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3章
12.偽聖者は追われる
俺とフシェンは神皇宮殿から逃げ出した。出るのは思っていたよりずっと簡単だった。理由としては教皇が閉じ込められたままだったのと、聖騎士であるフシェンが同行していたのが大きかったといえる。
教皇に認められたので、通例に従い聖者として大聖堂に祈りを捧げにいくと伝えるとすぐさま外に出ることが出来た。
そこから俺とフシェンは二人で身を隠した。幸運なことと言っていいのか、聖者としてお披露目さえされていなかったお陰で、聖都内で俺を見知っているものはどこにもいなかった。だが、それも時間の問題だ。いずれ、似顔絵などが張り出され大々的に探されることになるだろう。
その前に、聖都から逃げ出す。
それが俺とフシェンが決めたことだった。しかし、聖都から逃げるのはそう簡単なことではない。
「どうだ?」
「駄目だね。聖都の門の守りが厳重になっていたよ、一歩遅かったみたいだ」
ここは聖都の貧民窟と言われている場所だ。既に日は落ち始めており、辺りは夕闇が支配し始めている。俺もフシェンもローブを深く被って、小声で会話を交わす。ちょうど先ほど聖都の門の様子を見に行っていたフシェンが帰ってきたところだ。
俺たちは教皇の手が回る前に一気に聖都を抜け出そうとしたのだが、どうやら遅かったようだ。聖遺物には遠くに声を飛ばすものもあるようだから、多分それを使ったのだろう。
「そうなると、どうするか」
「私に殺しが許されているなら強行突破も方法の一つだけど、彼らは同胞だからね。さすがに聖典の教えは破れないな」
「き、君は……いや、もういい」
教えなどなくても殺しに関してはやめてほしいが、相手はフシェンなので言い返すのは諦めた。
俺はふっと首から下げている袋に視線を落とす。その袋の中にはゴートが入っている。灰色に染まったままのゴートは微かな動きはあるものの、会話や反応はしてくれない。この呪いもどうすれば解けるか、わからないままだ。
このことを詳しく調べるためにも、一度聖都から離れたい。もしこのまま教皇に捕まってしまえば、俺自身どうなるかわからない。そうすると、俺以外に見えないゴートは誰にも助けて貰えなくなる。
それだけは避けたい。俺は必ずゴートを元に戻して見せる。
ただ、それにフシェンを巻き込むことには罪悪感がある。
「なあ、フシェン。こんなことになって、本当に後悔していないのか?」
フシェンは、俺に何も聞かない。あの広間で何があったのか、どうして教皇から逃げ出したのか、そんなことでさえ俺に聞かなかった。
正直なところ、そうして聞かれても明確な答えをフシェンに与えることができない。ゴートのことは説明できることではないし、ただ単に今は彼から逃げなければならないとそう感じたと答えるしかできないのだ。
「していないよ。私は君の側にいる。何があろうともレダを手放さない」
フシェンは躊躇いなく、すぐに答えた。これがフシェンの死にたがりの性質のための行動だとしても、俺はその言葉が嬉しくてたまらなかった。
「それで」
俺が言葉を続けようとした時、フシェンが俺の唇に人差し指を押し当てる。そして、俺の腰に腕を回して引き寄せる。フシェンの目線は明後日の方向に向けられていた。
「出ておいでよ。わざわざこちらが気付きやすい尾行したんだ、こちらに用があるんだろう?」
すると、物陰から一人の男が現れた。その男は貴族に仕える騎士であるようで、それは衣服に刻まれている家紋からもわかる。
……いや、待て。
俺は、その家紋に見覚えがあった。
「そこで止まれ。それ以上進むなら、その腕を切り落とす。私が君を処理しなかった理由は二つだ。一つは殺意や悪意を一切感じ取れず、尾行していることを露骨にこちらに知らせてきたこと」
フシェンは剣を抜くと、俺を背に庇って立つ。その剣先を突如現れた騎士に向けたまま、穏やかに微笑む。話す内容はかなり物騒なものも混じっていたが、その声に焦りは感じられない。
逆に対峙している騎士の男は、戸惑っているかのように視線が泳いでいた。
「もう一つは、君がヴァルギース家に仕える騎士だからだ」
そうだ。先ほど見たあの家紋は、俺の実家であるヴァルギース公爵家のものだった。つまり、彼はヴァルギース家の命を受けて、ここに来ているということになる。
「……閣下が、レダ様をお呼びなのです」
騎士の男は、その場で膝を折ると地面に片膝を突き、跪いた。そして、深々と頭を下げた。
「どうか、実家にお戻りください。レダ様」
それは前世でもなかった、ヴァルギース公爵からの呼び出しだった。
教皇に認められたので、通例に従い聖者として大聖堂に祈りを捧げにいくと伝えるとすぐさま外に出ることが出来た。
そこから俺とフシェンは二人で身を隠した。幸運なことと言っていいのか、聖者としてお披露目さえされていなかったお陰で、聖都内で俺を見知っているものはどこにもいなかった。だが、それも時間の問題だ。いずれ、似顔絵などが張り出され大々的に探されることになるだろう。
その前に、聖都から逃げ出す。
それが俺とフシェンが決めたことだった。しかし、聖都から逃げるのはそう簡単なことではない。
「どうだ?」
「駄目だね。聖都の門の守りが厳重になっていたよ、一歩遅かったみたいだ」
ここは聖都の貧民窟と言われている場所だ。既に日は落ち始めており、辺りは夕闇が支配し始めている。俺もフシェンもローブを深く被って、小声で会話を交わす。ちょうど先ほど聖都の門の様子を見に行っていたフシェンが帰ってきたところだ。
俺たちは教皇の手が回る前に一気に聖都を抜け出そうとしたのだが、どうやら遅かったようだ。聖遺物には遠くに声を飛ばすものもあるようだから、多分それを使ったのだろう。
「そうなると、どうするか」
「私に殺しが許されているなら強行突破も方法の一つだけど、彼らは同胞だからね。さすがに聖典の教えは破れないな」
「き、君は……いや、もういい」
教えなどなくても殺しに関してはやめてほしいが、相手はフシェンなので言い返すのは諦めた。
俺はふっと首から下げている袋に視線を落とす。その袋の中にはゴートが入っている。灰色に染まったままのゴートは微かな動きはあるものの、会話や反応はしてくれない。この呪いもどうすれば解けるか、わからないままだ。
このことを詳しく調べるためにも、一度聖都から離れたい。もしこのまま教皇に捕まってしまえば、俺自身どうなるかわからない。そうすると、俺以外に見えないゴートは誰にも助けて貰えなくなる。
それだけは避けたい。俺は必ずゴートを元に戻して見せる。
ただ、それにフシェンを巻き込むことには罪悪感がある。
「なあ、フシェン。こんなことになって、本当に後悔していないのか?」
フシェンは、俺に何も聞かない。あの広間で何があったのか、どうして教皇から逃げ出したのか、そんなことでさえ俺に聞かなかった。
正直なところ、そうして聞かれても明確な答えをフシェンに与えることができない。ゴートのことは説明できることではないし、ただ単に今は彼から逃げなければならないとそう感じたと答えるしかできないのだ。
「していないよ。私は君の側にいる。何があろうともレダを手放さない」
フシェンは躊躇いなく、すぐに答えた。これがフシェンの死にたがりの性質のための行動だとしても、俺はその言葉が嬉しくてたまらなかった。
「それで」
俺が言葉を続けようとした時、フシェンが俺の唇に人差し指を押し当てる。そして、俺の腰に腕を回して引き寄せる。フシェンの目線は明後日の方向に向けられていた。
「出ておいでよ。わざわざこちらが気付きやすい尾行したんだ、こちらに用があるんだろう?」
すると、物陰から一人の男が現れた。その男は貴族に仕える騎士であるようで、それは衣服に刻まれている家紋からもわかる。
……いや、待て。
俺は、その家紋に見覚えがあった。
「そこで止まれ。それ以上進むなら、その腕を切り落とす。私が君を処理しなかった理由は二つだ。一つは殺意や悪意を一切感じ取れず、尾行していることを露骨にこちらに知らせてきたこと」
フシェンは剣を抜くと、俺を背に庇って立つ。その剣先を突如現れた騎士に向けたまま、穏やかに微笑む。話す内容はかなり物騒なものも混じっていたが、その声に焦りは感じられない。
逆に対峙している騎士の男は、戸惑っているかのように視線が泳いでいた。
「もう一つは、君がヴァルギース家に仕える騎士だからだ」
そうだ。先ほど見たあの家紋は、俺の実家であるヴァルギース公爵家のものだった。つまり、彼はヴァルギース家の命を受けて、ここに来ているということになる。
「……閣下が、レダ様をお呼びなのです」
騎士の男は、その場で膝を折ると地面に片膝を突き、跪いた。そして、深々と頭を下げた。
「どうか、実家にお戻りください。レダ様」
それは前世でもなかった、ヴァルギース公爵からの呼び出しだった。
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