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32.王太子殿下おひとり
王弟ヨージェフ殿下は、国王陛下のふたつ歳下、63歳になられる。
鼻梁が高く、彫りの深いお顔立ちで、あわく燻んだ金髪。シワの目立つお顔に、目は少し垂れていて穏やかそうに見えるけど、
目の奥は、いつも笑っていない。
そのお顔に、笑顔をひろげられている。
――迎えにきた。
言葉の意味は分かるけれど、意図が読めない。
花乙女宮にわたしを迎えに来られるのは、王太子殿下おひとりだ。
ヨージェフ殿下の周りを、わたしを先導した女騎士シャルロタのほか、4人の男性騎士が護り、近衛兵も連れている。
その中に、わたしをニタニタと見下す視線を見付けた。
――ご子息の、ラコチ侯爵ミハーイ閣下。
父は尊大に過ぎると、ご息女ヘレナ様が嘆かれたミハーイ閣下には、かつてわたしが非礼を働いてしまったという因縁がある。
こげ茶の髪に、三白眼。幅広の二重が人を見下す雰囲気を増幅している。
ピンとはねた口髭は、わたしの感覚では品がない。
そのお隣に、にわかには信じ難いお顔を見付けてしまった。
小さな丸顔に、彫りの深さはヨージェフ殿下といい勝負。白髪混じりの金髪が頭部の全体を明るくしているけど、年齢は隠せない。そして、視線が鋭い。
――ガーボル閣下……。
三大公爵家の一角、カールマーン公爵家のご当主ガーボル閣下が、王弟ヨージェフ殿下に付き従われていた。
エルジェーベト様の御父君にして、国王陛下と王弟殿下の従兄弟にあたられる。
「……ヨージェフ殿下。その申されようでは、ガブリエラ殿が戸惑われましょう」
と、ガーボル閣下の薄い唇から、しゃがれた低い声が漏れた。
途端にミハーイ閣下の甲高い笑い声が響く。
「左様、左様。ガーボルの申す通りですぞ、父上。花乙女宮にあって『迎えに来た』と言われては、父上がガブリエラを娶るのかと、私まで肝を冷やしましたぞ?」
相変わらず、不快な冗句を仰られる。
いや、不快どころか、王家対して不敬だ。
――しかも、王弟のご子息とはいえ、ご自身の身分は侯爵。ガーボル閣下を呼び捨てにするとは、いかなる存念か。
と、眉間にシワを寄せず、微笑を保つので精一杯だ。
王弟ヨージェフ殿下は、申し訳なさそうに額を打たれたけれど、やはり目の奥は笑っていない。
わたしの心底を探るような視線を向けらた。
「……ガブリエラよ。わが義姉、フランツィスカ陛下のことは聞き及んでおるな?」
「ええ……。お労しいことです。一日も早いご回復を、花の女神ヴィラーグに祈らせていただいております」
「今は、一日ではなく、一刻が惜しまれる時だ」
「……仰せの通りかと」
「兄イシュトバーン陛下は病床にあられ、その王権を代行するフランツィスカ陛下までもがお倒れになられた」
「……ええ、王国、危急の時と心得ております」
「うむ」
と、大仰に眉をしかめてうなずかれたヨージェフ殿下のお言葉を、ガーボル閣下が継がれた。
「今は、王国の進むべき道を定めることが肝要。……聡明と名高いガブリエラ殿なら、お分かりになられよう」
「……はっ。左様、心得ております」
「王国の進むべき道を定めるとは、すなわち王権を定めること」
と、ガーボル閣下が鋭い視線に、さらに力を込められた。
「今は、ヨージェフ殿下に王権をお預けすべき時」
「なっ……」
「国王イシュトバーン陛下の御治政を、長く王弟として支えてこられたヨージェフ殿下であれば、なんの障りもない。ガブリエラ殿もそう思われるであろう?」
王弟が、王権を代行した先例はない。
にしても、わたしに同意を求めてくるとは、どういうお考えだ?
意図が読めない。
ニコリと微笑み、言質はなにも与えずに、話の続きを促した。
「……本来であれば、アルパード殿下が王太子として王権を代行されるべき局面」
「ええ……」
「しかし、アルパード殿下はご不在。ならば、次の王権代行者は王太子妃殿下ということになる」
ん? ……、わたしはまだ、花乙女宮にいる。厳密に言えば、婚約者でさえない。
なぜ、ここで王権代行順位を持ち出されるのか……。
ニタニタと笑うミハーイ閣下が、あごをしゃくって、口髭を揺らした。
「ガブリエラ。そなた、既に王太子妃教育を終えたというではないか?」
「え、ええ……」
「花冠巡賜も終え、王太子妃教育も終えた。にも関わらず花乙女宮にある」
その自分以外のすべてを蔑むような口調で、花乙女宮という単語を発するな。汚らわしい。
とは言えず、微笑みを積み増して、小首を傾げた。
「それが、なにか?」
「そなたの立場は曖昧に過ぎる。いかなる先例にも当てはまらぬ。そうですな、父上?」
「うむ。ミハーイの申す通り」
ヨージェフ殿下の目の奥が、はじめて慈愛の色を見せた。
――こんな息子でも、可愛いのか。
ピクリと、眉を動かしてしまった。
――王太子妃の御座に相応しい微笑みを絶やすな。
と、母エディトの教えを破ったようで、心の内に、苦いものが広がる。
ガーボル閣下が、しゃがれ声をさらに潜めてみせた。
「ガブリエラ殿。悪いことは申さぬ。一度、花乙女宮を退出されよ」
「は?」
「ヨージェフ殿下が王権を預かられる間だけのこと。アルパード殿下がお戻りになられた暁には、ふたたび花乙女宮に入られたら良い。……王国安定のためですぞ?」
そうか。読めた。
ガーボル閣下は、このままヨージェフ殿下を即位させ王位に就けるおつもりなのだ。
そうすると、ミハーイ閣下が王太子。
王太子妃教育のための花乙女宮に、わたしがいたままでは、おかしなことになる。
ミハーイ閣下がガーボル閣下を呼び捨てにしたことにも合点がいった。
この血筋を鼻にかける尊大な侯爵は、既に王太子気取りなのだ。
――クーデターではないか……。
血の気が引くと同時に、頭が冴えてゆく。
ガーボル閣下がおひとりで姿を見せたということは、三大公爵家で謀り合ってのことではない。
ナーダシュディ公爵家とトルダイ公爵家を出し抜こうというお考えだ。
そして、わたしが花乙女宮を退出すれば、王家がアルパード殿下を見捨てたという形が鮮明になる。
ヨージェフ殿下の即位に障害がなくなる。
「……ガブリエラ様?」
と、バルバーラが、わたしに耳打ちした。
「斬り開かれますか?」
「いいえ。わたしは花乙女宮を動きません。ここで、アルパード殿下のお帰りをお待ちします」
「……かしこまりました」
バルバーラがイロナに目配せすると、イロナは静かに頭をさげ、花乙女宮へと戻る。
背筋は伸び、歩みは確か。
――さすが、わが侍女。いざというときの肝は座ってるわね。
ヒソヒソと話していたわたしたちに、ヨージェフ殿下が大仰に首を振られた。
「おお……、さすがは聡明なるガブリエラ。さすがは賢夫人と名高いエディトの娘よ。早速、侍女を退出の準備に向かわせてくれたのか」
イロナは、わたしの騎槍を取りに戻ってくれたのだ。
たとえ戦闘になろうとも、わたしは一歩も退かない。
「お戯れを」
「戯れ?」
「わたしを花乙女宮から連れ出せるのはアルパード殿下おひとり。王弟ごときが、戯けた口をきかれるものではございませんわよ?」
「うぬ……、ごときだと?」
ニタニタと笑うミハーイ閣下が、皮肉げに口の端を歪めた。
「はっは――、ね、父上? 私の申した通りでしょう? ガブリエラとは、こうした女なのです」
「……うむ」
「ですが、先例を守らねば父上の玉座に傷が入ります。そのために女騎士をお連れになられたのでしょう? はやく追い出してやれば良いのですよ」
ヨージェフ殿下が従える騎士は5人。だけど、女騎士はシャルロタひとり。
ひどく緊張した表情をしている。
――因果を含められていたか。
愚かな主君に仕えることほど、騎士にとって憐れなことはない。
エステル家属の騎士は87名。
その中で、王弟ヨージェフ殿下に仕えるひとりになったとは、運のない娘だ。
バルバーラがシャルロタを迎え撃とうと、そっと腰に手をやったとき、
よく通る、つまらなさそうな声が響いた。
「あ~ら? 王弟殿下に、侯爵のミハーイ。あらあら、ガーボル閣下までおそろいで、われら乙女の花の離宮に、なんのご用事かしら?」
みなが振り向いたその先には、
ピンクブロンドの髪を指先でいじるカタリン様が、艶やかなマゼンダのドレス姿で立っておられた。
わたしはスッと手を伸ばし、バルバーラの手を押さえた。
みなの視線が逸れた隙に、剣を抜こうとしていたのだ。
「……まだよ、バルバーラ」
「はっ……、失礼しました」
カタリン様は、つまらなさそうな表情を浮かべられたまま、憂鬱そうなお声をみなに突き刺した。
「よもや、われらの授けた花冠を踏みにじられるおつもりで?」
カタリン様の背後には、やわらかな微笑みを浮かべられるレオノーラ様はじめ、わたしに花冠を授けてくださったご令嬢、ご夫人方が、数多く並ばれている。
その優雅な微笑みに、ヨージェフ殿下たちが怯まれた刹那、
ご令嬢方全員の、お顔を見渡した。
だけど、やはりエルジェーベト様のお姿はなかった。
――御父君であられる、ガーボル閣下の企てだものね……。
わたしは正面へと向き直り、
見苦しく狼狽える王弟ヨージェフ殿下に、ご令嬢方に負けない優雅さを込めて、微笑みを投げ付けた。
鼻梁が高く、彫りの深いお顔立ちで、あわく燻んだ金髪。シワの目立つお顔に、目は少し垂れていて穏やかそうに見えるけど、
目の奥は、いつも笑っていない。
そのお顔に、笑顔をひろげられている。
――迎えにきた。
言葉の意味は分かるけれど、意図が読めない。
花乙女宮にわたしを迎えに来られるのは、王太子殿下おひとりだ。
ヨージェフ殿下の周りを、わたしを先導した女騎士シャルロタのほか、4人の男性騎士が護り、近衛兵も連れている。
その中に、わたしをニタニタと見下す視線を見付けた。
――ご子息の、ラコチ侯爵ミハーイ閣下。
父は尊大に過ぎると、ご息女ヘレナ様が嘆かれたミハーイ閣下には、かつてわたしが非礼を働いてしまったという因縁がある。
こげ茶の髪に、三白眼。幅広の二重が人を見下す雰囲気を増幅している。
ピンとはねた口髭は、わたしの感覚では品がない。
そのお隣に、にわかには信じ難いお顔を見付けてしまった。
小さな丸顔に、彫りの深さはヨージェフ殿下といい勝負。白髪混じりの金髪が頭部の全体を明るくしているけど、年齢は隠せない。そして、視線が鋭い。
――ガーボル閣下……。
三大公爵家の一角、カールマーン公爵家のご当主ガーボル閣下が、王弟ヨージェフ殿下に付き従われていた。
エルジェーベト様の御父君にして、国王陛下と王弟殿下の従兄弟にあたられる。
「……ヨージェフ殿下。その申されようでは、ガブリエラ殿が戸惑われましょう」
と、ガーボル閣下の薄い唇から、しゃがれた低い声が漏れた。
途端にミハーイ閣下の甲高い笑い声が響く。
「左様、左様。ガーボルの申す通りですぞ、父上。花乙女宮にあって『迎えに来た』と言われては、父上がガブリエラを娶るのかと、私まで肝を冷やしましたぞ?」
相変わらず、不快な冗句を仰られる。
いや、不快どころか、王家対して不敬だ。
――しかも、王弟のご子息とはいえ、ご自身の身分は侯爵。ガーボル閣下を呼び捨てにするとは、いかなる存念か。
と、眉間にシワを寄せず、微笑を保つので精一杯だ。
王弟ヨージェフ殿下は、申し訳なさそうに額を打たれたけれど、やはり目の奥は笑っていない。
わたしの心底を探るような視線を向けらた。
「……ガブリエラよ。わが義姉、フランツィスカ陛下のことは聞き及んでおるな?」
「ええ……。お労しいことです。一日も早いご回復を、花の女神ヴィラーグに祈らせていただいております」
「今は、一日ではなく、一刻が惜しまれる時だ」
「……仰せの通りかと」
「兄イシュトバーン陛下は病床にあられ、その王権を代行するフランツィスカ陛下までもがお倒れになられた」
「……ええ、王国、危急の時と心得ております」
「うむ」
と、大仰に眉をしかめてうなずかれたヨージェフ殿下のお言葉を、ガーボル閣下が継がれた。
「今は、王国の進むべき道を定めることが肝要。……聡明と名高いガブリエラ殿なら、お分かりになられよう」
「……はっ。左様、心得ております」
「王国の進むべき道を定めるとは、すなわち王権を定めること」
と、ガーボル閣下が鋭い視線に、さらに力を込められた。
「今は、ヨージェフ殿下に王権をお預けすべき時」
「なっ……」
「国王イシュトバーン陛下の御治政を、長く王弟として支えてこられたヨージェフ殿下であれば、なんの障りもない。ガブリエラ殿もそう思われるであろう?」
王弟が、王権を代行した先例はない。
にしても、わたしに同意を求めてくるとは、どういうお考えだ?
意図が読めない。
ニコリと微笑み、言質はなにも与えずに、話の続きを促した。
「……本来であれば、アルパード殿下が王太子として王権を代行されるべき局面」
「ええ……」
「しかし、アルパード殿下はご不在。ならば、次の王権代行者は王太子妃殿下ということになる」
ん? ……、わたしはまだ、花乙女宮にいる。厳密に言えば、婚約者でさえない。
なぜ、ここで王権代行順位を持ち出されるのか……。
ニタニタと笑うミハーイ閣下が、あごをしゃくって、口髭を揺らした。
「ガブリエラ。そなた、既に王太子妃教育を終えたというではないか?」
「え、ええ……」
「花冠巡賜も終え、王太子妃教育も終えた。にも関わらず花乙女宮にある」
その自分以外のすべてを蔑むような口調で、花乙女宮という単語を発するな。汚らわしい。
とは言えず、微笑みを積み増して、小首を傾げた。
「それが、なにか?」
「そなたの立場は曖昧に過ぎる。いかなる先例にも当てはまらぬ。そうですな、父上?」
「うむ。ミハーイの申す通り」
ヨージェフ殿下の目の奥が、はじめて慈愛の色を見せた。
――こんな息子でも、可愛いのか。
ピクリと、眉を動かしてしまった。
――王太子妃の御座に相応しい微笑みを絶やすな。
と、母エディトの教えを破ったようで、心の内に、苦いものが広がる。
ガーボル閣下が、しゃがれ声をさらに潜めてみせた。
「ガブリエラ殿。悪いことは申さぬ。一度、花乙女宮を退出されよ」
「は?」
「ヨージェフ殿下が王権を預かられる間だけのこと。アルパード殿下がお戻りになられた暁には、ふたたび花乙女宮に入られたら良い。……王国安定のためですぞ?」
そうか。読めた。
ガーボル閣下は、このままヨージェフ殿下を即位させ王位に就けるおつもりなのだ。
そうすると、ミハーイ閣下が王太子。
王太子妃教育のための花乙女宮に、わたしがいたままでは、おかしなことになる。
ミハーイ閣下がガーボル閣下を呼び捨てにしたことにも合点がいった。
この血筋を鼻にかける尊大な侯爵は、既に王太子気取りなのだ。
――クーデターではないか……。
血の気が引くと同時に、頭が冴えてゆく。
ガーボル閣下がおひとりで姿を見せたということは、三大公爵家で謀り合ってのことではない。
ナーダシュディ公爵家とトルダイ公爵家を出し抜こうというお考えだ。
そして、わたしが花乙女宮を退出すれば、王家がアルパード殿下を見捨てたという形が鮮明になる。
ヨージェフ殿下の即位に障害がなくなる。
「……ガブリエラ様?」
と、バルバーラが、わたしに耳打ちした。
「斬り開かれますか?」
「いいえ。わたしは花乙女宮を動きません。ここで、アルパード殿下のお帰りをお待ちします」
「……かしこまりました」
バルバーラがイロナに目配せすると、イロナは静かに頭をさげ、花乙女宮へと戻る。
背筋は伸び、歩みは確か。
――さすが、わが侍女。いざというときの肝は座ってるわね。
ヒソヒソと話していたわたしたちに、ヨージェフ殿下が大仰に首を振られた。
「おお……、さすがは聡明なるガブリエラ。さすがは賢夫人と名高いエディトの娘よ。早速、侍女を退出の準備に向かわせてくれたのか」
イロナは、わたしの騎槍を取りに戻ってくれたのだ。
たとえ戦闘になろうとも、わたしは一歩も退かない。
「お戯れを」
「戯れ?」
「わたしを花乙女宮から連れ出せるのはアルパード殿下おひとり。王弟ごときが、戯けた口をきかれるものではございませんわよ?」
「うぬ……、ごときだと?」
ニタニタと笑うミハーイ閣下が、皮肉げに口の端を歪めた。
「はっは――、ね、父上? 私の申した通りでしょう? ガブリエラとは、こうした女なのです」
「……うむ」
「ですが、先例を守らねば父上の玉座に傷が入ります。そのために女騎士をお連れになられたのでしょう? はやく追い出してやれば良いのですよ」
ヨージェフ殿下が従える騎士は5人。だけど、女騎士はシャルロタひとり。
ひどく緊張した表情をしている。
――因果を含められていたか。
愚かな主君に仕えることほど、騎士にとって憐れなことはない。
エステル家属の騎士は87名。
その中で、王弟ヨージェフ殿下に仕えるひとりになったとは、運のない娘だ。
バルバーラがシャルロタを迎え撃とうと、そっと腰に手をやったとき、
よく通る、つまらなさそうな声が響いた。
「あ~ら? 王弟殿下に、侯爵のミハーイ。あらあら、ガーボル閣下までおそろいで、われら乙女の花の離宮に、なんのご用事かしら?」
みなが振り向いたその先には、
ピンクブロンドの髪を指先でいじるカタリン様が、艶やかなマゼンダのドレス姿で立っておられた。
わたしはスッと手を伸ばし、バルバーラの手を押さえた。
みなの視線が逸れた隙に、剣を抜こうとしていたのだ。
「……まだよ、バルバーラ」
「はっ……、失礼しました」
カタリン様は、つまらなさそうな表情を浮かべられたまま、憂鬱そうなお声をみなに突き刺した。
「よもや、われらの授けた花冠を踏みにじられるおつもりで?」
カタリン様の背後には、やわらかな微笑みを浮かべられるレオノーラ様はじめ、わたしに花冠を授けてくださったご令嬢、ご夫人方が、数多く並ばれている。
その優雅な微笑みに、ヨージェフ殿下たちが怯まれた刹那、
ご令嬢方全員の、お顔を見渡した。
だけど、やはりエルジェーベト様のお姿はなかった。
――御父君であられる、ガーボル閣下の企てだものね……。
わたしは正面へと向き直り、
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