上 下
205 / 297

202.回廊決戦!(2)

しおりを挟む
回廊かいろう建設が前進し始めたのを見届けてから、望楼ぼうろうりて各所かくしょ激励げきれいに回った。

なにせ、ここからが長い。

訓練の結果、回廊かいろうが第2城壁に到達とうたつするまで最短でも3時間はかかる。それでも当初よりは1時間短く出来た。

「今のところ、おおむね順調です」

と、ミンリンさんが汗をぬぐった。暑いという訳ではなく、緊張の汗だろう。

シュエンひきいるき出し隊から軽食が届けられる。

しっかりとした食事の時間は取れそうにないので、細かく口に入れるという方針になっている。

美味うまいな……」

頬張ほおばった饅頭まんじゅうに、思わず口をついて出た。

「でしょう?」

と、後ろからシュエンの声がした。

「材料がなくても、工夫くふう次第しだいで美味しく出来るんだって!」

「すごいな。さすがシュエンだ。これは絶対、んなの力になるよ」

「ばかね。私を抜擢ばってきしたマレビト様に見る目があったのよ!」

と、照れ笑いをしたシュエンは、そのまま忙しそうに食事を運んで行く。今、城はんながフル稼働かどうだ。

と、俺の持つ皿にニュッと手がびた。

「ニシシ。ボクにも饅頭まんじゅうひとつちょうだい」

「シーシ! どしたの?」

「西側で不具合ふぐあいがあったので、西の親方と交代してたのだ」

と、シーシは饅頭まんじゅう頬張ほおばりながら図面をして、ミンリンさんに報告し始めた。

「西のここらへん水平すいへいが取れなかったんだけど、金具を押し込んで、無理矢理わせたのだ」

「なるほど」

「この紙に正確な寸法書き出してきたから、工房こうぼうに指示出して、至急しきゅう、部品を作らせて欲しいのだ。応急おうきゅう処置しょちはしてあるけど、あのままじゃ、ちょっと不安なのだ」

「分かった、すぐやらせる」

たのんだのだ~」

と、シーシは元いた南側城壁にけて行った。ミンリンさんはそばにいた職人に指示して、工房に走らせてる。

一旦いったん始まった回廊かいろうの建設は、めることが出来ない。

人獣じんじゅうを完全にふせげる形、つまり第2城壁に到達するまで、建設を放棄ほうきすることは出来ない。ギリギリの木材量で設計している以上、2度目の挑戦ちょうせんはない。

シーシを始め、司空府しくうふの職人たちが全力で組み上げ続けてくれている。親方では対応し切れないような不具合が出ても、解決しながら前に進むしかない。

護衛ごえいのメイユイと一緒に、西側、北側と見て回る。

し場ではスイランさんの妹のルオシィの姿も見えた。城に残る1000人以上の食事を一度に用意している、ここも戦場だ。中年女性おばさんたちにじって、キビキビと動いている。

回廊かいろうの資材を、荷運にはこび櫓から最終城壁に上げる人夫にんぷの中に、ディエのお父さんの姿があった。

「おおっ。マレビト様! たみともに汗を流すのは気持ち良いものですな」

と、り付けたようなエビス顔じゃない、爽快そうかいな笑顔を見せ、周囲の人夫にんぷも一緒に笑っている。

大夫たいふ様は大活躍していますぞ!」

「わははっ! めても何も出ぬぞ!」

豪快ごうかいに笑いながら、回廊かいろうの壁や屋根になる木材を運んでいる。身分みぶんえて一丸いちがんとなっている姿に、胸が熱くなった。

と、薬師くすしのホンファがユエと一緒にけて行くのが見えた。荷運にはこやぐらを駆けのぼり、城壁の上でひざく。

――ケガ人か。

俺も駆け寄りたい気持ちを、グッとおさえる。行っても邪魔になるだけだ。

やがて、背負せおわれたケガ人が降ろされて、薬房やくぼうに向かう。

「大丈夫だ! 命にかかわるケガじゃねぇ」

と、背負せおっている片腕のニイチャンが言った。

薬房やくぼう別嬪べっぴん薬師リンシン様に介抱かいほうされたら、すぐに良くならあ!」

ニイチャンに背負われたケガ人を見送ると、そばにヤーモンが来た。

「槍兵の交代のタイミングで隊列が乱れたようです。すぐにヨウシャ殿がカバーに入られたので、全体に影響が出るほどではありません」

人獣じんじゅう脅威きょういいささかもおとろえていない。わずかな乱れが命取りになりかねない。

兵士団はよくこたえてくれている。

「想定より、ちょい凶暴化きょうぼうかが広がってるかな?」

と、休憩に入ったメイファンが近寄って来てくれた。

「どう? おさえられそう?」

「うん。大丈夫! でも、かなめはヨウシャさんやアスマたちね。休憩取れないし」

「そうだな」

「出来るだけの援護えんご射撃しゃげきはしてるけど、共食ともぐいで人獣じんじゅうを集めることにもなるし、バランスがね」

と、メイファンは手にしていた饅頭まんじゅうを口にほうり込んだ。

そのたたずまいはすでに立派に兵士のもので、真剣な眼差まなざしを城壁にそそいでいる。メイファンたち一人ひとりのレベルアップが、この決戦にまでみちびいてくれたんだ。

モグモグしていた饅頭まんじゅうを飲み込んだメイファンが、ペラっと上着をめくった。

「どう? 、見てく?」

ブレないな。

見ちゃったけど。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

踏み出した一歩の行方

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:65

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:64,901pt お気に入り:645

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,373pt お気に入り:1,019

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:633pt お気に入り:38

【完】生まれ変わる瞬間

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:114

ファントムペイン

BL / 完結 24h.ポイント:477pt お気に入り:39

処理中です...