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第二章 旧都郷愁
48.始まりの侍女(2)
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侍女と女官に特別な区別なく、どちらも王族の側に仕える女性を意味していた頃、ファウロスはロザリーの尋常でない明晰さに気が付いた。
『聖山戦争』の末期に、女官としてファウロスの側に仕えるようになったロザリーに、何彼につけ国の枢機を相談し、時には執行させるようになるまで、時間は要しなかった。
王弟カリストスも一目を置き、ロザリーはすぐに国政の一翼を担うまでの存在となった。
が、その裏では同僚の女官たちの嫉妬による、激しい苛めが起きていた。
宰相職はじめ、内政に関する職を全て旧都に捨ててきた王国に、ロザリーを遇する役職はなく、また女性で宰相に上り詰めた者もいない。
同僚の女官たちは、国王のえこ贔屓と受け止め、嫉妬の炎を燃やした。
しかし、ロザリーは、過酷な状況に置かれていることを、ファウロスに一切気取らせなかった。そして、戦時体制下、女性の騎士もいるにはいたが、男性社会を形成していた王国で、ロザリーの状況にファウロスが気が付けなかったのは無理もないことだった。
事が露見したのは『聖山戦争』が終結し、側妃サフィナが王宮に入ってからである。
サフィナは閨で、ロザリーを取り巻く惨状について、切々とファウロスに訴えた。
驚いたファウロスは、弟カリストスとも相談の上、『侍女』を特別な役職とし準一代貴族待遇に引き上げ、ロザリーを任じた。
その後、様々な者が各王族の侍女に任じられたが、その最初の一人がロザリーである。総ての侍女から尊崇を集める存在でもあり、憧れでもある。各宮殿の侍女たちから、それとなく報告も入る。
そういった経緯から、側妃サフィナとも良好な関係にあるが、そのことを知る者は少ない。
また、ロザリーを苛めていた女官たちは王宮を追放されたが、女官の嫉妬は常に注意の払われる事項になった。
「また、楽しませてくれそうだな」
と、ファウロスは愉快そうな笑顔をロザリーに向けた。
「ええ。新しい事を恐れず、楽しまれるところは、陛下にそっくりです」
「そうだろう、そうだろう」
ファウロスは満足気に頷いた。
「ロザリーの判断で、必要があれば力添えしてやってくれ」
「畏まりました。それから、報告もございます」
「なんだ?」
「アメル親王の件です」
ロザリーは淡々とした口調で、王弟カリストスの曾孫にして、王太子バシリオスの外孫、アメルの名前を出した。
ファウロスはその名を耳にしただけで眉を曇らせた。
「夜道で剣の試し斬りをしているとの噂は、根も葉もないつくり話でした」
そうかと、ファウロスは溜息をついた。
虚偽の風聞であっても信憑性を持って受け止められる、リティアと同い年の親王アメルにも問題があると考えていた。街の者たちが、狂親王とあだ名していることも耳に入っている。
「リティア殿下に騎士団を与えられたことが、お気に障られるようで」
「いずれサーバヌ騎士団を継ぐ身であろうものを」
お若いですからと、ロザリーは微笑を浮かべて目を伏せた。
「カリストス殿下も手を焼かれているようです」
王太子に命を狙われているのではないかと、閨でさめざめと泣くサフィナといい、ファウロスには細かな頭痛の種が多い。
次々と新しい景色を見せてくれる、リティアの笑顔だけがファウロスの楽しみになりつつあった。
『聖山戦争』の末期に、女官としてファウロスの側に仕えるようになったロザリーに、何彼につけ国の枢機を相談し、時には執行させるようになるまで、時間は要しなかった。
王弟カリストスも一目を置き、ロザリーはすぐに国政の一翼を担うまでの存在となった。
が、その裏では同僚の女官たちの嫉妬による、激しい苛めが起きていた。
宰相職はじめ、内政に関する職を全て旧都に捨ててきた王国に、ロザリーを遇する役職はなく、また女性で宰相に上り詰めた者もいない。
同僚の女官たちは、国王のえこ贔屓と受け止め、嫉妬の炎を燃やした。
しかし、ロザリーは、過酷な状況に置かれていることを、ファウロスに一切気取らせなかった。そして、戦時体制下、女性の騎士もいるにはいたが、男性社会を形成していた王国で、ロザリーの状況にファウロスが気が付けなかったのは無理もないことだった。
事が露見したのは『聖山戦争』が終結し、側妃サフィナが王宮に入ってからである。
サフィナは閨で、ロザリーを取り巻く惨状について、切々とファウロスに訴えた。
驚いたファウロスは、弟カリストスとも相談の上、『侍女』を特別な役職とし準一代貴族待遇に引き上げ、ロザリーを任じた。
その後、様々な者が各王族の侍女に任じられたが、その最初の一人がロザリーである。総ての侍女から尊崇を集める存在でもあり、憧れでもある。各宮殿の侍女たちから、それとなく報告も入る。
そういった経緯から、側妃サフィナとも良好な関係にあるが、そのことを知る者は少ない。
また、ロザリーを苛めていた女官たちは王宮を追放されたが、女官の嫉妬は常に注意の払われる事項になった。
「また、楽しませてくれそうだな」
と、ファウロスは愉快そうな笑顔をロザリーに向けた。
「ええ。新しい事を恐れず、楽しまれるところは、陛下にそっくりです」
「そうだろう、そうだろう」
ファウロスは満足気に頷いた。
「ロザリーの判断で、必要があれば力添えしてやってくれ」
「畏まりました。それから、報告もございます」
「なんだ?」
「アメル親王の件です」
ロザリーは淡々とした口調で、王弟カリストスの曾孫にして、王太子バシリオスの外孫、アメルの名前を出した。
ファウロスはその名を耳にしただけで眉を曇らせた。
「夜道で剣の試し斬りをしているとの噂は、根も葉もないつくり話でした」
そうかと、ファウロスは溜息をついた。
虚偽の風聞であっても信憑性を持って受け止められる、リティアと同い年の親王アメルにも問題があると考えていた。街の者たちが、狂親王とあだ名していることも耳に入っている。
「リティア殿下に騎士団を与えられたことが、お気に障られるようで」
「いずれサーバヌ騎士団を継ぐ身であろうものを」
お若いですからと、ロザリーは微笑を浮かべて目を伏せた。
「カリストス殿下も手を焼かれているようです」
王太子に命を狙われているのではないかと、閨でさめざめと泣くサフィナといい、ファウロスには細かな頭痛の種が多い。
次々と新しい景色を見せてくれる、リティアの笑顔だけがファウロスの楽しみになりつつあった。
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