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4章
2.良い旅を
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通常のサイラはメラニーに会いたいと暴れ出したり、泣き出したりと情緒不安定な様子を見せているそうだ。その際話すのはメラニーのことだけで、シンとチークにさえ敵のような素振りを見せる。しかし、稀にサイラが正気に戻ったように話し始める瞬間があるという。
そして、シンがこうして訪れたのは、サイラが口にしたその内容のせいだ。
「……サイラが言うには、建国祭の時には皇城には絶対に近付くなって言うの」
「建国祭?」
それは、カシア皇国が建国された記念日に皇帝主催で行われる夜会のことだ。そのパーティーには貴族の当主しか参加を許されず、その子供はもちろん、妻でさえも参加は許されない。
そして、俺はその建国祭が原作でも重要であったことを知っている。
なぜなら、そこが原作での二回目の断罪シーンであり、ラクトフェル家の没落が決まったところだからだ。
サタリアは建国祭で大勢の貴族の前で断罪され、悪だと断定される。作中でも最高潮に盛り上がるシーンであり、主人公たちの見せ場だ。
「どうして、そんなことを」
「それがね、サイラが言うには……」
シンは少しだけ躊躇って、俺の顔色を窺うようにじっと見つめてから口を開いた。
「──アルヴェンが、全てを終わらせるんだって」
「……なに?」
まさかのアルヴェンの名前が出たことに思わず、眉を顰める。
いや、確かに建国祭であればメラニーが所持する魔法生物としてアルヴェンも出席するはずだが、終わらせるというのは、どういう意味だ。
「僕も、支離滅裂なサイラの言葉を拾って推察しただけだから、確かなことはわかんない。ただサイラの言いぶりからアルヴェンは、とんでもないことをするつもりだと思う」
俺はサイラの言葉に頭を抱えるしかない。いつからかわからないが、メラニーとアルヴェンが繋がっていたのなら、アルヴェンがサイラに何かを教えたのか? それはなんのためだ? 警告か?
──だとしたら、それは一体誰のための警告だ?
もし、アルヴェンがサイラが俺に伝えることを想定して教えたとしたら……あいつは、もしかして。
「サタリア兄様? 顔色が悪いけれど、大丈夫?」
「っ、ああ、問題ないよ。それを伝えに来てくれたのか、シン。ありがとう」
「うん。兄様も建国祭には行けないと思うけど、もしものことがあると思って」
俺のことを心配してくれたシンの心遣いが嬉しくて、その頭を優しく撫でる。するとシンはこちらに近づき、腰辺りに両腕を回してしがみつく。
「兄様……サイラを助けてくれて、ありがとう」
シンの声は少し震えていて、彼なりに兄弟のことを心配していたことがわかる。胸を張って助けたとはいえない状況ではあるが、その声を聞いて二人の元にサイラを返すことが出来てよかったと心から思えた。
シンを慰めるように俺からもそっと抱きしめ返して、シンの背を優しく撫でた。
その後、シンとはこれからのことを軽く話し合ってから別宅に帰らせることにした。時刻が時刻なだけに、送る際には俺の馬車を使ってテランに任せた。寝ていた時に叩き起こしたので、かなり面倒くさそうにしていたが、サボり癖のある彼には丁度いいだろう。
俺はシンを見送ってから自室に戻り、一息吐く。もう一度寝直すためにも、ベッドに戻ったほうがいいのはわかっているのだが、先ほどの話が引っかかって、どうにも落ち着かない。
──俺は、間違っているんじゃないのか。
アルヴェンは、復讐のために俺を裏切ったのだと思っていた。でも、冷静に振り返ればアルヴェンの全てが演技だと今でも思えない。
シンから聞いた言葉もそうだ。まるで、ああして俺に伝わることを予想していたように思える。
回帰したことを俺に明かすようなことをしておきながら、アルヴェンがしたかったのは、本当に復讐か? 本当に俺を、恨んでいるのか?
見るものに恐怖さえ抱かせる美しい金色の瞳に宿っていたのは、ただの悪意だったのか……?
その時、窓側から音がした。
ふと目をやると、そこにいたのは黒色の小鳥、魔法生物のフギンだ。その嘴で窓を小さく突き、開けろと促してくる。
俺は驚きと共に首を傾げた。なぜなら朝の情報だとすればあまりにも早いからだ。
とりあえず、近づいて窓を開くと吹き込む風と共にフギンが中に入ってくる。片手を差し出すと、羽ばたいて俺の手首に止まった。
そして、俺が見守っているといつものように嘴を開いて喋り始める。ただ、そこから発せられた言葉は短いものだった。
「……あんたは」
「え……」
声を吹き込んだ相手が言葉を詰まらせたのか、フギンはそれを忠実に真似て言葉にする。そして、そう呼ばれた瞬間に俺には誰からのものか、すぐにわかった。
「──あんたはもういいんだ。だから旅に出て、自分のために生きろ」
フギンが話したのは、それだけだ。差出人も送り主の名前すら呼ばない。再び静寂が戻って来て、フギンは自分の役割を終えたというように、いつものように小さく嘴を開いて餌の豆を強請る。
けれど、俺は指先一つ動かせなくなって、ただ呆然とフギンを見つめていた。
「……アルヴェン?」
そして、シンがこうして訪れたのは、サイラが口にしたその内容のせいだ。
「……サイラが言うには、建国祭の時には皇城には絶対に近付くなって言うの」
「建国祭?」
それは、カシア皇国が建国された記念日に皇帝主催で行われる夜会のことだ。そのパーティーには貴族の当主しか参加を許されず、その子供はもちろん、妻でさえも参加は許されない。
そして、俺はその建国祭が原作でも重要であったことを知っている。
なぜなら、そこが原作での二回目の断罪シーンであり、ラクトフェル家の没落が決まったところだからだ。
サタリアは建国祭で大勢の貴族の前で断罪され、悪だと断定される。作中でも最高潮に盛り上がるシーンであり、主人公たちの見せ場だ。
「どうして、そんなことを」
「それがね、サイラが言うには……」
シンは少しだけ躊躇って、俺の顔色を窺うようにじっと見つめてから口を開いた。
「──アルヴェンが、全てを終わらせるんだって」
「……なに?」
まさかのアルヴェンの名前が出たことに思わず、眉を顰める。
いや、確かに建国祭であればメラニーが所持する魔法生物としてアルヴェンも出席するはずだが、終わらせるというのは、どういう意味だ。
「僕も、支離滅裂なサイラの言葉を拾って推察しただけだから、確かなことはわかんない。ただサイラの言いぶりからアルヴェンは、とんでもないことをするつもりだと思う」
俺はサイラの言葉に頭を抱えるしかない。いつからかわからないが、メラニーとアルヴェンが繋がっていたのなら、アルヴェンがサイラに何かを教えたのか? それはなんのためだ? 警告か?
──だとしたら、それは一体誰のための警告だ?
もし、アルヴェンがサイラが俺に伝えることを想定して教えたとしたら……あいつは、もしかして。
「サタリア兄様? 顔色が悪いけれど、大丈夫?」
「っ、ああ、問題ないよ。それを伝えに来てくれたのか、シン。ありがとう」
「うん。兄様も建国祭には行けないと思うけど、もしものことがあると思って」
俺のことを心配してくれたシンの心遣いが嬉しくて、その頭を優しく撫でる。するとシンはこちらに近づき、腰辺りに両腕を回してしがみつく。
「兄様……サイラを助けてくれて、ありがとう」
シンの声は少し震えていて、彼なりに兄弟のことを心配していたことがわかる。胸を張って助けたとはいえない状況ではあるが、その声を聞いて二人の元にサイラを返すことが出来てよかったと心から思えた。
シンを慰めるように俺からもそっと抱きしめ返して、シンの背を優しく撫でた。
その後、シンとはこれからのことを軽く話し合ってから別宅に帰らせることにした。時刻が時刻なだけに、送る際には俺の馬車を使ってテランに任せた。寝ていた時に叩き起こしたので、かなり面倒くさそうにしていたが、サボり癖のある彼には丁度いいだろう。
俺はシンを見送ってから自室に戻り、一息吐く。もう一度寝直すためにも、ベッドに戻ったほうがいいのはわかっているのだが、先ほどの話が引っかかって、どうにも落ち着かない。
──俺は、間違っているんじゃないのか。
アルヴェンは、復讐のために俺を裏切ったのだと思っていた。でも、冷静に振り返ればアルヴェンの全てが演技だと今でも思えない。
シンから聞いた言葉もそうだ。まるで、ああして俺に伝わることを予想していたように思える。
回帰したことを俺に明かすようなことをしておきながら、アルヴェンがしたかったのは、本当に復讐か? 本当に俺を、恨んでいるのか?
見るものに恐怖さえ抱かせる美しい金色の瞳に宿っていたのは、ただの悪意だったのか……?
その時、窓側から音がした。
ふと目をやると、そこにいたのは黒色の小鳥、魔法生物のフギンだ。その嘴で窓を小さく突き、開けろと促してくる。
俺は驚きと共に首を傾げた。なぜなら朝の情報だとすればあまりにも早いからだ。
とりあえず、近づいて窓を開くと吹き込む風と共にフギンが中に入ってくる。片手を差し出すと、羽ばたいて俺の手首に止まった。
そして、俺が見守っているといつものように嘴を開いて喋り始める。ただ、そこから発せられた言葉は短いものだった。
「……あんたは」
「え……」
声を吹き込んだ相手が言葉を詰まらせたのか、フギンはそれを忠実に真似て言葉にする。そして、そう呼ばれた瞬間に俺には誰からのものか、すぐにわかった。
「──あんたはもういいんだ。だから旅に出て、自分のために生きろ」
フギンが話したのは、それだけだ。差出人も送り主の名前すら呼ばない。再び静寂が戻って来て、フギンは自分の役割を終えたというように、いつものように小さく嘴を開いて餌の豆を強請る。
けれど、俺は指先一つ動かせなくなって、ただ呆然とフギンを見つめていた。
「……アルヴェン?」
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