52 / 307
第二章 旧都郷愁
47.始まりの侍女(1)
しおりを挟む
昼下がり。国王ファウロスは旧都テノリクアから急使で届いたリティアの書状に目を通し、呆れ顔を浮かべていた。
急使と聞き、あの桃色の髪をした狼少女の守護聖霊が審神けられたか、それとも何か変事が起きたかと、構えて開いた書状の内容は、想定の埒外にあった。
王族貴族の書状らしい修辞が散りばめられているが、要約すると、
――『孤児も無頼』ってことで、いいっスよね?
と、書いてある。
アイカの提案を受け止めたリティアは、孤児への食事の提供など個別事案への裁可を得るのではなく、孤児を丸ごと自分の所掌に収めることを考えた。
かつ、判断を仰いだ事柄は新たな決定と言えるようなものではなく、小さな確認を求める形をとって、国王の返事を急かしている。
もちろん、ファウロスにその意図と目的は分からない。
――あのお転婆姫は、次は何を企んでいることやら。
父王はさすがに無頼姫とは呼ばない。
リティアの『おねだり』に弱いのは、病に伏せたエメーウへの憐憫や引け目以上に、その明るい性情に依るものが大きい。
天衣無縫とも評される、率直で明朗な振る舞いに打算を感じない。
王女の身にありながら騎士団を望み、厄介者である無頼たちの『束ね』を望み、そして、短期間で目覚ましい成果を上げた。
齢80を重ねてなお、意気盛んな国王ファウロスは、息子たちをそれぞれに好ましく思っている。
――王者の大度を備える、王太子バシリオス。
――腹に鋭さを隠し持ちながら謙譲に振る舞う、第2王子ステファノス
――考えるより先に突っ込んで行く、第3王子ルカス。
――人格に未熟さを残すが、精悍な第4王子サヴィアス。
が、ファウロス自身は、最も自分に似て育ったのはリティアではないかと感じている。
ファウロスは側に控える筆頭書記官オレストに「孤児は無頼に含まれる」と述べた。これで、国王の意向は王都中、引いては王国内に伝えられる。
旧来、王国で文官といえば世襲貴族の務めであったが、王都ヴィアナへの遷都を機に全て排した。宰相職も大臣職も全て名目に追いやり、騎士団が統治の全てを執行する体制をとった。
しかし、『聖山戦争』が終結し内政局面に入ると不便が生じ、書記官職を新たに設け、僅かながら文官を側に置くようになった。
ファウロスは、最初の妃テオドラの早逝を、世襲貴族たちに苛め抜かれたせいだと信じている。
王太子時代に出自の低いテオドラを見染めたとき、世襲貴族たちの激しい反発で、正妃に立てることを断念せざるを得なかった。
戦争で宮殿を不在にすることの多かったファウロスは、充分にテオドラを守れなかったという悔いを残した。
テオドラ亡き後、弟カリストスの勧めで世襲貴族の名家から、正妃となるアナスタシアを迎えた。バシリオスとルカス、その間に第1王女ソフィアを授かり、アナスタシア個人に不満はない。
だが、過去の功績を鼻にかけ尊大に振舞う、世襲貴族たちを赦す気もなかった。
テオドラの忘れ形見である第2王子ステファノスに、世襲貴族が残る旧都の統治を許したのは意趣返しの含意もあった。
ファウロスは呼び鈴を鳴らして、侍女長のロザリーを呼んだ。
アイカが王宮の中庭で謁見した際に、心の中で「姐さん!」と呼んだ、目鼻立ちのしっかりした美女が現われた。
「お呼びでしょうか?」
「リティアが、またなにやら企んでおるらしいが、なにか聞いておるか?」
ロザリーは、洗練された印象を与える笑みを浮かべ、口を開いた。
「リティア殿下の侍女長を務めるアイシェから、多少のことは」
「そうか。ならよい」
国王ファウロスが絶大な信頼を置く、この侍女長ロザリーこそ、王国に於いて『侍女』を『女官』とは別の役職にさせた存在である。
急使と聞き、あの桃色の髪をした狼少女の守護聖霊が審神けられたか、それとも何か変事が起きたかと、構えて開いた書状の内容は、想定の埒外にあった。
王族貴族の書状らしい修辞が散りばめられているが、要約すると、
――『孤児も無頼』ってことで、いいっスよね?
と、書いてある。
アイカの提案を受け止めたリティアは、孤児への食事の提供など個別事案への裁可を得るのではなく、孤児を丸ごと自分の所掌に収めることを考えた。
かつ、判断を仰いだ事柄は新たな決定と言えるようなものではなく、小さな確認を求める形をとって、国王の返事を急かしている。
もちろん、ファウロスにその意図と目的は分からない。
――あのお転婆姫は、次は何を企んでいることやら。
父王はさすがに無頼姫とは呼ばない。
リティアの『おねだり』に弱いのは、病に伏せたエメーウへの憐憫や引け目以上に、その明るい性情に依るものが大きい。
天衣無縫とも評される、率直で明朗な振る舞いに打算を感じない。
王女の身にありながら騎士団を望み、厄介者である無頼たちの『束ね』を望み、そして、短期間で目覚ましい成果を上げた。
齢80を重ねてなお、意気盛んな国王ファウロスは、息子たちをそれぞれに好ましく思っている。
――王者の大度を備える、王太子バシリオス。
――腹に鋭さを隠し持ちながら謙譲に振る舞う、第2王子ステファノス
――考えるより先に突っ込んで行く、第3王子ルカス。
――人格に未熟さを残すが、精悍な第4王子サヴィアス。
が、ファウロス自身は、最も自分に似て育ったのはリティアではないかと感じている。
ファウロスは側に控える筆頭書記官オレストに「孤児は無頼に含まれる」と述べた。これで、国王の意向は王都中、引いては王国内に伝えられる。
旧来、王国で文官といえば世襲貴族の務めであったが、王都ヴィアナへの遷都を機に全て排した。宰相職も大臣職も全て名目に追いやり、騎士団が統治の全てを執行する体制をとった。
しかし、『聖山戦争』が終結し内政局面に入ると不便が生じ、書記官職を新たに設け、僅かながら文官を側に置くようになった。
ファウロスは、最初の妃テオドラの早逝を、世襲貴族たちに苛め抜かれたせいだと信じている。
王太子時代に出自の低いテオドラを見染めたとき、世襲貴族たちの激しい反発で、正妃に立てることを断念せざるを得なかった。
戦争で宮殿を不在にすることの多かったファウロスは、充分にテオドラを守れなかったという悔いを残した。
テオドラ亡き後、弟カリストスの勧めで世襲貴族の名家から、正妃となるアナスタシアを迎えた。バシリオスとルカス、その間に第1王女ソフィアを授かり、アナスタシア個人に不満はない。
だが、過去の功績を鼻にかけ尊大に振舞う、世襲貴族たちを赦す気もなかった。
テオドラの忘れ形見である第2王子ステファノスに、世襲貴族が残る旧都の統治を許したのは意趣返しの含意もあった。
ファウロスは呼び鈴を鳴らして、侍女長のロザリーを呼んだ。
アイカが王宮の中庭で謁見した際に、心の中で「姐さん!」と呼んだ、目鼻立ちのしっかりした美女が現われた。
「お呼びでしょうか?」
「リティアが、またなにやら企んでおるらしいが、なにか聞いておるか?」
ロザリーは、洗練された印象を与える笑みを浮かべ、口を開いた。
「リティア殿下の侍女長を務めるアイシェから、多少のことは」
「そうか。ならよい」
国王ファウロスが絶大な信頼を置く、この侍女長ロザリーこそ、王国に於いて『侍女』を『女官』とは別の役職にさせた存在である。
121
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います
Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】
私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
2025.4.26
女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧
7時、13時、19時更新。
全48話、予約投稿しています。
★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる