【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

44.薄暗い部屋で

「避難ひなんしてる皆みなさんへの布地ぬのじの提供ていきょう、素早すばく対応たいおうしていただいてありがとうございました」

と、俺が頭を下げると、スイランさんの頬ほほにちょっと赤みが差さして、口をへの字にした。

あっ、褒ほめられて顔がニヤけるのを堪こらえてるんだって、すぐに分かった。『頬ほほ』というか『ほっぺた』と言いたい幼おさない顔立かおだちがプルプルしてる。

「私も女ですから。同じ服を着続けないといけない、ツラさは分かりますので」

「みんな、喜んでました。スイランさんのお陰かげです」

「そうですか」

と言う、スイランさんはプルプルしながら、プイッと後ろを向いた。

「しかも、すごく上等じょうとうな布地だったみたいで、女の人たち皆、はしゃいで喜んでました」

「宮城きゅうじょうに蓄たくわえているのは、祖霊それい祭祀さいしの装束しょうぞくにも使える布地です。王族の方が用いるのにも相応ふさわしい布地ですから当然です。……わ、私はマレビト様のご指示に従っただけですからっ」

スイランさんは背中を向けたまま、早口に言った。

「スイランはねぇ、嬉うれしいんだよっ！」

と、シーシが俺の方に顔を寄せて、スイランさんを指差ゆびさした。

「シーシ！」

「普段ふだんは締しまり屋やさんで、皆みんなに文句もんく言われてばかりだもんね。ウンラン様もニコニコしてるだけで、全然ぜんぜん、褒ほめてくれないしねっ！」

「余計よけいなこと言わない！」

と、振り向いたスイランさんに、シーシがグイッと顔を寄よせて、ニコッと笑った。

「良かったね！ マレビト様に褒ほめてもらえて」

「！！！！！」

と、完全に顔を真っ赤にしてしまったスイランさんは、消きえ入いるような声で「はい……」と、言った切り黙だまって俯うついてしまった。

この、赤縁あかぶち眼鏡めがねテキパキ学級委員長タイプの童顔どうがん姉ねえさん25歳……、カワイイな。からかい甲斐がいのある感じ。

「ニシシ。じゃあ、鍋なべもらって行くねー！」

と、シーシは先に部屋を出てしまった。

「じゃあ、俺も。また、色々いろいろ相談そうだんに乗ってください」

「はい……」

と言う、真っ赤になって俯うつむいたままのスイランさんに頭を下げて、シーシを追いかけた。

見ると、シーシは大きな中華鍋ちゅうかなべを７枚くらい重ねて持っていたので、代かわりに持つことにした。

お……、重いな。シーシは軽々と持ってたのに。

「ニシシ。ありがと！」

「いや……」

後ろを歩くユーフォンさんが、何か言いたげだけど、何も言わない。

「マレビト様。１つ持とうか？ ボクは普段から重い物を持ち慣なれてるから平気だよ？」

と、シーシはその髪色かみいろに合わせた真紅しんくのチャイナ風ノースリーブから伸のびた腕うでに、力こぶを作って見せた。

スラリとした腕の白い肌の質感しつかんと、脇わき辺あたりの肉付にくづきに、思わずドキッとしてしまった。こんなツルペタなチビッ子に女子を感じてるんじゃねぇよ、俺……。

ユーフォンさんが後ろで、ピクッと反応してたのに気付いてた。……か、考えてたこと、バレたかな。ユーフォンさんの方も見れない。

結局、鍋を２つシーシに持ってもらって、司空府しくうふに向かった。男子として面目めんもくない。

「シーシのところに行くの遅くなっちゃって悪かった」

と、俺が言うとシーシは、いつものようにニシシと笑った。

「いいよいいよ。むしろ時間がもらえて、ボクもいっぱい試ためせたし、だいぶ進んだよ！」

「そうか！ それは楽しみだな。ありがとう」

剣士府けんしふの前を通り、司空府しくうふに入るとシーシの工房こうぼうに案内された。

結構、広い。日本の古い港なんかで観光地になってる赤レンガの倉庫くらいの広さはある。

窓を板で塞ふさいでるのか、薄暗い部屋に行灯あんどんがいくつも置かれていて、幻想的げんそうてきにさえ感じる不思議な空間。行灯あんどんというよりは、ランタンか……。

よく見ると、隅すみっこに『家』が建ってる。テレビのコントで見るような、途中で切れてて部屋の中が見えてる『家のセット』みたいな感じ。

「ニシシ。よく出来てるでしょ。避難ひなんしてる人たちに建てる家を、仮で組んでみたんだ」

マジか。仮設住宅かせつじゅうたくの試作しさくってことですか？ チビッ子姉ねえさん、仕事速過はやすぎませんか？

思わず近寄ちかよって、中のつくりをマジマジと眺ながめてしまった。よく出来てる、と思う。今の野宿のじゅくに毛がはえたみたいな状態じょうたいに比べたら、段違だんちがいに身体からだを休められそう。

と、いつの間にか俺の側そばにいたシーシが、グイッと俺の顔を覗のぞき込こんでた。ち、近っ……。

「どう？ どう？ スゴイ？」

「スゴイ……、と思う。ありがとう。想像そうぞう以上いじょうだ」

「ニシシ。褒ほめられるのいいね！ やる気が出るよ！」

と、シーシは頬ほほを少し紅あかくして満面まんめんの笑えみを浮かべた。

「嬉うれしいけど、本題ほんだいはこっちこっち！ こっち来て！」

シーシはランタンを手に、広い工房の反対側はんたいがわに駆かけて行く。シーシの身長と同じくらいの高さをした、黒い塊かたまりがランタンの明かりで照てらされた。

鍋なべを付けた篝火かがりびか！

俺は、はやる気持ちのままに駆かけ寄った。