【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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4章

3.悪役令息として

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 俺は、確信をもってその名前を呼ぶ。しかし、その内容はアルヴェンどころか、誰も知らないはずのものだ。
 ​──俺がずっと望んでいる、全てのことが終わったらしたいこと。
 心臓が馬鹿みたいに早くなる。爪先から凍り付いていくような感覚が全身に回っていく。息がしづらくなって、思わず自分の喉元を震える指先で撫でた。
 俺は、アルヴェンに旅のことは間違いなく教えていない。だからアルヴェンがそれを知っているのなら、回帰する前の俺が彼に、その望みを教えたということになる。
 つまり、その時の俺はそれほどまでにアルヴェンの近くにいたということだ。
 そう気づいて、俺は自分の唇を強く噛み締める。
 
「違う」
 
 今なら確信をもって、言える。
 アルヴェンは、復讐するために回帰してきた訳ではない。復讐する相手に、望みを叶えて生きろなんて言うはずがない。
 俺は自分の髪をぐしゃりと掴んで掻き乱しながら、俯く。
 なんで気付かなかった、なんで見落とした。アルヴェンに恋をしてたから、裏切られたと思って辛くて、考えるのをやめてしまった。
 自分自身の不甲斐なさと間抜けさに腹が立って、体が震える。この長い間、自分のものとしてアルヴェンを見てきたから知っているはずだろう。
 あいつが、バイス兄上に手を出したのも、キメラの命を奪ったのも、サイラを殺そうとしたのも。
 きっとあの時、メラニーの側に行ったのも──
 
「──全部、俺のためか……っ」
 
 怒りと悲しみの感情が混じった俺の声は震えていた。
 俺は、フギンに豆を渡して放すとすぐに痛む足を引きずりながら自室内を歩き回る。どうにもじっとしていられない。
 あいつは何をしようとしている? 何を考えている?
 事を起こすのは建国祭で間違いないだろう。多分、そこでとんでもないことを起こそうとしている。だとすれば、俺はそこに行かなければならない。それに今の状況で、俺がメラニーたちに会えるとすればそこしかないだろう。
 だが、建国祭に参加できるのは──爵位を継いだ当主だけだ。
 つまり、建国祭に参加するためには、俺がラクトフェル伯爵になる必要がある。そして、そのために退けなくてはいけない障害がある。
 それは、父であるムルダム・ラクトフェルだ。
 彼から爵位を奪う必要があるのだ。それも原作の流れと関係なく、俺の意志で奪い取らなくてはならない。それこそ、原作のサタリアでさえしなかったことでもあり、同時に俺も昔から考えてはいたが出来なかったことだ。
 頭もよくない、愛嬌もない、勇気もない、どこまでも平凡な自分。
 ずっと死ぬのが怖くて動けなくて、悲しんでばかりで大事なことを見落として、ただ演技をしながら生きてきた。そんな俺に、そんなことが出来るだろうか。
 それに、アルヴェンが本当に俺のために動いているという確証はどこにもない。全部俺の勘違いで、彼は原作通りの復讐鬼だった可能性だってあるのだ。
 ふと自分の手に視線を落とすと、手が震えていた。心臓が軋むような痛みを感じて、眉を顰める。苦しい、怖い。無理だ、嫌だ。だって、もう傷つきたくない。
 ──でも、だからってまた逃げるのか。
  俺は大きく息を吸って、窓を見る。既に夜明けを迎えようとしている白み始めた空がここからもよく見える。その徐々に変化していく暁の空を睨みながら、俺は震える自分の手をぎゅっと握りしめる。
 もし、アルヴェンが俺のために何かをするのなら、それはきっと何かを犠牲にするつもりだろう。
 ──アルヴェンが俺のために何かを失うのは駄目だ。それだけは駄目なんだ。
 ずっと俺の側にいてくれて、一人でいなくていいと言ってくれた。あれが嘘だとしても、俺は彼に感謝してるから。未だに心はアルヴェンに惹かれて、恋しがっているから。
 
「……だったら、やろう」
 
 今からすることは原作のサタリアとして演技するためではない。今を生きる、サタリア・ラクトフェルとして──俺が、叶えたい願いのために。
 だったら必死に考えろ。頭を回せ。
 俺は自分の髪を掻き乱しながら、最初の壁であるムルダムへの対抗策を考える。彼は爵位を譲ってくれと言って素直に頷く相手ではない。そんな相手からどうやって爵位を奪えばいい。
 きっと原作のサタリアがしなかったこと、今の俺だからしたことに解決の道はあるはずだ。
 その時、考え込んでいる俺を心配してなのか、ノエルが姿を現す。白い布が心配そうに俺の眼前でゆらゆらと浮いている。俺はそんなノエルの姿に釘付けになる。
 
「──ノエル」
 
 ノエルの名前を呼んだ瞬間、頭の中が一気にパッと明るくなったように感じた。
 そうだ、これだ。原作のサタリアがしなかったことと、俺だからしたこと。そして、俺が苦痛に耐え長年続けてきたからこそ、味方は大量にいる。勝てる可能性がある。
 俺が呼んだせいか、白い布は存在をアピールするように上下に揺れた。そして俺はその姿を真っ直ぐに見つめながら、口を開く。
 
「俺は、お前たちを俺のために利用する」
 
 これは言い訳であり、宣言でもある。俺は俺なりに彼らには、幸せでいてほしいと思っていた。
 けれど、そんな彼らを俺は自分のために利用する。
 
「──こうなったら俺は、誰よりも狡猾な悪党になってやる」
 
 〝悪役〟令息であることは投げ捨てて、自分のものを取り戻すために多くのものに背を向ける覚悟を、今ここに決めた。
 しかし、俺の発言を聞いたはずのノエルは、なぜか怒りを表すことはなく俺の上をぐるぐると回った。
 それは、ノエルにしては珍しく上機嫌に見える動きだった。
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