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62.剣士府の演説(5)

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全ての剣士が集まった講堂こうどうは、しずまり返っている。剣士たちの向うの窓からは、夕陽ゆうひ輪郭りんかくめ始めた南側城壁みなみがわじょうへきが見える。

俺は大きく息をいて、みなに呼びかけた。

みなさん、座ってください。俺は皆さんに訓示くんじをしに来たわけじゃない。これだと、ちょっと話にくいかな?」

戸惑とまどう剣士たちに、フェイロンさんが声をかける。

「マレビト様のお言葉である」

俺は両脇りょうわきに立ってくれている『三卿さんきょう一亭いってい』の4人にも声をかけた。

「皆さんも、座ってください」

フーチャオさんや、ミンリンさん、ウンランさんが率先そっせんして腰を降ろしてくれたので、戸惑っていた剣士たちも、その場で座り始めた。

紺色こんいろのボディラインがピタッとしたチャイナ風味ふうみのドレスを着てるミンリンさんが、ゆか直接ちょくせつこしろした姿は、ちょっとなまめかしい。

全員が座ったのを確認したフェイロンさんが、最後に腰を降ろした。

うーん。この『体育館』感。

馴染なじみのある空間に寄せられて、少し話がしやすくなった。俺の高校なら、一学年が集まった集会くらいの規模感きぼかん。髪色が色とりどりで、ヤンキーの集会みたいでもあるけど。

「え、えっと……、マレビトです」

名前を名乗ってはいけないっていうのは、どうにもまらない気がしてれない。

「まずは、皆さんにご挨拶あいさつうかがうのが遅くなりました。申し訳ありませんでした」

と、俺が頭を下げると、少し空気がゆるむのを感じた。どんな上から物を言われるのかと、身構みがまえていたんだろう。気持ちは分かる。

「俺は弱い人間です」

と、剣士さんの顔を一人ひとり見ていく。

ふと、イーリンさん以外に女の剣士さんが2人いることに気が付いた。

――うっ。

余計よけい雑念ざつねんが入る。

――お姉さんたちを大浴場で見たことがないってことは、お2人は純潔じゅんけつではないってことですね?

シーシ風に言うと女の人が、みょうに大人に見えるのは純潔の身の上女を知らないでは仕方がない。

ほんのれいコンマ何秒の動揺どうようを押し殺して、皆さんに向けて話しかける。

「俺は弱い人間なので、知っている人間がくなることにえられません。命をけて人獣じんじゅうに立ち向かい、素晴すばらしい剣技けんぎで、お城に残る住民を守ってくださってる皆さん、お一人お一人とお会いすることを躊躇ためらってしまいました」

本当の気持ちだ。城壁の上で舞うように美しく闘うイーリンさんが、そのあと大浴場に姿を見せなければどうしようって、いつもハラハラしている。

イーリンさん一人を思うだけでも身を焼かれる思いなのに、300人もの剣士のことを一人ひとり知ってしまうと、本当は正直、かなりキツい。

だけど、毎夜まいよ毎夜まいよ、覚悟を決めて、あの激しい戦場に向かう剣士さんたちに、今度は俺が覚悟を決める番だと思う。

ただ傍観ぼうかんしてるだけなら、そんな必要はないかもしれないけど、闘い方を変えてもらおうとしている。それに見合みあう覚悟を持たないといけない。

「城の皆さん、全員に生きていてもらいたい。これが、俺の正直な気持ちです」

皆さん、真剣な眼差まなざしで俺の話を聞いてくれている――。
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