【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

文字の大きさ
53 / 81
3章

別の世界の話3

しおりを挟む
 
 リティは、自分の〝リティ〟という名前を何よりも愛していた。
 なぜなら、それは自分の主がくれた大切なものだからだ。

「ああ」

 リティは、燃え盛る炎を見上げながら何でもないような声でそう小さく呟いた。目の前で燃え盛る炎とは少し距離があるが、それでもその熱さはすぐ側にあるように肌で感じる。
 燃える灯りに照らされながら、眉一つ動かすことなくリティは炎を見つめていた。
 リティは、カシア皇国で魔法生物のデーモンとして、この世界に存在することを許された。そして、契約に従いラクトフェル家の当主に仕えるものとして、その知識と力を振るうように定められた。
 リティは、その役目と立場にとても満足していた。
 ごく稀にリティたち魔法生物を見ると、憐憫の目や偏見の目で見る人がいたが、その度に彼は不思議で堪らなかった。
 ──やはり、人とはおかしな存在ですね。
 魔法生物たちは皆、自分たちの在り方に満足していて、不満は一つもない。例え罵られ、殴られようとも、その考えは一切変わらない。
 魔法生物たちは、人という存在に何の感情も抱いていない。愛も、尊敬も、憎悪も、悲しみも、どれだけ側にいようと何一つ揺さぶられることはない。
 だからこそ、人という存在にどういう扱いを受けても、魔法生物たちが変わることはない。どれだけ愛されても、どれだけ蔑まれようとも、ただ契約に従って人に尽くして、役目を果たす。
 魔法生物にとって契約は絶対だ。死ぬのはいい、殺されるのもいい。それらは消えるだけであり、終わりを得られる。
 ただ契約に反することは許されない。何故なら、契約に反すれば強制的に生命の欠片に戻されるからだ。
 リティもそうだが、魔法生物たちは生命の欠片だったころの記憶がある。それがどれほど悲惨で苦痛に満ちた時間であったか、痛いほどに知っている。孤独が、苦痛が、悲しみが、空腹が、寒さが──あらゆる苦しみが終わることなく永遠に続く。それは地獄という言葉すら生ぬるい時間だった。
 だからこそ、魔法生物たちは契約を決して破らない。今、この場所に存在することを許されているのが最大の幸福なのだ。息ができて、誰かに触れられ、声を出すことを許される。
 それがどれだけ素晴らしいことなのか、当然として与えられている人という存在には理解できないのだろう。
 だから、魔法生物は何も気に留めない──ただ一つの例外を除いて。
 その例外は、彼らに存在することを許してくれた、地獄から引き上げてくれた救世主。
 自分たちの創造主であり、全てである【契約者】だ。

『その、名前はリティにしようと思うんだけど……』

 そう言った契約者は、とても変わった人だった。
 契約者が提示する契約書には予め決められた文面があり、それを変更することはできない。ただ追加は可能だ。リティを創った主は、そこに一つだけ追加した。
 ──自分の考えを持つように。
 リティの主は、先代もしなかったであろう魔法生物たちに意志を持つことを許した。実際、先代が創ったといわれる魔法生物には自我というものが存在しない。その方が使い勝手がいいため、当然といえるだろう。
 しかし、それをリティの主は変えた。なぜ、そんなことをしたのか。これはリティの推察ではあったが、彼なりに嫌なことには嫌だと思えるように、何かあれば自分を頼れるようにしたかったのだろうと思っている。
 そこからわかるように、リティの主はあまりにも優しかった。
 それが聖人のような無垢な優しさであればよかったが、平凡であるが故の優しさであったからこそ、苦しみを抱いていることを知っていた。
 だからこそ魔法生物たちは与えられた自我で皆、主を愛した。彼が幸福であるように毎朝祈り、与えられた範囲で彼を助けた。
 リティは、それこそ契約を破ってもいいと思っていた。自分がまたあの哀れな姿に戻ろうとも、リティの主が幸せでいてくれるならそれでもいいと考えていた。
 しかし、それを誰よりも望んでいないのが、その主自身であることも側にいたリティは痛いほどに理解していたのだ。
 結局、主は最後までリティを巻き込んではくれなかったし、ついていくことさえ許してくれなかった。
 ──だからこそ、許すことができない。
 初めて人という存在に対して抱いたこの嫌悪を、憎しみを、恨みを。
 ぶつけて〝あれに〟思い知らせるまで、リティという存在は止まることはなかった。
 だからこそ、燃え盛った炎の中へと足を進めた。

 けれど、これらは全て別の世界の話。
 ある視点からすれば無かったことになった、一巡目の世界の話だ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。 なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。 全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。 果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!? 冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。   ※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。 初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。 また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

悪役令息の花図鑑

蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。 「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」  押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……? ※☆はR描写になります ※他サイトにて重複掲載あり  

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...