【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

3章

16.聖騎士は幸せを感じる

　それは少し掠れた声で告げられた懇願だった。その声と表情でフシェンは本気で俺の全部を持っていくつもりだとわかった。そして、それを俺に認めさせたいのだとわかった。
　俺が望んで渡すまで逃がさない。蕩けた翠色の瞳はそんな執拗さを感じる熱を宿していた。

「……ぁ、っ」

　それが嫌じゃないと感じる俺は既に、フシェンに絡とられ始めているのだろう。俺は両腕をフシェンの首に巻き付け、体を寄せる。

「全部、やる……っ、俺の全部……っ」
「ああ……っ！　嬉しい。本当に嬉しいよ、レダ」
「あっ……あっ！」

　歓喜に浸るフシェンの声を聞きながら後孔に宛がわれていたフシェンの性器が少しずつ、押し込まれていく。ぐっぐっと押し込まれていく感覚に喉を晒して喘ぐ。思った以上の痛みはないが、異物感が苦しいと感じる。

「ん……っ、大丈夫だよ、レダ。全部もう入るから、っ」
「うぅ、っ！　もっ……はやく、いれ……っああ！」

　じりじりと迫る圧迫感が辛くて、涙声になりながらフシェンに訴える。すると、次の瞬間力強く中へ押し込まれて、一瞬意識が飛んだ。一気に奥まで性器が入り込んで、口は開いたまま閉じられない。はくはくと息をするしかできず、体が震える。フシェンも眉を顰めたまま、その体は小さく震えていた。互いに荒い息を吐きながら、動かなくなる。
　そのまま動かず、段々と俺の呼吸も落ち着いた頃、改めて間近のフシェンの顔をしっかりと見つめる。彼の頬は赤く色づき、乱れた息と流れる汗に色香が漂う。俺にはそれがあまりにも愛しく思えて、思わず唇をその頬に押し付けた。それが失敗だった。

「ッ、レダ！」
「ぇ、あ……ひっ、あ！　まっ、まって……ぁあ！」

　フシェンの何かを壊してしまったらしく、力任せに中を突き上げられる。その瞬間、目の奥に火花が散ったかのような感覚に陥った。

「ひ、っ……ぁ、あ」

　肌がぶつかり合う音がどこか遠くに聞こえる。自分のものだと信じたくない艶がかった声が部屋中に響き渡る。
　これ、だめなやつだ。
　感じたことのない快感が一気に押し寄せてきて、頭が使い物にならない。フシェンが激しい抽挿を行う度、声が漏れる。どこかに飛んでいってしまいそうな感覚に抗うようにフシェンに縋りつく。

「っ……レダ、可愛い。もっと私に縋りついて、求めて」
「っあ、こわい……あ、たすけ、てっ……あぁっ、あ！」

　こんな感覚に陥れている張本人だというのに、フシェンに助けを求めるのはおかしいと頭の隅のほうで感じながらも、必死に縋りつく。フシェンはそんな俺に蠱惑的な微笑みを浮かべながら、容赦なく水音を立てながら突き上げてくる。
　更に追い詰めるように俺の性器をぎゅっと握りしめると荒々しく、擦り上げる。その乱暴な手つきに、フシェンにも余裕がないことがわかった。

「ふしぇ……ぁあ、っ、きもちい……っ」
「私も、いいよ……中毒になりそうだ、っ」
「あ、噛む、っなぁ……っ！」

　先ほどから喘いで喉を晒す度に、フシェンはその喉元に噛みつき痕を残す。まるで所有印でも刻み付けるように至るところに噛みつき、その痛みさえ快楽に誘うようにぐりぐりと腰を押し付けてくる。既に俺の顔は唾液と涙でぐちゃぐちゃだ。俺の体はもう限界だった。

「もう、だめ……出る、ひぁ、あっ」
「んっ、うん……わかった、っ大丈夫だから」

　フシェンは余裕のない荒々しい声を囁きかけながら遠慮なく、動きを早める。手加減という言葉は既に忘れているのか、力強く突かれる度に背が軽く浮いて、奥まで貫かれる。頭が快楽で埋め尽くされていき、堪らなく気持ちがいい。高まっていく熱に足の指先をきゅっと丸めて、同時に体を丸める。

「ぁっ、あ、もう、ぁあ……ああッ」

　フシェンがぎりぎりまで引き抜くと同時に、一気に奥まで押し込む。それがもう駄目だった。口を開いたまま、全身ががくがくと震え呆気なく、白濁な液を吐き出した。勢いよく噴き出すというよりは断続的に吐き出し、俺の腹とフシェンの手を汚していく。ぎゅっと体を縮めると、フシェンも荒い息を詰まらせながら、俺の中に温かい精液を吐き出した。
　それだけでも、十分気持ちいいと感じる体は随分フシェンに慣れてしまったようだ。フシェンの肩に額を押さえつけながら、じわじわと中に溜まる液を受け止め続けた。

「っ……は、レダ。愛している……っ」

　フシェンに名前を呼ばれて、顔を上げると俺の唇に噛みついてくる。俺の呼吸さえ奪うように舌を絡めながら、精液を一滴で零さず注ぐように腰を揺らす。それに甘い声が滲むも、それさえ塞がれたまま奪われた。
　その心地よさに酔いながら、いつの間にか胸の奥に感じていた穴は、もうどこにもなかった。