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214.突破する大浴場
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――むにゅう。
「資材を考えずに立案すると……」
と、ミンリンさんが俺の左腕をはさみながら言った。
「外城壁の上にグルッと回廊を築き、囲ってしまうのが良いとは思うのです……」
「なるほど」
「それで農地は取り戻せますから……」
――むにゅう。
第3城壁奪還から数日が過ぎ、食糧が心許なくなってきている。
思い切って人獣の肉も試そうとしたけど、明らかに毒を含んでいた。さすがに断念した。
いよいよ、なんらかの打開策が要る。
「最後の手段としていた、仮設住宅を解体してはどうです?」
と、尋ねると背中で滑らせてるシーシが応えてくれた。
「解体したとて、なのだ」
――くにっ。
「そうか……」
「今のままの設計だと、第2城壁の家屋、第3城壁の家屋、仮設住宅、全部解体しても足りないのだ……」
――くにっ。
ミンリンさんが眉を寄せた。
「強度を維持したまま、木材の使用量を減らした設計に出来ないか計算を続けているのですが……」
――むにゅう。
大浴場でそんな打ち合わせをして、またさらに数日が過ぎた。
◇
司徒府で、食糧と配給について頭の痛くなる打ち合わせをしていた時、シャオリンに付き添われたウンランさんが姿を見せた。
釈放されて今はシャオリンの部屋に隠居している。
「難しい局面になりましたな」
と、初めて会った頃と同じ、人の良さそうな笑顔を向けてくれた。
「これをお渡しに来ました」
ウンランさんが手渡してくれたのは、茶色の塊……?
「ヤガタ芋と申します」
と、ウンランさんの言葉に、打ち合わせしていたスイランさんとシュエンが微妙な表情を浮かべた。
「芋ですか……」
「成長が早く、荒れ地でも育ちます」
「へえ!」
「南側広場を開墾して植えれば8日から10日で収穫できますでな」
そんなのあるなら、早く出して欲しかったと思ってスイランさんとシュエンを見ると、表情が渋い。
「ただ、ひとつ問題がありますのじゃ」
と、ウンランさんが言った。
「問題?」
「……めちゃくちゃ、不味いのですわい」
不味くてもなんでも、飢え死にするよりはマシだ。
早速、南側広場を畑に変える作業を始めた。クゥアイも鍬を振るってくれた。やっぱり楽しそうだ。
ただ、ヤガタ芋を植えると伝えると、すごく嫌そうな顔をされた。クゥアイのそんな表情を見るのは初めてだった。
――逆に興味湧くな。
それから9日後、俺が召喚されて58日目に収穫されたヤガタ芋は、確かに不味かった。
こう……、吐き出すほどではなく、かといって充分に不快という、絶妙な不味さ。
シュエンがイヤそうに口を開いた。
「これでも、相当に頑張って調理したんだからね?」
「そ、そうか……」
「最初に比べたら、まだ食べられる方なんだから」
「う、うん……。ありがと……」
薬だと思ってと、皆んなで励まし合って完食した。贅沢の言える状況ではないけど、これは、さすがにいつまでもは続けられない。兵士や剣士の士気にも関わる……。
その翌朝の大浴場に、ジンリーが初めて姿を見せた。
転落のケガもすっかり良くなり、司空府の工房に復帰して回廊の改良に取り組んでくれている。
――ふみゅ。
と、ジンリーの柔らかな感触が、背中を泡だらけに滑る。
――ふみゅ。
そういえば工房でシーシが「とてもいい」って言いながら揉んでたな……。あのときの膨らみの感触が、これか……。とか、考えてしまってた。
――くにっ。
「ニシシ! ジンリーがいいこと考えてくれたのだ!」
と、右腕に抱き付いて滑らせるシーシが言った。
――むにゅう。
「ええ。ジンリーのお陰で前に進みました」
と、左腕をはさんでるミンリンさんから、久しぶりに明るい声が聞けた。
「おおっ! どんなの?」
「ニシシ! ジンリーの口から説明させてあげたいんだけど、まだ照れてるみたいだから、ちょっと待ってあげてほしいのだ」
――ふみゅ(背中/下)。
い、いや……。それなら大浴場でなくてもいいのでは? と思ったけど、黙って待つ。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
ひ、久しぶりの初心な反応に、こっちまで顔が赤くなる……。
――ふみゅ(背中/下)。
ツルペタ姉さん、ニタニタこっち見ないでください。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
「お……」
と、ジンリーが口を開いた。
――ふみゅ(背中/下)。
「檻にしてはどうかと……」
――ふみゅ(背中/上)。
「檻……?」
「はい……。壁でなく、檻にして人獣を防げば木材を節約できます……」
――ふみゅ(背中/下)。
そうか……。アスマたちの地下牢で、木格子が人獣を防いでたのと同じ理屈か。
――むにゅん(左腕/上)。
「人獣の腕が回廊の中まで伸びることも考えられますし、まだ詰めないといけないことは多数ありますが、建設可能な回廊の総延長はかなり伸ばせます」
と、ミンリンさんが力強く言った。
――きゅむ(右手)。
「ジンリーを褒めてやってほしいのだ!」
と、シーシが太ももで右手をはさみながら言った。
「そうだね。スゴイな、ジンリー! お陰で難題を突破できそうだよ!」
「いえ……、そんな……」
――ふみゅゅゅ(背中/上)。
ジンリーの温かで柔らかな感触が、背中を気持ちよく滑った。
……やっぱり大浴場のことは、当面、里佳には内緒にしておこう。こ、交信の時間も限られてることだし。もっと他に話さないといけないことあるよね。
それから6日。設計はまだ完成しないけど、満月が欠け始める晩を迎えた。
28日ぶりに里佳と2度目の交信ができる。
そわそわしながら、リーファ姫の寝室に向かった。
ん?
里佳、なにかぶってるの――?
「資材を考えずに立案すると……」
と、ミンリンさんが俺の左腕をはさみながら言った。
「外城壁の上にグルッと回廊を築き、囲ってしまうのが良いとは思うのです……」
「なるほど」
「それで農地は取り戻せますから……」
――むにゅう。
第3城壁奪還から数日が過ぎ、食糧が心許なくなってきている。
思い切って人獣の肉も試そうとしたけど、明らかに毒を含んでいた。さすがに断念した。
いよいよ、なんらかの打開策が要る。
「最後の手段としていた、仮設住宅を解体してはどうです?」
と、尋ねると背中で滑らせてるシーシが応えてくれた。
「解体したとて、なのだ」
――くにっ。
「そうか……」
「今のままの設計だと、第2城壁の家屋、第3城壁の家屋、仮設住宅、全部解体しても足りないのだ……」
――くにっ。
ミンリンさんが眉を寄せた。
「強度を維持したまま、木材の使用量を減らした設計に出来ないか計算を続けているのですが……」
――むにゅう。
大浴場でそんな打ち合わせをして、またさらに数日が過ぎた。
◇
司徒府で、食糧と配給について頭の痛くなる打ち合わせをしていた時、シャオリンに付き添われたウンランさんが姿を見せた。
釈放されて今はシャオリンの部屋に隠居している。
「難しい局面になりましたな」
と、初めて会った頃と同じ、人の良さそうな笑顔を向けてくれた。
「これをお渡しに来ました」
ウンランさんが手渡してくれたのは、茶色の塊……?
「ヤガタ芋と申します」
と、ウンランさんの言葉に、打ち合わせしていたスイランさんとシュエンが微妙な表情を浮かべた。
「芋ですか……」
「成長が早く、荒れ地でも育ちます」
「へえ!」
「南側広場を開墾して植えれば8日から10日で収穫できますでな」
そんなのあるなら、早く出して欲しかったと思ってスイランさんとシュエンを見ると、表情が渋い。
「ただ、ひとつ問題がありますのじゃ」
と、ウンランさんが言った。
「問題?」
「……めちゃくちゃ、不味いのですわい」
不味くてもなんでも、飢え死にするよりはマシだ。
早速、南側広場を畑に変える作業を始めた。クゥアイも鍬を振るってくれた。やっぱり楽しそうだ。
ただ、ヤガタ芋を植えると伝えると、すごく嫌そうな顔をされた。クゥアイのそんな表情を見るのは初めてだった。
――逆に興味湧くな。
それから9日後、俺が召喚されて58日目に収穫されたヤガタ芋は、確かに不味かった。
こう……、吐き出すほどではなく、かといって充分に不快という、絶妙な不味さ。
シュエンがイヤそうに口を開いた。
「これでも、相当に頑張って調理したんだからね?」
「そ、そうか……」
「最初に比べたら、まだ食べられる方なんだから」
「う、うん……。ありがと……」
薬だと思ってと、皆んなで励まし合って完食した。贅沢の言える状況ではないけど、これは、さすがにいつまでもは続けられない。兵士や剣士の士気にも関わる……。
その翌朝の大浴場に、ジンリーが初めて姿を見せた。
転落のケガもすっかり良くなり、司空府の工房に復帰して回廊の改良に取り組んでくれている。
――ふみゅ。
と、ジンリーの柔らかな感触が、背中を泡だらけに滑る。
――ふみゅ。
そういえば工房でシーシが「とてもいい」って言いながら揉んでたな……。あのときの膨らみの感触が、これか……。とか、考えてしまってた。
――くにっ。
「ニシシ! ジンリーがいいこと考えてくれたのだ!」
と、右腕に抱き付いて滑らせるシーシが言った。
――むにゅう。
「ええ。ジンリーのお陰で前に進みました」
と、左腕をはさんでるミンリンさんから、久しぶりに明るい声が聞けた。
「おおっ! どんなの?」
「ニシシ! ジンリーの口から説明させてあげたいんだけど、まだ照れてるみたいだから、ちょっと待ってあげてほしいのだ」
――ふみゅ(背中/下)。
い、いや……。それなら大浴場でなくてもいいのでは? と思ったけど、黙って待つ。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
ひ、久しぶりの初心な反応に、こっちまで顔が赤くなる……。
――ふみゅ(背中/下)。
ツルペタ姉さん、ニタニタこっち見ないでください。
――ふみゅ(背中/上)。
――ふみゅ(背中/下)。
――ふみゅ(背中/上)。
「お……」
と、ジンリーが口を開いた。
――ふみゅ(背中/下)。
「檻にしてはどうかと……」
――ふみゅ(背中/上)。
「檻……?」
「はい……。壁でなく、檻にして人獣を防げば木材を節約できます……」
――ふみゅ(背中/下)。
そうか……。アスマたちの地下牢で、木格子が人獣を防いでたのと同じ理屈か。
――むにゅん(左腕/上)。
「人獣の腕が回廊の中まで伸びることも考えられますし、まだ詰めないといけないことは多数ありますが、建設可能な回廊の総延長はかなり伸ばせます」
と、ミンリンさんが力強く言った。
――きゅむ(右手)。
「ジンリーを褒めてやってほしいのだ!」
と、シーシが太ももで右手をはさみながら言った。
「そうだね。スゴイな、ジンリー! お陰で難題を突破できそうだよ!」
「いえ……、そんな……」
――ふみゅゅゅ(背中/上)。
ジンリーの温かで柔らかな感触が、背中を気持ちよく滑った。
……やっぱり大浴場のことは、当面、里佳には内緒にしておこう。こ、交信の時間も限られてることだし。もっと他に話さないといけないことあるよね。
それから6日。設計はまだ完成しないけど、満月が欠け始める晩を迎えた。
28日ぶりに里佳と2度目の交信ができる。
そわそわしながら、リーファ姫の寝室に向かった。
ん?
里佳、なにかぶってるの――?
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