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2章
13.悪役の流儀
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メラニーは暫く黙り込んでいたが、ドレスの裾をぎゅっと掴みながら口を開く。
「……彼は、物なんかじゃありませんよ、サタリア様」
「いいえ。あれは物です。そして間違いなく、私のものです」
「私は、彼を救いたい。必ず、自由にして……みせます。彼もそれを望んでいるはずです」
俺を睨みつける彼女の瞳には、力強い意志が見える。まさしくヒロインらしい眩しい意志と宣戦布告だ。
漫画であれば、今の状況は正義と悪の対立にも見える状況だ。
しかし、俺はメラニーの言葉がアルヴェンの望みから遠く離れたものであることを知っている。だからなのか、アルヴェンの望みを決めつけるような彼女の物言いに少し苛立ちを覚えた。
俺は背もたれに緩やかに体を預け、わざとらしく片脚を組み上げるとメラニーを見下ろすように視線を送る。
「──それは、それは。とても楽しみにしています、皇女殿下」
俺は見せつけるように優雅な微笑みを浮かべた──この崩れることのない笑顔が、残酷な支配者の証しであると彼女にわからせるように。
そして、今メラニーの前に座る俺が、この世界の最大の悪なのだと知らしめるために。
◆◆◆
「はあぁあ……」
俺は、一人でとぼとぼと道を歩きながら、大きなため息を吐く。今は丁度メラニーとの話し合いを終えて、馬車に向かっている途中だ。
結局のところ、彼女は成人祝いに貰う魔法生物はいらないと口にした。どうやらメラニーの対抗心に火を点けてしまったらしく、アルヴェンでないのなら必要ないと言い出したのだ。
そうなれば俺はお役御免だ。早々に彼女の元から立ち去ってここにいる訳だが、ムルダムになんて言えばいいのか、考えるだけで頭が痛い。
さすがに……アルヴェンを渡すことを断ったから、とはいえないな。
それがバレればあの男のことだ。喜んでメラニーにアルヴェンを引き渡すだろう。
「適当な言い訳を考えないと……」
次から次へと襲い来る予想外の出来事に頭が痛い。これからは原作に頼らず、どうにかしてラクトフェル家を没落させる術を考えないといけない。とりあえず俺は、今日寝る前に恒例の枕殴りをしようとしっかりと心に決めた。
馬車の姿が目に入った時、その側に立っていた男が俺を見るなり小走りでこちらに向かってくる。
「お待ちしておりました」
こちらに向かって来たのは、アルヴェンだ。この辺りには人影が見えないが、皇城内であることには変わりない。そのためか、アルヴェンの口調は余所向きのままだった。
「ここでの用事はもう終わった。予定通りに次の場所へ行くよ」
「サタリア様。その前に少し時間をいただいてもよろしいでしょうか」
金色の瞳が俺の心まで覗くようにじっと見つめる。
最近は慣れてきたと思ったこの視線だが、先ほどメラニーと彼のことを話したせいか、思わずその瞳から逃げるように目を逸らしてしまう。
「……ああ、わかった。なら、馬車内で話そうか」
馬車内なら聞き耳を立てられることもないだろう。もし馬車に誰かが近づいてきたとしても、テランが声を掛けてくるはずだ。
俺とアルヴェンは馬車に乗り込むと、互いに向き合うような形で座席に腰を下ろす。ラクトフェル家の馬車は一般的な馬車に比べて広い方ではあるが、男性二人が入ればそれなりに手狭に感じる。というか、距離が近い。
「それで? 私に話というのは何だ」
俺は、なぜかこの状況を早く終わらせたいという衝動に駆られて、少々早口で問いかけた。しかし、アルヴェンは俺の考えなど知るはずもなく、前のめりになって俺に体を寄せる。
「サタリア。あの皇女は俺を望んできただろう?」
「……っ」
「俺を渡すように、迫って来たはずだ」
一瞬、アルヴェンの言葉に呆気に取られて続く言葉を忘れてしまう。
──なぜ、知っているんだ。
唐突なアルヴェンの言葉に困惑するが、辛うじて顔には出さずに済んだ。
いや、よくよく考えればメラニーのアルヴェンに対する感情は露骨だった。しっかりと観察すれば、彼女がアルヴェンに恋をしていたのは、勘のいいものならすぐ気付くだろう。
アルヴェンもきっとそうだ。最初会った時に、メラニーの感情に気づいたからこその推測なのだろう。
そうに違いない。それしかないのに──この強烈な違和感は、なんだろうか。
「……もしそうだとして、何が言いたい?」
「俺は、捨てられるんだろう?」
「なに?」
アルヴェンは突如、座席からゆっくりと腰を浮かして俺に近付いてくる。その際、こちらを見つめる金色の瞳は獲物を渇望する獣のようにぎらついていた。
理性の皮を被ってはいるが、瞳の奥底には燃え盛るような渇望が垣間見える。
それなのに、その声はとても弱々しいものだった。
「あの皇女に渡さないでくれ。俺はあんたのものがいいんだ」
「……アルヴェン?」
「俺の手にあるのは、サタリアだけでいいんだ。俺が欲しいのは、あんただけだ。他はいらない、もう必要ない」
アルヴェンは眉尻を垂らして、くしゃりと顔を歪める。
本当に、どうしてアルヴェンは俺に固執するのだろう。俺がアルヴェンを人にしたからだと言っていたが、彼と話したのは専属使用人を選ぶ場が初めてだ。
「……彼は、物なんかじゃありませんよ、サタリア様」
「いいえ。あれは物です。そして間違いなく、私のものです」
「私は、彼を救いたい。必ず、自由にして……みせます。彼もそれを望んでいるはずです」
俺を睨みつける彼女の瞳には、力強い意志が見える。まさしくヒロインらしい眩しい意志と宣戦布告だ。
漫画であれば、今の状況は正義と悪の対立にも見える状況だ。
しかし、俺はメラニーの言葉がアルヴェンの望みから遠く離れたものであることを知っている。だからなのか、アルヴェンの望みを決めつけるような彼女の物言いに少し苛立ちを覚えた。
俺は背もたれに緩やかに体を預け、わざとらしく片脚を組み上げるとメラニーを見下ろすように視線を送る。
「──それは、それは。とても楽しみにしています、皇女殿下」
俺は見せつけるように優雅な微笑みを浮かべた──この崩れることのない笑顔が、残酷な支配者の証しであると彼女にわからせるように。
そして、今メラニーの前に座る俺が、この世界の最大の悪なのだと知らしめるために。
◆◆◆
「はあぁあ……」
俺は、一人でとぼとぼと道を歩きながら、大きなため息を吐く。今は丁度メラニーとの話し合いを終えて、馬車に向かっている途中だ。
結局のところ、彼女は成人祝いに貰う魔法生物はいらないと口にした。どうやらメラニーの対抗心に火を点けてしまったらしく、アルヴェンでないのなら必要ないと言い出したのだ。
そうなれば俺はお役御免だ。早々に彼女の元から立ち去ってここにいる訳だが、ムルダムになんて言えばいいのか、考えるだけで頭が痛い。
さすがに……アルヴェンを渡すことを断ったから、とはいえないな。
それがバレればあの男のことだ。喜んでメラニーにアルヴェンを引き渡すだろう。
「適当な言い訳を考えないと……」
次から次へと襲い来る予想外の出来事に頭が痛い。これからは原作に頼らず、どうにかしてラクトフェル家を没落させる術を考えないといけない。とりあえず俺は、今日寝る前に恒例の枕殴りをしようとしっかりと心に決めた。
馬車の姿が目に入った時、その側に立っていた男が俺を見るなり小走りでこちらに向かってくる。
「お待ちしておりました」
こちらに向かって来たのは、アルヴェンだ。この辺りには人影が見えないが、皇城内であることには変わりない。そのためか、アルヴェンの口調は余所向きのままだった。
「ここでの用事はもう終わった。予定通りに次の場所へ行くよ」
「サタリア様。その前に少し時間をいただいてもよろしいでしょうか」
金色の瞳が俺の心まで覗くようにじっと見つめる。
最近は慣れてきたと思ったこの視線だが、先ほどメラニーと彼のことを話したせいか、思わずその瞳から逃げるように目を逸らしてしまう。
「……ああ、わかった。なら、馬車内で話そうか」
馬車内なら聞き耳を立てられることもないだろう。もし馬車に誰かが近づいてきたとしても、テランが声を掛けてくるはずだ。
俺とアルヴェンは馬車に乗り込むと、互いに向き合うような形で座席に腰を下ろす。ラクトフェル家の馬車は一般的な馬車に比べて広い方ではあるが、男性二人が入ればそれなりに手狭に感じる。というか、距離が近い。
「それで? 私に話というのは何だ」
俺は、なぜかこの状況を早く終わらせたいという衝動に駆られて、少々早口で問いかけた。しかし、アルヴェンは俺の考えなど知るはずもなく、前のめりになって俺に体を寄せる。
「サタリア。あの皇女は俺を望んできただろう?」
「……っ」
「俺を渡すように、迫って来たはずだ」
一瞬、アルヴェンの言葉に呆気に取られて続く言葉を忘れてしまう。
──なぜ、知っているんだ。
唐突なアルヴェンの言葉に困惑するが、辛うじて顔には出さずに済んだ。
いや、よくよく考えればメラニーのアルヴェンに対する感情は露骨だった。しっかりと観察すれば、彼女がアルヴェンに恋をしていたのは、勘のいいものならすぐ気付くだろう。
アルヴェンもきっとそうだ。最初会った時に、メラニーの感情に気づいたからこその推測なのだろう。
そうに違いない。それしかないのに──この強烈な違和感は、なんだろうか。
「……もしそうだとして、何が言いたい?」
「俺は、捨てられるんだろう?」
「なに?」
アルヴェンは突如、座席からゆっくりと腰を浮かして俺に近付いてくる。その際、こちらを見つめる金色の瞳は獲物を渇望する獣のようにぎらついていた。
理性の皮を被ってはいるが、瞳の奥底には燃え盛るような渇望が垣間見える。
それなのに、その声はとても弱々しいものだった。
「あの皇女に渡さないでくれ。俺はあんたのものがいいんだ」
「……アルヴェン?」
「俺の手にあるのは、サタリアだけでいいんだ。俺が欲しいのは、あんただけだ。他はいらない、もう必要ない」
アルヴェンは眉尻を垂らして、くしゃりと顔を歪める。
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