の想いが、トルダイ公爵家の総意とも限らない。
万一、わたしがこのまま王太子妃に収まってしまった後になって、お父様とお母様にツラく当たらないとも限らない。
王太子妃への道を後押ししてくださろうとするレオノーラ様には、要警戒だ。
示してくださったご好意に、当たり障りなく謝意を述べ、早々にトルダイ公爵家をあとにした。
Ψ
って、三大公爵家への非公式な挨拶回りが無事に終わってしまった――――っ!!
カタリン様が暴れてくれたとしても、穏便な婚約破棄にいたるのは、いつのことになるのか……。
トボトボと肩を落として〈花乙女宮〉に帰った。
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