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202.回廊決戦!(2)
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回廊建設が前進し始めたのを見届けてから、望楼を降りて各所を激励に回った。
なにせ、ここからが長い。
訓練の結果、回廊が第2城壁に到達するまで最短でも3時間はかかる。それでも当初よりは1時間短く出来た。
「今のところ、概ね順調です」
と、ミンリンさんが汗を拭った。暑いという訳ではなく、緊張の汗だろう。
シュエン率いる炊き出し隊から軽食が届けられる。
しっかりとした食事の時間は取れそうにないので、細かく口に入れるという方針になっている。
「美味いな……」
頬張った饅頭に、思わず口をついて出た。
「でしょう?」
と、後ろからシュエンの声がした。
「材料がなくても、工夫次第で美味しく出来るんだって!」
「すごいな。さすがシュエンだ。これは絶対、皆んなの力になるよ」
「ばかね。私を抜擢したマレビト様に見る目があったのよ!」
と、照れ笑いをしたシュエンは、そのまま忙しそうに食事を運んで行く。今、城は皆んながフル稼働だ。
と、俺の持つ皿にニュッと手が伸びた。
「ニシシ。ボクにも饅頭ひとつちょうだい」
「シーシ! どしたの?」
「西側で不具合があったので、西の親方と交代してたのだ」
と、シーシは饅頭を頬張りながら図面を指して、ミンリンさんに報告し始めた。
「西のここら辺で水平が取れなかったんだけど、金具を押し込んで、無理矢理合わせたのだ」
「なるほど」
「この紙に正確な寸法書き出してきたから、工房に指示出して、至急、部品を作らせて欲しいのだ。応急処置はしてあるけど、あのままじゃ、ちょっと不安なのだ」
「分かった、すぐやらせる」
「頼んだのだ~」
と、シーシは元いた南側城壁に駆けて行った。ミンリンさんは側にいた職人に指示して、工房に走らせてる。
一旦始まった回廊の建設は、止めることが出来ない。
人獣を完全に防げる形、つまり第2城壁に到達するまで、建設を放棄することは出来ない。ギリギリの木材量で設計している以上、2度目の挑戦はない。
シーシを始め、司空府の職人たちが全力で組み上げ続けてくれている。親方では対応し切れないような不具合が出ても、解決しながら前に進むしかない。
護衛のメイユイと一緒に、西側、北側と見て回る。
炊き出し場ではスイランさんの妹のルオシィの姿も見えた。城に残る1000人以上の食事を一度に用意している、ここも戦場だ。中年女性たちに混じって、キビキビと動いている。
回廊の資材を、荷運び櫓から最終城壁に上げる人夫の中に、ディエのお父さんの姿があった。
「おおっ。マレビト様! 民と共に汗を流すのは気持ち良いものですな」
と、貼り付けたようなエビス顔じゃない、爽快な笑顔を見せ、周囲の人夫も一緒に笑っている。
「大夫様は大活躍していますぞ!」
「わははっ! 褒めても何も出ぬぞ!」
豪快に笑いながら、回廊の壁や屋根になる木材を運んでいる。身分を超えて一丸となっている姿に、胸が熱くなった。
と、薬師のホンファがユエと一緒に駆けて行くのが見えた。荷運び櫓を駆け登り、城壁の上で膝を突く。
――ケガ人か。
俺も駆け寄りたい気持ちを、グッと抑える。行っても邪魔になるだけだ。
やがて、背負われたケガ人が降ろされて、薬房に向かう。
「大丈夫だ! 命に関わるケガじゃねぇ」
と、背負っている片腕のニイチャンが言った。
「薬房で別嬪の薬師様に介抱されたら、すぐに良くならあ!」
ニイチャンに背負われたケガ人を見送ると、側にヤーモンが来た。
「槍兵の交代のタイミングで隊列が乱れたようです。すぐにヨウシャ殿がカバーに入られたので、全体に影響が出るほどではありません」
人獣の脅威は些かも衰えていない。僅かな乱れが命取りになりかねない。
兵士団はよく持ち堪えてくれている。
「想定より、ちょい凶暴化が広がってるかな?」
と、休憩に入ったメイファンが近寄って来てくれた。
「どう? 抑えられそう?」
「うん。大丈夫! でも、要はヨウシャさんやアスマたちね。休憩取れないし」
「そうだな」
「出来るだけの援護射撃はしてるけど、共食いで人獣を集めることにもなるし、バランスがね」
と、メイファンは手にしていた饅頭を口に放り込んだ。
その佇まいは既に立派に兵士のもので、真剣な眼差しを城壁に注いでいる。メイファンたち一人ひとりのレベルアップが、この決戦にまで導いてくれたんだ。
モグモグしていた饅頭を飲み込んだメイファンが、ペラっと上着をめくった。
「どう? 横乳、見てく?」
ブレないな。
見ちゃったけど。
なにせ、ここからが長い。
訓練の結果、回廊が第2城壁に到達するまで最短でも3時間はかかる。それでも当初よりは1時間短く出来た。
「今のところ、概ね順調です」
と、ミンリンさんが汗を拭った。暑いという訳ではなく、緊張の汗だろう。
シュエン率いる炊き出し隊から軽食が届けられる。
しっかりとした食事の時間は取れそうにないので、細かく口に入れるという方針になっている。
「美味いな……」
頬張った饅頭に、思わず口をついて出た。
「でしょう?」
と、後ろからシュエンの声がした。
「材料がなくても、工夫次第で美味しく出来るんだって!」
「すごいな。さすがシュエンだ。これは絶対、皆んなの力になるよ」
「ばかね。私を抜擢したマレビト様に見る目があったのよ!」
と、照れ笑いをしたシュエンは、そのまま忙しそうに食事を運んで行く。今、城は皆んながフル稼働だ。
と、俺の持つ皿にニュッと手が伸びた。
「ニシシ。ボクにも饅頭ひとつちょうだい」
「シーシ! どしたの?」
「西側で不具合があったので、西の親方と交代してたのだ」
と、シーシは饅頭を頬張りながら図面を指して、ミンリンさんに報告し始めた。
「西のここら辺で水平が取れなかったんだけど、金具を押し込んで、無理矢理合わせたのだ」
「なるほど」
「この紙に正確な寸法書き出してきたから、工房に指示出して、至急、部品を作らせて欲しいのだ。応急処置はしてあるけど、あのままじゃ、ちょっと不安なのだ」
「分かった、すぐやらせる」
「頼んだのだ~」
と、シーシは元いた南側城壁に駆けて行った。ミンリンさんは側にいた職人に指示して、工房に走らせてる。
一旦始まった回廊の建設は、止めることが出来ない。
人獣を完全に防げる形、つまり第2城壁に到達するまで、建設を放棄することは出来ない。ギリギリの木材量で設計している以上、2度目の挑戦はない。
シーシを始め、司空府の職人たちが全力で組み上げ続けてくれている。親方では対応し切れないような不具合が出ても、解決しながら前に進むしかない。
護衛のメイユイと一緒に、西側、北側と見て回る。
炊き出し場ではスイランさんの妹のルオシィの姿も見えた。城に残る1000人以上の食事を一度に用意している、ここも戦場だ。中年女性たちに混じって、キビキビと動いている。
回廊の資材を、荷運び櫓から最終城壁に上げる人夫の中に、ディエのお父さんの姿があった。
「おおっ。マレビト様! 民と共に汗を流すのは気持ち良いものですな」
と、貼り付けたようなエビス顔じゃない、爽快な笑顔を見せ、周囲の人夫も一緒に笑っている。
「大夫様は大活躍していますぞ!」
「わははっ! 褒めても何も出ぬぞ!」
豪快に笑いながら、回廊の壁や屋根になる木材を運んでいる。身分を超えて一丸となっている姿に、胸が熱くなった。
と、薬師のホンファがユエと一緒に駆けて行くのが見えた。荷運び櫓を駆け登り、城壁の上で膝を突く。
――ケガ人か。
俺も駆け寄りたい気持ちを、グッと抑える。行っても邪魔になるだけだ。
やがて、背負われたケガ人が降ろされて、薬房に向かう。
「大丈夫だ! 命に関わるケガじゃねぇ」
と、背負っている片腕のニイチャンが言った。
「薬房で別嬪の薬師様に介抱されたら、すぐに良くならあ!」
ニイチャンに背負われたケガ人を見送ると、側にヤーモンが来た。
「槍兵の交代のタイミングで隊列が乱れたようです。すぐにヨウシャ殿がカバーに入られたので、全体に影響が出るほどではありません」
人獣の脅威は些かも衰えていない。僅かな乱れが命取りになりかねない。
兵士団はよく持ち堪えてくれている。
「想定より、ちょい凶暴化が広がってるかな?」
と、休憩に入ったメイファンが近寄って来てくれた。
「どう? 抑えられそう?」
「うん。大丈夫! でも、要はヨウシャさんやアスマたちね。休憩取れないし」
「そうだな」
「出来るだけの援護射撃はしてるけど、共食いで人獣を集めることにもなるし、バランスがね」
と、メイファンは手にしていた饅頭を口に放り込んだ。
その佇まいは既に立派に兵士のもので、真剣な眼差しを城壁に注いでいる。メイファンたち一人ひとりのレベルアップが、この決戦にまで導いてくれたんだ。
モグモグしていた饅頭を飲み込んだメイファンが、ペラっと上着をめくった。
「どう? 横乳、見てく?」
ブレないな。
見ちゃったけど。
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