59 / 297
59.剣士府の演説(2)
しおりを挟む
剣士さんたちの闘いを何度か見せてもらって、たとえば日露戦争くらいの、大砲の援護射撃を受けながら歩兵部隊が突撃していくような戦争観、戦術観もないんだとは感じてた。
どちらかと言うと、鎌倉武士が「やあやあ、我こそは」と名乗りを上げて一騎打ちを始めるような戦闘観。いやむしろ、佐々木小次郎に挑む宮本武蔵か。一人で豪剣を振るう宮本武蔵が、たまたまズラッと並んでる感じ。
俺の前で眉を寄せて机を睨み付けてるイーリンさんが目に入る。
今朝の風呂場で、湯面越しに透けて見えたイーリンさんの、……は、ともかくとして、イーリンさんは『前線』って言葉を使ってた。人獣襲来の初日に「前線が、特に混乱した」という言い方をしてた。
集団を意識してないと「前線」って言葉にはならないんじゃないかって思うけど、その辺が、剣士の中でどういう風に整理されてるのかまでは、今のところ分からない。
とにかく、なんらかプライドを傷つけてしまったんだろうと思う。
しばらく静寂が流れたあと、フェイロンさんが、口を開いた。
「押さえ込むことは出来ます。ですが、それでは――」
「今晩の戦闘に、迷いが出る」
と、俺が言うと、フェイロンさんが深く頷いた。イーリンさんは、また唇を噛んだ。
フェイロンさんが続けた。
「騒いでいる者たちを、密かに集めます。申し訳ないが、マレビト様から真意を話していただく訳にはいきませんか?」
「いや。全員、集めましょう」
「むっ」
と、フェイロンさんは言葉に詰まった。
俺は身を乗り出して、フェイロンさんに話しかける。
「限られた人だけ、内緒で集まってもらったのでは、呼ばれなかった人は隠し事をされているように受け止めるかもしれません。それに、見えるところで騒いでなくても、内心では不満や疑問を持っている人の方が、たぶん、多い。剣士さんたち全員に集まってもらって、全員に聞いてもらう方がいいと思うんです」
「……なるほど」
「もし、フェイロンさんが許して下さるなら、『三卿一亭』の皆さんにも立ち会ってもらいたい。ジーウォ城の最高幹部が勢揃いする中で話せば、隠し事があると思う方は、たぶん、いないでしょう」
フェイロンさんは、ふむと唸って考え込んだ。
陽光にエメラルドグリーンの髪を輝かせたイーリンさんは、心配げにフェイロンさんの顔を見詰めている。
そうだ。この2人以外の剣士は、まだ俺のことを知らない。
マレビト云々はともかく、知らない人間が、自分たちの知らないうちに好き勝手していると受け止められていても、何も不思議なことはない。
フェイロンさんは、静かに顔を上げ俺の目を見据えて、口を開いた。
「分かりました。そのように、いたしましょう」
どちらかと言うと、鎌倉武士が「やあやあ、我こそは」と名乗りを上げて一騎打ちを始めるような戦闘観。いやむしろ、佐々木小次郎に挑む宮本武蔵か。一人で豪剣を振るう宮本武蔵が、たまたまズラッと並んでる感じ。
俺の前で眉を寄せて机を睨み付けてるイーリンさんが目に入る。
今朝の風呂場で、湯面越しに透けて見えたイーリンさんの、……は、ともかくとして、イーリンさんは『前線』って言葉を使ってた。人獣襲来の初日に「前線が、特に混乱した」という言い方をしてた。
集団を意識してないと「前線」って言葉にはならないんじゃないかって思うけど、その辺が、剣士の中でどういう風に整理されてるのかまでは、今のところ分からない。
とにかく、なんらかプライドを傷つけてしまったんだろうと思う。
しばらく静寂が流れたあと、フェイロンさんが、口を開いた。
「押さえ込むことは出来ます。ですが、それでは――」
「今晩の戦闘に、迷いが出る」
と、俺が言うと、フェイロンさんが深く頷いた。イーリンさんは、また唇を噛んだ。
フェイロンさんが続けた。
「騒いでいる者たちを、密かに集めます。申し訳ないが、マレビト様から真意を話していただく訳にはいきませんか?」
「いや。全員、集めましょう」
「むっ」
と、フェイロンさんは言葉に詰まった。
俺は身を乗り出して、フェイロンさんに話しかける。
「限られた人だけ、内緒で集まってもらったのでは、呼ばれなかった人は隠し事をされているように受け止めるかもしれません。それに、見えるところで騒いでなくても、内心では不満や疑問を持っている人の方が、たぶん、多い。剣士さんたち全員に集まってもらって、全員に聞いてもらう方がいいと思うんです」
「……なるほど」
「もし、フェイロンさんが許して下さるなら、『三卿一亭』の皆さんにも立ち会ってもらいたい。ジーウォ城の最高幹部が勢揃いする中で話せば、隠し事があると思う方は、たぶん、いないでしょう」
フェイロンさんは、ふむと唸って考え込んだ。
陽光にエメラルドグリーンの髪を輝かせたイーリンさんは、心配げにフェイロンさんの顔を見詰めている。
そうだ。この2人以外の剣士は、まだ俺のことを知らない。
マレビト云々はともかく、知らない人間が、自分たちの知らないうちに好き勝手していると受け止められていても、何も不思議なことはない。
フェイロンさんは、静かに顔を上げ俺の目を見据えて、口を開いた。
「分かりました。そのように、いたしましょう」
140
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる