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9.チュートリアル大浴場(1)

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広い浴槽よくそうをなみなみと満たす湯をかしてる呪術じゅじゅつのことを、一緒に湯にかった侍女じじょのシアユンさんが説明してくれる。

生まれて初めての混浴こんよくへの戸惑とまどいを、異世界の呪術への興味が、かろうじて上回ってる。

シアユンさんは、原因不明に眠ったままのリーファ姫のことをおもってか、少しさみしそうな表情をしている。だけど、冷静で明瞭めいりょうな口調から、頭脳明晰ずのうめいせき優秀ゆうしゅうな人なんだってことも伝わってくる。

「王国の呪術は大きく分けて5つあります。じゃはらい、災厄さいやくける【浄化じょうか】。祖霊それいから未来の予知や助言をさずかる【託宣たくせん】。炎を発したり、熱を生じさせる【火炎かえん】。やまいおさめる【治癒ちゆ】。水脈すいみゃく鉱脈こうみゃく、またせ物をさがし出す【探知たんち】の5つです。呪術師じゅじゅつしは祖霊に働きかけてこれらを顕現けんげんします。ですが、呪術師ごとに得意とくい不得意ふとくいがあって、リーファ姫の場合は【浄化】【託宣】の呪術を主に行われます。ただ、【火炎】の呪術でも、熱を起こすことはお出来になるので、その呪力で沸かしているのが、こちらの湯です」

「へぇ……。リーファ姫は今、眠ってるのに沸かせるんですか?」

「いえ。呪術師は、呪符じゅふ呪紋じゅもん呪言じゅごんきざむことで、離れた場所にも呪力を送って呪術を顕現させることが出来ます。こちらの湯は、リーファ姫のお刻みになられた呪符で沸かされています」

「湯を沸かすもとになる水はどこから?」

「このジーウォの城の下には大きな水脈が通っており、井戸から汲み上げられています。ちなみに、その水脈は300年近く前に【探知】の呪術で発見されました」

俺が次々質問してるのに、シアユンさんはいやな顔ひとつせずにこたえてくれる。なんか、随分ずいぶん遠回とおまわりしたし、一緒に入浴中って変なシチュエーションだけど、これを俺の『異世界チュートリアル』ってことにしておこう。

「あの、人獣じんじゅうのバケモノ達に【火炎】の呪術は効かないんですか?」

「えっと……」

と、シアユンさんは初めて言葉に詰まった。それから、少し考えて、なにかに気付いたように話をいだ。

「呪術師は王国全体でも58名しかいない希少きしょうな存在で、この城にいるのはリーファ姫だけです。それも、偶然ぐうぜん滞在たいざいしていたというのが実際じっさいのところで、辺境へんきょうの城にまで呪術師を配置はいちすることはありません。【火炎】の呪術を得意とする者は、火球かきゅうという敵を攻撃する呪術を顕現できますが、残念ながら、この城にはおりません」

なるほど。呪術師の絶対数が共通認識きょうつうにんしきになってなかったから、俺の質問にどう説明したらいいか戸惑とまどってたのか。

ただそれより、今、この城に呪術が使える人がいないっていうのは残念な情報だ。

「俺を呼んだ、召喚の呪術はどうなってるんですか?」

「マレビト様の召喚は、呪術の原始形態にあたる『巫祝ふしゅく』に由来していて、呪術師なら誰でも行使できるとされています」

「へぇ……」

「ですが、呪術師の命とえになること、また、働きかけた祖霊が『真に王国の危機ききである』と認めない場合には、召喚は顕現せず、命を落とすだけになってしまうので、行使されることはマレです」

そんな『無駄死に』になるかもしれない危険な術で、あの青髪のリーファ姫は俺を呼んだのか。

自分は命を落とすんだから自分のためじゃない。城の人たちを守るために呪術を使ったんだな。シアユンさんがしたうのも分かる気がする。

だいたいのことは聞いたけど、まだまだ知りたいことはある。

俺は、一番聞きたいことを、シアユンさんに尋ねた――。
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