【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

文字の大きさ
66 / 81
4章

2.良い旅を

しおりを挟む
 通常のサイラはメラニーに会いたいと暴れ出したり、泣き出したりと情緒不安定な様子を見せているそうだ。その際話すのはメラニーのことだけで、シンとチークにさえ敵のような素振りを見せる。しかし、稀にサイラが正気に戻ったように話し始める瞬間があるという。
 そして、シンがこうして訪れたのは、サイラが口にしたその内容のせいだ。
 
「……サイラが言うには、建国祭の時には皇城には絶対に近付くなって言うの」
「建国祭?」
 
 それは、カシア皇国が建国された記念日に皇帝主催で行われる夜会のことだ。そのパーティーには貴族の当主しか参加を許されず、その子供はもちろん、妻でさえも参加は許されない。
 そして、俺はその建国祭が原作でも重要であったことを知っている。
 なぜなら、そこが原作での二回目の断罪シーンであり、ラクトフェル家の没落が決まったところだからだ。
 サタリアは建国祭で大勢の貴族の前で断罪され、悪だと断定される。作中でも最高潮に盛り上がるシーンであり、主人公たちの見せ場だ。
 
「どうして、そんなことを」
「それがね、サイラが言うには……」
 
 シンは少しだけ躊躇って、俺の顔色を窺うようにじっと見つめてから口を開いた。
 
「──アルヴェンが、全てを終わらせるんだって」
「……なに?」
 
 まさかのアルヴェンの名前が出たことに思わず、眉を顰める。
 いや、確かに建国祭であればメラニーが所持する魔法生物としてアルヴェンも出席するはずだが、終わらせるというのは、どういう意味だ。
 
「僕も、支離滅裂なサイラの言葉を拾って推察しただけだから、確かなことはわかんない。ただサイラの言いぶりからアルヴェンは、とんでもないことをするつもりだと思う」
 
 俺はサイラの言葉に頭を抱えるしかない。いつからかわからないが、メラニーとアルヴェンが繋がっていたのなら、アルヴェンがサイラに何かを教えたのか? それはなんのためだ? 警告か?
 ──だとしたら、それは一体誰のための警告だ?
 もし、アルヴェンがサイラが俺に伝えることを想定して教えたとしたら……あいつは、もしかして。
 
「サタリア兄様? 顔色が悪いけれど、大丈夫?」
「っ、ああ、問題ないよ。それを伝えに来てくれたのか、シン。ありがとう」
「うん。兄様も建国祭には行けないと思うけど、もしものことがあると思って」
 
 俺のことを心配してくれたシンの心遣いが嬉しくて、その頭を優しく撫でる。するとシンはこちらに近づき、腰辺りに両腕を回してしがみつく。
 
「兄様……サイラを助けてくれて、ありがとう」
 
 シンの声は少し震えていて、彼なりに兄弟のことを心配していたことがわかる。胸を張って助けたとはいえない状況ではあるが、その声を聞いて二人の元にサイラを返すことが出来てよかったと心から思えた。
 シンを慰めるように俺からもそっと抱きしめ返して、シンの背を優しく撫でた。
 
 その後、シンとはこれからのことを軽く話し合ってから別宅に帰らせることにした。時刻が時刻なだけに、送る際には俺の馬車を使ってテランに任せた。寝ていた時に叩き起こしたので、かなり面倒くさそうにしていたが、サボり癖のある彼には丁度いいだろう。
 俺はシンを見送ってから自室に戻り、一息吐く。もう一度寝直すためにも、ベッドに戻ったほうがいいのはわかっているのだが、先ほどの話が引っかかって、どうにも落ち着かない。
 ──俺は、間違っているんじゃないのか。
 アルヴェンは、復讐のために俺を裏切ったのだと思っていた。でも、冷静に振り返ればアルヴェンの全てが演技だと今でも思えない。
 シンから聞いた言葉もそうだ。まるで、ああして俺に伝わることを予想していたように思える。
 回帰したことを俺に明かすようなことをしておきながら、アルヴェンがしたかったのは、本当に復讐か? 本当に俺を、恨んでいるのか?
 見るものに恐怖さえ抱かせる美しい金色の瞳に宿っていたのは、ただの悪意だったのか……?
 その時、窓側から音がした。
 ふと目をやると、そこにいたのは黒色の小鳥、魔法生物のフギンだ。その嘴で窓を小さく突き、開けろと促してくる。
 俺は驚きと共に首を傾げた。なぜなら朝の情報だとすればあまりにも早いからだ。
 とりあえず、近づいて窓を開くと吹き込む風と共にフギンが中に入ってくる。片手を差し出すと、羽ばたいて俺の手首に止まった。
 そして、俺が見守っているといつものように嘴を開いて喋り始める。ただ、そこから発せられた言葉は短いものだった。
 
「……あんたは」
「え……」
 
 声を吹き込んだ相手が言葉を詰まらせたのか、フギンはそれを忠実に真似て言葉にする。そして、そう呼ばれた瞬間に俺には誰からのものか、すぐにわかった。
 
「──あんたはもういいんだ。だから旅に出て、自分のために生きろ」
 
 フギンが話したのは、それだけだ。差出人も送り主の名前すら呼ばない。再び静寂が戻って来て、フギンは自分の役割を終えたというように、いつものように小さく嘴を開いて餌の豆を強請る。
 けれど、俺は指先一つ動かせなくなって、ただ呆然とフギンを見つめていた。
 
「……アルヴェン?」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【1部完・2部準備中】人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。 なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。 全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。 果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!? 冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。   ※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。 初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。 また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

悪役令息の花図鑑

蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。 「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」  押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……? ※☆はR描写になります ※他サイトにて重複掲載あり  

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...