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4章
4.対峙
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俺は軋む音を辺りに響かせながら、扉を開いた。同時に開いた扉に空気が吸い込まれるように室内へと流れ込んでいく。
この扉を開ける際に敢えて言葉もかけず、ノックすらしなかった。
まるでここに入るのは当然とでもいうように、躊躇いなく部屋に入る。颯爽と入りたかったが、足は未だに痛むので綺麗な装飾が施された杖を突きながら、ゆっくりと進む。
「どういうつもりだ、サタリア」
すると、すぐに不機嫌そうな声がこちらに飛んでくる。その声の持ち主はムルダム・ラクトフェル。この執務室の主であり、この家の主でもある。
ムルダムは執務机を前にして座っており、不愉快そうに眉を顰めながら俺を睨みつける。ムルダムのすぐ側にはリティが立っており、彼は表情一つ変えずに俺をじっと見つめていた。
今回、ムルダムの側にいるのはリティだけではなかった。ムルダムに仕える他の魔法生物たちも部屋の隅や、宙に飛んでいるものもいる。彼らの視線も浴びながら、俺は穏やかに微笑む。
「父上。今日は私からお願いがあって、こちらに参りました」
「ほう。ここまで無作法な真似をして、お願いか?」
突如入ってきた俺に思うことがあるのだろう。ムルダムは、眉を顰めたまま胡乱な目を俺に向ける。それを気にすることなく、力強く頷いて、片手を胸に手を添えてから頭を軽く下げた。
「──私に、父上の爵位をお譲りください」
俺がその言葉を口にすると、この場の空気が一変した。
重苦しい沈黙が全て音を押しつぶしたかのように、静寂だけがこの場を支配する。
「お前、何を言っている」
ムルダムの声は冷たく、俺を睨みつける瞳には静かな怒りを湛えていた。
その反応は当然といえるだろう。これは、反逆と言ってもいい言葉だ。続く言葉次第では許さないといった様子がムルダムから窺える。
幼い頃から、押さえつけられてきた相手だ。こうやって睨まれるだけで俺の体は反射的に怯えるように小さく震えてしまう。しかし、全身に力を込めて、ぐっと震えを押さえつける。
この程度で負けては駄目だ。心の中を読まれないよう笑顔の盾を維持しながら、目を細める。
「言った通りです。父上にはそろそろ、その座から下りていただこうと思いまして」
「……はあ」
ムルダムは疲れ切ったような溜息をわざとらしく吐き出すと、ゆっくりと立ち上がる。俺と同じ桔梗色の瞳がじっとこちらを見つめる。
「どうやら、私はお前を甘やかしすぎたようだ。いずれ、お前のものになる座ではあるが、今はお前のものではない。身の程を弁えろ」
ムルダムの刺々しい言葉を聞きながらも、俺は口端を吊り上げる。自分の感情を悟らせないようにする演技は、何度もしてきた。今の雰囲気に似合わない穏やかで優しい微笑みを浮かべながら、微かに眉を垂らした。
「申し訳ありません、父上。お恥ずかしながら私は欲しいと決めたら、すぐに手に入れたい性格でして……今、お譲りいただけますか?」
俺が徐に手を上げると、淡い光を放つフェアリーが開いたままの扉から室内に飛び込んでくる。そして室内の上空を旋回したあと、俺の手の甲に止まる。
桃色のドレスを身に纏ったフェアリーは、俺の手に擦り寄りながらムルダムたちを見ると小馬鹿にするかのように、くすくすと笑い出す。
その瞬間から、魔法生物たちの表情に動揺が広がる。そして、それはムルダムも同じだ。そのフェアリーを見て、勢いよく立ち上がる。
さすがというべきか、どうやら彼は気付いたようだ──彼女の顔に見覚えがない、ということを。
「サタリア……お前、本気なのか?」
「はい、父上」
ムルダムは眉を顰め、俺を睨みつける。その表情には先ほどまであった余裕さは消え去り、明確な敵意がこちらに向けられる。
俺に寄り添うフェアリーは、ただの魔法生物ではない。彼女は俺が、俺のためだけに創った魔法生物だ。
基本的に俺が魔法生物を創るのは、誰かの依頼によるものだ。俺だけに仕える魔法生物はいない。ノエルでさえ、俺の部屋にいることをムルダムに命じられているだけで、俺には仕えていない。
その理由は、ムルダムが許さなかったからだ。
魔法生物を大量に創れる俺が裏切ることを恐れ、ムルダムは俺にいろいろな制約を与えた。俺自身に仕える魔法生物を創らないことを言い聞かせ、俺が書く契約書自体も管理した。
契約書の紙を管理すれば、俺が創れる魔法生物の量を調整できるからだ。俺が与えられるのは依頼数に合わせた必要最低限の紙だけだ。
けれど、今ここには俺に仕える魔法生物がいる。
「今日、父上から渡された契約書はすべて、私に仕える魔法生物にさせていただきました」
そう言った時、生ぬるい液体が唇に伝うのを感じて、それを指先で拭う。指先に付着していたのは真っ赤な血だ。どうやら気付かない内に鼻血を出していたようだ。
「……随分と無理したようだな」
それを見たムルダムが嘲るように笑うが、俺は黙って口端を吊り上げる。何でもないような顔でハンカチを取り出し、鼻血をしっかりと拭う。
これは、契約者の力を多用しすぎた代償だ。俺が自分に仕える魔法生物を創るために与えられた時間は一日だけだ。依頼のために渡された契約書を黙って使うのだから当然といえる。
そうなると、俺に休んでいる時間はない。
久しぶりに、休憩を取ることなく創り続けたせいで今の俺の体調は最悪だ。未だに吐き気やめまい、全身が鉛になったかのような倦怠感に包まれていて、油断したら倒れそうだ。正直歩いてここに来ただけでも、奇跡といえる。
この扉を開ける際に敢えて言葉もかけず、ノックすらしなかった。
まるでここに入るのは当然とでもいうように、躊躇いなく部屋に入る。颯爽と入りたかったが、足は未だに痛むので綺麗な装飾が施された杖を突きながら、ゆっくりと進む。
「どういうつもりだ、サタリア」
すると、すぐに不機嫌そうな声がこちらに飛んでくる。その声の持ち主はムルダム・ラクトフェル。この執務室の主であり、この家の主でもある。
ムルダムは執務机を前にして座っており、不愉快そうに眉を顰めながら俺を睨みつける。ムルダムのすぐ側にはリティが立っており、彼は表情一つ変えずに俺をじっと見つめていた。
今回、ムルダムの側にいるのはリティだけではなかった。ムルダムに仕える他の魔法生物たちも部屋の隅や、宙に飛んでいるものもいる。彼らの視線も浴びながら、俺は穏やかに微笑む。
「父上。今日は私からお願いがあって、こちらに参りました」
「ほう。ここまで無作法な真似をして、お願いか?」
突如入ってきた俺に思うことがあるのだろう。ムルダムは、眉を顰めたまま胡乱な目を俺に向ける。それを気にすることなく、力強く頷いて、片手を胸に手を添えてから頭を軽く下げた。
「──私に、父上の爵位をお譲りください」
俺がその言葉を口にすると、この場の空気が一変した。
重苦しい沈黙が全て音を押しつぶしたかのように、静寂だけがこの場を支配する。
「お前、何を言っている」
ムルダムの声は冷たく、俺を睨みつける瞳には静かな怒りを湛えていた。
その反応は当然といえるだろう。これは、反逆と言ってもいい言葉だ。続く言葉次第では許さないといった様子がムルダムから窺える。
幼い頃から、押さえつけられてきた相手だ。こうやって睨まれるだけで俺の体は反射的に怯えるように小さく震えてしまう。しかし、全身に力を込めて、ぐっと震えを押さえつける。
この程度で負けては駄目だ。心の中を読まれないよう笑顔の盾を維持しながら、目を細める。
「言った通りです。父上にはそろそろ、その座から下りていただこうと思いまして」
「……はあ」
ムルダムは疲れ切ったような溜息をわざとらしく吐き出すと、ゆっくりと立ち上がる。俺と同じ桔梗色の瞳がじっとこちらを見つめる。
「どうやら、私はお前を甘やかしすぎたようだ。いずれ、お前のものになる座ではあるが、今はお前のものではない。身の程を弁えろ」
ムルダムの刺々しい言葉を聞きながらも、俺は口端を吊り上げる。自分の感情を悟らせないようにする演技は、何度もしてきた。今の雰囲気に似合わない穏やかで優しい微笑みを浮かべながら、微かに眉を垂らした。
「申し訳ありません、父上。お恥ずかしながら私は欲しいと決めたら、すぐに手に入れたい性格でして……今、お譲りいただけますか?」
俺が徐に手を上げると、淡い光を放つフェアリーが開いたままの扉から室内に飛び込んでくる。そして室内の上空を旋回したあと、俺の手の甲に止まる。
桃色のドレスを身に纏ったフェアリーは、俺の手に擦り寄りながらムルダムたちを見ると小馬鹿にするかのように、くすくすと笑い出す。
その瞬間から、魔法生物たちの表情に動揺が広がる。そして、それはムルダムも同じだ。そのフェアリーを見て、勢いよく立ち上がる。
さすがというべきか、どうやら彼は気付いたようだ──彼女の顔に見覚えがない、ということを。
「サタリア……お前、本気なのか?」
「はい、父上」
ムルダムは眉を顰め、俺を睨みつける。その表情には先ほどまであった余裕さは消え去り、明確な敵意がこちらに向けられる。
俺に寄り添うフェアリーは、ただの魔法生物ではない。彼女は俺が、俺のためだけに創った魔法生物だ。
基本的に俺が魔法生物を創るのは、誰かの依頼によるものだ。俺だけに仕える魔法生物はいない。ノエルでさえ、俺の部屋にいることをムルダムに命じられているだけで、俺には仕えていない。
その理由は、ムルダムが許さなかったからだ。
魔法生物を大量に創れる俺が裏切ることを恐れ、ムルダムは俺にいろいろな制約を与えた。俺自身に仕える魔法生物を創らないことを言い聞かせ、俺が書く契約書自体も管理した。
契約書の紙を管理すれば、俺が創れる魔法生物の量を調整できるからだ。俺が与えられるのは依頼数に合わせた必要最低限の紙だけだ。
けれど、今ここには俺に仕える魔法生物がいる。
「今日、父上から渡された契約書はすべて、私に仕える魔法生物にさせていただきました」
そう言った時、生ぬるい液体が唇に伝うのを感じて、それを指先で拭う。指先に付着していたのは真っ赤な血だ。どうやら気付かない内に鼻血を出していたようだ。
「……随分と無理したようだな」
それを見たムルダムが嘲るように笑うが、俺は黙って口端を吊り上げる。何でもないような顔でハンカチを取り出し、鼻血をしっかりと拭う。
これは、契約者の力を多用しすぎた代償だ。俺が自分に仕える魔法生物を創るために与えられた時間は一日だけだ。依頼のために渡された契約書を黙って使うのだから当然といえる。
そうなると、俺に休んでいる時間はない。
久しぶりに、休憩を取ることなく創り続けたせいで今の俺の体調は最悪だ。未だに吐き気やめまい、全身が鉛になったかのような倦怠感に包まれていて、油断したら倒れそうだ。正直歩いてここに来ただけでも、奇跡といえる。
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