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58.優美に咲き誇る無数の薔薇
「ヴィラーグの国王は確かイシュトバーンと言ったはずだが、ヴィラーグでは僭称が横行するのか?」
「あら? わたしは臣下の入れ札などで選ばれたのではなく、尊貴な血筋の継承による王権をお預かりしておりますのよ?」
わたしと皇帝アルブレヒト3世の対決は、高貴なる〈嫌味〉の応酬で幕を開けた。
王権代行者という制度はわが国独特のもので、国王がいるのに他の者が女王を名乗ることなど、他国では〈僭主〉と非難されるべき大逆の行いだ。
普通の王国なら〈摂政〉だろう。
皇帝はそれを論難し、わたしは帝国に現存する選挙王制の正統性をあげつらった。
地母神教会の失墜によって〈聖界選帝侯〉は姿を消し、エルハーベン皇帝の戴冠からは、宗教的権威による神秘性も神聖性も、そして正統性も喪失している。
〈世俗選帝侯〉による権力闘争の果てに戴冠した皇帝アルブレヒトよ? お前はいかなる正当性を持って玉座に座るのだ?
と、挑発したのだ。
優雅な微笑みを絶やすことなく。
「ふむ……、まあよい」
と、皇帝はわたしを玉座から見下ろす。
もとは〈王に君臨する者〉として地母神教会が戴冠させた、エルハーベン皇帝。
他国の王を迎えても、玉座は並べない。
外交儀礼上、わたしを正面に立たせ、玉座の皇帝を仰ぎ見させることは礼則にかなっており、わたしへの非礼にはあたらない。
ただし、わたしをはじめ、乙女方のすべてが、皇帝に拝礼を捧げることを拒否した。
あからさまにではない。
わたしの侍女長イロナが、ひとりずつを皇帝に紹介していったのだ。
「……フルスタール家シュルテン公妃ヨゼフィーネ様。そのお隣が、メラン家フィルボ王妃ヨランダ様。ヨランダ様はモラウス女伯でもあられます。そのお隣が……」
落ち着いたラベンダー色のドレスを身にまとう、イロナの堂々たる透んだ声音が謁見の間に響く中、
泰然自若とわたしに首座を譲られる、女大公ヴィクトリア殿下に憚る宮中官僚たちでは、イロナの声を遮ることも出来ない。
そして、ご令嬢、ご夫人方はご自分の名を呼ばれても、会釈さえされず、優雅に胸を張り背筋を伸ばして微笑み続ける。
礼に外れるとは非難しにくい、非礼。
しかも、その中に反ピエカル主要四家の要人も含まれると知り、皇帝は眉を寄せ、宮中官僚は顔を青ざめさせてゆく。
わたしが積み上げてきた外交攻勢のすべてをもって、皇帝に対峙する。
紹介を終えたイロナがさがると、白々しくも華やかな沈黙が流れた。
本題を先に切り出した方が、侮られる。
もはや、宮中官僚のごときが口火を切れるような場ではない。
尊大ぶった皇帝のギョロリとした視線と、わたしの微笑が、中空でぶつかり、火花を散らす。
やがて、わたしの背後で、ヴィクトリア殿下とエルジェーベト様を残し、高貴なる乙女方がふたつに割れてゆく。
両脇に並ぶ宮中官僚の視界が、乙女方の艶やかなドレスで塞がれる。
けれど、乙女方の身分は陪臣たる宮中官僚よりも遥かに高い。文句も言えず、立ち位置をズラして視界を確保する。
そして、乙女方のあけてくださった広い空間に、侍女長イロナとメイド長エレノールの義姉妹が押す、巨大なワゴンが現れる。
濃緑のベルベットで覆われた、天井たかくまで聳える大きくて横にも広い箱が、ゆっくり進み出てくる。
皇帝アルブレヒト3世の視線が、思わず箱の上端を見あげたとき、
わたしの背後を一面の濃緑に染める、ワゴンの進みが止まった。
「エルハーベン皇帝アルブレヒト3世陛下」
と、わたしが初めてその名を呼んだ瞬間、箱を覆う濃緑のベルベットが落とされた。
「皇孫ゲオルグ殿下と公女カタリンの婚約を祝し、心ばかりの贈り物にございます」
わたしの背後に現われる、巨大な額縁。
無数の宝石が埋め込まれ、精緻な彫刻が施された眩いばかりの輝きを放つ、白銀製の額縁。
その中で咲き誇る、生花の薔薇。
巨大な絵画より大きな額縁の中、深紅の薔薇がなかほど一面に、下にゆくほど明るくマゼンタ、ピンク、淡い黄色、そして純白の白薔薇、上にゆくほど赤を濃く、やがて漆黒の黒薔薇へと彩りを夜明けのようにグラデーションさせる、
無数の薔薇。
すべてが葉と茎の濃緑色につながる生花。
芳醇な香りが謁見の間に満ちる。
その咲き誇る巨大な〈薔薇の壁面〉を背後にして、あわい青色、勿忘草色をしたドレス姿のわたしが、微笑んだ。
「わずかに8000品種ほどの薔薇ですが、おふたりのご婚約の記念に」
皇帝の目の色が変わり、宮中官僚たちは抑えきれない羨望と感嘆の呻き声を漏らす。
帝国は薔薇の花を好む。
わたしが目くばせすると、カタリン様が側に歩み出て、わたしに向けた優美なカーテシーの礼を執ってくださる。
「ヴィラーグ女王たるガブリエラ陛下よりの盛大なるご祝福を賜り、公女カタリン。これに勝る栄誉はございません」
鷹揚にして磊落な気品あふれるヴィクトリア殿下と、いつにも増してお美しいエルジェーベト様が、祝意をあらわす、やわらかな微笑みをカタリン様に投げかけられ、
乙女方が、温かい拍手を贈る。
宮中官僚たちはもちろん、玉座にある皇帝さえも置き去りにした祝福の場をつくる。
すべては壮大にして華麗な〈薔薇の壁面〉を背景にして展開される、
優美なる茶番劇。
「公女カタリン。ゲオルグ殿下との婚礼の儀にあたっては、花の王国ヴィラーグの名に恥じぬ、わが国で咲き誇る6万品種の薔薇を、おふたりに贈らせていただこう」
「ガブリエラ陛下の遠大なるご厚情。このカタリン。生涯忘れることはございません。かならずやゲオルグ殿下と幸せになるとお誓い申し上げます」
「6万品種……」
と、皇帝がつぶやきを漏らす。
「数だけであれば、もっとございますけれど、皇孫殿下とわが公女の婚礼に相応しき薔薇となれば6万品種ほどですの」
わたしが視線を向けると、皇帝は無様に目を逸らした。
ヴィラーグの薔薇が欲しい。
皇帝の全身から滲み出る厚かましい欲求に、わたしは見て見ぬふりをする。
「すでに、フルスタール家は、わが国のカールマーン公爵家を通じ、ヴィラーグの花の通商窓口になってくださるとのこと」
「な……」
「ロプコヴィッツ家はトルダイ公爵家を通じて……、メラン家は王家エステル家を通じて、わが国の花をお取扱いくださるとのことにございますわ」
「……さ、左様であるか」
「いずれかの家を通じまして、皇帝陛下の御孫君の婚礼に薔薇を贈らせていただきましょう」
「おいおい、ガブリエラ陛下。わがピエカル家を忘れられては困るな」
と、ヴィクトリア殿下がわざとらしく嘆いて見せられた。
「これは、失礼をば。……ピエカル家には、わたしの出自、交易が盛んなホルヴァース侯爵家を通じた通商窓口となっていただけるのでしたわね」
そして、東方女神諸国から馳せ参じてくださった王妃、王女方も優美に微笑まれる。
「我ら東方女神諸国にもヴィラーグ王国の素晴らしい花々を買い求めさせていただけるとのこと」
「オルク砦攻略に華々しい武勲をあげてくださいましたアルパード殿下のヴィラーグ王国より海を渡る、美しき花々」
「女神ヴィラーグを信仰される花の王国より渡り来る花々。異民族への反攻に、女神諸国の連帯を証していただける」
「これ以上に、心強く勇気づけられることはございませんわ」
と、サートゥセ王国の王妃陛下をはじめ、はるばる東方女神諸国からお運びくださった皆さまが、口々に謝辞を述べてくださった。
わたしが皆さまに微笑みで応えると、
今度はワルデン公国の国母、ブリギッタ様が穏やかに微笑まれた。
「僭越ながら、わがワルデン公国も交易でつながる誼で、ホルヴァース侯爵家より花を融通していただけると……」
帝国において、皇帝の出自オステンホフ家の傍流と位置付けられた、ワルデン公系カールマーン家。
――ヴィラーグの薔薇が欲しければ、傍流に頭をさげよ。
と、皇帝に突き付けた。
「ぬぐっ……」
濃い青色のギョロ目を、険しくしかめた皇帝には目もくれず、わたしはカタリン様に微笑みを向ける。
「あら? 花嫁様がいらっしゃいましたわね」
「そうですわ、ガブリエラ陛下。……私がゲオルク殿下と無事婚礼を終えた暁には、わが出自、ナーダシュディ公爵家が必ずやオステンホフ家との通商を開きましょう」
「もちろんですわ、カタリン姉様」
と、メリンダ様が清楚に微笑まれる。
「ナーダシュディは薔薇の大家と自負しております。姉様がガブリエラ陛下の花冠に編まれた〈ガブリエラ〉と名付けられた黒薔薇などは、最高級の逸品」
「ええ、そうね。メリンダ」
「ナーダシュディの総力を挙げ、姉様の輿入れされる〈オステンホフ〉の名に相応しき、荘厳にして華麗な新品種を開発し、めでたき婚礼に捧げさせていただきますわ」
「新品種……」
と、皇帝が呆けたように、ふらっと玉座から身を乗り出した。
けれど、誰もそれに見向きもしない。
「うれしいわ、メリンダ。いえ……、次期ナーダシュディ女公爵メリンダ閣下」
「オステンホフの世子とナーダシュディの正嫡の長女が結ばれる。この上なく絆の強い縁戚となるのですもの。そのくらい、当然のことでしてよ? カタリン姉様」
「さて……」
と、わたしは皇帝に向き直った。
「……皇孫ゲオルグ殿下と公女カタリンの婚約につき協議がしたいと、勅使よりの口上にございましたが……。よほど勅使の頭が足りないのか、申すことを3度聞いても、いまいち要領を得ませんでした」
「ぬ……」
「はて……? 協議とは、いったい何のお話でございましたかな?」
わたしの挑発に、皇帝の目が泳いだ。
その視線は、わたしの背後に広がる巨大な〈薔薇の壁面〉を彷徨っている。
――ゲオルグ殿下とカタリン様の結婚を認めなければ、帝国でオステンホフ家だけがヴィラーグの花々を、直接は手に入れられなくなる。それがイヤなら結婚を認めよ。
という、わたしの要求に屈することと、薔薇がほしいという欲求のはざまで、体裁なくギョロ目の視線が泳いでいた。
と、ヴィクトリア殿下の快活な笑い声が響いた。
「はははははっ! ヴィラーグ王家にも連なる名門ナーダシュディ公爵家より皇孫に妃を迎える。女神諸国の枢要国、ヴィラーグ王国とエルハーベン帝国の絆もますます深まろうというもの!」
「む、むう……、しかし、女大公……」
と、皇帝がうめき声のようなつぶやきを漏らしたとき、ヴィクトリア殿下が腕を組んで、左手首のブレスレッドを煌めかせた。
「まさに、ゲオルグ殿下は〈皇太孫〉に相応しき存在となられましょうな!」
えっ!!
と、驚いたのは、
わたしだ。
そんな話は、これまでヴィクトリア殿下の口からまったく出ていなかった。
だけど、緊迫する駆け引きと交渉の場で、驚きを顔には出せない。
優美な微笑みを、崩さなかった。
「ご婚約の暁には、ピエカル家はゲオルグ殿下を〈皇太孫〉にご推挙させていただく! この場には、フルスタール家、メラン家、ロプコヴィッツ家の方もおられる」
「う、うむ……」
「アルブレヒト3世陛下より、ゲオルグ殿下への帝位の世襲継承。うむ! まこと、めでたき限りでありますな!」
なんということ……。
帝国の先例をまげ、選帝侯による皇帝選挙を経ず、孫に帝位を譲る。それをピエカル家が認めるという、特大の譲歩。
わたしは、カタリン様のご結婚を皇帝に認めさせるところから、アルパード殿下解放の交渉につなげるつもりだった。
ヴィクトリア殿下は、わたしにその道を切り拓くため、ピエカル家の沽券にもかかわる譲歩のカードを切り出してくださった。
感謝という言葉では、いまのわたしの気持ちを言い表し切れない。
――必ずや、アルパード殿下の即時無条件解放を勝ち取ります! 皇帝アルブレヒト3世を屈服させてみせます!
と、わたしの背後で快活に笑われるヴィクトリア殿下に、念を送った。
皇帝のギョロリとした視線は定まり、ヴィクトリア殿下、そしてカタリン様を睨みつけ、
やがて、わたしをまっすぐに睨んだ。
「……ゲオルグと、公女カタリンの婚約。まこと、めでたい……」
皇帝の、精一杯の威厳を込めた声。
欲望まみれの心中を隠し切れない、醜い声が謁見の間に響いた。
わたしがそれに応える前に、ヴィクトリア殿下がやわらかな声を発せられた。
「皇太子には直臣筆頭が推挙したのち、皇帝陛下ご自身の宣明をもって、立太子とするのが先例。……どうぞ、陛下。宣明を」
「う、うむ……。朕は、皇孫ゲオルグを皇太孫とする」
ヴィクトリア殿下に特大の譲歩をさせてしまったことに、苦い思いもする。
けれど、わたしの勝負はここからだ。
「まこと、帝国の慶事。このガブリエラよりも、お喜びを申し上げます」
「う、うむ……」
「ご婚礼の儀には、わが夫アルパードと参列させていただきますわ」
つまり、すでに即時無条件解放は、既成の事実であると、皇帝に突き付けた。
抗弁すれば、皇帝が主張する〈保護〉の実相が、非道な〈捕囚〉であると、皇帝みずから認めることになる。
ことここに及んで、保護料――身代金の請求などできまい。
と、わたしは優雅な微笑みに、冷えた視線を添えて、皇帝のギョロ目を見据える。
「おおっ! それは良い! エルハーベンとヴィラーグ。両国の絆がますます深まろうというものだな!」
ヴィクトリア殿下の快活なお声が響き渡り、皇帝の視線がふたたび泳ぐ。
けれど、次の瞬間、ヴィクトリア殿下のお声は低くドスのきいたものに転じた。
「されど、ガブリエラ陛下。それは、いささか先走り過ぎというもの」
はじめて耳にする、威厳に満ちたヴィクトリア殿下の冷たいお声。敵意さえ感じる。
ヴィクトリア殿下から放たれる、肚の底まで冷やしてしまうような気迫に、わたしは首筋に汗をひと筋たらした。
「……それは、ヴィクトリア殿下。異なことを申される……」
「異なことではない。婚礼の話のまえに、帝国の大事を済ませるのが筋というもの。お控えなされよ」
「……はっ。これは失礼を」
わたしがヴィクトリア殿下に一歩退いたことに溜飲を下げたのか、皇帝の口の端が醜く上がった。
わたしの背後で、ヴィクトリア殿下のお顔が、皇帝に向く気配がした。
「皇太子を立てた皇帝は、ただちに退位するのが帝国の先例」
「なっ!」
と、宮中官僚のひとりが、声をあげた。
ヴィクトリア殿下が呆れたような声で、それにお応えになられる。
「なんだ? お前たち、そんな先例も知らんのか? 基本中の基本ではないか。まったく不勉強極まる輩。ゲオルグ新帝のもとでは、宮中官僚は総入れ替えだな」
「ち、朕は、退位などせぬ!」
皇帝が、声を張り上げた。
そして、ヴィクトリア殿下の声が低く、重たく響き渡った。
「……アルブレヒト。そなたは、既に退位したのだ。皇太孫を宣明した時点でな」
「と、取り消す!! ゲオルグの皇太孫の話は取り消しだ!!」
「綸言、汗のごとし。……皇帝の口より出た言葉は、流した汗が身体に戻らぬがごとく、取り消すことができない。……先例うんぬん以前に、そもそも帝位に就けてはならん者であったか」
ヴィクトリア殿下は、
わたしの肩に右の手の平を、やさしく置いてくださった。
「ガブリエラ陛下。あそこに座る者は、既に皇帝ではない」
と、銀のブレスレット煌めく左腕をまっすぐに伸ばされ、
玉座にしがみつく醜い老爺を、
指さされた。
「ただの誘拐犯だ」
「……ヴィクトリア殿下」
「ただちに身柄をガブリエラ陛下に引き渡す。帝位を退けば、領邦君主たるシャウナス大公の座も退くのは当然のならい。皇帝ではなく、大公でもない」
わたしとヴィクトリア殿下の背後では、
鋭い棘を隠した8000本の薔薇が、元皇帝となったアルブレヒトに、
優美な花冠を向け、咲き誇っていた。
「ご存分に沙汰されよ」
「あら? わたしは臣下の入れ札などで選ばれたのではなく、尊貴な血筋の継承による王権をお預かりしておりますのよ?」
わたしと皇帝アルブレヒト3世の対決は、高貴なる〈嫌味〉の応酬で幕を開けた。
王権代行者という制度はわが国独特のもので、国王がいるのに他の者が女王を名乗ることなど、他国では〈僭主〉と非難されるべき大逆の行いだ。
普通の王国なら〈摂政〉だろう。
皇帝はそれを論難し、わたしは帝国に現存する選挙王制の正統性をあげつらった。
地母神教会の失墜によって〈聖界選帝侯〉は姿を消し、エルハーベン皇帝の戴冠からは、宗教的権威による神秘性も神聖性も、そして正統性も喪失している。
〈世俗選帝侯〉による権力闘争の果てに戴冠した皇帝アルブレヒトよ? お前はいかなる正当性を持って玉座に座るのだ?
と、挑発したのだ。
優雅な微笑みを絶やすことなく。
「ふむ……、まあよい」
と、皇帝はわたしを玉座から見下ろす。
もとは〈王に君臨する者〉として地母神教会が戴冠させた、エルハーベン皇帝。
他国の王を迎えても、玉座は並べない。
外交儀礼上、わたしを正面に立たせ、玉座の皇帝を仰ぎ見させることは礼則にかなっており、わたしへの非礼にはあたらない。
ただし、わたしをはじめ、乙女方のすべてが、皇帝に拝礼を捧げることを拒否した。
あからさまにではない。
わたしの侍女長イロナが、ひとりずつを皇帝に紹介していったのだ。
「……フルスタール家シュルテン公妃ヨゼフィーネ様。そのお隣が、メラン家フィルボ王妃ヨランダ様。ヨランダ様はモラウス女伯でもあられます。そのお隣が……」
落ち着いたラベンダー色のドレスを身にまとう、イロナの堂々たる透んだ声音が謁見の間に響く中、
泰然自若とわたしに首座を譲られる、女大公ヴィクトリア殿下に憚る宮中官僚たちでは、イロナの声を遮ることも出来ない。
そして、ご令嬢、ご夫人方はご自分の名を呼ばれても、会釈さえされず、優雅に胸を張り背筋を伸ばして微笑み続ける。
礼に外れるとは非難しにくい、非礼。
しかも、その中に反ピエカル主要四家の要人も含まれると知り、皇帝は眉を寄せ、宮中官僚は顔を青ざめさせてゆく。
わたしが積み上げてきた外交攻勢のすべてをもって、皇帝に対峙する。
紹介を終えたイロナがさがると、白々しくも華やかな沈黙が流れた。
本題を先に切り出した方が、侮られる。
もはや、宮中官僚のごときが口火を切れるような場ではない。
尊大ぶった皇帝のギョロリとした視線と、わたしの微笑が、中空でぶつかり、火花を散らす。
やがて、わたしの背後で、ヴィクトリア殿下とエルジェーベト様を残し、高貴なる乙女方がふたつに割れてゆく。
両脇に並ぶ宮中官僚の視界が、乙女方の艶やかなドレスで塞がれる。
けれど、乙女方の身分は陪臣たる宮中官僚よりも遥かに高い。文句も言えず、立ち位置をズラして視界を確保する。
そして、乙女方のあけてくださった広い空間に、侍女長イロナとメイド長エレノールの義姉妹が押す、巨大なワゴンが現れる。
濃緑のベルベットで覆われた、天井たかくまで聳える大きくて横にも広い箱が、ゆっくり進み出てくる。
皇帝アルブレヒト3世の視線が、思わず箱の上端を見あげたとき、
わたしの背後を一面の濃緑に染める、ワゴンの進みが止まった。
「エルハーベン皇帝アルブレヒト3世陛下」
と、わたしが初めてその名を呼んだ瞬間、箱を覆う濃緑のベルベットが落とされた。
「皇孫ゲオルグ殿下と公女カタリンの婚約を祝し、心ばかりの贈り物にございます」
わたしの背後に現われる、巨大な額縁。
無数の宝石が埋め込まれ、精緻な彫刻が施された眩いばかりの輝きを放つ、白銀製の額縁。
その中で咲き誇る、生花の薔薇。
巨大な絵画より大きな額縁の中、深紅の薔薇がなかほど一面に、下にゆくほど明るくマゼンタ、ピンク、淡い黄色、そして純白の白薔薇、上にゆくほど赤を濃く、やがて漆黒の黒薔薇へと彩りを夜明けのようにグラデーションさせる、
無数の薔薇。
すべてが葉と茎の濃緑色につながる生花。
芳醇な香りが謁見の間に満ちる。
その咲き誇る巨大な〈薔薇の壁面〉を背後にして、あわい青色、勿忘草色をしたドレス姿のわたしが、微笑んだ。
「わずかに8000品種ほどの薔薇ですが、おふたりのご婚約の記念に」
皇帝の目の色が変わり、宮中官僚たちは抑えきれない羨望と感嘆の呻き声を漏らす。
帝国は薔薇の花を好む。
わたしが目くばせすると、カタリン様が側に歩み出て、わたしに向けた優美なカーテシーの礼を執ってくださる。
「ヴィラーグ女王たるガブリエラ陛下よりの盛大なるご祝福を賜り、公女カタリン。これに勝る栄誉はございません」
鷹揚にして磊落な気品あふれるヴィクトリア殿下と、いつにも増してお美しいエルジェーベト様が、祝意をあらわす、やわらかな微笑みをカタリン様に投げかけられ、
乙女方が、温かい拍手を贈る。
宮中官僚たちはもちろん、玉座にある皇帝さえも置き去りにした祝福の場をつくる。
すべては壮大にして華麗な〈薔薇の壁面〉を背景にして展開される、
優美なる茶番劇。
「公女カタリン。ゲオルグ殿下との婚礼の儀にあたっては、花の王国ヴィラーグの名に恥じぬ、わが国で咲き誇る6万品種の薔薇を、おふたりに贈らせていただこう」
「ガブリエラ陛下の遠大なるご厚情。このカタリン。生涯忘れることはございません。かならずやゲオルグ殿下と幸せになるとお誓い申し上げます」
「6万品種……」
と、皇帝がつぶやきを漏らす。
「数だけであれば、もっとございますけれど、皇孫殿下とわが公女の婚礼に相応しき薔薇となれば6万品種ほどですの」
わたしが視線を向けると、皇帝は無様に目を逸らした。
ヴィラーグの薔薇が欲しい。
皇帝の全身から滲み出る厚かましい欲求に、わたしは見て見ぬふりをする。
「すでに、フルスタール家は、わが国のカールマーン公爵家を通じ、ヴィラーグの花の通商窓口になってくださるとのこと」
「な……」
「ロプコヴィッツ家はトルダイ公爵家を通じて……、メラン家は王家エステル家を通じて、わが国の花をお取扱いくださるとのことにございますわ」
「……さ、左様であるか」
「いずれかの家を通じまして、皇帝陛下の御孫君の婚礼に薔薇を贈らせていただきましょう」
「おいおい、ガブリエラ陛下。わがピエカル家を忘れられては困るな」
と、ヴィクトリア殿下がわざとらしく嘆いて見せられた。
「これは、失礼をば。……ピエカル家には、わたしの出自、交易が盛んなホルヴァース侯爵家を通じた通商窓口となっていただけるのでしたわね」
そして、東方女神諸国から馳せ参じてくださった王妃、王女方も優美に微笑まれる。
「我ら東方女神諸国にもヴィラーグ王国の素晴らしい花々を買い求めさせていただけるとのこと」
「オルク砦攻略に華々しい武勲をあげてくださいましたアルパード殿下のヴィラーグ王国より海を渡る、美しき花々」
「女神ヴィラーグを信仰される花の王国より渡り来る花々。異民族への反攻に、女神諸国の連帯を証していただける」
「これ以上に、心強く勇気づけられることはございませんわ」
と、サートゥセ王国の王妃陛下をはじめ、はるばる東方女神諸国からお運びくださった皆さまが、口々に謝辞を述べてくださった。
わたしが皆さまに微笑みで応えると、
今度はワルデン公国の国母、ブリギッタ様が穏やかに微笑まれた。
「僭越ながら、わがワルデン公国も交易でつながる誼で、ホルヴァース侯爵家より花を融通していただけると……」
帝国において、皇帝の出自オステンホフ家の傍流と位置付けられた、ワルデン公系カールマーン家。
――ヴィラーグの薔薇が欲しければ、傍流に頭をさげよ。
と、皇帝に突き付けた。
「ぬぐっ……」
濃い青色のギョロ目を、険しくしかめた皇帝には目もくれず、わたしはカタリン様に微笑みを向ける。
「あら? 花嫁様がいらっしゃいましたわね」
「そうですわ、ガブリエラ陛下。……私がゲオルク殿下と無事婚礼を終えた暁には、わが出自、ナーダシュディ公爵家が必ずやオステンホフ家との通商を開きましょう」
「もちろんですわ、カタリン姉様」
と、メリンダ様が清楚に微笑まれる。
「ナーダシュディは薔薇の大家と自負しております。姉様がガブリエラ陛下の花冠に編まれた〈ガブリエラ〉と名付けられた黒薔薇などは、最高級の逸品」
「ええ、そうね。メリンダ」
「ナーダシュディの総力を挙げ、姉様の輿入れされる〈オステンホフ〉の名に相応しき、荘厳にして華麗な新品種を開発し、めでたき婚礼に捧げさせていただきますわ」
「新品種……」
と、皇帝が呆けたように、ふらっと玉座から身を乗り出した。
けれど、誰もそれに見向きもしない。
「うれしいわ、メリンダ。いえ……、次期ナーダシュディ女公爵メリンダ閣下」
「オステンホフの世子とナーダシュディの正嫡の長女が結ばれる。この上なく絆の強い縁戚となるのですもの。そのくらい、当然のことでしてよ? カタリン姉様」
「さて……」
と、わたしは皇帝に向き直った。
「……皇孫ゲオルグ殿下と公女カタリンの婚約につき協議がしたいと、勅使よりの口上にございましたが……。よほど勅使の頭が足りないのか、申すことを3度聞いても、いまいち要領を得ませんでした」
「ぬ……」
「はて……? 協議とは、いったい何のお話でございましたかな?」
わたしの挑発に、皇帝の目が泳いだ。
その視線は、わたしの背後に広がる巨大な〈薔薇の壁面〉を彷徨っている。
――ゲオルグ殿下とカタリン様の結婚を認めなければ、帝国でオステンホフ家だけがヴィラーグの花々を、直接は手に入れられなくなる。それがイヤなら結婚を認めよ。
という、わたしの要求に屈することと、薔薇がほしいという欲求のはざまで、体裁なくギョロ目の視線が泳いでいた。
と、ヴィクトリア殿下の快活な笑い声が響いた。
「はははははっ! ヴィラーグ王家にも連なる名門ナーダシュディ公爵家より皇孫に妃を迎える。女神諸国の枢要国、ヴィラーグ王国とエルハーベン帝国の絆もますます深まろうというもの!」
「む、むう……、しかし、女大公……」
と、皇帝がうめき声のようなつぶやきを漏らしたとき、ヴィクトリア殿下が腕を組んで、左手首のブレスレッドを煌めかせた。
「まさに、ゲオルグ殿下は〈皇太孫〉に相応しき存在となられましょうな!」
えっ!!
と、驚いたのは、
わたしだ。
そんな話は、これまでヴィクトリア殿下の口からまったく出ていなかった。
だけど、緊迫する駆け引きと交渉の場で、驚きを顔には出せない。
優美な微笑みを、崩さなかった。
「ご婚約の暁には、ピエカル家はゲオルグ殿下を〈皇太孫〉にご推挙させていただく! この場には、フルスタール家、メラン家、ロプコヴィッツ家の方もおられる」
「う、うむ……」
「アルブレヒト3世陛下より、ゲオルグ殿下への帝位の世襲継承。うむ! まこと、めでたき限りでありますな!」
なんということ……。
帝国の先例をまげ、選帝侯による皇帝選挙を経ず、孫に帝位を譲る。それをピエカル家が認めるという、特大の譲歩。
わたしは、カタリン様のご結婚を皇帝に認めさせるところから、アルパード殿下解放の交渉につなげるつもりだった。
ヴィクトリア殿下は、わたしにその道を切り拓くため、ピエカル家の沽券にもかかわる譲歩のカードを切り出してくださった。
感謝という言葉では、いまのわたしの気持ちを言い表し切れない。
――必ずや、アルパード殿下の即時無条件解放を勝ち取ります! 皇帝アルブレヒト3世を屈服させてみせます!
と、わたしの背後で快活に笑われるヴィクトリア殿下に、念を送った。
皇帝のギョロリとした視線は定まり、ヴィクトリア殿下、そしてカタリン様を睨みつけ、
やがて、わたしをまっすぐに睨んだ。
「……ゲオルグと、公女カタリンの婚約。まこと、めでたい……」
皇帝の、精一杯の威厳を込めた声。
欲望まみれの心中を隠し切れない、醜い声が謁見の間に響いた。
わたしがそれに応える前に、ヴィクトリア殿下がやわらかな声を発せられた。
「皇太子には直臣筆頭が推挙したのち、皇帝陛下ご自身の宣明をもって、立太子とするのが先例。……どうぞ、陛下。宣明を」
「う、うむ……。朕は、皇孫ゲオルグを皇太孫とする」
ヴィクトリア殿下に特大の譲歩をさせてしまったことに、苦い思いもする。
けれど、わたしの勝負はここからだ。
「まこと、帝国の慶事。このガブリエラよりも、お喜びを申し上げます」
「う、うむ……」
「ご婚礼の儀には、わが夫アルパードと参列させていただきますわ」
つまり、すでに即時無条件解放は、既成の事実であると、皇帝に突き付けた。
抗弁すれば、皇帝が主張する〈保護〉の実相が、非道な〈捕囚〉であると、皇帝みずから認めることになる。
ことここに及んで、保護料――身代金の請求などできまい。
と、わたしは優雅な微笑みに、冷えた視線を添えて、皇帝のギョロ目を見据える。
「おおっ! それは良い! エルハーベンとヴィラーグ。両国の絆がますます深まろうというものだな!」
ヴィクトリア殿下の快活なお声が響き渡り、皇帝の視線がふたたび泳ぐ。
けれど、次の瞬間、ヴィクトリア殿下のお声は低くドスのきいたものに転じた。
「されど、ガブリエラ陛下。それは、いささか先走り過ぎというもの」
はじめて耳にする、威厳に満ちたヴィクトリア殿下の冷たいお声。敵意さえ感じる。
ヴィクトリア殿下から放たれる、肚の底まで冷やしてしまうような気迫に、わたしは首筋に汗をひと筋たらした。
「……それは、ヴィクトリア殿下。異なことを申される……」
「異なことではない。婚礼の話のまえに、帝国の大事を済ませるのが筋というもの。お控えなされよ」
「……はっ。これは失礼を」
わたしがヴィクトリア殿下に一歩退いたことに溜飲を下げたのか、皇帝の口の端が醜く上がった。
わたしの背後で、ヴィクトリア殿下のお顔が、皇帝に向く気配がした。
「皇太子を立てた皇帝は、ただちに退位するのが帝国の先例」
「なっ!」
と、宮中官僚のひとりが、声をあげた。
ヴィクトリア殿下が呆れたような声で、それにお応えになられる。
「なんだ? お前たち、そんな先例も知らんのか? 基本中の基本ではないか。まったく不勉強極まる輩。ゲオルグ新帝のもとでは、宮中官僚は総入れ替えだな」
「ち、朕は、退位などせぬ!」
皇帝が、声を張り上げた。
そして、ヴィクトリア殿下の声が低く、重たく響き渡った。
「……アルブレヒト。そなたは、既に退位したのだ。皇太孫を宣明した時点でな」
「と、取り消す!! ゲオルグの皇太孫の話は取り消しだ!!」
「綸言、汗のごとし。……皇帝の口より出た言葉は、流した汗が身体に戻らぬがごとく、取り消すことができない。……先例うんぬん以前に、そもそも帝位に就けてはならん者であったか」
ヴィクトリア殿下は、
わたしの肩に右の手の平を、やさしく置いてくださった。
「ガブリエラ陛下。あそこに座る者は、既に皇帝ではない」
と、銀のブレスレット煌めく左腕をまっすぐに伸ばされ、
玉座にしがみつく醜い老爺を、
指さされた。
「ただの誘拐犯だ」
「……ヴィクトリア殿下」
「ただちに身柄をガブリエラ陛下に引き渡す。帝位を退けば、領邦君主たるシャウナス大公の座も退くのは当然のならい。皇帝ではなく、大公でもない」
わたしとヴィクトリア殿下の背後では、
鋭い棘を隠した8000本の薔薇が、元皇帝となったアルブレヒトに、
優美な花冠を向け、咲き誇っていた。
「ご存分に沙汰されよ」
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